熱は木と太陽から、電気は買う:英国コーンウォールの「スカーレット」の、電気ではない再生可能エネルギー
再生可能エネルギーと聞くと、屋根の太陽光パネルや風車の電気を思い浮かべる人が多いだろう。けれど、宿で使うエネルギーの多くは、電気ではなく「熱」だ。部屋の暖房、シャワーのお湯、プールや湯船を温める熱である。
英国の南西の端、コーンウォールの北の海岸に建つ37室のホテル「スカーレット」は、2009年9月1日に開業した。#209 では、この宿が水と電気を「使わない」工夫を紹介した。今回は、熱をどうつくり、どう取り戻しているかを見ていく。
熱の多くを、木でつくる
英国の新聞インディペンデントの2009年9月19日の記事によると、スカーレットの暖房は、太陽の熱でまかなうプール以外、12万ポンドの大きなバイオマスボイラーでつくっている。バイオマスボイラーとは、木などの生きものに由来する燃料を燃やして、熱をつくる装置だ。ホテル業界誌ザ・ケータラーの2009年10月12日の記事によると、このボイラーは部屋とお湯を温める。
燃料の書き方は、記事によって違う。
- ザ・ケータラー(2009年):コーンウォール産の丸太。ペレット(木くずを固めた燃料)は、つくるのにエネルギーがかかるので使わない
- インディペンデント(2009年):地元で集めた木のチップ
- インディペンデント(2010年)、英国の環境誌エコロジスト(2011年):木のチップ
時期によって燃料が変わったのか、書き方の違いなのかは、確かめられなかった。どちらにしても、地元の木を燃やして熱をつくる、という考え方は共通している。
開業の年の2009年の記事を並べると、37室の宿に、12万ポンドのボイラーと、150平方メートルの太陽のパネルがあった。熱を、宿のエネルギーの中心に置いた選択だったといえる。
最初は、つまずいた
新しい設備は、最初から順調とは限らない。ザ・ケータラーの記事によると、開業前の試験営業のあいだに、ボイラーが止まり、客がひと朝、お湯を使えなかった。開発を担当したサイモン・ボールドウィン氏は「ボイラーを動かし続けるのに、どれだけの木が必要かを確かめるのは、試行錯誤だった」と話している。
木のボイラーは、燃料を運び、ため、くべる手間がかかる。どのくらいの量を、どのくらいの間隔で入れるか。それは、使いながら覚えていくものだった。
プールは、太陽の熱で温める
インディペンデントの2009年の記事によると、開業のころ、太陽のパネルが屋内と屋外の両方のプールを温めていた。いまの公式サイトでは、屋内のプールを、寒い冬の日でも動く太陽の熱の仕組みで温めていると紹介している。外のプールは、葦と藻で水をこす自然のプールだ。
ザ・ケータラーの記事は、駐車場の上に150平方メートルの太陽のパネルがあると書いている。このパネルが熱をつくるものか、電気をつくるものかは、記事には書かれていない。
熱を、取り戻す
熱は、つくるだけでなく、取り戻すこともできる。ザ・ケータラーの記事によると、スカーレットの厨房では、次のような機器を選んだ。
- 食器洗い機:蒸気と排水の熱を回収して、入ってくる水を温める。厨房が暑くなりにくい
- 調理台:IH の加熱台は、鍋を置いたときだけ動く
- グリル:料理を置いたときだけスイッチが入り、赤外線の熱源が8秒で温まる
- 冷蔵庫:英国の団体カーボン・トラストの省エネ機器のリストで、最も高い評価を受けた製品
インディペンデントの記事も、熱の回収を宿の工夫の一つに挙げている。英紙ガーディアンの2021年の記事も、スカーレットについて、バイオマスボイラー、太陽のパネル、熱をとらえて交換する技術で環境への影響を減らしていると紹介している。
電気は「買う再エネ」
一方、電気について、いまの公式サイトは、100%再生可能な電源の電気を売る会社から買っていると書いている。人がいないと消える LED の明かりを使い、電気そのものを減らす工夫もしている。
