夏だけのプールを、冬も開ける:香港の街なかのホテルの屋上プールと、ヒートポンプの「節約」は何と比べた数字か
香港の街なかにある、あるホテルの屋上に、小さな屋外プールがあった。水面の広さは35平方メートル、水の量は52立方メートル。プールの水を温める設備はなく、泳げるのは暑い夏の間、ふつうは5月から10月までだけだった。
このプールを、1年じゅう開けたい。そこでホテルは、空気の熱を集めて水を温める「ヒートポンプ」を入れた。香港の大学の研究者2人、チャン氏とラム氏は、このヒートポンプの電気と熱を実際に測り、2003年に二つの論文にまとめている。この記事では、その数字を、「増えた電気」と「減らせた電気」に分けて読んでいく。
空気の熱を、水に運ぶ機械
ヒートポンプは、冷蔵庫やエアコンと同じ仕組みで、温度の低いところから熱を集め、温度の高いところへ運ぶ機械だ。電気は熱を運ぶためにだけ使うので、使った電気より多くの熱を届けられる。
その効率は「COP」という数字で表す。届けた熱を、使った電気で割った数字で、COPが2なら、電気1で熱2を届けたことになる。
測ってみたら、COPは約2.0
研究者たちは、温める季節の間、プールに送った温水の量と温度、ヒートポンプが使った電気を測った。学術誌『ジャーナル・オブ・サステナブル・ツーリズム』の論文によると、結果はこうだ。
- プールに届けた熱:49.1メガワット時
- ヒートポンプが使った電気:24.6メガワット時
- COPの平均:約2.0
同じ年に学術誌『エナジー・コンバージョン・アンド・マネジメント』に出た論文では、もう一つのホテルの給湯のヒートポンプも測っており、二つのホテルのヒートポンプは、おおむねCOP 1.5〜2.4の範囲で動いていたとしている。外の気温によって、COPは変わる。
なお、温めた季節の書き方は、論文によって少しちがう。前者は12月中旬から4月下旬、後者は10月中旬から4月までとしている。
「節約」は、何と比べた数字か
ここで大事なのは、このプールには、もともと温める設備がなかったことだ。ヒートポンプを入れる前、冬の間はプールを閉じていたので、水を温める電気はかかっていなかった。冬も開けることにしたので、24.6メガワット時の電気が新しく増えた。
では、論文の「節約」は何と比べているのか。論文は、同じ熱をほかの方法でつくった場合と比べている。
- 電気のボイラー
- ガスのボイラー(排熱を回収する型)
- ガスのボイラー(回収しない型)
これらと比べると、ヒートポンプは温める季節の間に26.5〜32.5メガワット時のエネルギーを節約でき、温室効果ガスなどの排出も間接的に約1万2,000キログラム減らせるという。幅があるのは、比べる相手がちがうからだ。
つまり、「プールを温める」と決めたあとで、どの方法を選ぶかの比較だ。温めなかったときと比べれば、電気は増えている。
10年で22万6,400香港ドル
費用についても、論文は比べている。10年間の燃料と電気の費用を、いまの価値に直して比べると、次のようになる。
- 電気のボイラーの代わりにヒートポンプを使うと:22万6,400香港ドルの節約
- いちばん費用が高かったのは、回収しない型のガスのボイラーで、10年で55万香港ドル
- それと比べた節約は、約34万香港ドル
このプールの大きさなら、温水の設備の値段は3万〜7万香港ドルほどだという。元が取れるまでは約2年、内部収益率は低く見ても39%と、論文は投資としても魅力があるとしている。
水面1平方メートルに、1,400キロワット時
数字をもう一つ計算してみる。49.1メガワット時を、水面の35平方メートルで割ると、1平方メートルあたり約1,400キロワット時になる。
この研究の前に、同じ研究者たちが2001年に出した論文は、プールの熱は、水の蒸発、空への放射、風による対流、水の補給の四つで逃げると整理している。屋上の屋外プールは、風も当たり、夜は空に熱を逃がす。温める方法を選ぶ前に、逃げる熱を減らす工夫も考えたい。
日本の宿に置き換えると
