ディーゼルを止め、太陽で島を動かす:モルディブの「フィノール・ヴィラ」が開業時に示した、太陽光のリゾートの設計
モルディブの首都マレから、スピードボートでおよそ25分。マレ環礁(カーフ環礁)に、ガスフィノールという小さな島がある。2015年の初め、この島に、クラブメッドが運営する「フィノール・ヴィラ」が開業した。客室は、浜辺のヴィラが22棟、ラグーンの上のヴィラが30棟の計52棟で、どれにも専用のプールが付いていた。
各ヴィラの広さは1,625〜1,800平方フィート(およそ150〜170平方メートル)で、朝日の見える側と夕日の見える側に分かれ、専属の執事が付いた。近くにはクラブメッドの別のリゾート「カニ」がある。
モルディブの島のリゾートは、ふつうディーゼル発電機で電気をつくる。燃料は船で運ばれてくる。フィノール・ヴィラは、その燃料を運ばずに、島の上で太陽から電気をつくることをめざして建てられた。当時の業界誌は、すべてを再生可能エネルギーで動かす、世界で初めての高級リゾートとして紹介している。
設計者の紹介は、その背景に海面の上昇を挙げている。モルディブは、国の平均の標高が世界で最も低い。世界の二酸化炭素を減らす責任は主に大きな国にあるが、この小さな島で炭素を出さない暮らしを実現すれば、大きな国の手本になる、という考えだ。
砂州から始まった島
島の持ち主は、モルディブの観光業の草分け、チャンパ・フセイン・アフィーフさんだ。開業前の発表会で、アフィーフさんは「初めて見たとき、この島はココヤシが2本あるだけの砂州だった」と振り返った。設計者が公開した開業時の紹介によると、アフィーフさんは「何か違う、持続可能なことをしたかった。再生可能エネルギーは、観光だけでなく、あらゆる産業の未来だと思う」と話している。
設計は、ニューヨークの建築事務所「ユウジ・ヤマザキ・アーキテクチャー」が、地元の設計事務所、イタリアの技術会社T&Dウォーター・テクノロジーズと組んで担った。電気の仕組みを設計したのは、このT&Dだ。T&Dは水や排水の処理設備を得意とし、モルディブのほかのリゾートでも、海水から真水をつくる設備や排水処理の設備を手がけていた。
島の広さはおよそ13エーカー(約5ヘクタール)。設計者は、客100人と職員100人が同時に島にいても、太陽の電気で足りるように計算した。
屋根と桟橋を、発電所にする
業界誌ホテリエ・モルディブの2014年12月の記事によると、太陽光の設備には800万ドルを投じ、7〜8年で元が取れる見込みだった。パネルの広さは6,000平方メートルを超え、到着する桟橋の屋根や、設備の建物の屋根を覆った。日差しが最も強いときの発電はおよそ1メガワットで、リゾートが最も多く電気を使うときのおよそ600キロワットを大きく上回る計画だった。
電気の切り替えは、すべて自動だ。太陽の電気をそのまま使うか、電池にためた電気を使うか、ディーゼル発電機を動かすかを、コンピューターが選ぶ。発電の拠点にはタッチパネルの画面があり、いま使っている電気の量と種類、減らした二酸化炭素の量を、その場で表示した。
設計者の紹介によると、パネルは隠さずに、島のどこからでも見えるように置いた。建物の形の一部として、デザインに組み込んだのだ。客は、日差しを楽しみながら、島を動かす電気がどうやって集められているかを目で見ることができる。
電気を、使う前に減らす
いちばん多く電気を使うのは、空調だ。この島では、1か所の冷却装置で冷たい水をつくり、各棟の空調に送る。冷却装置から出る熱い水は、海水からつくった真水を温めるのに使い直す。
客室は、そもそも空調に頼りすぎないように設計した。開業時の紹介によると、窓は島の風を取り込める位置に置き、各棟の2つの面に木の日よけを付けて、壁やテラスに直射日光が当たるのを防いだ。設計者は、暑く湿った気候でも、多くの客は滞在中に空調をつけないと説明している。
