クマを狩る宿を買い取り、狩りの許可を手放した:カナダ・ハイダ・グワイの「ハイダ・ハウス」が、文化を伝える宿に生まれ変わるまで
カナダ西海岸、ブリティッシュコロンビア州の北の沖に、ハイダ・グワイと呼ばれる島々がある。先住民ハイダの人々が、昔から暮らしてきた土地だ。その北の大きな島、グレアム島の東の海岸近く、トレル川のほとりに、宿「ハイダ・ハウス・アット・トラール」がある。
州の先住民観光の団体によると、「トラール」は、ハイダの言葉でヤナギランという花を指す。宿は、ハイダの人々が100%所有している。
個人の宿から、クマ狩りのロッジへ
ハイダの観光会社の記事によると、この建物は1980年代に建てられた、柱と梁で組んだ10室のロッジだ。長い間、個人が営む宿とレストランとして親しまれてきた。
ところが2000年代の終わり、新しい持ち主が建物を改装し、記念にクマを狩る「トロフィー・ハンティング」の客のためのロッジに変えた。記事は、これが島の住民の多くに受け入れられなかったと書いている。
ハイダの人々の議会にあたるハイダ・ネーション評議会は、1995年に、ハイダ・グワイでの娯楽のためのクマ狩りをやめるよう求めていた。2010年までに、ハイダの経済開発の会社「ハイコ」が、8エーカー(約3.2ヘクタール)の土地を建物ごと買い取った。そして、ロッジが持っていた最後の2つの商業用の狩りの許可を、永久に使えないようにした。
州の先住民観光の団体は、この選択が、ハイダ・グワイでのトロフィー・ハンティングを終わらせたと紹介している。動物が健やかであることが、地域の健やかさにつながることを、あらためて示したという。
建物はほぼそのまま、役目が変わった
2012年、ロッジは「ハイダ・ハウス・アット・トラール」として、新しく客を迎え始めた。資源をとる事業から、文化と自然を体験する観光の事業への転換だ。観光会社の記事は、建物そのものはそれほど変わらなかったが、存在する理由が変わったと書いている。
宿の事業は、ハイダの「トゥリャーダ」という考え方に立つ。「正しく直す」という意味だ。もう一つ大切にするのが「ヤグーダン」。すべての生き物を敬うことを指す。
今の宿の姿
公式サイトによると、ロッジは10室で、最大22人が泊まれる。すべての部屋に専用の浴室がある。そのほかに、海のそばに2つの寝室を持つ小屋が12棟あり、最大48人が泊まれる。敷地は、川と海に面した50エーカー(約20ヘクタール)で、果樹園や森の小道、庭がある。
土地は、買い取ったあとも広げてきた。観光会社の記事によると、2015年に隣の44エーカーを買い足した。州の先住民観光の団体は「40エーカー以上」と書き、その中にはハイダ・グワイで最も長い浜が含まれ、ハイダの人々が守り、分け合っているという。
食事は、潮と畑からとれたものを使う。州の先住民観光の団体によると、宿は、約160キロ以内でとれた食材を使う考え方を大切にし、地元の農場と、同じハイコが持つ水産の会社「ハイダ・ワイルド」の、海の資源に配慮した魚介を使っている。
人を育てる宿
同じ団体によると、宿のスタッフの半分以上がハイダの人々だ。宿では、料理や飲み物の提供、宿の運営を、働きながら学ぶ研修を行っている。地元の人が営む自然の案内や文化の解説、料理、手仕事の仕事も支えている。
観光会社の記事によると、宿は、社会への責任、経済の価値、環境への影響の3つで成果を測る考え方を掲げている。開業7年を振り返った時点で、多くのスタッフが7年目を迎えていた。宿のレストランは、7年続けてカナダの飲食店の案内に選ばれ、州の先住民観光の団体からは、宿の運営とサービスで2つの賞を受けた。
2018年8月には、持続可能な観光の認証(以前の名前はグリーン・ツーリズム)で、ゴールドを得た。観光会社によると、ハイダと地元の雇用、地元の食材、文化のツアー、環境の保全、リサイクルと省エネルギーの取り組みが評価された。認証は2年ごとに見直され、取り組みを続けて良くしていくことが求められる。
たとえば、川を見下ろす食堂の窓辺。客が、外に咲く赤紫の花の名前を聞き、それが宿の名前だと知る。
島に入る前の約束
ハイダ・グワイでは、島全体でも、訪れる人に心構えを伝えている。カナダの新聞グローブ・アンド・メールは2021年、島を訪れる人に、土地と人々を敬うと約束してもらう「ハイダ・グワイ・プレッジ」を紹介した。ウェブサイトで、すべての生き物を敬う「ヤグーダン」、正しく直す「トゥリャーダ」、まず許しを求めることなど、ハイダの価値を学んでから約束する。
