杭を1本打つ前に、5つの調査をする:パナマの「ナヤラ・ボカス・デル・トロ」が、マングローブとサンゴの上に宿を建てた方法
パナマのカリブ海側に、ボカス・デル・トロという島々がある。運営会社ナヤラの記事によると、マングローブの森とサンゴ礁、海草の草原が重なり合い、西半球でも特に多くの海の生き物が暮らす場所の一つだ。
その小さな島の一つに、大人だけが泊まれるリゾート、ナヤラ・ボカス・デル・トロがある。公式サイトによると、ミシュランの評価「キー」を2つ受け、旅の雑誌コンデナスト・トラベラーの読者投票では中米で1位に選ばれた。本土からの電線も、水道も、道路もない。宿はすべて、水面と森の地面の上に、杭で持ち上げて建てられている。
建てられるか、ではなく、壊さずに建てられるか
ナヤラは、ここに宿を建てると決めたとき、問いは「建てられるかどうか」ではなかったと書いている。この場所の価値そのものを、傷つけずに建てられるかどうかだった。
そこで、工事の前に、5つの独立した環境の調査を頼んだ。ナヤラによると、かかった費用は10万ドル以上だ。調査は形だけのものではなく、その後の設計のすべての土台になったという。
1つ目は、海の生き物の調査だ。サンゴや海草がどこにどれだけあるかを地図にし、建物を建ててよい場所を決めた。2つ目は、マングローブの根の調査だ。杭は根が広がる場所を避けて打ち、船の通り道も、スクリューの水流で根を傷めないように決めた。3つ目は、潮の流れや高潮、島の地下の淡水の調査で、建物の高さと雨水のため方を決めた。4つ目は、島の植物と動物の目録づくりで、工事の場所は、生き物のすみかを壊す量が少ない場所を選んだ。5つ目は、電気と水とごみの設計で、太陽光の量や雨水の量、浄化の方法を計算した。
海の底に、コンクリートを流さない
調査の結果をもとに、宿はすべて杭の上に建てられた。ナヤラによると、海の底を掘ることも、土地を切り開くことも、海底にコンクリートの基礎を流し込むこともしなかった。建材も、水の中に化学物質がしみ出さないものを選んだ。目指したのは、水の中から見たとき、宿が生き物にとって「見えない」存在になることだった。
電気は、太陽光でまかなう。2026年のナヤラの記事は、太陽光が100%で、ディーゼル発電機の予備もないと説明している。認証についての記事では「ほぼ100%」と書かれており、表現には少し幅がある。
真水は、すべて雨水だ。公式サイトによると、大きな雨どいで屋根の雨を集め、最大10万ガロン、およそ38万リットルをためられる水槽に送る。ためた水は紫外線で浄化し、飲み水や料理、シャワーに使う。排水は島の中で処理し、周りの海には流さない。
宿の毎日も、マングローブに合わせる
ナヤラは、マングローブを、この海の生き物をつなぐ要だとしている。根は土砂や汚れた水をこしとってサンゴ礁を守り、小さな魚のすみかになり、高潮から岸を守る。
そのため、宿の毎日の動き方も、マングローブに合わせている。船は根の近くで水流を立てない道を通り、外の明かりは、夜に活動する生き物を驚かせないように調整する。カヤックは決められた水路を進み、マングローブとサンゴ礁の境目でのシュノーケリングは、自然をよく知る案内人が連れていく。
ツリーハウスも、同じ考えでつくられた。バリ島の設計事務所イブクが手がけ、地元の竹と、パナマ運河の底から引き上げた木を使っている。地面から約15メートルの高さに建ち、骨組みは鉄やコンクリートではなく、竹そのものが支えている。
建てたあとは、海を育て直す
工事が終わってからは、海を取り戻す取り組みが始まった。公式サイトによると、2022年に地元のサンゴ再生の団体と組み、魚のすみかになる人工の礁を10か所に置いた。そこに、環境の変化に強いサンゴを植えつけ、すでに多くの海の生き物が湾に戻ってきているという。2026年のナヤラの記事では、3つの場所に500を超えるサンゴのかけらを植えたと紹介されている。
