GOAL 6 · TARGET 6.4 水・衛生・循環 5分 / 2809文字 節約の数字を前提から読む型 #246

年750万リットルの節水は、1日何分のシャワーで決まるか:ドイツ・ベルヒテスガーデンの山の宿「ベルクホテル・レーレック」と、節水シャワーの計算の前提

ドイツの南の端、オーストリアとの国境に近いベルヒテスガーデンの山あいに、ラムザウという村がある。ここに、山のホテル「ベルクホテル・レーレック」がある。山を歩いて帰ってきた客が、まず向かうのはシャワーだ。

このホテルは、館内のシャワーに節水型のシャワーヘッドをつけ、洗面所の水栓も節水型にしている。ドイツの持続可能な旅の情報サイト「グリーン・トラベル・ブログ」は2023年、このホテルが年に750万リットルの水を節約していると紹介した。この記事では、その数字と、節水シャワーの「節約額」がどんな前提で計算されているのかを読んでいく。

89室、169床の山のホテル

オーガニックのホテルの団体「ビオホテルズ」の紹介によると、レーレックは4つ星プラスのホテルで、89室・169床。1,500平方メートルのスパがある。

  • 2017年から「気候ポジティブ」をうたい、ホテルの環境認証「グリーンサイン」で最も高い段階の「ファイブ」を得ている
  • 電気は、自前の太陽光発電と熱電併給の設備で、必要な量の110%をつくっているとしている
  • これまでに2万3,151本の木を植えた
  • 水は、同じような規模のホテルより41%少ない

750万リットルは、ホテル自身の数字

グリーン・トラベル・ブログは、750万リットルを「ホテル自身の数字」と書いている。外部の機関が測った数字ではない。

もう一つ大事なのは、41%がシャワーだけの成果ではないことだ。ブログは、館内全体に節水型のシャワーヘッドと浴室の節水型の水栓をつけたことで、比べられるホテルより41%少ない水ですんでいると書いている。750万リットルも、シャワーだけでなく、節水の設備全体の合計として読むのがよい。

数字どうしを並べて確かめる

二つの数字が大きく食い違っていないか、手元で確かめてみる。

ドイツのホテル・飲食業の団体DEHOGAのバーデン=ヴュルテンベルク州の支部が2008年に出した環境の手引きには、ホテルの水の目安がある。レストランのある4つ星のホテルは、宿泊客1人1泊あたり平均335リットル。環境に配慮したよい例の目安(ベンチマーク)は201リットルだ。

  • 335リットルの41%は、約137リットル
  • 750万リットルを169床で割り、1年365日で割ると、1床1日あたり約122リットル。これは、ベッドが1年じゅう満室だった場合の値

つまり、ベッドが年の9割ほど埋まり、1泊ごとに137リットル前後を減らしていれば、750万リットルに届く。満室に近いことが前提になるので、少し大きめの数字だが、桁が外れているわけではない。ただし、ホテルが何と比べて41%としたのか、「比べられるホテル」の中身までは書かれていない。

節約額は「1人1日15分」で決まる

節水シャワーの節約額は、どう計算されているのか。DEHOGAの2008年の手引きには、こんな計算の例がある。

  • 50室・100床、稼働率60%で、年に2万2,000泊(人泊)のホテル
  • 50か所のシャワーの流れを、毎分20リットルから12リットルに減らす
  • 毎分8リットル×1人1日15分×2万2,000人=2,640立方メートル
  • 上下水道の料金1立方メートル4.60ユーロで、年に1万2,144ユーロ
  • お湯を沸かす熱も減り、さらに約3,960ユーロ(10℃から37℃に温めるのに1立方メートルあたり約30キロワット時、熱の値段を1キロワット時5セントとした場合)

手引きは、ホテルの客は家よりずっと長くシャワーを浴びると書く。専門家は1人1日約15分とみており、朝食の前と、出かけたあとやスパのあとの2回浴びる客が多いという。節約額は、この「15分」でほぼ決まる。

同じ団体の例でも、泊の数え方がちがう

グリーン・トラベル・ブログも、DEHOGAの計算として例を紹介している。

  • 年1万1,000泊(50室・100床・稼働率60%)
  • シャワーヘッドを毎分15リットルから7リットルに替えると、約130万リットル、約4,700ユーロの節約

同じ50室・100床・60%なのに、泊の数が半分だ。50室×60%×365日は約1万1,000で、こちらは部屋の数で数えた「室泊」になっている。2008年の手引きの2万2,000は、人の数で数えた「人泊」だ。

1万1,000×毎分8リットル×15分は132万リットルで、約130万リットルと合う。4,700ユーロを132万リットルで割ると、1立方メートルあたり約3.6ユーロになる。同じ団体の例でも、泊の数え方と水の値段で、答えは2倍以上変わる。

