GOAL 12 · TARGET 12.2 エネルギー・脱炭素 4分 / 2143文字 建てる場所と材料を、土地から選ぶ #148

エアコンを置かず、電気は太陽だけで:メキシコの「オテル・テレストレ」が、木のない場所を選んで建てた14棟

メキシコ南部、オアハカ州の太平洋岸に、プエルト・エスコンディードという海辺の町がある。その町から車で30分ほど北へ離れた海岸に、オテル・テレストレが建つ。メキシコでデザインに力を入れたホテルを手がけるグルポ・アビタが、2022年の初めに開業した。

ヴィラは14棟。設計は、メキシコの建築家アルベルト・カラチが率いる設計事務所TAXだ。このホテルには、二つの大きな特徴がある。電気はすべて太陽光でまかない、送電網にはつながっていない。そして、客室にエアコンを置いていない。

太陽光だけで動かすために、まず電気の量を調べた

町から遠く離れた場所であることから、設計事務所は、太陽光パネルだけに頼る電気の計画を立てた。デザイン誌デジーンの2022年10月の記事で、事務所は「ホテル全体に設備を入れるため、複雑な電気の負荷の調査をした。パネルと蓄電池がどれだけ必要か、少しずつわかっていった」と話している。

使う電気を減らす工夫も重ねた。デジーンによると、プールの設備などの電気機器は決まった時間だけ動かし、室内の照明は人の動きを感知して点くようにしている。デザインに優れたホテルを集めた会員組織デザイン・ホテルズは、建物の向きから電気の仕組みの設計まで、受けた光をすべて生かすように考えられていると紹介している。

公式サイトは、客に「技術から離れて自然とつながり、太陽の周期に一日を合わせる」ことを勧めている。電気を使い放題にしない宿のあり方を、滞在の楽しみ方として伝えているのだ。

エアコンの代わりに、風の通り道

部屋を涼しくするのは、機械ではなく建物の形だ。公式サイトは、エアコンではなく、建て方の工夫で涼しさを得ているとしている。旅の雑誌コンデナスト・トラベラーの2026年5月の記事で、記者は、部屋に入ってエアコンもテレビもないことに気づいたと書いている。代わりに、木の羽板でできた扉や窓が、海の風を驚くほどうまく通すという。

各ヴィラの1階には庭と屋外の浴室があり、2階のテラスには専用のプールがある。デザイン・ホテルズによると、木のよろい戸や風の抜ける通路、自然の換気で、内と外の境目をなくすように設計されている。

材料は近くから、建てる場所は木のないところに

材料にも、土地のものを使っている。公式サイトは、地元で調達した材料だけでつくったとしている。デザイン・ホテルズによると、建材はホテルから1キロメートル以内で調達したか、敷地の中でつくったものだ。土、木、れんが、コンクリートに、粘土や砂を組み合わせている。一方でデジーンは、白い日干しれんがは、メキシコのプエブラで手づくりされたものだと伝えていて、材料の出どころの説明は、情報源によって少し異なる。

デジーンによると、外装と海辺の建物には、オアハカで採れるマキの木を、室内には松を使った。家具は、メキシコの建築家オスカー・アゲルマンがデザインしたものだ。

建てる場所の選び方も、このホテルの考え方を表している。設計事務所はデジーンに、「もとからある植物が、そのまま残るように設計した。木や植物のない場所だけに建て、すでにあったものは100%尊重した。植栽は、もともと何もなかった場所で行った」と話している。

土地の人の手と、土地の食べもの

このホテルは、建物だけでなく、つくる人や食べものも土地から選んでいる。デザイン・ホテルズの紹介で、グルポ・アビタの創業者カルロス・クチュリエは、「ホテルを建てるときは、いつも地元のチームと組む。周りの環境と伝統を読み取り、その土地の文化を計画に取り入れる」と話している。公式サイトによると、客室の備品は地元の人の手でつくられ、この土地で古くから使われてきた香、コパルの香りがつけられている。

