GOAL 15 · TARGET 15.4 自然・生物多様性・保全 3分 / 2046文字 山の森を、宿の仕事として守る #159

雲霧林の500エーカーを、そのまま守る:コスタリカの「エル・シレンシオ」が、絶滅のおそれのあるカエルと針のないハチを見守る理由

コスタリカの首都サンホセの空港から北西へ約65キロ、霧に包まれた山あいの村バホス・デル・トロに、エル・シレンシオ・ロッジ&スパがある。ミシュランガイドによると客室は24室で、ガイドの「2キー」に選ばれている。名前の「シレンシオ」は、スペイン語で「静けさ」を意味する。

宿を包むのは「雲霧林」と呼ばれる森だ。山の斜面にかかる雲や霧が、木々をいつもしめらせている。公式サイトによると、こうした森は世界の森林の1〜2.5%しかない。この宿は、その貴重な山の森を守ることを、宿の仕事の中心に置いている。

5つの保護区に囲まれた森

公式サイトの持続可能性のページによると、宿はファン・カストロ・ブランコ国立水源公園、ポアス火山国立公園、グレシア森林保護区、エル・チャヨテ保護区、リオ・トロ保護区という、5つの保護された自然の地域に囲まれている。敷地の大部分は、生き物が行き来する「ラ・セルバ生物回廊」の中にある。

宿は、500エーカー(約200ヘクタール)を超える雲霧林を、手をつけずに守っている。森には動物を撮影する自動カメラを置き、野生の生き物の様子を見守っている。

絶滅のおそれのあるカエルと、針のないハチ

森を守ってきた成果の一つとして、公式サイトは、絶滅のおそれのあるカエルが敷地で確認されたことを挙げている。国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種としている、英語で「シンチョナ・プランテーション・ツリーフロッグ」と呼ばれるアマガエルのなかまだ。

宿は、地元に昔からいる針のないハチも守っている。地元で「ピクサロ」や「ヒコテ・バルシノ」と呼ばれる種類だ。こうしたハチは、花の受粉を助け、森の健康を保つ大切な役目を持つ。公式サイトによると、このハチは熱帯の森にだけいるもので、回復しつつある森にふたたび増えるよう保護しているという。

客も、森を育てる手伝いができる。宿の体験のページによると、客はガイドと一緒に、炭素を吸収する森に木を植えることができ、その木は美しい鳥ケツァールを地域に呼び戻す助けにもなる。

建物も、運営も、森に合わせる

建物にも、森への配慮がある。公式サイトによると、建物は地面から持ち上げて建て、雨水が土にしみこむようにしている。大きな窓で自然の光を取り入れ、外壁は常緑の森になじむ色にしている。

ごみと水の管理にも力を入れている。コスタリカ大学が開発した自然に分解される洗剤などを使い、2018年から2024年までに160トンを超えるごみを埋め立てに回さずに済ませた。使い終わった食用油は、バイオディーゼル燃料に生まれ変わらせている。

ミシュランガイドも、自然の素材の洗剤や電気の少ない電球を使っていることを紹介している。料理には化学農薬を使わずに育てた野菜や、近くの農場の鶏を使い、牛などの赤身の肉は出さない。客は、飛行機での移動で出た炭素を、宿の森を守る活動への寄付で埋め合わせることもできる。

宿は、コスタリカの持続可能な観光の認証(CST)で最高の「エリート」の評価を受けている。国の環境プログラム「エコロジカル・ブルーフラッグ」の賞も7つ受けた。その中には、敷地を流れるゴリオン川を守る取り組みや、電動自転車や電気の車を使う取り組みも含まれる。新しい建物を建てるときには、工事の前と後で環境への影響を調べ、エネルギーや水の使用量も測っている。

地域の人と一緒に

公式サイトによると、働く人の95%以上が地元の人で、約90人の雇用が300人を超える人の暮らしを支えている。新型コロナウイルスの流行の間も、働く人を全員雇い続けた。宿は、隣のファン・カストロ・ブランコ国立水源公園の緑地の手入れを手伝い、温室や環境教育のための寄付もしている。村の学校には、校舎の整備や給食の食材を支えている。

