駐車場をつくらないホテルは、客をどう迎えるのか:デンバーの「ポピュラス」と、街が駐車場の義務をやめた理由
米国コロラド州デンバーの中心部、14番街240番地に、2024年10月に開業したホテル「ポピュラス」がある。13階建て・265室のホテルだ。建てるときに出た炭素を森で取り戻す取り組みは、別の記事で紹介した。ここでは、このホテルのもう一つの選択、「駐車場をつくらない」ことに目を向ける。
意図して、つくらなかった
公式サイトのよくある質問によると、ポピュラスの敷地の中には駐車場がない。開発会社は、駐車場を「意図して」つくらなかったと説明する。新しく建てたホテルで敷地に駐車場を持たないのは、デンバーの中心部で初めてだという。
理由の一つは炭素だ。駐車場の建物は、つくるときに炭素を多く出す鉄骨と鉄筋コンクリートでできている。旅行メディアのマタドール・ネットワークは2024年10月の記事で、専用の駐車場を持たないことで、駐車場に使うはずだったセメントなどの資材を使わずにすんだと伝えている。
もう一つの理由は、街との関係だ。公式サイトによると、この敷地には、かつてコロラド州で最初のガソリンスタンドがあった。車のための場所だった土地に、車を前提にしない建物を建てたことになる。ホテルは、近くの公共交通を使うことと、歩くことを客に勧めている。
車で来る客には、預かる仕組み
駐車場がないからといって、車で来る客を断るわけではない。公式サイトによると、係員が車を預かるバレーパーキングがあり、24時間いつでも出し入れできる。料金は、3時間までが17ドル、8時間を超えると64ドル、1泊で64ドル(大型の車は74ドル)だ。デンバー国際空港からは、車でおよそ40分かかる。
料金を公開しているので、客は、車で来るか、電車やバスで来るかを、予約の前に比べられる。駐車場を持たないホテルにとって、行き方の情報は、客室の写真と同じくらい大切な案内になる。
歩く、こぐ、乗る
マタドール・ネットワークの記事によると、建物の2つの面に自転車置き場があり、自転車の店も予定されている。周りの道には、車道と分けられた自転車レーンが通り、公共交通の乗り場までは1ブロックもない。
記事を書いた記者は、州が走らせる都市間バス「バスタング」でデンバーのユニオン駅に着き、そこから歩行者の通り「16番街モール」を15分歩いてホテルに着いた。車を使わずにたどり着く道が、実際にあるということだ。
たとえば、夕方のユニオン駅。リュック1つの客が、迷わずに歩き出す。宿の案内に、駅からの道順が書いてあったからだ。
街も、駐車場の義務をやめた
ポピュラスが開業したあと、デンバーの街そのものも、駐車場の決まりを大きく変えた。市の公式サイトによると、2025年8月11日から、新しい建物や建物の改修で、決まった数の駐車場をつくる義務がなくなった。
それまでは、建物の使い方と地区ごとに、最低限の駐車場の数が決められていた。地元のテレビ局デンバー7によると、集合住宅なら1戸に1台、飲食店なら1,000平方フィート(約93平方メートル)ごとにおよそ4台が求められていた。ただし、一戸建てや、中心部の一部の地区には、もともとこの決まりがなかった。中心部にあるポピュラスにとって、駐車場をつくらないことは、義務を逃れたのではなく、自分で選んだことになる。
見直しのきっかけは、コロラド州が2024年につくった法律だ。市の説明によると、この法律は、公共交通の路線から4分の1マイル(約400メートル)以内の集合住宅などに、最低限の駐車場を求めることを禁じた。デンバーは、これに合わせるだけでなく、市全体で駐車場の義務をなくした。市は、駐車場の決まりが審査の手間を増やし、新しい開発を住宅や公共のために使える分を減らしてきたと説明している。
なぜ駐車場は、それほど重いのか。週刊紙のウエストワードは2025年3月、市の職員の話として、立体駐車場の1台分が、住宅1戸あたりの費用を最大5万ドル押し上げると伝えた。一方で、デンバー7によると、駐車場をつくること自体は、これからも自由にできる。決まりが変わっても、何台つくるかを決めるのは、建てる人だ。
駐車場の代わりに、長く使えるものを