宿は、持続可能な観光の認証グリーン・グローブを受けている。ナヤラによると、環境や地域社会、文化など380の項目で、毎年審査を受ける。ナヤラは、この湾だけでなく、ボカス・デル・トロの島々全体に海のすみかの再生を広げ、ほかのホテルや地域、行政がまねできるお手本を残すことを、長い目で見た目標にしている。
日本の宿に置き換えると
ナヤラ・ボカス・デル・トロから学べるのは、建てたり直したりする前に、その場所の水や生き物の流れを調べ、それを設計の条件にすることだ。日本の宿でも、建物の改修や庭の手入れの前に、雨の流れや、敷地にすむ生き物を調べておけば、あとからやり直す手間を減らせる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、屋根の面積が400平方メートルの宿を考える。年に1,600ミリメートルの雨が降ると、屋根に落ちる雨は年に640立方メートルになる。このうち半分の320立方メートルをためて、庭の水やりや掃除に使えるとする。水道と下水の料金を1立方メートルあたり400円とすると、年に12万8,000円分の水を買わずに済む。実際には、地域の雨の降り方や、ためる量によって変わる。
持ち帰れる知識
- 建てる前の調査を、設計の条件として使う
- 生き物の流れを止めない建て方を選ぶ
- 毎日の船や明かりの使い方も、保全の一部になる
- 建てたあとに、自然を育て直す取り組みを続ける
宿で考えられること
- 敷地の雨水が、どこからどこへ流れているか調べてみる
- 改修の前に、敷地にすむ生き物を地元の専門家に見てもらう
- 夜の外の明かりを、生き物に配慮して見直せるか考えてみる
事業・予約への接続
ナヤラ・ボカス・デル・トロは、水の上のヴィラと、マングローブを見下ろすツリーハウスを、宿の魅力として伝えている。その景色が、建てる前の調査と毎日の配慮で守られていると知ることは、客にとって、この宿を選ぶ理由の一つになる。
Sources / 参考情報
- Nayara Resorts(英文) - 水上のバンガロー:パナマで電線につながらない高級リゾートを建てる(公式ブログ、2026年7月)
裏付け: 西半球でも特に多様な海の生態系、電線・水道・道路なし、問いは壊さずに建てられるか、5つの独立した調査(海の生き物・マングローブの根と船の通り道・潮と高潮と地下の淡水・島の動植物・電気と水とごみの設計)、杭の上に建て海底を掘らず土地を切り開かずコンクリートを流さない、化学物質がしみ出さない建材、水の中から見えない存在に、太陽光100%でディーゼル発電機の予備なし、雨水を紫外線で浄化し排水は海に流さない、マングローブの役割、船の道・外の明かり・カヤックの水路・案内人、イブクのツリーハウスは地元の竹とパナマ運河の底の木で約15メートル(50フィート)・竹が骨組み、2022年に人工の礁10か所、グリーン・グローブは380項目で毎年審査、島々全体に再生を広げほかのホテルや地域や行政のお手本に - Nayara Resorts(英文) - 投票を超えて:グリーン・グローブとS認証(公式ブログ、2026年7月)
裏付け: 5つの調査の費用は10万ドル超、太陽光がほぼ100%、雨水を紫外線で浄化、3つの場所に500を超えるサンゴのかけら - Nayara Bocas del Toro(英文) - 私たちについて(公式サイト)
裏付け: 5つの調査、杭の上に電線につながらずに建てた、真水はすべて雨水で最大10万ガロンをためる、紫外線で浄化、2022年に地元のサンゴ再生の団体と人工の礁10か所・環境の変化に強いサンゴ - Nayara Bocas del Toro(英文) - よくある質問(公式サイト)
裏付け: 16歳以上の大人だけのリゾート - Nayara Bocas del Toro(英文) - 公式サイト
裏付け: ミシュランのキーを2つ、コンデナスト・トラベラーで中米の1位