死んだサンゴも、正直に記録する:モルディブの「ギリ・ランカンフシ」が、ロープで育てるサンゴの結果を公開し続ける方法
モルディブの島のリゾート「ギリ・ランカンフシ」には、海の研究の拠点「ギリ・ヴェシ」がある。公式サイトによると、リゾートは2012年から海洋生物学者を雇っている。学者たちは、島のまわりのサンゴ礁を管理し、環境のことを伝え、客の体験を支え、生態系の問題を経営陣に知らせる。
この記事で見ていくのは、学者たちが2014年に始めた「コーラル・ラインズ」だ。ロープでサンゴを育てて、傷んだサンゴ礁に植える取り組みだ。目を引くのは、その結果を、うまくいかなかったことも含めて、サイトで公開し続けていることだ。
たとえば、朝の海。学者がシュノーケルで育成場に潜り、ロープに並ぶ小さなサンゴを1本ずつ写真に撮る。
ロープ1本に、20個以上のかけら
公式サイトによると、コーラル・ラインズは2014年3月、海洋生物学者のヴァイドタス・キルシス氏が始めた。ロープを使う、技術は簡単で効率の高いサンゴ礁の回復の方法だ。リゾートは、これに取り組んだモルディブで最初のリゾートになった。
1本のロープには、生きたサンゴの小さなかけらを20個以上つける。育成場で育てて、3年ほどたったら、傷んだサンゴ礁に移して植える。次の段階では、育ったサンゴをリゾートの前のサンゴ礁の新しい場所に移す。植えた場所と、植えていない場所を比べて、魚や生きものの多さがどう変わるかを見守る計画だ。
客はロープを寄付できる。公式サイトによると、寄付の75%は、リゾートの社会と環境のための基金「ギリSEAS」に入る。
結果を、待たずに公開する
公式サイトは、なぜ結果を公開するのかを説明している。研究者は、ふつう研究が終わって論文が出るまで、結果を明かさない。サンゴはゆっくり育つので、研究には何年もかかる。けれども、サンゴ礁への脅威はさし迫っていて、待つ時間はない。
そこで、リゾートは研究の結果を誰でも見られるようにし、定期的に公開することにした。うまくいったことも、いかなかったことも公開すれば、ほかの取り組みで同じ失敗をくり返さずにすむ、という考えだ。公式サイトは、世界気象機関の数字として、サンゴ礁がもたらす恵みは年に300億ドルを超える価値があると紹介している。
2016年、海が温まった年
公開された記録には、つらい結果も並ぶ。公式サイトのブログによると、2016年、エルニーニョ現象で海の水が温まり、リゾートの前のサンゴ礁の多くが白化した。
ロープ021番の記録は、こう伝えている。11月に強いエルニーニョが来ると見こんで、植える時期を12月に延ばした。ところが、温まる時期は見こみより遅く、2016年4月の高い水温で、このロープのサンゴは白化して死んだ。同じ種類のロープは、育成場でもサンゴ礁でも、すべて死んだ。それでも、このロープのデータは研究に使うと書いている。
ロープ034番は、テーブルのような形のサンゴだ。この種類は最も大きな被害を受け、リゾートの前のサンゴ礁では最初に姿を消した。それでも、このロープには7つの小さなサンゴが生き残った。記録は、その7つを「砂金のよう」と呼んでいる。
育成場は、サンゴを守った
一方で、わかったこともある。白化の間、学者たちは、サンゴに余計な負担をかけないよう、すべてのロープを育成場に残した。ロープ034番の記録によると、育成場で失ったサンゴは、サンゴ礁で失ったものより、ずっと少なかった。
ロープ035番の種類は、サンゴ礁では大きな被害を受けたが、育成場ではわずかしか失わなかった。記録によると、植える日は2017年3月と決まった。
ブログによると、育成場のかけらの多くは生き残り、サンゴを食べるオニヒトデの大発生にも耐えた。ロープのサンゴの中には、近くの浅いサンゴ礁から姿を消した種類もあった。学者たちは、育つのが速い3種類のミドリイシを選び、水深8メートルの場所に植えた。藻をはがして掃除し、粘土のようなセメントでサンゴを固定した。
白化を生きのびたサンゴは、この先の厳しい環境に強い性質を持っているのか。学者たちは、答えの出ていない問いも書き残している。
客と、働く人と、研究の団体と
