131トンの生ごみと、1万374ドルの内訳:米ニュージャージーの「ハイアット・リージェンシー・プリンストン」が、2008年に始めた堆肥化
米国ニュージャージー州のプリンストン。大学の町にある「ハイアット・リージェンシー・プリンストン」は、2008年10月、厨房やレストランから出る生ごみを、埋め立てではなく堆肥にする取り組みを始めた。
有機物のリサイクルを専門に扱う米国の雑誌『バイオサイクル』は、2010年11月号でこの取り組みを紹介している。記事によると、ホテルは2009年の1年間で、131トンを超える生ごみを堆肥に回し、1万ドルを超える費用を減らした。この記事では、その「1万ドル」がどこから生まれたのかを、内訳から読んでいく。
技術部長が動かした「グリーン・チーム」
記事によると、ハイアットのホテルにはそれぞれ、部署をこえた職員でつくる「グリーン・チーム」がある。仲間にリサイクルのやり方を教え、減らす・使い回す・リサイクルする機会を探す係だ。
プリンストンのチームで、生ごみの堆肥化を引っぱったのは、技術部長のチャールズ・リンク氏だった。ホテルは、地元の廃棄物会社の子会社で、生ごみの回収を専門にする「プレミア・フード・ウェイスト・リサイクリング」と契約した。
青い容器と、絵で伝えるルール
仕組みは単純だ。
- 32ガロン(約120リットル)の青い容器に、調理の前と後の生ごみを集める
- 最初の25個は回収会社が無料で用意し、ホテルが15個を買い足した
- 容器には、土に還る素材の袋をかける
- 置き場所は、厨房、レストラン、働く人の食堂
- いっぱいになった容器は荷さばき場に置き、週2回、回収会社が運ぶ
- 行き先は、隣のデラウェア州ウィルミントンにある堆肥の施設
対象は、仕込みのくず、厨房、レストラン、ルームサービス、宴会の食べ残しまで、すべての生ごみだ。
職員への説明では、工夫があった。リンク氏は記事の中で、働く人の背景がさまざまなので、何を入れてよいかを、特に生ごみについては絵で示すことが大切だったと話している。
始めるのにかかったのは、1,070ドル
記事によると、生ごみのリサイクルを始めるのにかかった費用は、全部で1,070ドル。そのうち1,000ドルは、買い足した15個の容器の代金だった。
2009年1月、ホテルは「FOR NJ」という認証を、ニュージャージー州で初めて受けた企業になった。
1万374ドルは、二つの節約の合計
記事は、2009年の節約を次のように書いている。
- 生ごみを、ごみの圧縮機に入れずにすんだ分:7,624ドル
- 圧縮機のごみを運び出す回数が減った分:2,750ドル
- 合計:1万374ドル
足し算は合っている。生ごみを堆肥に回すと、ごみの量が減るだけでなく、ごみを運ぶトラックを呼ぶ回数も減る。節約の4分の1以上は、この「回数」から生まれていた。
計算してみると、7,624ドルを131トンで割ると、1トンあたり約58ドルになる。同じ記事に出てくる近くのハイアット・リージェンシー・ニューブランズウィックでは、技術部長が、1トンあたり約100ドルの節約になり、ごみの運び出しが毎週から3〜4週に1回に減ったと話している。
また、131トンを52週で割ると、1週間に約2.5トン。週2回の回収なら、1回あたり約1.3トンを運んでいた計算になる。
1万3,784ドルとの差
記事には、もう一つの数字がある。リンク氏によると、2009年に生ごみの堆肥化とリサイクルを合わせて1万3,784ドルを節約した。生ごみの1万374ドルとの差、3,410ドルは、紙や缶などのリサイクルの分と読めるが、記事はその内訳を書いていない。
ホテルは、ほかの物も回している。使い終わった揚げ油は家畜のえさの原料として売り、古いリネンは掃除の布にし、古いパソコンは非営利団体に寄付するか、適切にリサイクルする。2008年3月には、全客室への毎日の新聞の配達をやめた。
一つのホテルから、ほかのホテルへ
2009年1月、リンク氏は、地域で廃棄物を話し合う集まりを開いた。州内のハイアットのホテル、プリンストン大学、ラトガース大学、州の環境保護局などから69人が参加した。この集まりをきっかけに、州内のハイアット3軒が、生ごみの回収を始めた。
堆肥は、捨てるよりは上の選択