ここで、二つの再エネを分けておきたい。一つは、宿の敷地でつくる再エネだ。スカーレットでは、木のボイラーと太陽の熱がこれにあたる。もう一つは、電力会社から買う再エネの電気だ。どちらも化石燃料を減らすが、宿の中で何が起きているかは違う。取り組みを伝えるときは、どちらの話かをはっきりさせると、客にも伝わりやすい。
日本の宿に置き換えると
日本の宿でも、エネルギーの多くはお湯と暖房に使われる。太陽の熱でお湯を温める装置は、電気をつくるパネルより仕組みが単純だ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿が、お湯をわかすのに年6,000リットルの灯油を使っているとする。屋根に太陽の熱でお湯を温める装置をのせて、その25%をまかなえれば、灯油は年1,500リットル減る。灯油が1リットル120円なら、年18万円分だ。装置の費用と、曇りの日に備えた今のボイラーは、別に考える必要がある。
ただし、25%は1年の平均だ。季節で分けると、たとえば日の長い4〜9月の6か月は灯油3,000リットルのうち35%(1,050リットル)、10〜3月の6か月は3,000リットルのうち15%(450リットル)をまかなう、という形になる。合わせて1,500リットルだ。冬ほど、お湯は多く要るのに、太陽の熱は少ない。プールのように夏に使う熱と組み合わせると、太陽の熱を使い切りやすい。
木のボイラーを考えるなら、燃料を近くで安定して手に入れられるか、だれが燃料をくべるかを先に決めておきたい。
熱の行き先を、見る
スカーレットの取り組みは、電気だけが再エネではないことを教えてくれる。暖房、お湯、プール、厨房。宿の熱の行き先を一つずつ見ていくと、木や太陽でつくれる熱、取り戻せる熱が見つかるかもしれない。
持ち帰れる知識
- 宿のエネルギーの多くは、電気ではなく熱
- 敷地でつくる再エネと、買う再エネの電気は分けて伝える
- 新しい熱の設備は、燃料の量や扱いを使いながら覚える
宿で考えられること
- お湯、暖房、プールや湯船に使う燃料の量を、別々に書き出す
- 厨房の機器を替えるときに、熱を回収する型を候補に入れる
- 太陽の熱でお湯を温める装置の見積もりをとってみる
事業・予約への接続
スカーレットの公式サイトは、屋内のプールを太陽の熱で温めていることを紹介している。プールや湯船の熱の出どころは、客が体で感じられる取り組みとして伝えられる。
Sources / 参考情報
- Scarlet Hotel(英文) - 崖の上のエコホテル(公式サイト)
裏付け: 37室、葦と藻の外のプール、100%再生可能な電源の電気を売る会社から購入、人がいないと消えるLED、寒い冬の日でも動く太陽の熱で屋内プール、バイオマスボイラー - The Caterer(英文) - スカーレット:環境に配慮できてうれしい(2009年10月12日)
裏付け: バイオマスボイラーで部屋とお湯、コーンウォール産の丸太・ペレットはつくるのにエネルギーがかかるので使わない、駐車場の上の150平方メートルの太陽のパネル、試験営業中にボイラーが止まりひと朝お湯が出なかった、ボールドウィン氏の言葉(木の量は試行錯誤)、厨房の機器(食器洗い機の熱回収、IH、グリル、冷蔵庫) - The Independent(英文) - スカーレット、コーンウォール:二人のためのホテル(2009年9月19日)
裏付け: 9月1日に開業、太陽のパネルが屋内と屋外のプールを温める、残りの暖房は12万ポンドのバイオマスボイラー、地元で集めた木のチップ、熱の回収 - The Independent(英文) - 24時間ルームサービス:スカーレット(2010年7月9日)
裏付け: 37室、太陽のパネルで屋内プール、持続可能な木のチップのバイオマスボイラー - The Ecologist(英文) - コーンウォールのエコな贅沢:スカーレット(2011年3月30日)
裏付け: 木のチップを燃やすバイオマスボイラー、太陽の力で屋内プール - The Guardian(英文) - 英国でくつろげるホテルと宿20選(2021年5月8日)
裏付け: バイオマスボイラー、太陽のパネル、熱をとらえて交換する技術