シャワーが重なる朝のために、水をためておく:ベルギー・ゲントのホテル「イビス・ゲント・ダンポールト」が計画する、使った水の再利用
ベルギー北部、フランデレン地方の古い町ゲント。駅の名前にもなっているダンポールト地区に、ホテル「イビス・ゲント・ダンポールト」がある。このホテルは、シャワーで使った水を処理して、トイレを流す水に使う計画を進めている。
この記事で紹介するのは、すでに動いている仕組みではなく、計画だ。数字はすべて、2024年に公表された計画の段階のものである。それでも、ホテルが何に悩み、どう解こうとしているかは、水の再利用を考える宿にとって参考になる。
雨は降るのに、水が足りない地方
フランデレン地方は雨の多い土地だが、水に余裕があるわけではない。ベルギーの公共放送VRTは2019年、フランデレン環境庁の担当者の話として、この地方で1人が1年に使える水の量はおよそ1,500立方メートルで、国際的な目安から見て「とても少ない」と伝えた。1人あたり1,000立方メートルを下回ると、深刻な水不足とされる。
理由は、人が多く住み、土地の多くが建物や舗装で覆われていることだ。雨は地下にしみこまず、川や下水に流れてしまう。欧州環境機関の気候への適応のサイトも、フランデレンを、経済協力開発機構(OECD)が水の乏しい地域とする場所として紹介している。地方の政府は「ブルー・ディール」という計画を立て、湿地を取り戻したり、舗装をはがして雨をしみこませたりしている。
欧州の研究プロジェクトの場で
イビスの計画が紹介されたのは、北海の周りの国々が参加する欧州の協力事業「インターレグ北海」の研究プロジェクト「ANCHOR」の集まりだった。ANCHORは、町の中で汚れた水を分けて集め、その場で処理して、水や資源を取り戻す方法を調べている。
2024年11月7日、ゲントで、水の再利用を学び合う会が開かれた。参加者は、近くの共同住宅を歩いて見学したあと、イビスに移り、ホテルの担当者ジョー・ローテンスさんから、なぜグレーウォーターに賭けるのかを聞いた。グレーウォーターとは、トイレ以外の洗面やシャワーなどで使った水のことだ。
281室、年に1万350立方メートル
ANCHORが2024年12月16日に公表した報告によると、ホテルは281室で、週末には600人の客を迎えられる。水の使用量は、年に1万350立方メートルを超える。
ホテルは、シャワーの水を処理する装置を入れて、トイレを流す水に使う計画だ。ここで問題になったのが、時間の偏りだった。大勢の客が同じ時間にシャワーを浴びると、処理する装置の能力を超えてしまう。そこで、処理した水をためておく「賢い」タンクを置き、いつでも再利用の水を使えるようにする。
報告によると、見込まれる効果は、建物1棟あたり年1,500立方メートルの飲み水の節約だ。計画の数字どうしで割ると、今の使用量の約14%にあたる。投資は、控えめな能力の装置でも、7〜8年で回収できる見込みだという。
色が少し違う理由を、トイレで伝える
報告は、客への伝え方にも触れている。トイレに説明の掲示を置き、再生した水を使っていること、そのために水の色が少し変わることがあることを、客に知らせる。
たとえば、仕組みが動き出したあとの日曜の朝。トイレの水の色に気づいた客が、壁の掲示を読み、自分が浴びたシャワーの水かもしれないと知る。
ホテルの会社は、規模を広げることも考えている。報告によると、たとえばホテルが大きな集合住宅の建物の中にある場合、ホテルと住宅を合わせた建物全体のグレーウォーターを処理し、トイレに使う。余った水は住宅に売る、という新しい事業のかたちも探っている。
町の中で、水を分けて使う試み
ゲントでは、ホテルのほかにも、使った水をもう一度使う試みが進んでいる。同じ会で紹介された共同住宅「ジャン」は、10戸の住まいで、シャワー、浴槽、洗面台の水を、空気を送り込んで汚れを分解し、フィルターと紫外線で処理してから、トイレに使う。報告は、設計と工事の段階での計画、とくに装置の大きさと配管の高さに気を配ることが大切だと伝えている。
ANCHORの別の報告によると、ゲントの新しい地区「デ・ニーウェ・ドッケン」には400戸の住まいが計画され、トイレの水と台所のごみ、グレーウォーターを分けて集め、その場で処理している。処理した水は、隣の石けん工場が使う。地区は、その工場から、捨てられるはずだった熱を受け取っている。
