GOAL 15 · TARGET 15.5 自然・生物多様性・保全 4分 / 2257文字 宿泊の保全料で、家畜の被害を償う #199

ライオンに家畜を襲われた家に、宿の保全料で償う:ケニアの「カンピ・ヤ・カンジ」を支える「ワイルドライフ・ペイズ」の決まりごと

ケニアの南、キリマンジャロを望むチュール丘陵に、「カンピ・ヤ・カンジ」というロッジがある。土地は、マサイの人々が共同で持つクク・グループ・ランチの中にある。ヘミングウェイが「アフリカの緑の丘」と書いた土地だ。

#196では、ケニアのイル・ングウェシが、保全地を干ばつのときの草の蓄えにした仕組みを紹介した。今回のカンピ・ヤ・カンジは、別の方法をとる。客が払う保全料で、野生の動物に家畜を襲われた家に償うのだ。

たとえば、朝の見回り。若いマサイの「シンバ・スカウト」が、夜のあいだにライオンがどこを歩いたかを調べ、牛を連れた人たちに知らせて回る。

牛を襲ったライオンは、仕返しに殺される

マサイの人々の暮らしの中心には、牛や山羊がいる。保全の団体の説明によると、人が増えて土地が狭くなるなか、ライオンが牛や山羊を襲い、その仕返しに殺されることが増えていた。

野生の動物と暮らすことは、家畜を持つ人々にとって、大きなお金の損失を意味する。動物を守れと言うだけでは、その損失は消えない。

宿と、保全の団体

2012年の記事によると、創業者のルカ・ベルピエトロ氏は、30万エーカーの草原と、丘の上の雲霧林を持つククの人々と組み、ロッジを文字どおり手で一緒に建てた。公式の説明によると、建ててから4年後に、創業者たちは「マサイ・ウィルダネス保全トラスト(MWCT)」を立ち上げた。

MWCTの公式サイトによると、今ではMWCTが、カンピ・ヤ・カンジと、学生向けのチュール・ウィルダネス・キャンプの2つのロッジを持っている。ロッジの利益はすべてMWCTのものになる。カンピ・ヤ・カンジに泊まれるのは16人まで。テントの客室は8棟で、電気はすべて太陽光でまかない、電気の車を使っている。

客は宿泊料とは別に、1人1日125ドルの保全料を払う。この保全料は、家畜の被害を償う「ワイルドライフ・ペイズ」に充てられる。保全料の額は時期によって変わってきた。2012年の記事は、1人1泊100ドルと書いている。

寄付に頼らない償いの仕組み

MWCTによると、ワイルドライフ・ペイズは2007年に始まった。ククの土地で、野生の動物を殺さずに守るという約束と引き換えに、家畜の損失を償う。

ほかの多くの償いの仕組みと違うのは、財団や寄付のお金に頼らないことだ。お金の出どころは、カンピ・ヤ・カンジの保全料だ。MWCTはこれを、自然の恵みに対する支払い(PES)の一つの形と位置づけている。

不正と、怠りを防ぐ決まり

償いのお金は、出し方を誤ると、家畜をきちんと守らなくなることにもつながる。そこで、細かな決まりがある。

MWCTの2025年の報告によると、5人の専任の担当者が、何段階もの確かめで不正を防ぐ。担当者は一人あたり、年に約1万8,000キロメートルをバイクで走って、届け出を確かめている。支払いは3か月ごとで、家畜の損失の種類を4つに分けて額を決める。

支払う額は、市場の値段ではない。家畜を責任をもって管理する気持ちを保つためだ。怠りや証拠の不足があれば、減らされるか、支払われない。MWCTのサイトによると、囲いが悪い、または世話が不十分な家畜の被害は、3か月に1回しか償われず、同じ期間の2回目からは支払われない。囲いや見張りを良くする手伝いも行っている。

ライオンの殺される数は、年6頭から1頭へ

MWCTの報告によると、この仕組みが始まる前、ククでは平均で年に6頭のライオンが槍で殺されていた。始まってからは、平均で年に1頭になった(身を守るための場合を除く)。

2025年は、雨が少ない年だった。雨量は457ミリメートルで、10年の平均の688ミリメートルを大きく下回った。干ばつで弱った家畜が遠くまで歩き回り、被害が増えた。承認された被害の件数は1,509件で、前の年の1,262件から増えた。襲われた家畜は1,851頭で、山羊が最も多かった。支払った額は、前の年の8万7,909ドルから増えて、9万9,293ドルになった。

