ホテルの送迎車を、街の足にできますか?
駅や空港から離れた宿の多くは、自分の送迎車を走らせている。客にとってはありがたいが、宿ごとに車を持てば、同じ道を何台もの車が、ときには空席の多いまま行き来することになる。運転する人も、車の維持も、宿ごとに必要だ。
この送迎を、宿だけのものから、地域みんなの足に変えようとしている場所がある。アメリカ西海岸の市が走らせる無料の電気のシャトルと、オランダの空港の周りのホテルが進める、送迎の共同化だ。2つの例から、宿の送迎を地域と分け合うときの考え方と、つまずきやすい点を見ていく。
チュラビスタ:誰でも乗れる、無料の電気のシャトル
アメリカ・カリフォルニア州のチュラビスタ市は、サンディエゴの南にある。市は2025年7月、海辺の地区を走る「チュラビスタ・ベイフロント・シャトル」を始めた。市の発表によると、目的は、生まれ変わりつつある海辺の地区へ行きやすくすることだ。その地区には、少し前に開業した大型のリゾートと会議場「ゲイロード・パシフィック」もある。
シャトルは無料で、すべて電気の車で走り、排出ガスを出さない。毎日朝8時から夕方6時まで運行する。路線は2つある。「ブルー線」は主に海辺の地区とEストリート、Hストリートの2つの乗り換え拠点を結び、「グリーン線」は海辺の地区と周りの街を結ぶ。行き先には、海辺の自然を学ぶ施設や中心街、ショッピングセンター、住宅地、公園、路面電車の駅が含まれる。地元の報道によると、車は4台の白いバンで、車いすでも乗れる。
大事なのは、このシャトルが、ホテルの客だけのものではないことだ。市の発表によると、シャトルは、海辺の地区の開発計画の中で、誰もが海辺に行ける権利を重んじる取り組みの柱に位置づけられている。住む人にも訪れる人にも、無料か安い料金で使える移動と遊びの手段を用意する考え方だ。運行は、サンディエゴの公共交通の機関と組んで行う。市長は「このシャトルは、地域と、世界に誇れる海辺をつなぐ」と語り、中心街の地元の店を支えることにもふれた。
ホテルの側から見れば、客は車を借りなくても、海辺から中心街の店へ出かけられる。地元の人にとっては、新しいリゾートができた海辺が、自分たちも行きやすい場所になる。
スキポール:ホテルごとの送迎を、1つの仕組みに
オランダのアムステルダム・スキポール空港の周りには、空港の客が泊まるホテルが多い。それぞれのホテルは、ディーゼルのバスで、自分の客を空港まで送り迎えしてきた。
2020年11月、空港のあるハールレメルメール市、スキポール空港、そして地域のホテル業界の団体が、送迎を共同にする意向書に署名した。業界の団体は、参加する空港のホテルの代表も務める。ホテルは段階的に、自前のディーゼルのバスから、共同で運行する電気のバスに切り替える。費用は共同で出し、当時は2024年の半ばに全面的に動かす目標だった。3者は、こうした仕組みはまだ世界のどこにもないとしていた。
空港の発表によると、全面的に動けば、毎日1万キロ分の走行が道路から減る。空港はこれを、モスクワまで2往復するのと同じ距離だと説明している。二酸化炭素は、年に最大1,900トン減る見込みだ。バスの台数が減り、どれも排出ガスを出さないので、周りの空気がきれいになり、渋滞や駐車の問題も軽くなる。意向書には、空港のホテル以外のホテルもあとから加われるよう、将来の移動の需要を調べることも盛り込まれた。
ただし、共同化は簡単には進んでいない。業界団体の2024年9月の会議の報告によると、計画は実際につくる段階に入り、2027年の初めに動かすことをめざしている。残っていた課題として、夜のうちに電気のバスを充電する場所と、どこが運行を担うかが挙げられていた。空港は、計画を進める担当者の予算を、2024年と2025年の分について決めたという。
2つの例に共通すること
1つ目は、宿だけでは決めないことだ。チュラビスタでは市と公共交通の機関が、スキポールでは市と空港と業界の団体が加わっている。道路や停留所、充電の場所は、宿の敷地の外にある。
2つ目は、乗る人を広げることだ。チュラビスタのシャトルは、住む人も訪れる人も乗れる。スキポールでは、あとから別のホテルが加われるようにしている。乗る人が増えるほど、1台あたりの空席は減る。
