ホテルを買ったのは、聖地を守るためだった:スノコルミー族が滝の上の「サリッシュ・ロッジ」を取り戻した方法
アメリカ・ワシントン州、シアトルから車で30分ほどの山あいに、高さ約82メートル(268フィート)のスノコルミー滝がある。その滝の上に、ホテル「サリッシュ・ロッジ・アンド・スパ」が建っている。
この滝は、先住民スノコルミー族にとって、最も大切な聖地だ。族の人々は、滝を「創造の場所」と考え、立ちのぼる霧が、祈りを創造主のもとへ運ぶと伝えてきた。2019年、族はこのホテルと周りの土地を買い取った。目的は、ホテルでもうけることより、聖地を守ることだった。
たとえば、朝のロッジ。窓の外では、滝の霧が谷から空へ立ちのぼっている。客がロビーで、この滝が誰にとってどんな場所なのかを書いた案内を読んでいる。
8室の宿から始まったホテル
族の公式サイトによると、ロッジの始まりは、1916年に旅人の休憩所として建てられた8室の宿だ。1988年に建物をすっかり改装し、「サリッシュ・ロッジ」として生まれ変わった。
先住民の報道機関ICTは、1916年にこの宿が建てられたとき、先住民は中に入ることを許されなかったと伝えている。族の歩みも厳しかった。1855年の条約に署名したものの、族は保留地を与えられず、1953年には、土地を持たないことを理由に、国から部族としての承認を取り消された。承認が戻ったのは、何十年も働きかけを続けたあとの1999年10月だ。
滝のそばに、発電所と開発計画
滝は、長く開発の場でもあった。19世紀の終わりには、滝の岩の中に発電所がつくられ、いまも電力会社のピュージェット・サウンド・エナジーが水力発電を続けている。
それでも、滝は族の文化の中で大切な場所であり続けた。州の歴史保存の部局のサイトによると、族の伝える物語では、月の変身者が魚をとる仕掛けから滝をつくった。滝は、精霊の力を授かる場所とも伝えられている。2009年、滝は国の歴史登録財に、先住民の伝統と結びついた文化財として登録された。
ICTによると、滝の周りの土地には、もともと民間の開発計画があった。族は集会や請願で反対したが、2007年に土地が売りに出されると、族と近くのマックルシュート族がともに入札し、マックルシュート族が買い取った。マックルシュート族は2016年に、もとの開発計画を進めると発表した。市は2018年に、住宅やホテルなどの開発を承認していた。族の評議会の書記は、滝のそばには祖先が眠っており、開発が予定された場所はまさにそこだと語っている。
1億2,500万ドルで、隣の部族から買い戻す
2019年10月31日、スノコルミー族は、ロッジと周りの土地を、マックルシュート族から1億2,500万ドルで買い取った。広さは約45エーカー(約18ヘクタール)で、ロッジのほか、滝のそばの土産物店も含む。AP通信によると、滝そのものは含まれていない。
族の発表によると、市が承認していた開発計画は、これで進まなくなった。ICTによると、族の議長は、族の同意なしに、この土地では何も起こらないようにするために買ったと話した。売り手のマックルシュート族の議長も、近くの部族に所有が引き継がれることを、地域とすべての先住民にとって良いことだと語った。購入は、族が国の承認を取り戻して20年の節目に重なった。
ホテルは続け、物語を伝える
族は、ロッジを閉じなかった。2007年からロッジを運営する会社が、そのまま運営を続けている。議長は、族と滝の物語と歴史を伝えることで、客の体験をより豊かにしたいと話した。
その一つが、滝のそばの土産物店だ。ロッジのサイトによると、族はロッジと組んで店を改装し、族の歴史と文化、そして聖地を守ってきた歩みを伝える「ギフトショップ・アンド・ビジターセンター」に変えた。議長は、毎年200万人を超える人が世界中からこの聖地を訪れるとし、ここが族にとってどれほど大切な場所かを知ってほしいと語っている。
族の取り組みは、滝の外にも広がっている。2022年には、約12,000エーカーの森を買い取り、「スノコルミー族の祖先の森」と名づけた。木材の伐採を続けながら、生き物と森の働きを守り、族の文化とのつながりを育てるとしている。
