水の力の電気で動き、川の水で体を冷やす:スウェーデンの「アークティック・バス」が、ルレ川と人口500人の村とともに営む方法
スウェーデンの北、ラップランドを流れるルレ川に、丸い建物が浮かんでいる。「アークティック・バス」というホテルとスパだ。公式サイトによると、住所はハラッズという村にある。夏は川に浮かび、冬は凍った川の氷に閉じこめられる。
公式サイトによると、客室は12室。川に浮かぶキャビンが6室、陸のスイートが3室、5人まで泊まれる陸のファミリー用が3室だ。真ん中の丸い建物の中に、冷たい水の風呂とサウナ、ジャクージ、トリートメントの部屋がある。
この記事では、この小さな宿が、電気と水と人を、どこから得ているのかを見ていく。答えはどれも、宿のまわりにある。
たとえば、冬の夕方。サウナで温まった客が、氷にあけた穴から、川の水の風呂に体を沈める。
木材を運んだ川の歴史から
公式サイトによると、建物を設計したのは、スウェーデンの建築家ベルティル・ハーシュトレム氏とヨハン・カウピ氏だ。地域の木材の歴史と、ルレ川への敬意を形にしたという。
かつてこの川では、切った丸太を川に流して運ぶ「川流し」が行われていた。丸い建物は、その歴史に着想を得ている。公式サイトによると、宿はミシュランの「キー」を受けている。
電気は、水の力が主体の地域から
スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)の公式ページによると、宿は全体を100%再生可能エネルギーで運営している。電気は、水力が主体の地域の電力網から来る。客室とサウナの暖炉には、再生ペレットを燃やす。
この地域は、スウェーデンの水力の中心だ。北スウェーデンの経済ニュースの2024年12月19日の記事によると、同じルレ川には、スウェーデン最大の水力発電所「ハルスプロンゲット」があり、年に2テラワット時(TWh)の電気をつくる。電力会社バッテンフォールは7億クローナ超を投じ、出力を15メガワット(MW)増やして826MWにする。水力は、スウェーデンの電気の40%をつくっている。記事によると、スウェーデンの水力の設備は合わせて約1万6,000MWで、そのうち約8,500MWをバッテンフォールが持つ。
宿の公式サイトによると、宿はスウェーデンの自然観光の認証「ネイチャーズ・ベスト」を受けた。地域の自然素材と再生可能エネルギーで、環境への影響を小さくすることを掲げている。
冷たい水は、川からそのまま
SLHの公式ページによると、冷たい水の風呂には、川の水を直接引いている。水を冷やす機械はいらない。北の川の冷たさを、そのまま使う。
川の水を使うからこそ、川を汚さないことが大切になる。宿の公式サイトによると、建物は地域の自然素材を使い、地域の人と会社の手で建てて、足跡を小さくした。料理長のデビッド・スターフ氏は、ノルボッテン地方の家族のレシピを料理に生かしている。
SLHの公式ページによると、宿には、地元でつくられたキックスレッド(足でこぐそり)とスノーシューも置いてある。どちらも、エンジンを使わずに雪の上を動ける道具だ。
人口500人の村とともに
宿の公式サイトによると、ハラッズは人口500人の村だ。宿は、村のおよそ半分の人が、過去・現在・将来に、直接または間接に宿と関わると見積もっている。
宿は、できるだけ地域の人を雇う。仕入れ先も、地域から選ぶ。ガイド、食べ物と飲み物、小さな家族経営の工房に注文する磁器、そして地域のほかの宿との協力だ。
公式サイトの経済のページによると、宿は「循環する経済」を目指している。宿の収入は、地域のガイド、送迎の会社、家族経営の店、食べ物と飲み物、自然派のスキンケアへと回っていく。宿が稼ぐほど、村にお金が残る。
宿の公式サイトによると、宿はSLHの「コンシダレート・コレクション」に入っている。国連のSDGsと、世界持続可能観光協議会(GSTC)に沿った基準に従う宿の集まりだ。
日本の宿に置き換えると
