部屋の箱を、いつか別の建物へ:アムステルダムの「ホテル・ヤカルタ」を、建物の寿命と解体から読み直す
オランダの首都アムステルダム。IJ(アイ)川に突き出した細長い「ジャワ島」の先端に、ホテル・ヤカルタが建つ。部屋の木の部材をつくったドイツの集成材メーカー、デリックスによると、ホテルは2018年に完成した。木の骨組みと、壁と屋根の太陽光パネルで、エネルギーの差し引きをゼロにしたホテルとして知られる。
建物が完成したときの性能は、よく語られる。けれど、建物は何十年も使われ、いつかは役目を終える。そのとき、使った材料はどうなるのか。オランダのデルフト工科大学(TU Delft)建築学部の「サーキュラー・デザイン・アトラス」は、2024年、この問いからホテル・ヤカルタを分析した。資源を捨てずに回し続ける「循環」の目で、建物を読み直す試みだ。
木の箱を、工場でつくる
デリックスの説明によると、ホテルは、木の板を直角に重ねて貼り合わせた厚い板「CLT(クロス・ラミネーティッド・ティンバー)」と、鉄筋コンクリートとガラスを組み合わせて建てられた。176の客室は、広さ30平方メートルの箱として工場でつくられた。床は鉄筋コンクリートの板、壁と天井は木だ。木の箱をすばやく組み立てられたことで、ホテルは26か月で完成したという。
木の流れは、国をまたぐ。デルフト工科大学の分析によると、箱に使われた木は、ドイツの「黒い森」で育ったモミだ。ドイツで5層の板に加工され、オランダ北部の町ウォフナムの工場で箱に組み立てられてから、現場に運ばれた。
デリックスによると、木の部材の量は2,100立方メートル。この木には、二酸化炭素に換算して1,593.9トン分の炭素がたくわえられている。木を使ったことで避けられた排出は、1,912.7トンとしている。なお、宿の公式サイトは、使った認証材を6,000立方メートルとしている。
現場で出るごみを、減らす
デルフト工科大学の分析は、工場で部屋をつくる利点を、まず現場のごみの少なさに見る。部屋の箱は設計の最初の段階から計画されたため、現場での間違いと工事のごみを防げた。質の高い部材を選んだので、仕上げの工程を一部省くこともできた。工事の期間も短くなった。
コンクリートにも工夫がある。下の階を支えるコンクリートは現場で練られ、材料の25%に、砕いたコンクリートの再生材を混ぜた。分析によると、この再生材は、もとは道路の工事に使われていたものだ。工事中に現場で出たごみは分別してリサイクルし、リサイクル率は100%に達した。環境性能の認証「BREEAM」の基準を満たす数字だった。
層ごとに、寿命が違う
分析の中心は、建物を、寿命の違う層に分けて見る方法だ。
土地は、ほぼ永遠に残る。骨組みのうち、正しくつくり、湿気から守ったCLTの箱は75年以上、きちんと練ったコンクリートは100年ほどもつとされる。外壁の、穴をあけたブロンズ色のアルミの板は、80年を超える寿命が見込まれる。ただし、風雨にさらされるため、手入れが欠かせない。空気を整える機械は25年ほど、家具は10年ほどで替える時期が来る。
寿命の短い層は、何度も入れ替わる。だから、入れ替えるときに、ほかの層を壊さずに外せるかどうかが、ごみの量を左右する。
ばらして、別の建物へ
部屋の箱の部品は、接着剤に頼らない「乾いた」接合でつながっている。分析によると、ホテルとしての役目を終えたあと、木の箱は手直しして、ほかの建物で部屋として使い直せる可能性がある。箱の大きさから、ほかの使い道は限られるが、一人暮らし向けの小さな住まいには向くという。ばらした部品はほかの用途に回し、木から外したアルミやコンクリートは、リサイクルに回せる。
たとえば、何十年か先の解体の日。クレーンで吊り上げられた木の箱が、トラックに載って、別の町の集合住宅へ向かう。
木だけでは、足りない
分析は、ほめるだけではない。客室の内側の壁、つまり木の板に断熱材と竹の仕上げを重ねた壁について、1平方メートルあたりの二酸化炭素の量を計算すると、マイナス87.2キロになった。木が炭素をたくわえているためだ。
一方、外壁は、詳しい図面が公開されていないため、アルミで仕上げた壁を仮定して計算した。結果はプラス85.1キロ。分析は、アルミの選択がいちばん大きく響いていると指摘する。アルミは長持ちし、リサイクルもできる。それでも、建物全体の二酸化炭素を減らすには、別の材料のほうがよかった可能性がある。
