1885年の建物を、壊さずにホテルへ:ヘルシンキの「ザ・ホテル・マリア」が、国に守られた4棟を生かした方法
フィンランドの首都ヘルシンキの中心部に、クルーヌンハカという古い街並みの地区がある。2023年12月、この地区にザ・ホテル・マリアという高級ホテルが開業した。開業時のプレスリリースによると、客室は117室で、そのうち38室がスイートだ。レストランが二つと、大広間、礼拝堂、スパ、ブティックもある。
このホテルは、新しく建てたものではない。建物は4棟あり、いちばん古いものは1885年にさかのぼる。4棟はすべて、フィンランドの文化財を守る国の機関、フィンランド遺産庁によって保護されている。ホテルは、この古い建物を壊さずに直し、新しい役目を与えた。
士官の住まいと、役所の建物
工事を担ったフィンランドの建設会社フィラの2023年1月の発表によると、4棟は1885年から1930年にかけて完成した、価値の高い建物だ。リーサンカトゥ通りとマリアンカトゥ通りが交わる角にあり、床の面積は合わせて1万4,200平方メートルになる。建物は建築家エヴェルト・ラーゲルスペッツが設計したもので、これまでに、軍の士官たちの住まいや、国の省庁の事務所として使われてきた。
ホテルの名前は、ロシアの皇室の女性、マリア・フョードロヴナにちなむ。フィンランドが、ロシア帝国の中の大公国だった時代の人物だ。創業者のサンパ・ラユネンは、プレスリリースの中で、「マリアは、困難な時代にフィンランドに心の安らぎを求め、国境を越えて人々を結びつけた。私たちも、同じような安らぎと居場所を、訪れるすべての人に提供したい」と話している。ラユネンは、オリンピックで3度金メダルをとった元選手で、今は不動産の開発を手がけている。
階ごとに、違う直し方を考える
古い建物をホテルに変えるのは、新しく建てるより難しい。フィラの発表によると、文化や建築、歴史の面で価値のある建物を新しくするには、建設と設計の多くの分野で、特別な知識と技術が求められる。
フィラの工事責任者ユーニ・ユントゥネンは、「建設の技術の面で、とても難しく、野心的な事業だ。建物には、それぞれの時代に特有のさまざまな構造が使われていて、同じ建物の中でも、階ごとに違う解決策を考えなければならない」と話している。
フィラの施工実績の紹介によると、工事は2021年から2024年にかけて行われ、ホテルの最初の部分が2023年12月に、残りの部分が2024年の春に完成した。ユントゥネンは、内装の仕上げの質にも、特別な技術が求められたと話している。ホテルには、スパやレストランのほか、二つのバー、鏡で飾られた大広間、会議室、店、礼拝堂もつくられた。
工事は、ほかの壁にもぶつかった。ラユネンはフィラの発表の中で、新型コロナウイルスの流行やウクライナでの戦争によって、建設費や金利が上がるなど、多くの課題に直面したと振り返っている。
古い装飾を、新しい部屋の背景に
できあがったホテルでは、もとの建物の特徴が、内装の中心に置かれている。プレスリリースによると、壁や天井に残る伝統的な飾りは、白や落ち着いた色で塗り直され、時代を超えた背景になった。その中に、自然の木や、手で打った金属、現代の照明を重ねている。内装を手がけたのは、デザイナーのヤナ・サスコと、フィンランドの内装設計の会社プロプランで、フィンランドの文化とアメリカのスタイルを組み合わせた。フィラの発表によると、多くの部屋は天井の高さが最大で4メートルある。
客室は、フィンランドの一般的なホテルの2倍の広さがあり、平均で460平方フィートを超える。19室のスイートには、フィンランドの伝統的なサウナか、スチームバスがついている。
環境への配慮も、計画に組み込まれた。プレスリリースによると、ホテルは、エネルギー効率の高い照明や、室内の空気と温度を整える最新の設備、再生可能エネルギーを取り入れ、リサイクルや地元の職人との協力にも取り組むとしていた。国際的な環境認証「グリーンキー」は、2024年に取得する予定だと発表していた。