日本にも、川や湖、雪のそばの宿がある。電気の契約を再生可能エネルギーのものに切り替える、地元の水や雪を体験に生かす、仕入れ先を地域から選ぶ。どれも、宿の規模を問わずにできる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%(年5,110室泊)の宿が、1室泊あたり30kWhの電気を使うとする。年間で15万3,300kWhになる。再生可能エネルギーの電気の料金が、1kWhあたり2円高いとすると、年30万6,600円の上乗せ。1室泊あたり60円になる。1室泊2万円の宿なら、宿泊料の0.3%だ。
あわせて、地元のガイドや送迎、食材への支払いを、毎月の帳簿で数えてみる。宿の支払いのうち、地域に残るお金がいくらかが見えてくる。たとえば、年1,000万円の仕入れのうち、地域の会社から買う割合を30%から50%に上げると、地域に残るお金は年300万円から500万円に、200万円増える。
まわりにあるもので営む
アークティック・バスは、水の力が主体の電気で動き、川の水で客の体を冷やし、500人の村の人と仕入れ先とともに営む。宿に必要なものを遠くから運ぶのではなく、まわりにあるものから得る。それが、北の川に浮かぶ小さな宿のやり方だ。
持ち帰れる知識
- 宿のまわりの自然は、エネルギーにも体験にもなる
- 自然の水を使う宿ほど、汚さない工夫が大切になる
- 地域から仕入れるほど、宿の収入が地域に残る
宿で考えられること
- 電気の契約を、再生可能エネルギーのものに切り替えてみる
- 地元の水や雪、風を、体験に生かせないか考えてみる
- 支払いのうち、地域に残るお金を数えてみる
事業・予約への接続
アークティック・バスでは、川に浮かぶ建物と川の水の風呂が、客がこの宿を選ぶ理由になっている。土地の自然と歴史が、そのまま宿の体験になっている。
Sources / 参考情報
- Arctic Bath(英文) - 私たちについて(公式サイト)
裏付け: 設計はベルティル・ハーシュトレム氏とヨハン・カウピ氏、地域の木材の歴史とルレ川への敬意、夏は浮かび冬は氷に閉じこめられる、川流しの歴史に着想を得た丸い建物、冷たい水の風呂・サウナ・ジャクージ・トリートメントの部屋、ミシュランのキー、コンシダレート・コレクション - Arctic Bath(英文) - ホテル(公式サイト)
裏付け: 客室は12室、川に浮かぶキャビン6室、陸のスイート3室、5人まで泊まれる陸のファミリー用3室 - Arctic Bath(英文) - 社会の持続可能性(公式サイト)
裏付け: ハラッズは人口500人の村、およそ半分が直接または間接に関わるという見積もり、できるだけ地域の人を雇う、ガイド・食べ物と飲み物・家族経営の磁器・地域の宿との協力 - Arctic Bath(英文) - 経済の持続可能性(公式サイト)
裏付け: 循環する経済、収入は地域のガイド・送迎の会社・家族経営の店・食べ物と飲み物・自然派のスキンケアへ - Arctic Bath(英文) - 環境の持続可能性(公式サイト)
裏付け: 地域の自然素材と地域の人と会社で建てた、料理長デビッド・スターフ氏とノルボッテン地方の家族のレシピ - Arctic Bath(英文) - ネイチャーズ・ベストの認証(公式サイト)
裏付け: スウェーデンの自然観光の認証を取得、地域の自然素材と再生可能エネルギーで環境への影響を小さく - Small Luxury Hotels of the World(英文) - アークティック・バス(公式ページ)
裏付け: 宿全体を100%再生可能エネルギーで運営、電気は水力が主体の地域の電力網から、暖炉に再生ペレット、冷たい水の風呂に川の水を直接、地元製のキックスレッドとスノーシュー - North Sweden Business(英文) - バッテンフォールがハルスプロンゲットに7億クローナを投資(2024年12月19日)
裏付け: ルレ川のハルスプロンゲットはスウェーデン最大の水力発電所で年2TWh、7億クローナ超の投資で出力を15MW増やし826MWに、水力はスウェーデンの電気の40%