米国の環境保護庁(EPA)は、余った食べ物の行き先に順番をつけている。いちばん望ましいのは、そもそも余らせないこと、寄付すること、別の食品に生まれ変わらせること。いちばん望ましくないのは、埋め立て、焼却、下水に流すことだ。堆肥は、その間にある。
つまり、生ごみを堆肥にするのは、ゴールではなく途中の一歩だ。ニュージャージー州では、2035年までに食品廃棄を50%減らす目標が、法律で定められている。ハイアット・リージェンシー・プリンストンが2008年に始めた分別は、その先の「減らす」に進むための土台にもなる。
日本の宿に置き換えると
日本では、食品リサイクル法により、前の年度に食品の廃棄物などを100トン以上出した食品関連の事業者は、毎年度、国に量を報告することになっている。131トンを出すホテルなら、この報告の対象になる大きさだ。
小さな宿でも、考え方は使える。InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、レストランのある20室の宿で、生ごみが年に8トン出るとする。
- 可燃ごみとして1キログラム32円で出すと、年に25万6,000円
- 食品のリサイクル業者に1キログラム27円で出すと、年に21万6,000円。差は4万円
- 生ごみが抜けて、可燃ごみの回収が週3回から週2回に減り、1回3,000円なら、年に52回で15万6,000円
- 合わせて年に約19万6,000円。青い容器を12個、1個6,000円で買っても7万2,000円
単価の差よりも、回収の回数のほうが大きく効くことがある。プリンストンの数字と同じ形だ。
節約の内訳を、残しておく
ハイアット・リージェンシー・プリンストンは、1,070ドルで始め、1年で131トンを堆肥に回した。節約の1万374ドルは、ごみの量と、運び出す回数という二つの節約の合計だった。始める前に、どこで費用が減るのかを分けて考え、始めたあとも内訳で記録しておく。それが、ほかのホテルにも広がる取り組みになる。
持ち帰れる知識
- 生ごみを分けると、ごみの量と、ごみを運ぶ回数の両方が減る
- 何を入れてよいかは、言葉より絵で示すと伝わりやすい
- 節約は合計だけでなく、内訳で記録しておくと、ほかの宿が使える
宿で考えられること
- 生ごみの量と、ごみの回収の回数・費用を書き出す
- 分けるルールを、写真や絵で容器の近くに貼る
- 始めたあとの節約を、量の分と回数の分に分けて記録する
事業・予約への接続
ハイアット・リージェンシー・プリンストンの取り組みは、地域の集まりを通じて、州内のほかのハイアットにも広がった。宴会や会議を開く企業や大学にとって、生ごみの行き先がはっきりしている宿は、会場を選ぶときの材料になる。
Sources / 参考情報
- BioCycle(英文) - ホテルが生ごみのリサイクルで節約する(Molly Farrell Tucker、2010年11月号)
裏付け: 2009年に1万ドル超の節約、グリーン・チーム、技術部長チャールズ・リンク氏、プレミア・フード・ウェイスト・リサイクリング、32ガロンの青い容器(25個無料・15個購入)、土に還る袋、2008年10月に開始、絵で示した、週2回の回収、ウィルミントンの堆肥の施設、始める費用1,070ドル(容器15個で1,000ドル)、2009年1月にFOR NJ認証、1万3,784ドル、131トン超、1万374ドル(7,624ドルと2,750ドル)、69人の集まりと3軒への広がり、揚げ油・リネン・パソコン、2008年3月に新聞の配達をやめた、ニューブランズウィックの1トン約100ドルと運び出しの回数 - NJ Composting Council(英文) - ニュージャージー州の有機物リサイクルを進める
裏付け: ニュージャージー州の法律(S2426/A2090)で、2035年までに食品廃棄を50%減らす目標 - US EPA(英文) - 食品廃棄の優先順位
裏付け: 発生を防ぐ・寄付・アップサイクルが最も望ましく、埋め立て・焼却・下水に流すのが最も望ましくない - 農林水産省 - 食品廃棄物等多量発生事業者の定期報告
裏付け: 前年度の食品廃棄物等の発生量が100トン以上の食品関連事業者は、毎年度6月末までに報告する - 農林水産省 - 食品ロス・食品リサイクル
裏付け: 食品リサイクル法と食品ロス削減の取り組みの案内