20.2ギガワット時は「累計」、19ギガワット時は「1年の見込み」:英国トラベロッジの照明と、空室を見張る暖房を読み分ける
英国のホテルチェーン「トラベロッジ」は、600軒を超えるホテルをもつ。同社の2024年の持続可能性報告書によると、エネルギーを減らす取り組みとして、照明の LED 化、温度と照明の自動の制御、屋根の太陽光パネル、空気の熱を使うヒートポンプを進めている。
このうち、照明の LED 化と、客室の暖房の制御には、大きな数字が出ている。ただし、数字の性格がそれぞれ違う。導入してからの「累計」なのか、「1年あたり」なのか、まだ「見込み」なのか。この記事では、そこを分けて読む。
照明:3年かけて388か所を LED に
トラベロッジとエネルギーの会社 SMS は、2015年から一緒に取り組んできた。SMS の事例紹介(2024年9月)によると、LED の照明は、2017年11月に試験を始め、2018年3月に本格的に入れ始めた。2020年7月には、388か所で入れ替えを終えた。
同じ事例紹介は、LED にしてからの節約を、電気で20.2ギガワット時、二酸化炭素で4,283トンとしている。この二つは、導入してからの「累計」の数字だ。1年あたりの数字ではない。
報告書によると、LED への入れ替えは2017年に共用部から始まった。いまは、新しいホテルと改装したホテルの客室で、LED が標準になっている。
暖房:空いた部屋を、暖めすぎない
ホテルの部屋は、客がいない時間が長い。チェックアウトしてから次の客が来るまでの間、そして客が外出している日中だ。
この時間に暖房を止めるため、トラベロッジは2019年から、暖房の制御の会社 SmarterDM(いまは英国の暖房機器の会社グレン・ディンプレックスの一部)と組んで、建物のエネルギーを管理する仕組みを入れ始めた。客室の暖房器には人がいるかどうかを感じるセンサーがつき、無線でつながっている。部屋に人がいるときは快適な温度に、空いているときは暖房を弱める。
SmarterDM の事例紹介(2024年7月)によると、まず10軒で試したところ、1軒あたり、客室の暖房の費用が40%を超えて減った。この結果を受けて、広く入れることになった。
暖房の数字は、何の数字か
暖房の制御についても、数字の性格を分けておく。
- SMS の事例紹介:2022年末までに260軒に入れた。客室の暖房の電気は、ふつう40%ほど減り、共用部でも同じくらい減っている
- SMS の事例紹介:すべてのホテルに入れ終えると、年に19ギガワット時を超える電気を減らせる「見込み」だ
- SMS の事例紹介:純粋な節約は、年に300万ポンドを超える
- SmarterDM の事例紹介(2024年7月):入れたのは350か所超・2万室
- 英国の建設業界誌の記事(2025年1月):入れたのは400か所超・3万室
軒数や部屋の数は、資料の時期で増えている。19ギガワット時は、全部に入れ終えたときの「1年あたりの見込み」だ。LED の20.2ギガワット時(累計)と、横に並べて比べることはできない。
SMS は、計算の上での節約ではなく、実際の節約を追いかけていると書いている。トラベロッジのピート・リスター氏(リスクとコンプライアンスの責任者)は、建設業界誌の記事で、仕組みが「予測を超える節約をもたらした」と話している。
「温度の幅」も、資料で違う
温度の決め方も、資料によって書き方が違う。SmarterDM の事例紹介は、温度の範囲を10〜21度に設定し、客が一時的に25度まで上げられる例を挙げている。一方、トラベロッジの報告書は、500軒を超えるホテルで、温度を18〜24度に保ち、空室のときは決めた温度に戻ると書いている。
設定は、時期や建物で変わりうる。数字を引用するときは、どの資料の、いつの数字かを添えたい。
「試す、それから広げる」
トラベロッジの報告書は、設備への投資を「モデルで見積もる、試す、広げる」の順で進めると書いている。
- モデル:SMS と一緒に、太陽光パネルやヒートポンプなどの大きな投資の効果を見積もる。ただし、実際の結果は、建物の条件や、工事の準備などで変わる