駐車場にかける資材を減らす一方で、ポピュラスは建物そのものを長く使うことにも力を入れた。公式サイトによると、外壁は、ガラス繊維で補強したコンクリートの板(GFRC)で、すき間なく続く断熱材を覆っている。冬は熱を逃がしにくく、夏は熱を入れにくい壁になる。空調には、熱を取り戻す仕組みを使っている。
内装には、長持ちし、年月とともに味わいが増す素材を選んだ。再生材を多く含む壁材や布のパネル、再利用した木材、すり減りにくいウールのほか、無垢の鉄、ステンレス、銅、真鍮を使う。銅や真鍮は、時間がたつと色が変わり、それも味わいになる。
日本の宿に置き換えると
ポピュラスから学べるのは、駐車場を持たないなら、その分、行き方の案内を手厚くすることだ。駅からの道順、バスの時刻、車で来る場合の預け先と料金。これを予約の前に示せば、客は迷わずにすむ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿が、近くの月極の駐車場を10台分借りている場合を考える。1台が月1万5,000円なら、月15万円、年180万円になる。年5,110室泊で割ると、1室泊あたり約352円だ。駅から歩いて来る客が多い宿なら、この費用の一部を、自転車の貸し出しや駅までの送迎に回す選択肢もある。
持ち帰れる知識
- 駐車場の建物は、つくるときに炭素を多く出す
- 駐車場を持たないなら、行き方の案内と車の預け先を予約の前に示す
- 中心部では、駐車場の義務がもともとない地区もある
- 決まりがなくなっても、何台つくるかは建てる人が決める
宿で考えられること
- 駅やバス停から宿までの道順を、写真つきで案内してみる
- 借りている駐車場の台数と、実際に使われている台数を比べてみる
- 自転車の貸し出しや、駅までの送迎の費用を見積もってみる
事業・予約への接続
行き方がわかりやすい宿は、車を持たない客にも選ばれやすい。ポピュラスは、駐車場がない理由と、車で来る場合の料金をあわせて公開し、客が自分に合った行き方を選べるようにしている。
Sources / 参考情報
- Populus(英文) - よくある質問(公式サイト)
裏付け: 所在地は14番街240番地、デンバー国際空港から車で約40分、敷地内に駐車場はなくバレーパーキングのみ、料金(3時間まで17ドル・8時間超64ドル・1泊64ドル・大型車74ドル)、24時間出し入れ可、駐車場を意図してつくらなかった、デンバー中心部の新築ホテルで初めて、駐車場は炭素の多い鉄骨と鉄筋コンクリート、敷地はコロラド州最初のガソリンスタンドの跡地、公共交通と歩くことを勧める、GFRCのレインスクリーンと途切れない断熱、熱回収、再生材の多い壁材と布のパネル・再利用の木材・ウール・無垢の鉄・ステンレス・銅・真鍮 - Matador Network(英文) - デンバーの「ポピュラス」ホテル(2024年10月22日)
裏付け: 専用の駐車場がなくセメントなどを使わずにすんだ、建物の2つの面に自転車置き場、自転車の店を予定、分けられた自転車レーン、公共交通まで1ブロック未満、記者はバスタングでユニオン駅に着き16番街モールを15分歩いた - City and County of Denver(英文) - 駐車場の決まりの見直し
裏付け: 2025年8月11日から新しい建物と改修で最低限の駐車場の義務がなくなった、一戸建て・付属住戸・中心部の一部の地区にはもともと適用なし、2024年の州法(交通の路線から4分の1マイル以内の集合住宅などに最低限の駐車場を求めることを禁止)、市全体に広げた理由(審査の手間、住宅や公共のために使える分を減らす) - Denver7(英文) - デンバー市が新しい開発の駐車場の最低基準をなくす(2025年8月6日)
裏付け: 以前は集合住宅で1戸に1台、飲食店で1,000平方フィートごとに約4台、中心部の開発と一戸建てはもともと免除、駐車場をつくることは今後も自由 - Westword(英文) - デンバーが駐車場の最低基準をなくすかもしれない(2025年3月21日)
裏付け: 市の職員によると、立体駐車場の1台分で住宅1戸あたりの費用が最大5万ドル上がる