ホテルは、段階を追って開いた。ホテルのデザインの専門誌ホスピタリティ・デザインの2024年3月の記事によると、最後の段階として、2024年6月に、リーサンカトゥ通りとマネーシカトゥ通りに面した建物の工事が終わり、利用できる客室が2倍になる予定だった。
日本の宿に置き換えると
ザ・ホテル・マリアから学べるのは、古い建物を壊さず、その歴史を宿の価値として生かしていることだ。日本の宿でも、古い蔵や町家、旅館の建物を改修する際に、もとの梁や建具、装飾を残して見せる、建物の歴史を客に伝える、といった形で取り入れられる。古い建物は、場所によってつくりが違うことが多いため、早い段階で専門家に調べてもらうことも大切だ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、古い建物を生かした宿が、館内の歴史を案内するツアーを始める場合を考える。参加費を1人1,500円とし、月に30人が参加するとすると、年に360人で、54万円の収入になる。この収入を、建物の手入れの費用に回せる計算だ。
持ち帰れる知識
- 古い建物の価値は、残し方で決まる
- 古い建物は、場所によってつくりが違う
- もとの装飾は、新しい内装の背景になる
- 建物の歴史は、宿の物語として客に伝えられる
宿で考えられること
- 宿の建物で、残して見せられる古い部分を探してみる
- 建物の歴史を調べ、客に伝える方法を考えてみる
- 改修の前に、建物のつくりを専門家に調べてもらう
事業・予約への接続
ザ・ホテル・マリアは、1885年にさかのぼる建物と、その中に重ねた現代の快適さを、滞在の魅力として伝えている。歴史のある建物に泊まることは、その土地の文化にふれたい客にとって、このホテルを選ぶ理由の一つになる。
Sources / 参考情報
- Fira(英文) - フィラがクルーヌンハカの高級ホテルを改修:ザ・ホテル・マリアは2023年に開業(2023年1月12日)
裏付け: 1885〜1930年に完成した価値の高い4棟、リーサンカトゥ通りとマリアンカトゥ通りの角、床の面積は合わせて1万4,200平方メートル、新型コロナとウクライナでの戦争で建設費と金利が上がった(ラユネン)、文化・建築・歴史の価値がある建物には特別な知識と技術が必要、時代ごとの構造で階ごとに違う解決策(ユントゥネン)、天井の高さは最大4メートル、設計はエヴェルト・ラーゲルスペッツ、士官の住まいと省庁の事務所、4棟すべてがフィンランド遺産庁の保護 - Fira(フィンランド語) - ザ・ホテル・マリア:国際水準の高級ホテル(施工実績)
裏付け: 工事は2021〜2024年、最初の部分は2023年12月・残りは2024年春に完成、内装の仕上げの質にも特別な技術が必要(ユントゥネン)、二つのバー・鏡で飾られた大広間・会議室・店・礼拝堂、4棟すべてがフィンランド遺産庁の保護 - Hotel-Online(英文) - ザ・ホテル・マリアがヘルシンキに開業(2023年12月22日、ホテルのプレスリリース)
裏付け: 117室でうち38室がスイート、レストラン二つ・大広間・礼拝堂・スパ・ブティック、1885年にさかのぼる4棟をフィンランド遺産庁が保護、壁や天井の伝統的な飾りを白や落ち着いた色で塗り直す、自然の木・手で打った金属・現代の照明、内装はヤナ・サスコとプロプランでフィンランドの文化とアメリカのスタイルを組み合わせる、客室はフィンランドの一般的なホテルの2倍で平均460平方フィート超、19室のスイートにサウナかスチームバス、マリア・フョードロヴナにちなむ名前とラユネンの言葉、オリンピックで3度の金メダル、エネルギー効率の高い照明・室内の空気と温度の設備・再生可能エネルギー・リサイクル・地元の職人との協力、グリーンキーは2024年に取得予定 - Hospitality Design(英文) - ザ・ホテル・マリアがヘルシンキに開業(2024年3月8日)
裏付け: クルーヌンハカ地区、117室でうち38室がスイート、1885年にさかのぼる4棟をフィンランド遺産庁が保護、2024年6月にリーサンカトゥ通りとマネーシカトゥ通りの建物が完成し利用できる客室が2倍になる予定、グリーンキーは2024年に取得予定