3つ目は、時間がかかることだ。電気の車に替えるには、充電の場所と、誰が運転し、誰が費用を持つかを決める必要がある。スキポールの目標の時期がずれたことは、共同化を始める宿にとって、むしろ参考になる。
日本の宿に置き換えると
駅から離れた温泉地や観光地では、近くの宿がそれぞれ駅まで送迎していることがある。まずは、近くの宿や日帰りの温泉、観光の施設と、送迎の時刻や乗り場を見比べてみるとよい。同じ時間に同じ駅へ向かっているなら、時刻表をそろえて共同で走らせる余地がある。地域の人も乗せる場合や、運賃を受け取る場合は、必要な手続きが変わるため、自治体や運輸局に早めに相談したい。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)。駅から片道10キロの場所にある3軒の宿が、それぞれ1日8往復の送迎をしているとする。1軒で1日160キロ、3軒で480キロ走る計算だ。時刻表を決めて、1台の車で1日12往復にまとめれば、走る距離は1日240キロ、半分になる。1年では、17万5,200キロが8万7,600キロに減る。
宿の送迎を地域の足にする考え方は、移動の手段を、宿のサービスから、まちのしくみに変えることだった。
持ち帰れる知識
- 宿の送迎は、地域と分け合うと、空席と走行距離を減らせる
- 道路や停留所、充電の場所は宿の外にあるため、行政や業界と組む必要がある
- 乗る人を広げるほど、1台あたりの空席は減る
- 電気の車への切り替えは、充電と運行の担い手を決めるまで時間がかかる
宿で考えられること
- 近くの宿や施設と、送迎の時刻と乗り場を見比べてみる
- 共同で走らせる場合の、時刻表と費用の分け方を話し合ってみる
- 地域の人も乗せたい場合は、自治体や運輸局に相談してみる
事業・予約への接続
送迎がわかりやすく、時刻表が決まっていれば、車を持たない客でも宿を選びやすくなる。地域の店や施設へ出かけやすくなれば、滞在の過ごし方も広がる。
Sources / 参考情報
- City of Chula Vista(英文) - 無料のベイフロント・シャトル(2025年7月10日)
裏付け: 新しいベイフロント・シャトルの開始、生まれ変わる海辺の地区とゲイロード・パシフィックへの行きやすさ、無料・排出ガスなし・すべて電気の車、毎日8時から18時、行き先(自然を学ぶ施設・中心街・ショッピングセンター・住宅地・公園・路面電車の駅)、ブルー線とグリーン線、海辺に行く権利を重んじる取り組みの柱、無料か安い移動と遊びの手段、マッキャン市長の発言、サンディエゴの公共交通の機関と連携 - Times of San Diego(英文) - チュラビスタが住民と訪問者のための無料シャトルを開始(2025年7月10日)
裏付け: すべて電気、車いすで乗れる、毎日8時から18時、4台の白いバン、2路線、公共交通の機関と連携して運行 - Amsterdam Airport Schiphol(英文) - 地域のホテル業界団体と市と空港が、排出ガスのない空港ホテルの送迎バスを共同で(2020年11月23日) / より持続可能なホテルの送迎(ブログ)
裏付け: 3者の意向書、業界団体が空港のホテルを代表、ディーゼルのバスから共同の電気のバスへ、共同で費用を出す、2024年半ばの全面運行の目標、世界でまだない仕組み、毎日1万キロ分、年に最大1,900トン、渋滞と駐車と空気、ほかのホテルがあとから加われるよう需要を調べる、モスクワまで2往復、2030年に排出ガスなしをめざす - Gemeente Haarlemmermeer(オランダ語) - 世界で初めて、ホテルの客の移動を排出ガスなしに(2020年11月23日)
裏付け: 2020年11月21日に意向書に署名、ディーゼルから電気のバスへ、2024年半ば、年に最大1,900トン - KHN(オランダ語) - ハールレメルメールのホテル会議の報告(2024年9月12日)
裏付け: 実際につくる段階に入り2027年の初めの運行をめざす、夜に充電する場所、運行を担う相手、計画の担当者の予算を空港が2024年と2025年の分で決めた