水上ヴィラの下を、サンゴの礁にする:パナマの「ナヤラ・ボカス・デル・トロ」が、宿の足もとから広げる海の再生
パナマのカリブ海側、ボカス・デル・トロ諸島のフランジパニ島に、大人だけが泊まれるリゾート「ナヤラ・ボカス・デル・トロ」がある。客室の多くは、海の上に杭で建てた水上ヴィラだ。
#143では、この宿が建てる前に5つの調査を行い、海の底を掘らずに杭の上に建てた方法を紹介した。今回は、建てたあとの話だ。宿は、水上ヴィラの下の海を、魚が集まるサンゴの礁に変えようとしている。
たとえば、朝の水上ヴィラ。客がテラスの階段から海に入り、シュノーケルをつけて足もとをのぞく。杭のあいだを、小さな魚の群れが通り抜けていく。
パナマのサンゴの多くが、この海にいる
ナヤラのサイトによると、ボカス・デル・トロには、パナマで記録されている、礁をつくるサンゴの種類のおよそ87%が見られる。この海のサンゴ礁の健康は、地域の経済の土台でもある。
一方で、ここのサンゴ礁は、3〜4年ごとに白化に見舞われている。白化とは、海水の温度が上がるなどして、サンゴが体の中の藻を失い、白くなる現象だ。長く続くと、サンゴは死んでしまう。
地元の新聞によると、ボカス・デル・トロでは2020年に大きな白化が起き、残っていたサンゴの半分以上が影響を受けた。2023年にも海の熱波で被害が出て、2024年の初めには、カリブ海の各地でサンゴを育てる施設が大きな損失を受けた。
地元の団体と、3つの手順で
ナヤラが組むのは、地元の団体「カリブ海サンゴ再生センター(CCRC)」だ。CCRCは、礁の土台となる構造物の設置、サンゴの繁殖と育成、海への植えつけを担っている。
取り組みは、3つの手順で進む。まず、魚やサンゴのすみかになる構造物を海に置く。次に、暑さや海の酸性化に強いサンゴを選んで育てる。そして、生き物の種類と量を測り、海の変化を見守る。
CCRCは、白化を生き延びた、暑さに強いサンゴを育てている。陸の上には、外の病気や天敵から隔てた育成の施設を設け、そこで育てたサンゴを繁殖させて、海に戻す計画だ。地元の新聞によると、CCRCはこれまでに先住民の働き手5人を雇い、人工の礁をつくって海に置く作業を担ってもらった。
第1段階:水上ヴィラの下
ナヤラのサイトによると、第1段階として、水上ヴィラの下に特別に設計した構造物を置いた。この場所は、短いあいだに、多くの種類の生き物がすむ礁に育った。いまでは、イエローテール・スナッパーやオニカマス、コモリザメといった、海の食物連鎖の上のほうにいる魚も戻ってきているという。
#143で紹介した、杭の上に建てて海の底を掘らない建て方と、この再生は、同じ考えでつながっている。建てるときに海を壊さず、建てたあとは海を育てる。
第2段階と第3段階:宿の外へ
第2段階では、宿の敷地の外に、本格的な礁をつくっている。CCRCが諸島で広げている16か所の再生の場所の一つで、サイトでは2026年8月の完成を目標としていた。早い段階の調べで、子を産める大きさのエンゼルフィッシュやイセエビが大きく増えたという。
第3段階は、宿の奥の湾に計画している6棟の新しい水上ヴィラだ。目標は2027年で、建物のまわりに、礁の土台となる構造物を置き始めている。宿は、サンゴが育つことで、この6棟が出す二酸化炭素をすべて相殺することを目標に掲げている。
取り組み全体では、16か所の再生の場所が、8万平方メートルを超える海の底に良い影響を与えているとしている。調べた場所のうち5か所は、手つかずの生態系と分類された。
客も、再生に加わる
この取り組みは、客の目に見えるようにつくられている。客は海洋生物学者と一緒に海に出て、構造物を置いたり、強いサンゴのかけらを植えたりできる。
「サンゴの里親」の仕組みもある。1口250ドルで、自分が関わった構造物について、6か月後、1年後、3年後に、写真とデータで報告が届く。集まったお金は、すべて海の見守りに使われる。