記事に登場する島の観光の関係者は、新型コロナの時期を、ハイダのあり方に合う観光へ組み直す機会にしたと話している。問題が起きてから対処するのではなく、先に地元の目線を伝えるやり方だ。
日本の宿に置き換えると
ハイダ・ハウスから学べるのは、宿の持ち主が地域に移ると、宿の役目そのものを選び直せることだ。建物は同じでも、何を売り、誰を雇い、どの土地を守るかが変わる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿で、従業員10人のうち6人を地元から雇い、働きながら学ぶ研修に1人あたり年20万円をかけるとする。年120万円で、年5,110室泊で割ると、1室泊あたり約235円になる。地元の人が育てば、地域の案内や料理の質が、宿の魅力として返ってくる。
持ち帰れる知識
- 持ち主が変わると、同じ建物でも宿の役目を選び直せる
- 許可を買い取って手放すことも、土地と動物を守る方法になる
- 地元の人を雇い、育てることが、文化を伝える力になる
- 訪れる人に、先に土地の価値を伝えると、問題を防ぎやすい
宿で考えられること
- 地域の言葉や地名の由来を、宿の案内に入れてみる
- 地元から雇う人の割合と、研修の内容を見直してみる
- 宿の周りで、守りたい土地や景色を地域と話し合ってみる
事業・予約への接続
宿の成り立ちそのものが、泊まる理由になる。ハイダ・ハウスは、クマ狩りのロッジから文化を伝える宿へ変わった歩みを公開し、ハイダの人々が案内する体験とともに客を迎えている。
Sources / 参考情報
- Haida Tourism(英文) - 7年間の転換(ハイダ・ハウス)
裏付け: 1980年代に建てた柱と梁の10室のロッジ、個人の宿とレストラン、2000年代の終わりにトロフィー・ハンティングのロッジに、島の住民の多くに受け入れられなかった、2010年までに評議会の決議を受けてハイコが8エーカーを購入し最後の2つの商業用の許可を永久に手放させた、2012年の転換、建物はあまり変わらず存在理由が変わった、トラールはヤナギラン、働きながら学ぶ研修、地元の起業家を支える、3つの成果の考え方、2015年に隣の44エーカーを購入、多くのスタッフが7年目、7年続けてWhere to Eat in Canada、州の先住民観光の団体の2つの賞 - Indigenous Tourism BC(英文) - ハイダ・ハウス・アット・トラール
裏付け: ハイダが100%所有、ロッジ10室と海辺の2寝室の小屋12棟、トゥリャーダ(正しく直す)、1995年に評議会が娯楽のクマ狩りの中止を求めた、ハイコが土地を買い最後の許可を手放させた、2012年に文化と自然の観光の事業へ、トラールはハイダの言葉でヤナギラン、トロフィー・ハンティングを終わらせた、動物の健やかさと地域の健やかさ、スタッフの半分以上がハイダ、働きながら学ぶ研修、ヤグーダン(すべての生き物を敬う)、隣の40エーカー以上と島で最も長い浜、グリーン・ツーリズムのゴールド、約160キロ以内の食材の考え方、ハイダ・ワイルドの海の資源に配慮した魚介 - Haida Tourism(英文) - ハイダ・ハウス(公式サイト)
裏付け: ロッジ10室・最大22人・専用の浴室、海辺の小屋12棟・最大48人、潮と畑の料理、川と海に面した50エーカーと果樹園・森の小道・庭 - Haida Tourism(英文) - ハイダ・ハウスが持続可能な観光の認証を取得
裏付け: 2018年8月に持続可能な観光の認証(以前のグリーン・ツーリズム)、ハイダと地元の雇用・地元の食材・文化のツアー・環境の保全・リサイクルと省エネルギーが評価された、2年ごとに見直し、取り組みを続けて良くすることが求められる - The Globe and Mail(英文) - ハイダ・グワイを訪れる人は、土地と人々を敬うと約束することに(2021年9月1日)
裏付け: ハイダ・グワイ・プレッジは訪れる人に土地を敬うと約束してもらう観光の管理の仕組み、ウェブサイトでヤグーダン・トゥリャーダ・まず許しを求めることを学ぶ、新型コロナの時期をハイダのあり方に合う観光へ組み直す機会にした、問題が起きてからではなく先に地元の目線を伝える