日本でも、夏だけ開けていた屋外のプールや露天の水風呂を、季節を延ばして使いたいという宿はあるだろう。InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿の小さなプールを、春と秋の4か月温めるとする。必要な熱は1万2,000キロワット時とする。
- 電気のヒーター(電気1で熱1)なら:電気1万2,000キロワット時、1キロワット時30円で36万円
- COP 2.0のヒートポンプなら:電気6,000キロワット時で18万円。電気のヒーターと比べて18万円の節約
- ただし、温めなかった去年と比べると、18万円の電気代が新しく増える
さらに、使わない夜にプールにカバーをかけて、必要な熱が3割減るとする。熱は3,600キロワット時減り、ヒートポンプの電気は1,800キロワット時、5万4,000円減る。
季節を延ばすことで、何泊の予約が増えそうかも、一緒に見積もっておきたい。
増える電気と、減らせる電気を分けて書く
香港の街なかのホテルは、夏だけだった屋上のプールを、ヒートポンプで冬も開けた。測った結果は、電気24.6メガワット時で熱49.1メガワット時、COPは約2.0。ほかの温め方より、ずっと少ない電気ですんだ。
それでも、温めなかったときと比べれば、電気は増えている。省エネの数字を伝えるときは、「何と比べて減ったのか」と「新しく増えた電気はどれだけか」を、分けて書いておきたい。
持ち帰れる知識
- ヒートポンプのCOPは、届けた熱を使った電気で割った数字。外の気温で変わる
- 「節約」は、温めなかったときではなく、ほかの温め方と比べた数字のことがある
- 屋外のプールは、蒸発や風で熱が逃げる。温める前に、逃げる熱を減らす工夫を考える
宿で考えられること
- プールや水風呂を温めるときに、電気のヒーターとヒートポンプの電気を比べる
- 使わない時間にカバーをかけるなど、逃げる熱を減らす方法を試す
- 季節を延ばすときは、増える電気代と、増えそうな予約を並べて見積もる
事業・予約への接続
このホテルがヒートポンプを入れた目的は、プールを1年じゅう使えるようにすることだった。設備の効率を上げることは、客へのサービスを広げることにもつながる。そのとき、増える電気と、ほかの方法より減らせた電気を正直に分けて伝えると、取り組みの中身が伝わる。
Sources / 参考情報
- Journal of Sustainable Tourism(英文) - 省エネが観光の持続可能性を支える:ホテルのプールのヒートポンプの事例(Wilco W. Chan, Joseph C. Lam、2003年、第11巻第1号)
裏付け: 亜熱帯の屋外プール、街なかのホテルの屋上プール、COP約2.0、電気24.6メガワット時・熱49.1メガワット時、12月中旬から4月下旬 - Academia.edu(英文) - 同じ論文の登録ページ
裏付け: 電気のボイラー・ガスのボイラー2種との比較で26.5〜32.5メガワット時、排出約1万2,000キログラム減、10年で22万6,400香港ドル、回収しない型のガスのボイラーが55万香港ドル、約34万香港ドルの節約、温水の設備3万〜7万香港ドル、回収約2年、内部収益率は低く見ても39% - Energy Conversion and Management(英文) - ホテルで使う空気熱源と水熱源のヒートポンプのエネルギー性能(Joseph C. Lam, Wilco W. Chan、2003年6月、第44巻第10号)
裏付け: 香港の街なかのホテル2軒、屋上プールの水面35平方メートル・52立方メートル、それまで温める設備はなく5月から10月だけ開けていた、熱49.1メガワット時・電気24.6メガワット時、10月中旬から4月、COPはおおむね1.5〜2.4、回収約2年、それまでの研究は計算のみで実測がなかった - OSTI(英文) - ホテルのプールのヒートポンプの、ライフサイクルのエネルギー費用の分析(Lam, Chan、2001年7月)
裏付け: 屋上プールの熱が逃げる四つの道(蒸発、放射、対流、水の補給)を整理した - Energy Conversion and Management(英文) - 同じ2001年の論文の掲載ページ
裏付け: 掲載誌と題名