報告は、住宅でも商業の建物でも、グレーウォーターの再利用で飲み水の使用を20〜30%減らせるとまとめている。そのうえで、配管や表示、ためておく量まで、前もって準備することが、問題を防ぎ、費用を下げると指摘している。
日本の宿に置き換えると
イビスの計画から学べるのは、量だけでなく、時間を見ることだ。シャワーは朝に集中し、トイレは1日じゅう使われる。この差を埋めるのが、ためておくタンクになる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿の満室の朝を考える。7時から9時の2時間に、20人が1回60リットルのシャワーを浴びると、1,200リットルの水が集まる。処理する装置が1時間に100リットルしか処理できなければ、2時間で処理できるのは200リットルで、残りの1,000リットルをためておく場所が要る。
費用も見ておく。稼働率70%で年5,110室泊、1室泊あたりトイレに40リットルを使うとすると、年204.4立方メートルを再生した水に置き換えられる。水道の料金を1立方メートル500円とすると、年10万2,200円の節約だ。装置とタンクに150万円かかれば、回収に約14.7年かかる。小さな宿では、新築や大きな改修に合わせて考えるのが現実的だ。
持ち帰れる知識
- グレーウォーターの再利用では、量だけでなく、使う時間の偏りが課題になる
- ためておくタンクが、シャワーの集中とトイレの使用の差を埋める
- 水の色の違いは、前もって客に伝えると不安を減らせる
- 計画の数字と、動き出したあとの実績は、分けて伝える
宿で考えられること
- 朝のシャワーが集中する時間帯を、湯の使用量から確かめてみる
- トイレを流す水の量を、1室泊あたりで見積もってみる
- 改修の予定があれば、グレーウォーターの管を分けられるか相談してみる
事業・予約への接続
水を大切にする取り組みは、客に見えるところで伝えると、宿の姿勢として伝わる。イビスの計画では、トイレの掲示という小さな工夫で、客の疑問に先に答えようとしている。
Sources / 参考情報
- Interreg North Sea ANCHOR(英文) - グレーウォーターの再利用が未来である理由(2024年12月16日)
裏付け: ゲントでの水の再利用の会、イビス・ゲント・ダンポールトは281室・週末600人・年1万350立方メートル超、シャワーの水を処理してトイレに使う計画、同時のシャワーで処理能力を超えるためタンクで再利用の水を確保、建物1棟あたり年1,500立方メートルの節約、控えめな能力でも7〜8年で回収の見込み、建物全体の処理と余った水を住宅に売る事業のかたちを探る、トイレの掲示で再生した水と少しの変色を伝える、共同住宅ジャンは10戸で空気・フィルター・紫外線で処理しトイレに使う、装置の大きさと配管の高さの計画が大切、飲み水を20〜30%減らせる、配管・表示・ためる量の準備 - Interreg North Sea ANCHOR(英文) - グレーウォーターの仕組み:フランデレンの学び合いの会
裏付け: 2024年11月7日にゲントで開催、共同住宅ジャンから歩いてイビスへ、イビスは近くグレーウォーターの処理に投資する、ジョー・ローテンスさんがホテルの動機を説明、ANCHORは町の中での分散型の処理と資源の回収を調べる - Interreg North Sea ANCHOR(英文) - グレーウォーターの処理と再利用(2024年12月13日)
裏付け: デ・ニーウェ・ドッケンは400戸、トイレの水・台所のごみ・グレーウォーターを分けて集めその場で処理、処理した水を隣の石けん工場が使い地区は工場の余った熱を受け取る - VRT(英文) - フランデレンはなぜ水不足になるのか(2019年4月30日)
裏付け: フランデレン環境庁の担当者、1人あたり年約1,500立方メートルで国際的な目安からとても少ない、1,000立方メートル未満は深刻な水不足、人口が多く土地の多くが建物や舗装で覆われ雨が川や下水に流れる - Climate-ADAPT(欧州環境機関、英文) - ブルー・ディール:フランデレンの干ばつと水不足への取り組み(2024年6月24日)
裏付け: OECDが1人あたりの水の少なさから水の乏しい地域とする、ブルー・ディールで湿地の再生や舗装をはがして雨をしみこませる取り組み