GOAL 6 · TARGET 6.4 水・衛生・循環 3分 / 2072文字 数字の範囲を読み直す #231

「281室」と「建物1棟あたり」:ベルギー・ゲントの「イビス」の、シャワーの水を使い直す計画を数字の範囲から読み直す

ベルギー北部の町ゲント。ダンポールト駅の近くにある「イビス」のホテルが、シャワーで使った水を処理して、トイレを流す水に使う計画を進めている。この計画は、#188 でも紹介した。

今回は、同じ計画を別の角度から見る。発表された数字が、どの範囲の数字なのか、という点だ。計画の数字は、範囲を確かめずに割り算すると、意味が変わってしまうことがある。

計画の数字をおさらいする

北海の周りの国々が参加する欧州の協力事業「インターレグ北海」の研究プロジェクト「ANCHOR」は、2024年12月16日、ゲントで開いた学び合いの会の報告を公表した。報告によると、ホテルの数字は次のとおりだ。

  • 281室で、週末には600人の客を迎えられる
  • 水の使用量は、年に1万350立方メートルを超える
  • シャワーの水を処理してトイレに使えば、「建物1棟あたり」年1,500立方メートルの飲み水を節約できる
  • 投資は、控えめな能力の装置でも、7〜8年で回収できる見込み

客が同じ時間にシャワーを浴びると、処理する装置の能力を超えてしまう。そこで、処理した水をためておく「賢い」タンクを置く計画だ。トイレには、再生した水を使っていること、そのために色が少し変わることがあることを知らせる掲示を置くという。

同じ住所に、二つのホテル

ここで、ホテルの名前と部屋の数を確かめてみる。ホテルの会社アコーの公式サイトによると、ダンポールトの住所(コープファールダイラーン29番地)には、「イビス・バジェット・ゲント・セントルム・ダンポールト」と、台所つきの部屋をもつ「アダージオ・アクセス・ゲント・セントルム・ダンポールト」の二つがある。

ゲント市の観光サイトは、イビス・バジェットの部屋の数を183室としている。ANCHORの報告の281室とは、98室の差がある。281室が、二つのホテルを合わせた建物全体の数字なのかどうかは、確かめられなかった。ただ、ANCHORが節約の量を「建物1棟あたり」と書いていることは、覚えておきたい。

割り算の答えは、分母で変わる

部屋の数が変わると、1室あたりの数字も変わる。年1万350立方メートルを1年365日で割ると、1日に約28.4立方メートルだ。

  • 281室で割ると、1室1日あたり約101リットル
  • 183室で割ると、1室1日あたり約155リットル

同じ水の量でも、分母しだいで、1.5倍ほど違って見える。しかも、この割り算は、空いている部屋もふくめた数字だ。客が泊まった部屋だけで割れば、さらに大きくなる。

一方、割合の計算は、部屋の数に左右されない。年1,500立方メートルは、年1万350立方メートルの約14.5%にあたる。1日あたりにすると約4.1立方メートル、およそ4,100リットルだ。

「7〜8年で回収」の読み方

「7〜8年で回収できる」とは、装置の費用が、1年に浮くお金の7〜8倍におさまる、という意味だ。報告は、装置の費用も、水の料金も示していない。だから、費用そのものは、この報告からはわからない。

もう一つ、ANCHORの報告は「控えめな能力でも」と書いている。装置を小さくすれば費用は下がるが、処理しきれない朝のシャワーの水が増える。タンクは、その差を埋めるために置かれる。装置の大きさとタンクの大きさは、一緒に決める必要がある。

計画の段階の数字として

ANCHORの学び合いの会の案内(2024年11月)では、ホテルは「近く」グレーウォーターの処理に投資する、と書かれていた。この記事を書いている時点で、装置が動き始めたという報告は見つからなかった。ここに出てくる数字は、すべて計画の段階のものだ。

ANCHORの報告は、住宅でも商業の建物でも、グレーウォーターの再利用で飲み水の使用を20〜30%減らせるとまとめている。イビスの計画の約14.5%は、トイレだけに使う場合の見込みで、この幅より控えめな数字だ。

日本の宿に置き換えると

設備の業者から「何年で回収できます」と言われたら、まず、1年に浮く金額と、装置の費用の両方を確かめたい。

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、ある宿が、使った水をトイレに回すことで、年に12万円分の水道代を減らせるとする。7〜8年で回収するなら、装置とタンクにかけられる費用は、84万〜96万円までになる。もし費用が150万円なら、回収には12.5年かかる。

回収の年数は、水道料金が上がれば短くなり、客が減れば長くなる。見積もりを受け取ったら、どの水道料金と、どれだけの客の数を前提にしているかも聞いておきたい。

部屋の数で割った数字を比べるときは、分母が全室か、客が泊まった部屋かも確かめておきたい。

範囲を確かめてから、割る

イビスの計画は、シャワーとトイレの時間のずれを、タンクで埋めようとしている。その工夫は、ほかの宿にも参考になる。ただし、計画の数字を自分の宿と比べるときは、それが1つのホテルの数字か、建物全体の数字か、確かめてから割り算をしたい。

持ち帰れる知識

  • 1室あたりの数字は、部屋の数(分母)で大きく変わる
  • 割合の数字は、分母のずれに左右されにくい
  • 「何年で回収」は、費用と年の節約額の比で決まる

宿で考えられること

  • 自分の宿の水の量を、全室と、客が泊まった部屋の両方で割ってみる
  • 設備の見積もりでは、装置の大きさとタンクの大きさを一緒に確かめる
  • 回収年数を聞いたら、費用と年の節約額を確かめる

事業・予約への接続

イビスの計画では、トイレの掲示で、再生した水の色が少し変わることを先に伝える。数字の範囲をはっきりさせることも、客や関係者の信頼につながる。

Sources / 参考情報

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