「休暇の気分」との釣り合い

流れを減らしすぎると、客の満足が下がる心配もある。ブログには、ほかのホテルの声も載っている。

  • オーストリア・チロル州ゼーフェルトの家族経営の「ホテル・クロスターブロイ」は、すべてのシャワーに流量の制限器をつけて、水の使用が30%減ったと報告している
  • イタリア・南チロルの「ホテル・ヴァイラーホーフ」のピヒラー氏は、シャワーは毎分6リットルで、「それより少ないと、休暇の気分にならない」と話す

制限器は1個約10ユーロ、感じのよい節水シャワーヘッドは30〜40ユーロほどと、DEHOGAの手引きは書いている。ドイツ連邦環境省も、制限器は安くて取り付けが簡単で、お湯も減るので特に早く元が取れると説明している。費用は小さい。だからこそ、浴び心地を確かめながら、流れを決めたい。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿(稼働率70%、年5,110室泊)で考える。1室泊に2人が泊まり、1人1日8分シャワーを浴びるとする。シャワーヘッドを毎分12リットルから8リットルに替える。

  • 1人1日の節水:毎分4リットル×8分=32リットル。1室泊で64リットル
  • 年の節水:64リットル×5,110室泊=約327立方メートル
  • 水道代(上下水道で1立方メートル600円):約19万6,000円
  • お湯を沸かす熱:327立方メートル×30キロワット時=約9,810キロワット時。熱の値段を1キロワット時10円とすると、約9万8,100円

シャワーの時間を、DEHOGAと同じ1人1日15分とすると、節約はどれも約1.9倍になる。何分で計算したかによって、答えはこれだけ変わる。

前提を書いて、節約額を伝える

ベルクホテル・レーレックは、館内の水まわりを節水型にして、比べられるホテルより41%少ない水ですんでいるという。年750万リットルはホテル自身の数字で、満室に近い前提なら、41%とも大きくは食い違わない。

節水シャワーの節約額は、1人1日何分浴びるか、泊を人で数えるか部屋で数えるか、水とお湯の値段をいくらにするかで決まる。数字を伝えるときは、その前提も一緒に書いておきたい。

持ち帰れる知識

  • 節水シャワーの節約額は、1人1日何分浴びるかでほぼ決まる
  • 泊の数は、人で数える「人泊」と部屋で数える「室泊」で2倍ちがうことがある
  • お湯を沸かす熱も減る。水1立方メートルを10℃から37℃にするには約30キロワット時

宿で考えられること

  • シャワーの流れを、バケツと時計で何か所か測ってみる
  • 流れを減らす前に、何人かの客やスタッフに浴び心地を確かめてもらう
  • 節約額を伝えるときは、シャワーの時間、泊の数え方、水とお湯の値段を書き添える

事業・予約への接続

山を歩いた客や、スパを使った客にとって、シャワーは宿の大事な時間だ。節水のシャワーヘッドは費用が小さく、客の気分を損なわない流れを選べば、水と熱の両方を減らせる。節約の数字は、前提と一緒に伝えると、客にも取引先にも伝わりやすい。

Sources / 参考情報

  • Green Travel Blog(英文) - シャワーを浴びて、世界を救おう(2023年6月20日)
    裏付け: 年750万リットル(ホテル自身の数字)、館内の節水型シャワーヘッドと水栓で41%少ない、クロスターブロイの30%減、DEHOGAの例(1万1,000泊、50室・100床・60%、毎分15→7リットル、約130万リットル・約4,700ユーロ)、ヴァイラーホーフのピヒラー氏の毎分6リットル
  • Biohotels(英文) - ベルクホテル・レーレックの紹介
    裏付け: ラムザウ、4つ星プラス、89室・169床、スパ1,500平方メートル、2017年から気候ポジティブ、グリーンサインのファイブ、電気110%、2万3,151本の植樹、水41%減
  • DEHOGA バーデン=ヴュルテンベルク(独文) - ホテル・飲食業の環境の手引き(2008年)
    裏付け: 4つ星平均335リットル・ベンチマーク201リットル、2万2,000泊の例、毎分20→12リットル、1人1日約15分・2回浴びる客が多い、2,640立方メートル・1万2,144ユーロ、熱約3,960ユーロ、30キロワット時、制限器約10ユーロ・ヘッド30〜40ユーロ
  • Berghotel Rehlegg(独文) - ホテルの公式サイト
    裏付け: ベルヒテスガーデンの近くのホテル、部屋・スパ・ハイキングの案内
  • ドイツ連邦環境省(独文) - シャワーと洗面台の節水の手引き
    裏付け: 流量の制限器は安く取り付けも簡単で、お湯も減るので早く元が取れる、シャワー用は毎分12リットルまでに抑える、毎分10〜12リットル以下のものを節水型とみなせる

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