レストランでは、地元の食材でメキシコ料理と地中海料理を出す。7つの部屋に分かれた蒸し風呂の建物では、熱い湯、ぬるい湯、冷たい水、蒸気の4つの入り方を楽しめる。コンデナスト・トラベラーによると、客は無料の自転車で、近くの芸術施設まで出かけることもできる。

デジーンによると、ヴィラは海岸と平行に一列に並び、受付の建物はピラミッドのような塔の集まりで、低い建物の列を風景につなぎとめている。設計事務所は、「建物は、何百年も前からそこにあったように、風景に埋め込まれている」と説明する。このホテルは、2022年のデジーン・アワードのホテル建築の部門で、最終候補にも選ばれた。

日本の宿に置き換えると

オテル・テレストレから学べるのは、電気を「どれだけつくるか」の前に、「どれだけ使うか」を調べ、減らしていることだ。決まった時間だけ機器を動かす、人がいるときだけ照明を点ける、といった工夫は、日本の宿でもすぐに試せる。建て替えや増築のときには、敷地の木を残せる場所を先に決めておくこともできる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、廊下やロビーなどの照明が合わせて2キロワットあり、1日12時間点いているとする。人の動きを感知する照明に替えて、点灯を1日4時間減らせれば、年に2,920キロワット時の節約になる。電気を1キロワット時30円で買っているなら、年に8万7,600円だ。

持ち帰れる知識

  • 電気をつくる前に、使う電気の量を調べる
  • 機器を動かす時間を決め、照明はセンサーで点ける
  • エアコンに頼らず、風の通り道で涼しくする
  • 建てる場所は、木のないところから選ぶ

宿で考えられること

  • 一日のうち、どの機器がどの時間に電気を使っているか調べてみる
  • 人がいない時間にも点いている照明を、探してみる
  • 次の工事で、敷地のどの木を残せるか、先に決めてみる

事業・予約への接続

オテル・テレストレは、太陽の電気だけで動くことを、「技術から離れ、太陽の周期で過ごす」という滞在の魅力として伝えている。エアコンやテレビがないことも、自然を大切にする客にとって、この宿を選ぶ理由の一つになる。

Sources / 参考情報

  • Dezeen(英文) - アルベルト・カラチが、太陽光だけで動く記念碑のようなホテルを設計(2022年10月17日)
    裏付け: TAXとアルベルト・カラチ、太陽光だけを使い地域の生態系への影響を小さく、コンクリートとプエブラで手づくりされた白い日干しれんが、14棟、グルポ・アビタ、町の北の離れた場所なので太陽光パネルだけの電気の計画、複雑な電気の負荷の調査でパネルと蓄電池の量を決めた、プールの設備は決まった時間、照明は人の動きを感知、各部屋に庭・屋外シャワー・屋上・プール、外装にマキの木と室内に松、オスカー・アゲルマンの家具、もとの植物を残し木や植物のない場所だけに建てた
  • Design Hotels(英文) - オテル・テレストレ(ホテル紹介)
    裏付け: 14室、木のよろい戸・風の抜ける通路・自然の換気、建材は1キロメートル以内で調達するか敷地でつくった、建物の向きから電気の仕組みまで光を生かし100%太陽光、1階の庭と屋外の浴室と2階のテラスの専用プール
  • Hotel Terrestre(英文) - オテル・テレストレ(公式サイト)
    裏付け: 送電網につながらず100%太陽光、技術から離れ太陽の周期に一日を合わせる、地元で調達した材料だけでつくる、エアコンではなく建て方の工夫で涼しくする、14棟、土・木・れんが・コンクリートに粘土と砂
  • Condé Nast Traveler(英文) - オテル・テレストレ(ホテル紹介、2026年5月)
    裏付け: 町から30分ほど、2022年の初めに開業、グルポ・アビタの創業者、14棟、エアコンもテレビもない、木の羽板の扉や窓が海の風を通す、2階の専用プール

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