GOAL 12 · TARGET 12.2 廃棄物・循環経済 4分 / 2606文字 その土地の土と塩で、建てて直す #198

電気のない40室を、塩と土でつくる:エジプトの砂漠の宿「アドレール・アメラル」と、オアシスに残る建て方

エジプトの西の砂漠に、シワ・オアシスがある。デザイン誌の記事によると、リビアとの国境から東へ約50キロメートルの場所で、1万年以上前から、さまざまな人々が暮らしてきた。宿の公式サイトによると、ここにはヌビアの地下水に支えられた、およそ230の泉がある。アレクサンドロス大王が神託を受けに訪れた、アメン神の神殿でも知られる。

このオアシスの山のふもとに、「アドレール・アメラル」という宿がある。名前は、土地の言葉で「白い山」を意味する。40室のどこにも、電気が通っていない。

たとえば、日が沈むころ。スタッフが、廊下や中庭にろうそくを並べていく。部屋の明かりも、ろうそくの火と、窓の外の星だけだ。

助言の会社が、自分で投資を始めた

宿をつくったのは、カイロの環境のコンサルティング会社「エンバイロメンタル・クオリティ・インターナショナル(EQI)」だ。EQIのサイトによると、代表のムニール・ネアマタラ氏は1996年に初めてシワを訪れた。そして、会社の仕事を助言だけでなく、持続可能な開発への直接の投資に広げると決めた。

EQIは、地域の人々や関係者と話し合ったうえで、シワでいくつもの事業を立ち上げてきた。その考え方は、地域の昔からの知恵と技、創造の力に、新しい知識を組み合わせることだという。

この取り組みは「シワ持続可能開発イニシアティブ」と呼ばれる。消えかけた建築の伝統と手仕事をよみがえらせること、地域の人々に自然と文化の価値を知ってもらうこと、エコツーリズムや有機農業に直接投資することを柱にしている。アドレール・アメラルの運営は、そのために設けた会社が担っている。

EQIのサイトによると、グループには、シワの手仕事の食品や、手づくりの布や家の小物を扱う会社もある。シワの町では、ほかに2つの宿も営んでいる。EQIは2010年に、エジプトの土の建築の先駆者の名を冠した「ハッサン・ファトヒー建築賞」を、2011年と2019年には「ワールド・トラベル・アワード」を受けている。

塩と土と藁の壁

宿の公式サイトによると、40室はどれも手づくりで、一つとして同じ部屋はない。土の建物は、まわりの景色に溶けこむ。家具や工芸品は、地元の職人の技を生かしたものだ。

公式サイトが引く雑誌の記事によると、壁は「カルシェフ」という伝統の材料でつくられている。日に干した岩塩と粘土と藁を混ぜたものだ。浴室には砂岩、椅子にはヤシの幹と葉、覆いには手織りの布が使われている。扉や家具は、オリーブの木でつくられている。

デザイン誌の記事によると、厚い土の壁は、昼の熱を吸って室内を涼しく保ち、気温が下がる夜には、その熱を放つ。冷房のない宿の快適さは、この壁に支えられている。

電気を使わない暮らし

公式サイトによると、夜の部屋を照らすのは、1部屋に1ダース、つまり12本ほどの蜜ろうのろうそくと、砂漠の星空だ。宿は自らを、電気にも冷房にもルームサービスにも頼らない世界だと説明している。

泳ぐためのプールは、ヤシの林の陰にあり、天然の泉から水が流れこむ。夕食の場所は、その夜の風向きや気分に合わせて、家の中、中庭、岩をくりぬいた部屋と、毎晩変わる。

食べ物も、土地のものだ。公式サイトによると、果物と野菜はすべて宿の畑で、農薬を使わずに育てている。肉と鶏は地元の農家から仕入れ、パンやケーキは宿で焼く。シワ名物のナツメヤシは、ジャムやデザートになる。

町の古い要塞を、同じ材料で直す

アドレール・アメラルの建て方は、宿の中だけで終わらない。シワの町の中心には、カルシェフで築かれた古い要塞の町「シャリ」がある。エジプトの新聞の記事によると、要塞は12〜13世紀に、高台に築かれた。エジプトの観光・考古省によると、シャリの再生の事業は、欧州連合(EU)が費用の90%、およそ60万ユーロを出し、EQIの関連会社が10%を出して進められた。

2020年11月6日、要塞は修復を終えて公開された。観光・考古省によると、要塞を囲む壁の95%が修復され、崩れた部分は、もとの町と同じ材料で直された。積もったがれきを取り除き、要塞の中の通りや通路も、再び歩けるようになった。古い町には、人々の飲み水を支えた深い井戸が6つある。

エジプトの通信社の記事によると、要塞はおよそ800年前に築かれたもので、修復は2年をかけて行われた。マトルーフ県の知事は、300人のシワの人々がこの事業に加わったと話した。別の記事によると、事業では市場や商いの場所も直し、母と子のための保健の施設も設けた。公開の式には、3人の大臣と県知事、EUの代表団に加え、20か国の大使が出席した。要塞の修復は、2015年に公開された要塞のモスク、2018年に公開されたタタンディのモスクの修復に続くものだという。

同じ考え方は、シワの外にも広がっている。EQIのサイトによると、EQIはルクソールの近くのニュー・グルナ村で、ハッサン・ファトヒーが20世紀の半ばに建てた建物のうち5棟を、ユネスコの資金で直している。以前の修復ではセメントや赤れんがが使われたが、EQIはそれを取り除き、もとの泥れんがと土地の材料で建て直す。1972年の世界遺産条約にそった方法だという。

日本の宿に置き換えると

日本にも、土壁や漆喰、地元の木や石で建てる技が残っている。宿の修繕を、地元の材料と職人の技で行えば、運ぶ材料を減らし、技を次の世代に残すことにもつながる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%(年5,110室泊)の宿が、毎年4室の壁を、地元の左官職人と土の材料で直すとする。1室あたり15万円とすると、年60万円。1室泊あたり約117円になる。4室ずつ直せば、5年で20室すべてが一巡する。1室の工事に、職人2人で3日かかるとすれば、年に24人日の仕事を地元の職人に生む。部屋を閉めるのは、1室につき3日ですむ。直した部屋の壁の材料と、職人の名前を、部屋の案内に書いて客に伝える。

土地の材料で、建てて、直す

アドレール・アメラルは、電気を使わず、土地の塩と土と藁で、40の部屋をつくった。そして、同じ材料と技で、町の古い要塞も直された。その土地にあるもので建て、壊れたら同じもので直すことは、天然の資源を無駄なく使う、一つの答えになっている。

持ち帰れる知識

  • その土地の材料は、その土地の気候に合った快適さをつくる
  • 宿の建て方が、町の文化財を直す技にもつながる
  • 電気を使わないことが、それ自体、客を引きつける体験になる

宿で考えられること

  • 宿の建物に、地元の材料をどれだけ使っているかを調べてみる
  • 地元の職人と、修繕の方法を話し合ってみる
  • 夜の照明を、客の体験として考え直してみる

事業・予約への接続

アドレール・アメラルでは、電気のない夜と、土の壁の部屋そのものが、遠くから客が訪れる理由になっている。土地の材料で建てたことが、宿の価値になっている。

Sources / 参考情報

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