建築家のユウジ・ヤマザキさんは、「モルディブのリゾートには船か水上飛行機で着く。島の建物を、まず海や空から遠くに見ることになる」と話す。屋根のゆるやかな曲線は、その眺めを考えて選んだ。庭には、ココヤシやタコノキ、オオハマボウなど、島にもとからある植物を残した。
日本の宿に置き換えると
フィノール・ヴィラから学べるのは、発電を増やす前に、建物の向きや日よけで使う電気を減らし、そのうえで設備を客に見せたことだ。電気の使い方を画面で見せれば、客も宿の工夫を実感できる。日本の離島や山あいの宿でも、屋根や駐車場の上に太陽光パネルを置き、窓と日よけを見直すことから始められる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、ある宿が太陽光の設備に1,000万円を投じ、電気代と燃料代が年に125万円減るとする。この場合、1,000万円を125万円で割って、8年で元が取れる。減った分を毎年の数字で記録しておけば、次の設備の判断にも使える。
持ち帰れる知識
- 発電を増やす前に、建物で使う電気を減らす
- 設備を隠さず見せると、客に宿の考え方が伝わる
- 空調の排熱は、お湯づくりに使い直せる
- 投資の回収年数を示すと、判断がしやすくなる
宿で考えられること
- 宿の電気を、どの設備がいちばん使っているか調べてみる
- 屋根や駐車場に、太陽光パネルを置けるか確かめてみる
- 電気の使い方を、客に見える形で示してみる
事業・予約への接続
フィノール・ヴィラは、開業時、太陽で動く島という特徴を、プライベートな島での滞在と合わせて伝えた。客は、海の上のヴィラで過ごしながら、島を動かす仕組みを目で見ることができた。
Sources / 参考情報
- Hotelier Maldives(英文) - ガスフィノール、太陽の楽園(2014年12月)
裏付け: マレからスピードボートで約25分、2015年初めの開業予定、52室のうち30棟が水上、太陽光の設備に800万ドルで7〜8年で回収の見込み、6,000平方メートル超のパネルが桟橋や設備の建物の屋根を覆う、最大でおよそ1メガワットを発電し最も多く使うときはおよそ600キロワット、太陽・電池・ディーゼルの自動切り替え、使用量と種類と二酸化炭素の削減量を示すタッチパネル、冷却装置の冷水で空調し熱い水で淡水化した水を温める、冷却装置が最も多く電気を使う、電気の仕組みの設計はT&Dで水や排水の処理設備を得意としモルディブのほかのリゾートでも淡水化と排水処理の設備を手がけた、運営はクラブメッド、すべてを再生可能エネルギーで動かす世界初の高級リゾート - Hotelier Maldives(英文) - クラブメッド、フィノール・ヴィラを各国のメディアに公開(2015年1月)
裏付け: 1月31日の開業予定、52棟のヴィラは朝日の側と夕日の側、各1,625〜1,800平方フィートでプールとテラスと専属の執事、アフィーフさんの「ココヤシが2本あるだけの砂州だった」 - TTG Italia(イタリア語) - クラブメッドのモルディブの新しいぜいたく、フィノール・ヴィラ(開業前の記事)
裏付け: 浜辺のヴィラ22棟とラグーンのヴィラ30棟、専用のプール、太陽光の電気、クラブメッドのカニのリゾートの近く - Archello(英文) - クラブメッドのフィノール・ヴィラ(設計者による紹介)
裏付け: モルディブは平均の標高が世界で最も低く海面の上昇に敏感、小さな島で炭素を出さない暮らしを実現すれば大きな国の手本に、島はおよそ13エーカー、客100人と職員100人に足りる計算、設計はユウジ・ヤマザキ・アーキテクチャーが地元の設計事務所とT&Dと組んで担当、アフィーフさんの「何か違う、持続可能なことを。再生可能エネルギーはあらゆる産業の未来」、パネルを島のどこからでも見えるように置きデザインに組み込む、ディーゼルの輸入をなくして7〜8年で回収、窓の位置と2つの面の木の日よけ、多くの客は空調をつけない、ヤマザキさんの「船か水上飛行機で着き、建物を海や空から見る」、屋根の曲線、もとからある植物を残した庭