GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 4分 / 2246文字 増える電気と減る電気を分ける型 #245

夏だけのプールを、冬も開ける:香港の街なかのホテルの屋上プールと、ヒートポンプの「節約」は何と比べた数字か

香港の街なかにある、あるホテルの屋上に、小さな屋外プールがあった。水面の広さは35平方メートル、水の量は52立方メートル。プールの水を温める設備はなく、泳げるのは暑い夏の間、ふつうは5月から10月までだけだった。

このプールを、1年じゅう開けたい。そこでホテルは、空気の熱を集めて水を温める「ヒートポンプ」を入れた。香港の大学の研究者2人、チャン氏とラム氏は、このヒートポンプの電気と熱を実際に測り、2003年に二つの論文にまとめている。この記事では、その数字を、「増えた電気」と「減らせた電気」に分けて読んでいく。

空気の熱を、水に運ぶ機械

ヒートポンプは、冷蔵庫やエアコンと同じ仕組みで、温度の低いところから熱を集め、温度の高いところへ運ぶ機械だ。電気は熱を運ぶためにだけ使うので、使った電気より多くの熱を届けられる。

その効率は「COP」という数字で表す。届けた熱を、使った電気で割った数字で、COPが2なら、電気1で熱2を届けたことになる。

測ってみたら、COPは約2.0

研究者たちは、温める季節の間、プールに送った温水の量と温度、ヒートポンプが使った電気を測った。学術誌『ジャーナル・オブ・サステナブル・ツーリズム』の論文によると、結果はこうだ。

  • プールに届けた熱:49.1メガワット時
  • ヒートポンプが使った電気:24.6メガワット時
  • COPの平均:約2.0

同じ年に学術誌『エナジー・コンバージョン・アンド・マネジメント』に出た論文では、もう一つのホテルの給湯のヒートポンプも測っており、二つのホテルのヒートポンプは、おおむねCOP 1.5〜2.4の範囲で動いていたとしている。外の気温によって、COPは変わる。

なお、温めた季節の書き方は、論文によって少しちがう。前者は12月中旬から4月下旬、後者は10月中旬から4月までとしている。

「節約」は、何と比べた数字か

ここで大事なのは、このプールには、もともと温める設備がなかったことだ。ヒートポンプを入れる前、冬の間はプールを閉じていたので、水を温める電気はかかっていなかった。冬も開けることにしたので、24.6メガワット時の電気が新しく増えた。

では、論文の「節約」は何と比べているのか。論文は、同じ熱をほかの方法でつくった場合と比べている。

  • 電気のボイラー
  • ガスのボイラー(排熱を回収する型)
  • ガスのボイラー(回収しない型)

これらと比べると、ヒートポンプは温める季節の間に26.5〜32.5メガワット時のエネルギーを節約でき、温室効果ガスなどの排出も間接的に約1万2,000キログラム減らせるという。幅があるのは、比べる相手がちがうからだ。

つまり、「プールを温める」と決めたあとで、どの方法を選ぶかの比較だ。温めなかったときと比べれば、電気は増えている。

10年で22万6,400香港ドル

費用についても、論文は比べている。10年間の燃料と電気の費用を、いまの価値に直して比べると、次のようになる。

  • 電気のボイラーの代わりにヒートポンプを使うと:22万6,400香港ドルの節約
  • いちばん費用が高かったのは、回収しない型のガスのボイラーで、10年で55万香港ドル
  • それと比べた節約は、約34万香港ドル

このプールの大きさなら、温水の設備の値段は3万〜7万香港ドルほどだという。元が取れるまでは約2年、内部収益率は低く見ても39%と、論文は投資としても魅力があるとしている。

水面1平方メートルに、1,400キロワット時

数字をもう一つ計算してみる。49.1メガワット時を、水面の35平方メートルで割ると、1平方メートルあたり約1,400キロワット時になる。

この研究の前に、同じ研究者たちが2001年に出した論文は、プールの熱は、水の蒸発、空への放射、風による対流、水の補給の四つで逃げると整理している。屋上の屋外プールは、風も当たり、夜は空に熱を逃がす。温める方法を選ぶ前に、逃げる熱を減らす工夫も考えたい。

日本の宿に置き換えると

日本でも、夏だけ開けていた屋外のプールや露天の水風呂を、季節を延ばして使いたいという宿はあるだろう。InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿の小さなプールを、春と秋の4か月温めるとする。必要な熱は1万2,000キロワット時とする。

  • 電気のヒーター(電気1で熱1)なら:電気1万2,000キロワット時、1キロワット時30円で36万円
  • COP 2.0のヒートポンプなら:電気6,000キロワット時で18万円。電気のヒーターと比べて18万円の節約
  • ただし、温めなかった去年と比べると、18万円の電気代が新しく増える

さらに、使わない夜にプールにカバーをかけて、必要な熱が3割減るとする。熱は3,600キロワット時減り、ヒートポンプの電気は1,800キロワット時、5万4,000円減る。

季節を延ばすことで、何泊の予約が増えそうかも、一緒に見積もっておきたい。

増える電気と、減らせる電気を分けて書く

香港の街なかのホテルは、夏だけだった屋上のプールを、ヒートポンプで冬も開けた。測った結果は、電気24.6メガワット時で熱49.1メガワット時、COPは約2.0。ほかの温め方より、ずっと少ない電気ですんだ。

それでも、温めなかったときと比べれば、電気は増えている。省エネの数字を伝えるときは、「何と比べて減ったのか」と「新しく増えた電気はどれだけか」を、分けて書いておきたい。

持ち帰れる知識

  • ヒートポンプのCOPは、届けた熱を使った電気で割った数字。外の気温で変わる
  • 「節約」は、温めなかったときではなく、ほかの温め方と比べた数字のことがある
  • 屋外のプールは、蒸発や風で熱が逃げる。温める前に、逃げる熱を減らす工夫を考える

宿で考えられること

  • プールや水風呂を温めるときに、電気のヒーターとヒートポンプの電気を比べる
  • 使わない時間にカバーをかけるなど、逃げる熱を減らす方法を試す
  • 季節を延ばすときは、増える電気代と、増えそうな予約を並べて見積もる

事業・予約への接続

このホテルがヒートポンプを入れた目的は、プールを1年じゅう使えるようにすることだった。設備の効率を上げることは、客へのサービスを広げることにもつながる。そのとき、増える電気と、ほかの方法より減らせた電気を正直に分けて伝えると、取り組みの中身が伝わる。

Sources / 参考情報

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