地域の文化も、宿の体験に生かしている。この地方の町サルチーは「コスタリカの工芸のゆりかご」と呼ばれ、牛車に色あざやかな模様を描く伝統で知られる。この伝統は、ユネスコの無形文化遺産に登録されている。宿はこの芸術を内装に取り入れ、客は村で手づくりのトルティーヤを焼く体験もできる。

持続可能性の担当者フランシスコ・イダルゴは、次の目標として炭素の排出を差し引きゼロにすることを挙げている。5年の計画では、太陽光パネルや小さな水力発電の設備を整えることも目指している。

日本の宿に置き換えると

エル・シレンシオから学べるのは、宿のまわりの山の森そのものが、守るべき大切な財産だということだ。日本の宿でも、裏山の森を歩く道を整える、自動カメラで生き物を記録する、といった形で始められる。森で確認できた生き物を一覧にして客に見せれば、守ってきたことの成果を、目に見える形で伝えられる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿を考える。年に5,110室泊で、1室泊あたり300円を森を守る費用に回すとすると、年に153万3,000円になる計算だ。

持ち帰れる知識

  • 山の森は、それ自体が守るべき財産になる
  • 守った成果は、確認された生き物で示せる
  • 建物を地面から持ち上げると、雨水が土にしみこむ
  • 客が木を植える体験は、森を育てる手伝いになる

宿で考えられること

  • 宿のまわりの森に、どんな生き物がいるか調べてみる
  • 自動カメラを置いて、夜の森を記録してみる
  • 客と一緒に木を植える体験をつくれないか考えてみる

事業・予約への接続

エル・シレンシオは、雲霧林の中の滝や森の道、木を植える体験を、滞在の魅力として伝えている。守られた山の森で静かに過ごす時間は、自然の中で心を休めたい客にとって、この宿を選ぶ理由の一つになる。

Sources / 参考情報

  • El Silencio Lodge & Spa(英文) - 持続可能性(公式サイト)
    裏付け: 5つの保護区(ファン・カストロ・ブランコ国立水源公園・ポアス火山国立公園・グレシア森林保護区・エル・チャヨテ保護区・リオ・トロ保護区)に囲まれる、敷地の大部分はラ・セルバ生物回廊、IUCNの絶滅危惧種のカエル(Cinchona Plantation Treefrog、Isthmohyla rivularis)を確認、地元の針のないハチ(ピクサロ Scaptotrigona subobscuripennis、ヒコテ・バルシノ Melipona costaricensis)が受粉と森の健康を支える、建物を持ち上げ雨水をしみこませる・大きな窓・森になじむ色、コスタリカ大学が開発した生分解性の製品、2018〜2024年に160トン超を埋め立てから回避、使用済みの食用油をバイオディーゼルに、CSTのエリート、ブルーフラッグの賞7つ(農業:熱帯の森にだけいる針のないハチを回復中の森に増やす、移動:電動自転車・電気のカート、ゴリオン川の保護、建設の前後に環境への影響を調べエネルギーと水の使用量を測るなど)、500エーカー超の雲霧林を完全に保全、雲霧林は世界の森林の1〜2.5%、自動カメラ、働く人の95%以上が地元、約90人の雇用で300人超を支える、コロナ禍で全員を雇用、国立水源公園の緑地の手入れと温室・環境教育への寄付、村の学校の整備と給食、サルチーの牛車の絵付けはユネスコの無形文化遺産で内装に、村でトルティーヤづくり、担当者フランシスコ・イダルゴがカーボンニュートラルと5年計画(太陽光パネルと小さな水力発電)を挙げる
  • El Silencio Lodge & Spa(英文) - 体験(公式サイト)
    裏付け: 炭素を吸収する森に木を植え、ケツァールを地域に呼び戻す手助け、ガイドと植樹
  • MICHELIN Guide(英文) - エル・シレンシオ・ロッジ&スパ:宿の紹介
    裏付け: 2キー、24室、空港から北西へ65キロ、バホス・デル・トロ、自然の洗剤と電気の少ない電球、化学農薬なしの野菜と近くの農場の鶏、赤身の肉は出さない、飛行機の炭素を雲霧林を守る活動への寄付で埋め合わせ
  • El Silencio Lodge & Spa(英文) - エル・シレンシオ(公式サイト)
    裏付け: 雲霧林の宿、3つの滝と2キロを超える森の道

関連する記事