GOAL 6 · TARGET 6.4 水・衛生・循環 4分 / 2164文字 水を一度で捨てず、次の使い道へ回す #150

雨を集め、使った水は植物で洗う:スペイン・カタルーニャの農家の宿「カン・ブック」が、水の輪を閉じる方法

スペイン北東部、カタルーニャ地方のジローナの町を見下ろす山あいに、カン・ブックという宿がある。カタルーニャの伝統的な農家「マシア」を生まれ変わらせた宿で、客室は12室と、アパートメントが1つ。もとの農家は、1622年までさかのぼる。

この宿では、使う水の半分以上が、建物の屋根に降った雨だ。使ったあとの水も捨てずに、植物の力できれいにして、畑に戻す。2024年10月、欧州のニュース局ユーロニュースは、地中海沿いの水不足と観光をテーマにした番組で、この宿を取り上げた。番組は欧州委員会と組んだシリーズの一つだ。

雨が減り、水を使う量は増えていく

ユーロニュースによると、カン・ブックは、水を大切に使う観光を広めるための欧州の事業「ワットセーブリユース」で、循環への取り組みを評価された宿の一つだ。この事業は、2020年から2023年にかけて、カタルーニャやバレアレス諸島、フランスのオクシタニー地方の自治体や水の機関、観光の事業者が集まって進められた。

ユーロニュースによると、欧州連合は、使った水をもう一度使う割合を高めることを重視している。フランスでは排水の再利用が1%に満たない一方、スペインは約14%と、欧州でも進んだ国の一つだ。

宿を開いたのは、元サッカー選手のジェラール・ボフィルだ。ボフィルはユーロニュースの取材に、「毎年、雨は減り、水を使う量は増えていく。少ない水をどう回せば、いちばん生かせるかを知ることが、長く続けられる宿につながる」と話している。

屋根の雨を、蛇口とプールへ

ユーロニュースによると、宿は屋根から、年に平均150万リットルの雨水を集める。雨水はタンクにためられ、いくつものフィルターを通ってから、蛇口やシャワー、さらに自然のプールへ流れる。

このプールは、塩素を使わない。公式サイトによると、長さ14メートルの自然の水泳池で、川や湖と同じように、植物と微生物の働きで水をきれいに保つ。昼のあいだ、植物が光合成で水に酸素を送り、微生物が水の中の汚れを分解し、植物がその養分を吸う。塩も塩素も使わない。ユーロニュースは、このプールをカエルなどの両生類が客と分け合っていると伝えている。

お湯を沸かす燃料も、土地のものだ。ユーロニュースによると、宿のお湯は、山火事を防ぐための計画で切り出した木で温めている。

使った水を、植物で洗って畑へ

使ったあとの水も、捨てない。宿の排水はすべて、植物で水をきれいにする設備に送られる。地元の植物を使って水を浄化し、その水を農園の畑に使う。畑でとれた野菜は、宿のレストランの料理になる。

ボフィルは、「ほかのホテルなら、この水は捨てられる。ここでは、二度目の役目を与える。いつも、輪を閉じることを目指している」と話す。畑の作物はレストランで出し、食べ残しは家畜に回し、家畜も食べないものは土に返す堆肥にするという。

電気も、外から買っていない。ユーロニュースによると、67枚の太陽光パネルで宿の電気をまかない、公共の電力網にはつながっていない。ボフィルは、ここに来たときに生き物の多さや、土の中の有機物の量、水の量を調べたが、今ではその倍になったと話している。

古い石と、土地の材料で建て直す

建物にも、同じ考え方が通っている。設計を担った建築家ロセリョが2020年に発表した論文によると、2016年の秋に初めて訪れたとき、もとの農家に残っていたのは、崩れた壁が二つと、がれきだけだった。建て直しは、ほとんど新しく建てるのと同じだったという。