ガラスやコンクリートも、つくるときに多くのエネルギーを使う。太陽光パネルは台湾でつくられ、その電池には、限られた国でしかとれない希少な資源が使われる。木の建物でも、ほかの材料の選び方まで見なければ、全体の姿はわからない。
運営の中の、小さな循環
分析は、運営の工夫にも触れている。客室のアメニティを、持ち帰り用には置かない。スタッフの制服は持続可能な素材でつくられ、着られなくなったあとは、ホテルの家具に生かす計画だ。厨房の生ごみは、水分をしぼって固め、かさを減らしてから運び出し、堆肥に使われる。ただし分析は、乾かした生ごみは堆肥にするときに扱いにくくなる、という課題も挙げている。
日本の宿に置き換えると
新しく建てる予定がなくても、「層ごとの寿命」の考え方は使える。家具、設備、内装を、いつ、何に替えるか。替えるときに、ほかの部分を壊さずに外せるか。改装の前に、部材の一覧と、それぞれの寿命の目安を書き出しておくと、次の改装でごみを減らしやすくなる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)。20室の宿で、客室の家具を10年ごとにすべて入れ替えるとする。1室の家具の重さを200キロとすると、10年ごとに4トン、年にならすと400キロの家具が出る。そのうち半分を、ねじで留めて部品を替えられる家具にし、修理しながら20年使えるようにすると、出る量は年に300キロに減る。
ホテル・ヤカルタの木の箱は、今は客室だ。けれど、設計の段階から、その次の使い道を考えておくことはできる。
持ち帰れる知識
- 建物は、寿命の違う層の重なりとして見ると、入れ替えの計画を立てやすい
- 接着に頼らない接合は、解体のときの再利用を助ける
- 木を使っても、ほかの材料の選び方で全体の排出は大きく変わる
- 完成時の性能だけでなく、役目を終えたあとの材料の行き先まで考える
宿で考えられること
- 客室の家具と設備の一覧に、寿命の目安を書き足してみる
- 次に替える家具を、修理しやすいものから選んでみる
- 改装で出る廃材を、種類ごとに量って記録してみる
事業・予約への接続
ホテル・ヤカルタは、木の骨組みと熱帯の庭を、泊まる理由として打ち出している。建物の材料の行き先まで説明できる宿は、環境への配慮を確かめてから選びたい客や、視察で訪れる建築の関係者に、選ばれる理由を示せる。
Sources / 参考情報
- TU Delft(英文) - サーキュラー・デザイン・アトラス:ホテル・ヤカルタ(2024年)
裏付け: SeARCHの設計、2013–2018年、工場でつくる部屋の箱で工事のごみと現場の間違いを防ぎ工期を短縮、仕上げの一部を省く、CLTの木は黒い森のモミでドイツで5層に加工しウォフナムの工場で組み立て、コンクリートに再生材25%・もとは道路の工事に使われた再生材、現場のごみのリサイクル率100%でBREEAMの基準、層ごとの寿命(土地は永遠、CLTは75年以上、コンクリートは100年ほど、穴あきアルミ板は80年超で手入れが必要、空調機は25年ほど、家具は10年ほど)、乾いた接合、木の箱は手直しして再利用でき住まい(ワンルーム)に向く、内壁はマイナス87.2kg・仮定の外壁はプラス85.1kg(1平方メートルあたり)、アルミの選択が最大の要因、台湾製の太陽光パネルと希少な資源、アメニティを持ち帰り用に置かない、制服を家具に生かす計画、生ごみをしぼって固め堆肥に・乾かすと堆肥にしにくい課題 - DERIX(英文) - ホテル・ヤカルタ
裏付け: CLT(X-LAM)と鉄筋コンクリートとガラスの組み合わせ、176室は30平方メートルの木の箱と鉄筋コンクリートの床、26か月で完成、2018年完成、木の部材2,100立方メートル、たくわえたCO2は1,593.9トン、避けたCO2は1,912.7トン、BREEAMエクセレント - Hotel Jakarta Amsterdam(英文) - 建物
裏付け: 認証材6,000立方メートル、200室の多くを工場でつくる、SeARCHの設計 - ArchDaily(英文、設計事務所SeARCHの説明) - ホテル・ヤカルタ
裏付け: 2018年完成、エネルギーの差し引きがゼロ、建物を支える木の骨組み