公式サイトによると、ダイビングの担当者と一緒に、海に来るマンタの写真を撮り、その数を数えて、マンタの研究団体「マンタ・トラスト」に送っている。ウミガメの団体「オリーブ・リドリー・プロジェクト」や、モルディブのジンベエザメの研究団体とも組んでいる。
客と働く人は、シュノーケルやスキューバで、サンゴ礁のごみ拾いに加わる。学者は、働く人全員が受ける持続可能性の研修をつくり、97%がすでに受けた。リゾートは、観光の認証「アースチェック」のゴールドの水準にある。2019年には、モルディブの海草を守る運動に、最初の宿の一つとして加わった。
日本の宿に置き換えると
日本にも、海草の藻場やサンゴのそばの宿がある。地元の研究者や漁業者と組み、海の変化を記録して、客に伝えることができる。うまくいかなかった年の記録も、次の工夫につながる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%(年5,110室泊)の宿が、藻場を育てる取り組みに、客から1口3万円の寄付を募るとする。年20口集まると60万円。その75%を海の基金に入れると、年45万円になる。1室泊あたり約88円だ。寄付した客には、半年ごとに写真と記録を送る。
結果を、正直に
ギリ・ランカンフシのコーラル・ラインズは、ロープでサンゴを育てるだけではない。死んだサンゴも、生き残った7つのサンゴも、記録して公開する。その正直さが、海を守る仕事を、ほかの人にもつないでいる。
持ち帰れる知識
- 失敗の記録も、ほかの人が同じ失敗をしないための財産になる
- 客の寄付は、結果を伝え続けることで、信頼につながる
- 宿の中に専門家を置くと、海の変化に早く気づける
宿で考えられること
- 宿のまわりの海や川の変化を、写真で記録してみる
- 地元の研究者や団体と、データを分け合えないか聞いてみる
- うまくいかなかったことも、客に伝えてみる
事業・予約への接続
ギリ・ランカンフシでは、客がロープを寄付し、サンゴの育ちを記録で追える。海を守る取り組みが、宿を選ぶ理由と、また来る理由になっている。
Sources / 参考情報
- Gili Lankanfushi(英文) - ギリ・ヴェシ:環境の取り組み(公式サイト)
裏付け: 2012年から海洋生物学者を雇用、マンタ・トラストとオリーブ・リドリー・プロジェクトとジンベエザメの研究団体、ごみ拾い、働く人の97%が研修、アースチェックのゴールド、2014年3月にキルシス氏が始めたコーラル・ラインズ、ロープ1本に20個以上、3年後に植える、寄付の75%がギリSEAS基金へ、結果を待たずに公開、年300億ドル超 - Gili Lankanfushi(英文) - 希望のサンゴの群体(公式ブログ)
裏付け: 2016年のエルニーニョで多くのサンゴが白化、育成場のかけらの多くは生き残った、オニヒトデの大発生、浅いサンゴ礁から消えた種類、水深8メートル、3種類のミドリイシ、藻の掃除と固定 - Gili Lankanfushi(英文) - ロープ021番の記録(公式サイト)
裏付け: 11月の強いエルニーニョを見こんで植える時期を12月に延ばした、2016年4月の高水温で白化して死んだ、同じ種類のロープはすべて死んだ、データは研究に使う - Gili Lankanfushi(英文) - ロープ034番の記録(公式サイト)
裏付け: 最も大きな被害を受けた種類、7つの生き残り、白化の間はロープを育成場に残した、育成場の損失はサンゴ礁よりずっと少なかった - Gili Lankanfushi(英文) - ロープ035番の記録(公式サイト)
裏付け: サンゴ礁では大きな被害を受けたが育成場ではわずかしか失わなかった種類、植える日は2017年3月 - Gili Lankanfushi(英文) - 私たちについて(公式サイト)
裏付け: アースチェックと組んだ毎年の評価、2019年に海草を守る運動に最初の宿の一つとして加わった - Maldives.net.mv(英文) - 希望のサンゴの群体:ギリ・ランカンフシがサンゴの保全を進める(2017年6月12日)
裏付け: ロープで育ててリゾートの前のサンゴ礁に植える、2016年のエルニーニョと育成場のかけらの生き残り、3種類のミドリイシ