日本の宿に置き換えると
日本の宿のそばにも、地域の人が長く大切にしてきた神社や山、滝がある。宿は、その場所の意味を、地域の人の言葉で客に伝えることができる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿で、1室泊あたり100円を、近くの聖地や祭りを守る地域の会に寄付するとする。年5,110室泊なら、年51万1,000円になる。客室には、地域の人と一緒に書いた案内を置き、お参りの作法や、入ってはいけない場所を伝える。
守るために持つ
スノコルミー族は、ホテルを壊さず、聖地を守るための場所として持ち直した。宿は、土地の意味を伝える窓口にもなれる。
持ち帰れる知識
- ホテルを持つことが、聖地を開発から守る手段になる
- 運営を続けながら、土地の物語を客に伝えることができる
- 土産物店のような場所も、文化を伝える窓口になる
宿で考えられること
- 宿の近くに、地域の人が大切にしてきた場所がないか調べてみる
- その場所の意味を、地域の人と一緒に案内にしてみる
- 売り上げの一部を、地域の文化を守る活動に回せないか考えてみる
事業・予約への接続
滝の霧が祈りを運ぶ場所に泊まる体験は、土地の意味を知ることで深まる。サリッシュ・ロッジは、族が持つホテルとして、滝と族の物語を客に伝えている。
Sources / 参考情報
- Snoqualmie Indian Tribe(英文) - スノコルミー族とマックルシュート族が、サリッシュ・ロッジと土地の歴史的な譲渡を完了(2019年11月1日)
裏付け: 約45エーカー、1億2,500万ドル、マックルシュート族の2007年の購入、市が承認した開発計画は進まない、両族の議長の言葉、10月31日に完了、1999年10月6日の再承認から20年、2007年からの運営会社が運営を続ける、族と滝の物語を伝えて客の体験を豊かにする - Snoqualmie Indian Tribe(英文) - 族の事業
裏付け: 2019年に聖地を守るために購入、1916年の8室の休憩所、1988年に改装して「サリッシュ・ロッジ」として再開、族が持ち聖地を守る - ICT(英文) - スノコルミー族が、祖先の地スノコルミー滝をマックルシュート族から1億2,500万ドルで購入(2019年11月5日)
裏付け: 1916年に建てられたとき先住民は中に入れなかった、高さ268フィート、族の同意なしに何も起こらないようにする、評議会の書記の言葉(祖先が眠る、開発予定地)、霧が祈りを運ぶ、族の反対運動、2007年の入札、2016年の開発の発表、1855年の条約と保留地なし、1953年の承認の取り消し - AP通信/KOMO News(英文) - スノコルミー族が、サリッシュ・ロッジの土地を1億2,500万ドルで購入(2019年11月1日)
裏付け: 約45エーカー(18ヘクタール)、滝そのものは含まない、ピュージェット・サウンド・エナジーが滝で水力発電所を動かす、霧が祈りを運ぶ - Revisiting Washington(英文) - スノコルミー滝
裏付け: 月の変身者が魚をとる仕掛けから滝をつくった物語、精霊の力を授かる場所、約1世紀にわたる水力発電所、1898年に岩の中の発電所の建設が始まった、2009年の国の歴史登録財への登録 - Salish Lodge & Spa(英文) - ギフトショップとビジターセンター
裏付け: 族がロッジと組んで店を改装、族の歴史と文化と聖地を守る歩みを伝える、2019年11月に族がロッジと店を取得、毎年200万人を超える訪問者(議長の言葉)、シアトルから30分(サイトの地図) - Snoqualmie Indian Tribe(英文) - スノコルミー族が、キング郡の祖先の森12,000エーカーを取得(2022年2月)
裏付け: 約12,000エーカー、「スノコルミー族の祖先の森」、伐採を続けながら生き物と森の働きと文化を守る