届け出のうち、59%は、見張りがいたか囲いが良かった、怠りのない被害だった。41%は、怠りがあったとされた。2024年には取り決めを見直し、償いの額を50%引き上げている。

2025年には、ライオン狩りを14件防ぎ、そのうち5件はシンバ・スカウトが直接止めた。シンバ・スカウトは18人で、ライオンの居場所を知らせて、家畜をその場所から遠ざける手伝いをしている。家畜を襲う動物で最も多いのはハイエナだ。報告は、この12年でライオンによる被害が全体として増えているのは、ライオンの数が回復しているためかもしれないとしている。

日本の宿に置き換えると

日本でも、シカやイノシシによる畑の被害が各地で問題になっている。宿の客の目に、その土地の自然と、それを支える人々の負担を見えるようにすることができる。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%(年5,110室泊)の宿が、1室泊あたり200円の「里山協力金」を客にお願いするとする。年102万2,000円になる。地域の農家と話し合い、畑を守る柵の修理などに充て、使い道と結果を客に伝える。

償いが、共に暮らす力になる

カンピ・ヤ・カンジの客が払う保全料は、ライオンに家畜を襲われた家の損失を和らげる。そして、細かな決まりが、家畜を守る努力を続けさせる。野生の動物と暮らす人々の負担を、旅をする人が分け合う仕組みだ。

持ち帰れる知識

  • 保全の負担を、客が払うお金で分け合える
  • 償いの決まりに、家畜をきちんと守る理由を組み込む
  • 寄付に頼らない仕組みは、長く続けやすい

宿で考えられること

  • 宿のまわりで、自然と暮らす人々が負っている負担を調べてみる
  • 客にお願いできる協力金の形を、地域の人と考えてみる
  • 集めたお金の使い道と結果を、客に伝える方法を考えてみる

事業・予約への接続

カンピ・ヤ・カンジでは、保全料がどこに使われるかがはっきりしている。泊まることが、ライオンとマサイの人々が共に暮らすことを支えている。

Sources / 参考情報

  • Maasai Wilderness Conservation Trust(英文) - 捕食動物の保護(公式サイト)
    裏付け: 2007年に開始、野生の動物を殺さずに守る約束、カンピ・ヤ・カンジの保全料で運営し寄付に頼らない、PES、何段階もの確かめ、囲いが悪いか世話が不十分な被害は3か月に1回だけ、囲いと見張りの改善の手伝い
  • Maasai Wilderness Conservation Trust(英文) - エコツーリズム(公式サイト)
    裏付け: MWCTが2つのロッジを持ち利益はすべてMWCTに、カンピ・ヤ・カンジは16人と8棟のテントの客室、太陽光と電気の車、1人1日125ドルの保全料をワイルドライフ・ペイズに、ロッジを建てて4年後にMWCTを設立
  • Maasai Wilderness Conservation Trust(英文) - 2025年の年次報告(2026年8月20日)
    裏付け: 雨量457ミリと10年平均688ミリ、1,509件(前年1,262件)、9万9,293ドル(前年8万7,909ドル)、1,851頭で山羊が最多、5人の担当者と年約1万8,000キロ、3か月ごとの支払い、4つの種類、市場の値段ではない、怠りは減額か不払い、59%と41%、2024年に50%引き上げ、年6頭から年1頭へ、ライオン狩りを14件防ぎ5件はシンバ・スカウト、18人、ハイエナが最多、ライオンの被害の増加は数の回復のためかもしれない
  • Maasai Wilderness Conservation Trust(英文) - マサイの人々(公式サイト)
    裏付け: 土地が狭くなりライオンが家畜を襲って仕返しに殺される、償いの仕組みはカンピ・ヤ・カンジの保全料で支えられ戦士をライオンの見張りに雇う
  • Maasai Wilderness Conservation Trust(英文) - 私たちについて(公式サイト)
    裏付け: チュール丘陵とアンボセリ・ツァボの生態系、ヘミングウェイの「アフリカの緑の丘」
  • Meer(英文) - マサイ・ウィルダネス保全トラストの物語(2012年1月31日)
    裏付け: ククの人々が30万エーカーの草原と雲霧林を持つ、ロッジを手で一緒に建てた、1人1泊100ドルの保全料でMWCTを設立

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