GOAL 12 · TARGET 12.5 廃棄物・循環経済 4分 / 2636文字 参加率の前提を読む型 #247

「最大6.50ドル」が「毎晩6.50ドル」になるとき:タオルとシーツの再利用で年26万ドルという数字と、客の参加率

ホテルの浴室に、小さな札が置いてある。「タオルを掛けておけば、交換せずにそのまま使っていただけます。床に置いたタオルは交換します」。タオルやシーツを毎日替えずに、客が選んだときだけ替える「再利用のプログラム」は、いまでは多くのホテルで見かける。

このプログラムについて、「200室のホテルなら年に26万975ドルの節約」という数字がよく紹介される。この記事では、その数字がどこから来て、どんな前提で計算されているのかを読んでいく。鍵になるのは、客のうち何人が実際に参加するかという「参加率」だ。

26万975ドルの出どころ

数字をさかのぼると、米スタンフォード大学の同窓会誌『スタンフォード・マガジン』の2011年8月の読者の質問に答える記事に行き着く。記事はこう書いている。

  • リネン管理の業界団体は、ホテルはこうしたプログラムで、客がいる部屋1室1日あたり「最大」6.50ドル節約できると見積もっている
  • 実際の節約額は、地元の水道や電気の料金、洗濯の人件費、洗濯機や洗剤の種類による
  • 稼働率55%の200室のホテルが、客室1室あたり6.50ドルを節約すると考えると、年に26万975ドルになる

計算は、200室×55%×365日×6.50ドル=26万975ドル。数字そのものは合っている。

「最大」が消えると、参加率100%になる

ここで注意したいのは、6.50ドルが「最大」の値だということだ。この計算は、客がいるすべての部屋で、毎日、最大の節約が出る前提になっている。言いかえると、すべての客が毎晩タオルもシーツも替えずに使う、参加率100%の計算だ。

2026年3月に、ホテル向けの設備管理ソフトの会社「オックスメイント」が出した記事は、この数字を使っている。ただし「最大」という言葉はなく、6.50ドルを「客室1室1泊あたり」の費用とし、年26万975ドルの節約見込みとして大きく示している。

同じ記事は、米国ホテル・宿泊協会(AHLA)の数字として、再利用のプログラムで洗濯の回数が17%減るとも書いている。洗濯が17%減るだけなら、毎晩6.50ドルの全額が浮くわけではない。二つの数字は、同じ記事の中で釣り合っていない。

米国の環境保護庁が使う「17%」

米国の環境保護庁(EPA)の節水プログラム「ウォーターセンス」が2016年3月に出したホテル向けの資料は、こう書いている。

  • 米国の商業・公共の建物で使う水のうち、ホテルなどの宿泊施設は約15%を占める
  • ホテルで水を多く使うのは、トイレや浴室、洗濯、庭の水やり、厨房、冷暖房
  • 客室でリネンとタオルの再利用のプログラムを始めると、洗う洗濯物の量を17%減らせる

2014年の米ナショナル・ジオグラフィックの記事は、EPAの数字として、ホテルの水の約30%がトイレや浴室、16%が洗濯だと紹介している。洗濯の水が17%減れば、ホテル全体の水は2〜3%ほど減る計算になる。大きくはないが、洗剤や電気、人の手間も一緒に減る。

実際の参加率は、どれくらいか

では、客はどれくらい参加するのか。米国の研究者ゴールドスタイン氏らは、米国の中規模のホテル(190室)で、浴室の札の言葉を変えて比べる実験をし、2008年に学術誌『ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ』に発表した。参加は、初めて再利用できる日に、タオルを少なくとも1枚再利用したかどうかで数えている。

  • 実験1:環境を守ろうという標準の札で35.1%、「多くの客が参加している」と伝える札で44.1%
  • 実験2:「この部屋に泊まった客の多くが参加している」と伝える札が49.3%で最も高く、標準の札は37.2%

札の「多くの客が参加している」の部分には、約75%という数字が書かれていた。これは札の文面で使われた数字で、この実験で測った参加率ではない。

ドイツでは、もっと高かった

2014年に学術誌『プロス・ワン』に出たボーナー氏とシュリューター氏の研究は、ドイツのホテルで同じような実験をした。結果は米国とかなりちがった。

  • 札を置かない部屋でも、64.3%の客がタオルを再利用した
  • 札を置いた部屋では、全体で79.6%
  • 環境を守ろうという標準の札では、93.3%

ドイツでは、どの札でも再利用の率が高く、「多くの客が参加している」と伝える札が、標準の札より効いたわけではなかった。参加率は、国や客層、もともとの習慣で大きく変わる。

節水の量も、計算で3倍ちがう

水の量も、計算によって変わる。スタンフォード・マガジンは、別のサイトの見積もりとして、150室のホテルで月6,000ガロン(約2万3,000リットル)の水と40ガロンの洗剤が節約できると紹介している。年にすると7万2,000ガロンだ。一方、2017年に学術誌『ツーリズム・マネジメント』に出たギリシャのディマラ氏らの論文は、米国の計算ツールの値として、150室で年21万ガロンとしている。どちらも同じ150室だが、3倍ほどちがう。洗濯機の効率や参加率の置き方がちがうからだ。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿(稼働率70%、年5,110室泊)で考える。

  • チェックアウトの部屋は、どのみちタオルとシーツを替える。再利用を選べるのは連泊の日だけで、それを年5,110室泊の半分の2,555室泊とする
  • 1室泊でタオルを替えずにすむと、洗濯の費用が150円浮くとする
  • 参加率40%なら:2,555×40%×150円=15万3,300円
  • 参加率80%なら:2,555×80%×150円=30万6,600円
  • もし、すべての室泊で、すべての客が参加すると考えると:5,110×150円=76万6,500円

同じ宿でも、前提の置き方で、答えは5倍ちがう。最後の数字は、チェックアウトの部屋も、参加しない客も数えてしまった値だ。

参加率を測ってから、節約を数える

「年26万975ドル」は、最大6.50ドルを、客がいるすべての部屋に毎日かけた計算だった。その数字自体は、2011年の記事が「たとえば」として示したもので、実際の節約は料金や設備で変わると、同じ記事が書いている。

実験で測った参加率は、米国で35〜49%、ドイツで64〜93%だった。宿で節約を見積もるときは、まず自分の宿の連泊の数と、実際に何部屋がタオルを掛けたかを数えてみたい。

持ち帰れる知識

  • 節約の見積もりは、参加率をいくつに置いたかで大きく変わる
  • 再利用を選べるのは連泊の日だけ。チェックアウトの部屋は数に入れない
  • 札の言葉は参加率を変えるが、効き方は国や客層でちがう

宿で考えられること

  • 連泊の室泊のうち、タオルを掛けた部屋の数を、清掃の記録で1か月数える
  • 札の言葉を変えて、参加率が変わるかを試す
  • 節約額を伝えるときは、参加率と洗濯1回の費用を書き添える

事業・予約への接続

タオルとシーツの再利用は、費用をかけずに始められ、洗濯の水と洗剤と手間を減らせる。客に選んでもらう取り組みなので、清掃の質を落とさないことが前提になる。参加率を測って正直に伝えると、客に「自分も参加している」と感じてもらいやすい。

Sources / 参考情報

関連する記事