まだ建っていないホテルの電気を、どう見積もるか:ヨルダンの「シーダーズ・ホテル」の太陽光の設計と、屋根に載らなかった912枚
ヨルダンの首都アンマンの南、クイーン・アリア国際空港の近くで、「シーダーズ・ホテル」という宿が建設中だった。2021年6月、ヨルダンの研究者3人が、このホテルのための太陽光発電の設計を、学術誌『国際エネルギー・環境工学ジャーナル』に発表した。
この論文が面白いのは、まだ電気の請求書が1枚もない建物を相手にしている点だ。使う電気をどう見積もるか。パネルをどこに置くか。この記事では、その二つの問いに、論文がどう答えたかを順に見ていく。
三つの建物と、72の部屋
論文によると、ホテルは三つの建物でできている。
- 建物I:受付と12のスイート(浴室が1つのものが3つ、2つのものが9つ)
- 建物II:宴会場と60の客室
- 建物III:レストラン
研究者たちは、部屋ごとの照明、冷暖房、家電、ポンプなどを一つずつ積み上げた。すべての部屋が埋まり、すべての設備が動いたとすると、使う電気は月に7万7,099キロワット時、年に約925メガワット時になる。
満室の数字に、0.48を掛ける
けれど、ホテルがいつも満室とは限らない。満室の数字に合わせて設備を作ると、大きすぎてしまう。そこで論文は、満室の数字に掛ける「割合」を、三つの方法で求めた。
- ヨルダンの典型的なホテルの例から:0.43
- アンマンの別のホテルの2017年4月から2018年4月までの記録から:0.54
- 観光・遺跡省が出した、2010年から2019年までのホテルの稼働率の平均から:0.477
三つの平均は0.48。満室の数字に0.48を掛けて、使う電気は月に約3万7,000キロワット時、年に約444メガワット時と見積もった。電力会社から買うと、月に3,330ヨルダン・ディナール(約4,690ドル)、年に3万9,960ディナール(約5万6,281ドル)になる。
一つの数字に頼らず、性格のちがう三つの数字を並べて平均をとる。建つ前の建物の見積もりとして、まねしやすい考え方だ。
301キロワット、912枚のパネル
この電気をまかなう設備として、論文は、301キロワット(標準の条件での出力)の太陽光発電を提案した。パネルは912枚、電気を家庭や施設で使える形に変える装置(インバーター)は12台。電力網につないで使う方式だ。
欧州委員会の公開の道具「PVGIS」と設計ソフト「PVsyst」で計算すると、発電は年に約541メガワット時、発電の効率を示す「性能比」は0.828になった。ただし、論文の結びでは、発電を「月に約3万7,000キロワット時」とも書いている。こちらは使う電気の見積もりと同じ数字で、年541メガワット時とは合わない。読むときは、どちらの数字を使っているかに気をつけたい。
屋根では足りなかった
次の問いは、912枚をどこに置くかだ。パネルだけで1,539平方メートル、鉄の架台を含めると約1,757平方メートルが必要になる。
ところが、建物の屋根を合わせても約1,038平方メートルしかなかった。そこで論文は、3,480平方メートルある駐車場の上に置く案を選んだ。
駐車場はもともと、車が東を向いて並ぶ設計だった。ヨルダンではパネルを南に向けると最も多く発電できるため、駐車場の並びを90度回す。その分、とめられる車は132台から130台に減る。パネルは、車の日よけにもなる。
4.1年で元が取れる、という計算
費用について、論文はヨルダンの業者の値段を調べ、1キロワットあたり450〜600ディナールとした。高いほうの600ディナールで計算すると、パネルなどの設備で18万600ディナール(約25万4,366ドル)、全体で19万1,436ディナール(約27万3,480ドル)になる。
- 元が取れるまで:4.1年(金利と電気代の上がり方を、どちらも年4.63%と仮定)
- 1キロワット時あたりの発電の費用:0.0141ディナール(約0.0199ドル)。電力会社の料金0.090ディナール(約0.1285ドル)よりずっと安い
- 節約できる額:年2万7,528ディナール(約3万8,718ドル)
- 設備の寿命:25年
