GOAL 7 · TARGET 7.2 エネルギー・脱炭素 4分 / 2204文字 出どころをたどる型 #248

10基の充電器と、出どころの見つからない「27%」:ロサンゼルスの「ミレニアム・ビルトモア」のEV充電と、置く前に決めておく数字

ロサンゼルスの中心街に、1923年に開業した「ミレニアム・ビルトモア・ホテル」がある。1969年に市の歴史文化記念物に指定され、アカデミー賞の授賞式が開かれたこともある古いホテルだ。2019年11月、このホテルの地下駐車場に、電気自動車(EV)の充電器が10基並んだ。

インターネットでは、このホテルについて「充電器を置いて6か月で、EVで来る客からの収入が15%増え、直接予約が27%増えた」という数字が紹介されている。この記事では、確かめられる事実と、確かめられなかった数字を分けて読み、宿が充電器を置く前に決めておきたい数字を考える。

確かめられる事実

充電器をつくる米国の会社ヌードゥー(Noodoe)は、2019年11月19日に発表を出している。

  • ミレニアム・ビルトモア・ホテルに、「S1000」という充電器10基の設置を終えた
  • 2019年12月31日まで、ホテルは「2時間無料」という年末の特典を用意した
  • ホテルの客室は683室

ヌードゥーの宿泊業向けのページは、10基は台座に立てる型で、ホテルの地下駐車場に、目立たないように置かれていると紹介している。683室に10基なので、客室の数の約1.5%にあたる。

支配人の言葉は「期待」だった

発表には、ホテルの支配人で、オーナーの代理人でもあるジミー・ウー氏の言葉が載っている。

「EVの充電器を置くことで、多くの客に必要な設備を提供できる。時間とともに、求められる流れになっていくと期待している」

設置したばかりの時点の言葉なので、「期待」という書き方になっている。収入や予約がどれだけ増えたかは、発表には書かれていない。

15%、27%、12%は、どこから来たのか

では、15%と27%の数字はどこから来たのか。充電器の会社「オーリンク」が2025年12月にサイトに載せた記事は、こう書いている。

  • 充電器を置いて6か月で、EVで来る客からの収入が15%増えた
  • 持続可能性を重視する客からの直接予約が27%増えた
  • 充電している時間の、レストランやスパでの支出が12%増えた

記事は出典として「ヌードゥーの宿泊業へのインパクト報告、2023年」を挙げている。しかし、この報告書は、ヌードゥーのサイトでも検索でも見つけられなかった。ヌードゥー自身の宿泊業向けのページにも、ホテルの数字は載っていない。

同じ記事には、マリオットの「グリーン・ステイ」の部屋が18%高く売れるといった数字もあるが、マリオットの公表資料では確かめられなかった。この記事では、これらの数字は使わない。

確かめられる、ほかのホテルの数字

一方で、大きなホテルの会社が充電器を増やしてきたことは、公表資料で確かめられる。

  • マリオット・インターナショナルは、2023年末までに、世界の1,800軒を超えるホテルに7,100基を超える充電器を置いた(2024年7月の発表)
  • 1軒あたりにならすと、4基ほどになる

2019年8月の米国の自動車業界誌ワーズオートは、ヌードゥーの南カリフォルニアの仕事として、シェラトン・ユニバーサルに壁につける型の10基、ヒルトン・パームスプリングスに充電器、ミレニアム・ビルトモアの駐車場への設置を紹介している。ホテルの駐車場は、客が一晩車を置く場所なので、時間をかけてゆっくり充電する普通充電と相性がよい。

日本では、充電器の目標が倍に

日本の経済産業省は、2023年10月に「充電インフラ整備促進に向けた指針」を公表し、充電器の設置の目標を倍に引き上げた。同年8月に示された指針の案では、2030年までに30万口とされていた(日本経済新聞)。指針は、使った電気の量に応じて料金を払う「従量制」の課金を、2025年度からサービスとして実現することも目指している。

宿が充電を有料にする場合、時間ではなく、使った電気の量で料金を決める方法が広がっていくことになる。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿の駐車場に、普通充電器を2基置くとする。

  • 1回の充電:20キロワット時。年に300回使われるとすると、年6,000キロワット時
  • 電気を買う費用(1キロワット時30円):18万円
  • 客から受け取る料金(1キロワット時50円):30万円
  • 差し引き:年12万円
  • 設置の費用を2基で200万円とすると、料金だけで元を取るには約17年

料金だけでは、元を取るのに時間がかかる。そこで、もう一つの数字を置く。

  • 充電器があるから、この宿を選んだという室泊が年に20増えるとする
  • 1室泊の利益を5,000円とすると:年10万円
  • 料金の12万円と合わせて年22万円なら、元を取るのは約9年

ただし、この「年に20」は、宿が自分で数えないと、誰にもわからない数字だ。

置く前に、数え方を決める

ミレニアム・ビルトモアは、2019年に地下駐車場に10基の充電器を置いた。支配人は、求められる流れになることを「期待」していた。その後の収入や予約の増え方として紹介されている15%や27%は、出どころをたどれなかった。

宿が充電器を置くなら、置く前に数え方を決めておきたい。月に何回、何キロワット時使われたか。予約のときに「充電器があるから選んだ」と答えた客は何人か。自分で数えた数字は、ほかの宿の数字より、ずっと役に立つ。

持ち帰れる知識

  • 充電器の効果として紹介される数字は、出典をたどれるかを確かめる
  • ホテルの駐車場は一晩車を置く場所なので、普通充電と相性がよい
  • 日本では、使った電気の量で料金を払う従量制の課金が広がろうとしている

宿で考えられること

  • 充電器を置く前に、駐車場の電気の容量と、置く場所を確かめる
  • 料金を決めるときは、電気を買う値段と、客に払ってもらう値段の差を計算する
  • 予約のときに、充電器を使うかどうかを聞いて、選ばれた理由を数える

事業・予約への接続

EVで旅をする客にとって、泊まる場所で充電できるかどうかは、宿を選ぶ理由の一つになりうる。ただし、収入や予約が何%増えるかは、宿ごとにちがう。使われた回数と、選ばれた理由を自分で数えておくと、次の設備の判断にも使える。

Sources / 参考情報

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