論文によると、ボフィルは、農業を自然の循環に沿って設計する「パーマカルチャー」の考え方で宿をつくろうとした。まず森の手入れや果樹、菜園、家畜を立て直すところから始めた。建物は、もとの農家の石を使い直し、できるだけ近くでとれる材料と、工業化以前からある材料に絞った。室内の壁には、粘土に麻やわら、砕いた葦を混ぜた層を8センチ塗って、熱を逃がしにくくした。建物の骨組みはすべて無垢の木で、熱が逃げる弱い部分ができないようにしている。建物の中央には、屋根のある中庭を設け、すべての客室に風が通り、自然の光が入るようにした。屋根の雨をためる貯水槽、自然の力で下水をきれいにする設備、太陽光パネルを載せた駐車場の屋根、植物で水をきれいにするプール、木の燃料を使うボイラーの小屋も、宿が自給するための設備として計画された。この事業は、地方の過疎を防ぐ欧州の補助制度LEADERの支援も受けている。

日本の宿に置き換えると

カン・ブックから学べるのは、水を一度使って終わりにせず、雨水、浄化、畑と、次の使い道へ回していることだ。日本の宿でも、屋根の雨水を庭の水やりに使う、畑や花壇のある宿なら、浄化した水を活かす方法を専門家に相談する、といった形で、水の輪を少しずつ閉じていける。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊で、1室泊あたり300リットルの水を使うとすると、年に1,533立方メートルになる。その3割を雨水に置き換えられれば、459.9立方メートルで、水道の水を1立方メートルあたり500円で買っているなら、年に22万9,950円分を減らせる計算だ。

持ち帰れる知識

  • 水を一度で捨てず、次の使い道へ回す
  • 雨水は、ろ過して生活の水にも使える
  • 使った水を、植物の力できれいにする
  • 建て直しでは、もとの建物の材料を使い直す

宿で考えられること

  • 宿で使う水のうち、雨水に置き換えられるものを書き出してみる
  • 屋根の雨が、今どこへ流れているか調べてみる
  • プールや池を、塩素に頼らない方法で保てないか調べてみる

事業・予約への接続

カン・ブックは、400年以上前にさかのぼる農家を生かした建物と、水や食べものが宿の中で回る暮らしを、滞在の魅力として伝えている。雨水で満たされた自然の池で泳ぎ、宿の畑の野菜を食べることは、自然を大切にする客にとって、この宿を選ぶ理由の一つになる。

Sources / 参考情報

  • Euronews(英文) - 循環型経済:ホテルは観光の排水を使い直せるか(2024年10月8日、欧州委員会と組んだシリーズ)
    裏付け: ワットセーブリユースで2020〜2023年にカタルーニャ・バレアレス諸島・オクシタニー、ジローナを見下ろす高台、使う水の半分以上が屋根の雨水、創業者ジェラール・ボフィル、1622年の農家を改装、毎年雨は減り水の使用は増える、年に平均150万リットル、いくつものフィルター、蛇口・シャワー・カエルと泳ぐ自然のプール、山火事を防ぐ計画で切った木でお湯を温める、排水はすべて植物の浄化設備へ、地元の植物、畑からレストランへ、二度目の役目・輪を閉じる、食べ残しは家畜へ・堆肥へ、元サッカー選手、67枚の太陽光パネルで公共の電力網につながらない、LEADERの資金、生き物・土の有機物・水が倍になった
  • ISPRS Archives(英文) - カタルーニャで、伝統の技術と地元の材料と職人の手で建物を改修する(ロセリョ、2020年)
    裏付け: サン・アニオル・デ・フィネストレスのリェマナの谷、2016年の秋は崩れた壁二つとがれき、パーマカルチャー、森の手入れ・果樹・菜園・家畜から、LEADERの支援で過疎を防ぐ、近くの材料と工業化以前の材料、職人と協力、屋根の雨をためる貯水槽・自然の下水浄化・太陽光パネルの駐車場の屋根・植物で浄化するプール・木の燃料のボイラーの小屋、粘土に麻・わら・砕いた葦を混ぜた8センチの層、もとの石だけを使う
  • Can Buch(英文) - カン・ブック(公式サイト)
    裏付け: 12室とアパートメント1つ
  • Can Buch(英文) - 施設(公式サイト)
    裏付け: 長さ14メートルの自然の水泳池、植物と微生物で水をきれいに保つ、光合成で酸素を送り微生物が分解し植物が養分を吸う、塩も塩素も使わない

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