これはすべて、建つ前の設計の数字だ。実際に動かした記録ではない。
日本の宿に置き換えると
新しく建てる宿や、大きく建て替える宿では、同じ問いが出てくる。InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)で、規模の感覚をつかんでみよう。
ある宿で、満室なら年に12万キロワット時を使うと見積もったとする。ふだんの使い方を考えて0.6を掛けると、7万2,000キロワット時だ。
1キロワットのパネルが年に1,150キロワット時を発電するとしよう。満室の12万キロワット時に合わせると約104キロワット、0.6を掛けた7万2,000キロワット時に合わせると約63キロワットになる。差は41キロワット。1キロワット25万円なら、約1,025万円の差だ。
1キロワットのパネルに約6平方メートルが必要だとすると、63キロワットでも約378平方メートル。屋根に載るかどうかは、設計の早い段階で確かめておきたい。
掛ける割合と、置く場所を先に決める
シーダーズ・ホテルの論文は、まだ建っていない宿の電気を、満室の数字と、性格のちがう三つの割合から見積もった。そして、屋根に載らないとわかると、駐車場の並びを変えてでも、パネルを南に向けた。設備の大きさを決める前に、「何を掛けるか」と「どこに置くか」を決めておく。それが、建つ前の宿の太陽光の考え方だ。
持ち帰れる知識
- 建つ前の建物は、満室の見積もりに「割合」を掛けて、使う電気を見積もる
- 割合は、性格のちがう複数の数字から求めると、一つの数字に頼らずにすむ
- パネルの面積は、屋根の広さと早めに比べる。足りなければ、駐車場なども候補になる
宿で考えられること
- 建て替えや新築の計画で、満室のときとふだんのときの電気を分けて見積もる
- 屋根、駐車場、日よけなど、パネルを置ける場所の面積を書き出す
- 見積もりの数字が、設計の数字か、実際の記録かを分けて伝える
事業・予約への接続
太陽光の設備は、建てる前の設計で、大きさも置き場所もほぼ決まる。シーダーズ・ホテルの論文のように、見積もりの考え方を残しておけば、完成したあとに実際の記録と比べられる。その比べた結果が、宿の取り組みとして客に伝える材料になる。
Sources / 参考情報
- PubMed Central(英文) - ホテルの電気を再エネにする系統連系型太陽光発電の設計と実現性の調査:ヨルダンのシーダーズ・ホテルの事例(Al-Zoubi, Al-Khasawneh, Omar、2021年6月22日)
裏付け: クイーン・アリア国際空港の近くの建設中のホテル、三つの建物(12のスイート、宴会場と60室、レストラン)、満室で月7万7,099キロワット時、割合0.43・0.54・0.477と平均0.48、月約3万7,000キロワット時・月3,330ディナール・年3万9,960ディナール、301キロワット・912枚・インバーター12台、年約541メガワット時・性能比0.828、パネル1,539平方メートル・架台込み1,757.3平方メートル、屋根1,037.85平方メートル、駐車場3,480平方メートル・132台から130台、1キロワット450〜600ディナール、18万600ディナール・総額19万1,436ディナール、4.1年・4.63%、0.0141ディナール・0.090ディナール、年2万7,528ディナール、寿命25年 - International Journal of Energy and Environmental Engineering(英文) - 論文の掲載ページ(第12巻第4号)
裏付け: 掲載誌と巻号 - ResearchGate(英文) - 同じ論文の登録ページ
裏付け: 著者と題名 - European Commission JRC(英文) - 太陽光発電の地理情報システム(PVGIS)
裏付け: 場所ごとの太陽光の発電量を計算できる公開の道具。論文は、PVGISと設計ソフトPVsystで発電を計算した - Jordan Ministry of Tourism & Antiquities(英文) - ヨルダン観光・遺跡省
裏付け: 論文が、2010〜2019年のホテルの稼働率の出典としたところ