- 試す:600軒を超えるホテルに、一つで合う答えはない。小さく試して、合うかどうかを確かめる
- 広げる:効果と、二酸化炭素の削減と、投資の回収のつり合いがとれたら、広げる
暖房の制御も、10軒の試験から始まった。報告書によると、2024年には、試験的にいくつかのホテルで細かいメーターをつけ、制御の効果をはかり始めた。屋根の太陽光パネルは22軒にあり、120軒を超えるホテルが、ガスを使わない電気だけのホテルになっている。客室を1室売るあたりのエネルギーは、2024年に4%減った。目標は、毎年2%ずつ減らすことだ。
日本の宿に置き換えると
空いた部屋の暖房は、気づきにくいむだだ。チェックアウトの後、清掃の後、次の客が来るまで、暖房がついたままになっていないか、まず確かめたい。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で、冬の120日の間、空いた部屋の暖房が1日8時間ついたままだったとする。稼働率が70%なら、空いた部屋は延べ720室・日だ。暖房の電気を1時間1キロワット時とすると、5,760キロワット時になる。1キロワット時30円なら、年17万2,800円分の電気だ。
まずは数室で、センサーやタイマーを試し、電気のメーターの数字を前の年と比べるところから始められる。
数字の「時制」をそろえる
トラベロッジの例からわかるのは、大きな数字ほど、その「時制」を確かめる大切さだ。すでに終わった分の累計なのか、1年あたりなのか、これからの見込みなのか。それをそろえてはじめて、取り組みを比べることができる。
持ち帰れる知識
- 累計、1年あたり、見込みの数字は、横に並べて比べない
- 軒数や部屋の数は、資料の時期で変わる
- 小さく試してから広げると、投資の判断がしやすい
宿で考えられること
- チェックアウトから次の客まで、空いた部屋の暖房や冷房がどうなっているか確かめる
- 数室でセンサーやタイマーを試し、メーターの数字を比べる
- 省エネの数字を伝えるときは、累計か1年あたりかを添える
事業・予約への接続
トラベロッジの報告書は、客の快適さを損なわずにエネルギーを減らすことを目指している。客が部屋にいるときの快適さを守ることが、空室の暖房を減らす前提になる。
Sources / 参考情報
- SMS(英文) - トラベロッジの事例(2024年9月30日)
裏付け: 2015年から協業、LEDは2017年11月に試験・2018年3月に本格導入・2020年7月に388か所で完了、累計20.2ギガワット時と4,283トン、2019年からSmarterDMと建物のエネルギー管理、2022年末に260軒、客室の暖房の電気はふつう40%・共用部も同程度、全面導入で年19ギガワット時超の見込み、純節約は年300万ポンド超、実際の節約を追跡 - SmarterDM by Dimplex(英文) - トラベロッジの事例(PDF)(2024年7月)
裏付け: 10軒の試験で1軒あたり客室の暖房の費用が40%超減、350か所超・2万室、人を感じるセンサーと無線、空室で暖房を弱める、10〜21度の範囲と25度までの一時的な引き上げ - Dimplex(英文) - トラベロッジと SmarterDM の事例
裏付け: 試験で1軒あたり客室の暖房の費用が40%超減、350か所超・2万室、空室のときは暖房や冷房を使わない - Specify & Build(英文) - 賢い暖房管理の仕組みを選ぶ(2025年1月)
裏付け: 400か所超・3万室、ピート・リスター氏の言葉(予測を超える節約) - Travelodge(英文) - 2024年の持続可能性報告書(Better Future Report 2025)
裏付け: 600軒超、500軒超で温度と照明の制御・18〜24度・空室で設定温度へ、LEDは2017年に共用部から・新築と改装の客室で標準、太陽光パネルは22軒、ヒートポンプ、120軒超が電気だけ、1室を売るあたりのエネルギーを毎年2%減らす目標・2024年は4%減、試験的に細かいメーター、モデル・試す・広げるの手順