1年で3,584立方メートル減、七つの工夫:フィリピンの「アニャ・リゾート・タガイタイ」と、まねる前に確かめたいこと
フィリピンの首都マニラの南、高原の町タガイタイは、涼しい避暑地として知られる。ここにある「アニャ・リゾート・タガイタイ」は、マカティから車で1時間あまりの、スイートの部屋が中心のリゾートだ。フィリピンの雑誌ピープルアジアの2026年の記事によると、客の99%はフィリピンの人だという。
アジアの持続可能な観光を伝えるサイト「アジア・サステナブル・トラベル」は2025年9月、アジアのホテルの水の取り組みを紹介する記事で、このリゾートを取り上げた。記事に並ぶ工夫は七つある。
七つの工夫
記事によると、リゾートの水の工夫は次のとおりだ。
- 客室の水まわり:独グローエの節水の技術「エコジョイ」の器具を、すべてのスイートに入れた。1分あたり1.5ガロン(約5.7リットル)で、ふつうの2.5ガロン(約9.5リットル)より40%少ない
- 人の多い共用の場所:センサーで動く蛇口と小便器。小便器は1回0.2ガロンで、センサーのない従来の型より87.5%少ない。蛇口の出しっぱなしも防ぐ
- 漏れの点検:水の設備を細かく見張り、漏れをすぐに直す
- トイレのタンクのびん:水を入れた750ミリリットルの使い終えたワインのびんを、トイレのタンクに沈める。1回に流れる水が約12.5%減る
- タオルとシーツ:使い続けたい客に、部屋の案内で協力をお願いする
- プール:細かい粒までこせる珪藻土のろ過機で、逆洗(ろ過機を洗う作業)の水と薬品を減らす。ポンプや噴水は、客が50%を超えるときだけ、時間を決めて動かす
- はかる:場所ごとのメーターと請求書で、使い方の変化を追う
プールの薬品については、濃縮された質の高い薬品に替え、1回の消毒に4〜6キロ使っていたところを、700グラムから1キロにしたという。最大で83%の削減だ。
リゾートの支配人アマシオ氏は、シャワーについて「ふつうのブランドが1分2.5ガロンを使うのに対し、エコジョイは1.5ガロンで済む。シャワーのたびに40%少なくなる」と話している。
水の外でも、ピープルアジアの記事で総支配人のアリエット氏は「開業から、使い捨ての洗面用品は一度も使っていない。部屋では、詰め替えられる使用済みのびんを使っている」と話している。リゾートは2026年、持続可能な観光の認証団体グリーン・デスティネーションズのプラチナ認証を得た。
結果:1年で7%あまり
記事によると、リゾートの水の使用量は、2023年の4万9,307立方メートルから、2024年は4万5,723立方メートルに減った。差は3,584立方メートルだ。水の費用は、2023年と比べて2024年に61万8,000ペソ(約1万879ドル)以上減った。
4万9,307立方メートルに対する3,584立方メートルは、約7.3%にあたる。七つの工夫の一つひとつは40%や87.5%と大きいが、宿全体の水では7%あまりになる。器具ごとの割合は、その器具1回分の割合で、宿全体の割合ではないからだ。どの工夫がどれだけ効いたかは、記事には書かれていない。
8か月の数字を、1年と比べない
記事は、2025年8月までの使用量が3万1,418立方メートルで、さらに進んでいると書いている。
ただし、ここは気をつけて読みたい。3万1,418立方メートルは、8か月ほどの数字だ。1年の4万5,723立方メートルより少ないのは当然で、比べるなら、2024年の同じ月までの量と比べる必要がある。仮に1月から8月の8か月分だとすると、1か月あたり約3,900立方メートルで、2024年の1か月平均の約3,800立方メートルとほとんど変わらない。雨季や乾季、客の多い月で使う量は変わるので、月の平均だけでは判断できない。
タンクのびんは、日本ではまねしない
七つの工夫のうち、日本の宿がそのまままねしないほうがよいものがある。トイレのタンクのびんだ。
パナソニックの便器のよくある質問は、タンクに節水のためペットボトルなどを入れることは「できません」と答えている。流す水が少なくなると、汚れを流す力が大きく落ち、便器から見えなくなっても、建物の配管の中で少しずつ詰まるおそれがあるという。岡山県瀬戸内市の上下水道部も、詰まりの原因になるので入れないでほしいと呼びかけている。日本の便器は、もともと少ない水で流せるように設計されているものが多い。水を減らしたいなら、節水型の便器に替えるのが確実だ。
日本の宿に置き換えると
一方、シャワーの器具は、まねしやすい工夫だ。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・稼働率70%の宿(年に5,110室泊)で、1室1泊あたりのシャワーの合計が10分だとする。1分9.5リットルのシャワーを5.7リットルの節水型に替えると、1室1泊で38リットル、1年で約194立方メートル減る。水道と下水で1立方メートル600円なら、年に約11万6,000円だ。シャワーのお湯をわかす燃料も減る。
ただし、宿全体の水が同じ割合で減るわけではない。厨房、洗濯、大浴場の水は、別に残る。
工夫の数より、はかること
アニャ・リゾートの七つの工夫の最後は「はかる」だった。器具を替えるだけでなく、毎年の量を比べ、費用に直して示している。七つを並べると目を引くが、宿全体で何%減ったのかを見ると、工夫の本当の大きさが分かる。
持ち帰れる知識
- 器具ごとの「40%減」は、宿全体の40%減ではない
- 途中の月までの数字は、前の年の同じ月までと比べる
- 日本の便器メーカーは、タンクにびんなどを入れないよう呼びかけている
宿で考えられること
- シャワーの1分あたりの水の量を、バケツと時計ではかる
- 毎月の水の量を、前の年の同じ月と並べて記録する
- 便器を替えるときに、節水型を候補に入れる
事業・予約への接続
アニャ・リゾートは、タオルとシーツの協力を、部屋の案内で客に伝えている。節水の器具は、水の勢いを感じてもらえるように選び、客に体験として伝えられる。
Sources / 参考情報
- Asia Sustainable Travel(英文) - 流れを変える:アジアのホテルの水の課題への新しい解決(2025年9月19日)
裏付け: 七つの工夫(エコジョイ1.5ガロン・40%、センサーの小便器0.2ガロン・87.5%、漏れの点検、750ミリリットルのびん・約12.5%、タオルとシーツ、珪藻土のろ過機・50%を超えるときだけポンプ、場所ごとのメーター)、薬品4〜6キロ→700グラム〜1キロ・最大83%、アマシオ氏の言葉、2023年4万9,307立方メートル・2024年4万5,723立方メートル・3,584立方メートル減、61万8,000ペソ(約1万879ドル)、2025年8月までに3万1,418立方メートル - PeopleAsia(英文) - 9年目のアニャ・リゾート・タガイタイ(2026年8月25日)
裏付け: マカティから車で1時間あまり、客の99%はフィリピンの人、総支配人アリエット氏の言葉(開業から使い捨ての洗面用品を使わない、詰め替えられるびん)、グリーン・デスティネーションズのプラチナ認証 - Anya Resort Tagaytay(英文) - ソウルフリー・サステナブル(公式サイト)
裏付け: 環境、経済、社会の三つの柱 - Panasonic(日本語) - ロータンク内に節水目的でペットボトル等を入れて使用することは可能ですか
裏付け: できない、洗浄と汚物を運ぶ性能が落ちる、配管の中で詰まるおそれ - 瀬戸内市(日本語) - 節水するためにトイレのタンクにビンやペットボトルを入れてもいいですか?
裏付け: 入れないでください、排水管が詰まる原因