電気のない40室を、塩と土でつくる:エジプトの砂漠の宿「アドレール・アメラル」と、オアシスに残る建て方
エジプトの西の砂漠に、シワ・オアシスがある。デザイン誌の記事によると、リビアとの国境から東へ約50キロメートルの場所で、1万年以上前から、さまざまな人々が暮らしてきた。宿の公式サイトによると、ここにはヌビアの地下水に支えられた、およそ230の泉がある。アレクサンドロス大王が神託を受けに訪れた、アメン神の神殿でも知られる。
このオアシスの山のふもとに、「アドレール・アメラル」という宿がある。名前は、土地の言葉で「白い山」を意味する。40室のどこにも、電気が通っていない。
たとえば、日が沈むころ。スタッフが、廊下や中庭にろうそくを並べていく。部屋の明かりも、ろうそくの火と、窓の外の星だけだ。
助言の会社が、自分で投資を始めた
宿をつくったのは、カイロの環境のコンサルティング会社「エンバイロメンタル・クオリティ・インターナショナル(EQI)」だ。EQIのサイトによると、代表のムニール・ネアマタラ氏は1996年に初めてシワを訪れた。そして、会社の仕事を助言だけでなく、持続可能な開発への直接の投資に広げると決めた。
EQIは、地域の人々や関係者と話し合ったうえで、シワでいくつもの事業を立ち上げてきた。その考え方は、地域の昔からの知恵と技、創造の力に、新しい知識を組み合わせることだという。
この取り組みは「シワ持続可能開発イニシアティブ」と呼ばれる。消えかけた建築の伝統と手仕事をよみがえらせること、地域の人々に自然と文化の価値を知ってもらうこと、エコツーリズムや有機農業に直接投資することを柱にしている。アドレール・アメラルの運営は、そのために設けた会社が担っている。
EQIのサイトによると、グループには、シワの手仕事の食品や、手づくりの布や家の小物を扱う会社もある。シワの町では、ほかに2つの宿も営んでいる。EQIは2010年に、エジプトの土の建築の先駆者の名を冠した「ハッサン・ファトヒー建築賞」を、2011年と2019年には「ワールド・トラベル・アワード」を受けている。
塩と土と藁の壁
宿の公式サイトによると、40室はどれも手づくりで、一つとして同じ部屋はない。土の建物は、まわりの景色に溶けこむ。家具や工芸品は、地元の職人の技を生かしたものだ。
公式サイトが引く雑誌の記事によると、壁は「カルシェフ」という伝統の材料でつくられている。日に干した岩塩と粘土と藁を混ぜたものだ。浴室には砂岩、椅子にはヤシの幹と葉、覆いには手織りの布が使われている。扉や家具は、オリーブの木でつくられている。
デザイン誌の記事によると、厚い土の壁は、昼の熱を吸って室内を涼しく保ち、気温が下がる夜には、その熱を放つ。冷房のない宿の快適さは、この壁に支えられている。
電気を使わない暮らし
公式サイトによると、夜の部屋を照らすのは、1部屋に1ダース、つまり12本ほどの蜜ろうのろうそくと、砂漠の星空だ。宿は自らを、電気にも冷房にもルームサービスにも頼らない世界だと説明している。
泳ぐためのプールは、ヤシの林の陰にあり、天然の泉から水が流れこむ。夕食の場所は、その夜の風向きや気分に合わせて、家の中、中庭、岩をくりぬいた部屋と、毎晩変わる。
食べ物も、土地のものだ。公式サイトによると、果物と野菜はすべて宿の畑で、農薬を使わずに育てている。肉と鶏は地元の農家から仕入れ、パンやケーキは宿で焼く。シワ名物のナツメヤシは、ジャムやデザートになる。
町の古い要塞を、同じ材料で直す
アドレール・アメラルの建て方は、宿の中だけで終わらない。シワの町の中心には、カルシェフで築かれた古い要塞の町「シャリ」がある。エジプトの新聞の記事によると、要塞は12〜13世紀に、高台に築かれた。エジプトの観光・考古省によると、シャリの再生の事業は、欧州連合(EU)が費用の90%、およそ60万ユーロを出し、EQIの関連会社が10%を出して進められた。
2020年11月6日、要塞は修復を終えて公開された。観光・考古省によると、要塞を囲む壁の95%が修復され、崩れた部分は、もとの町と同じ材料で直された。積もったがれきを取り除き、要塞の中の通りや通路も、再び歩けるようになった。古い町には、人々の飲み水を支えた深い井戸が6つある。
エジプトの通信社の記事によると、要塞はおよそ800年前に築かれたもので、修復は2年をかけて行われた。マトルーフ県の知事は、300人のシワの人々がこの事業に加わったと話した。別の記事によると、事業では市場や商いの場所も直し、母と子のための保健の施設も設けた。公開の式には、3人の大臣と県知事、EUの代表団に加え、20か国の大使が出席した。要塞の修復は、2015年に公開された要塞のモスク、2018年に公開されたタタンディのモスクの修復に続くものだという。
同じ考え方は、シワの外にも広がっている。EQIのサイトによると、EQIはルクソールの近くのニュー・グルナ村で、ハッサン・ファトヒーが20世紀の半ばに建てた建物のうち5棟を、ユネスコの資金で直している。以前の修復ではセメントや赤れんがが使われたが、EQIはそれを取り除き、もとの泥れんがと土地の材料で建て直す。1972年の世界遺産条約にそった方法だという。