宿の中にも、海を傷めない工夫がある。宿にはもともと砂浜がなかった。そこで、海の上に杭を立て、その上に砂を敷いた「空中のビーチ」をつくった。宿はこれを、世界で初めての杭の上のビーチとしている。レストラン「エレファント・ハウス」は、インドネシアのバリ島から運んだ、100年前の建物だ。
日本の宿に置き換えると
日本でも、沖縄などでサンゴの白化が続き、各地でサンゴを育てて植えつける活動が行われている。宿は、地域の団体と組み、客が参加できる形をつくることができる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿で、地域の団体と「サンゴの里親」を始めるとする。年5,110室泊のうち、10室泊に1件の割合で、1口3,000円の申し込みがあるとすると、年511件で153万3,000円になる。全額を団体に渡し、半年後と1年後に、植えたサンゴの写真を客に送る。
宿の足もとから始める
ナヤラ・ボカス・デル・トロは、海の上に建つ宿の足もとを、生き物がすむ礁に変えようとしている。宿が海から借りた場所を、海に返していく取り組みだ。
持ち帰れる知識
- 宿の建物の足もとも、生き物のすみかに変えられる
- 暑さに強いサンゴを選び、育て、見守る手順がある
- 客が参加し、その後の報告を受け取れる仕組みが、再生を続ける力になる
宿で考えられること
- 宿の近くで、海や川の再生に取り組む団体を調べてみる
- 客が参加できる体験を、団体と一緒に考えてみる
- 参加した客に、その後の様子を届ける方法を考えてみる
事業・予約への接続
ナヤラ・ボカス・デル・トロでは、水上ヴィラの足もとの海そのものが、客が見て、加われる体験になっている。再生への参加が、滞在を特別なものにしている。
Sources / 参考情報
- Nayara Bocas del Toro(英文) - ボカス・デル・トロの海のすみかの再生
裏付け: CCRCとの協力、パナマの礁をつくるサンゴの約87%、地域の経済の土台、3〜4年ごとの白化、設置・育成・見守りの3つの手順、暑さと酸性化に強いサンゴ、第1段階は水上ヴィラの下の構造物でイエローテール・スナッパー・オニカマス・コモリザメ、第2段階は敷地の外の礁で2026年8月の完成とエンゼルフィッシュとイセエビの増加、第3段階は6棟の水上ヴィラで2027年が目標とサンゴで二酸化炭素を相殺する目標、16か所と8万平方メートル超、5か所が手つかずの生態系に分類、客の参加、サンゴの里親1口250ドルと6か月・1年・3年の報告と全額を見守りに - Nayara Resorts(英文) - ボカス・デル・トロの海のすみかの再生(ブログ)(2026年10月)
裏付け: 同じ取り組みの説明、CCRCは礁の設置と育成と植えつけと見守りを担う、第2段階の完成の目標は2026年8月、奥の湾に6棟の水上ヴィラを計画 - The Bocas Breeze(英文) - 変わる世界で、やり方を変える(2024年11月5日)
裏付け: CCRCの設立と活動、先住民の働き手5人が人工の礁をつくって置く、2020年の白化で残ったサンゴの半分以上に影響、2023年の熱波、2024年初めの大きな損失、暑さに強いサンゴを育てる、陸上の隔離された育成施設と繁殖、人工の礁が生き物の豊かさと漁業を回復 - Nayara Bocas del Toro(英文) - ディスカバー
裏付け: 世界で初めての杭の上の空中のビーチ - Nayara Bocas del Toro(英文) - 食事
裏付け: エレファント・ハウスはバリ島から運んだ100年前の建物 - Luxury Latin America(英文) - ナヤラ・ボカス・デル・トロ
裏付け: 開業時にはビーチがなかった、海の生き物やマングローブに影響を与えないよう杭の上の台に空中のビーチをつくった