日本の宿に置き換えると
日本にも、土壁や漆喰、地元の木や石で建てる技が残っている。宿の修繕を、地元の材料と職人の技で行えば、運ぶ材料を減らし、技を次の世代に残すことにもつながる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%(年5,110室泊)の宿が、毎年4室の壁を、地元の左官職人と土の材料で直すとする。1室あたり15万円とすると、年60万円。1室泊あたり約117円になる。4室ずつ直せば、5年で20室すべてが一巡する。1室の工事に、職人2人で3日かかるとすれば、年に24人日の仕事を地元の職人に生む。部屋を閉めるのは、1室につき3日ですむ。直した部屋の壁の材料と、職人の名前を、部屋の案内に書いて客に伝える。
土地の材料で、建てて、直す
アドレール・アメラルは、電気を使わず、土地の塩と土と藁で、40の部屋をつくった。そして、同じ材料と技で、町の古い要塞も直された。その土地にあるもので建て、壊れたら同じもので直すことは、天然の資源を無駄なく使う、一つの答えになっている。
持ち帰れる知識
- その土地の材料は、その土地の気候に合った快適さをつくる
- 宿の建て方が、町の文化財を直す技にもつながる
- 電気を使わないことが、それ自体、客を引きつける体験になる
宿で考えられること
- 宿の建物に、地元の材料をどれだけ使っているかを調べてみる
- 地元の職人と、修繕の方法を話し合ってみる
- 夜の照明を、客の体験として考え直してみる
事業・予約への接続
アドレール・アメラルでは、電気のない夜と、土の壁の部屋そのものが、遠くから客が訪れる理由になっている。土地の材料で建てたことが、宿の価値になっている。
Sources / 参考情報
- Adrère Amellal(英文) - アドレール・アメラル(公式サイト)
裏付け: 手づくりの40室で一つとして同じ部屋はない、土の建物、地元の職人の家具と工芸品、電気がなく1部屋に1ダースの蜜ろうのろうそくと星空、約230の泉とヌビアの地下水、アメン神の神託とアレクサンドロス大王 - Adrère Amellal(英文) - エコロッジ(公式サイト)
裏付け: 「白い山」の意味、電気・冷房・ルームサービスに頼らない、オリーブの木の扉と家具、ろうそくとランタン、カルシェフは日に干した岩塩と粘土と藁、砂岩の浴室、ヤシの椅子、手織りの布、宿の畑の果物と野菜は農薬なし、肉と鶏は地元の農家、パンとケーキは宿で、天然の泉のプール、風向きで変わる夕食の場所 - Adrère Amellal(英文) - 食事(公式サイト)
裏付け: 野菜とハーブは毎日宿の畑から、ナツメヤシのジャムとデザート - EQI(英文) - エンバイロメンタル・クオリティ・インターナショナル(公式サイト)
裏付け: 1996年に代表が初めてシワを訪れ、助言から直接の投資へ、地域との話し合い、昔の知恵と新しい知識、シワ持続可能開発イニシアティブの柱、アドレール・アメラルを運営する会社、手仕事の食品と布や小物を扱う会社、ほかに2つの宿、ニュー・グルナ村でファトヒーの建物5棟をユネスコの資金で泥れんがで修復しセメントと赤れんがを取り除く・1972年の条約にそう、2010年のハッサン・ファトヒー建築賞、2011年と2019年のワールド・トラベル・アワード - Ministry of Tourism and Antiquities(英文) - 観光・考古大臣が、シワ・オアシスのシャリ要塞とアグルミのモスクを公開(エジプト観光・考古省)
裏付け: EUが90%で約60万ユーロ、EQIの関連会社が10%、壁の95%を修復し崩れた部分をもとの材料で、通りと通路を再び開いた、6つの深い井戸 - Egypt Today(英文) - シャリ要塞の公開が、シワを世界の観光地に(2020年11月6日)
裏付け: 約800年前の要塞、2015年の要塞のモスクと2018年のタタンディのモスクに続く修復、修復は2年、EUの60万ユーロ、300人のシワの人々が参加(県知事) - Watani(英文) - シワ・オアシスの12世紀のシャリ要塞が、修復されて公開(2020年11月15日)
裏付け: 12〜13世紀の要塞で高台に築かれた、EUの資金とEQIの関連会社による「シャリ要塞の再生」の事業 - Egyptian Streets(英文) - エジプトが、シワのシャリ要塞の修復を祝う(2020年11月6日)
裏付け: 3人の大臣と県知事、EUの代表団、20か国の大使が出席、EUの資金でEQIの関連会社が設計と実施、市場や商いの場所の修復、母と子の保健の施設 - designboom(英文) - EQIによる、エジプトの土着のエコホテル「アドレール・アメラル」(2018年8月30日)
裏付け: リビアとの国境の約50キロ東、1万年以上の人の暮らし、厚い土の壁が昼の熱を吸って室内を涼しく保ち、夜に熱を放つ