10基の充電器と、出どころの見つからない「27%」:ロサンゼルスの「ミレニアム・ビルトモア」のEV充電と、置く前に決めておく数字
ロサンゼルスの中心街に、1923年に開業した「ミレニアム・ビルトモア・ホテル」がある。1969年に市の歴史文化記念物に指定され、アカデミー賞の授賞式が開かれたこともある古いホテルだ。2019年11月、このホテルの地下駐車場に、電気自動車(EV)の充電器が10基並んだ。
インターネットでは、このホテルについて「充電器を置いて6か月で、EVで来る客からの収入が15%増え、直接予約が27%増えた」という数字が紹介されている。この記事では、確かめられる事実と、確かめられなかった数字を分けて読み、宿が充電器を置く前に決めておきたい数字を考える。
確かめられる事実
充電器をつくる米国の会社ヌードゥー(Noodoe)は、2019年11月19日に発表を出している。
- ミレニアム・ビルトモア・ホテルに、「S1000」という充電器10基の設置を終えた
- 2019年12月31日まで、ホテルは「2時間無料」という年末の特典を用意した
- ホテルの客室は683室
ヌードゥーの宿泊業向けのページは、10基は台座に立てる型で、ホテルの地下駐車場に、目立たないように置かれていると紹介している。683室に10基なので、客室の数の約1.5%にあたる。
支配人の言葉は「期待」だった
発表には、ホテルの支配人で、オーナーの代理人でもあるジミー・ウー氏の言葉が載っている。
「EVの充電器を置くことで、多くの客に必要な設備を提供できる。時間とともに、求められる流れになっていくと期待している」
設置したばかりの時点の言葉なので、「期待」という書き方になっている。収入や予約がどれだけ増えたかは、発表には書かれていない。
15%、27%、12%は、どこから来たのか
では、15%と27%の数字はどこから来たのか。充電器の会社「オーリンク」が2025年12月にサイトに載せた記事は、こう書いている。
- 充電器を置いて6か月で、EVで来る客からの収入が15%増えた
- 持続可能性を重視する客からの直接予約が27%増えた
- 充電している時間の、レストランやスパでの支出が12%増えた
記事は出典として「ヌードゥーの宿泊業へのインパクト報告、2023年」を挙げている。しかし、この報告書は、ヌードゥーのサイトでも検索でも見つけられなかった。ヌードゥー自身の宿泊業向けのページにも、ホテルの数字は載っていない。
同じ記事には、マリオットの「グリーン・ステイ」の部屋が18%高く売れるといった数字もあるが、マリオットの公表資料では確かめられなかった。この記事では、これらの数字は使わない。
確かめられる、ほかのホテルの数字
一方で、大きなホテルの会社が充電器を増やしてきたことは、公表資料で確かめられる。
- マリオット・インターナショナルは、2023年末までに、世界の1,800軒を超えるホテルに7,100基を超える充電器を置いた(2024年7月の発表)
- 1軒あたりにならすと、4基ほどになる
2019年8月の米国の自動車業界誌ワーズオートは、ヌードゥーの南カリフォルニアの仕事として、シェラトン・ユニバーサルに壁につける型の10基、ヒルトン・パームスプリングスに充電器、ミレニアム・ビルトモアの駐車場への設置を紹介している。ホテルの駐車場は、客が一晩車を置く場所なので、時間をかけてゆっくり充電する普通充電と相性がよい。
日本では、充電器の目標が倍に
日本の経済産業省は、2023年10月に「充電インフラ整備促進に向けた指針」を公表し、充電器の設置の目標を倍に引き上げた。同年8月に示された指針の案では、2030年までに30万口とされていた(日本経済新聞)。指針は、使った電気の量に応じて料金を払う「従量制」の課金を、2025年度からサービスとして実現することも目指している。
宿が充電を有料にする場合、時間ではなく、使った電気の量で料金を決める方法が広がっていくことになる。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿の駐車場に、普通充電器を2基置くとする。
- 1回の充電:20キロワット時。年に300回使われるとすると、年6,000キロワット時
- 電気を買う費用(1キロワット時30円):18万円
- 客から受け取る料金(1キロワット時50円):30万円
- 差し引き:年12万円
- 設置の費用を2基で200万円とすると、料金だけで元を取るには約17年
料金だけでは、元を取るのに時間がかかる。そこで、もう一つの数字を置く。
- 充電器があるから、この宿を選んだという室泊が年に20増えるとする
- 1室泊の利益を5,000円とすると:年10万円
- 料金の12万円と合わせて年22万円なら、元を取るのは約9年
ただし、この「年に20」は、宿が自分で数えないと、誰にもわからない数字だ。
置く前に、数え方を決める
ミレニアム・ビルトモアは、2019年に地下駐車場に10基の充電器を置いた。支配人は、求められる流れになることを「期待」していた。その後の収入や予約の増え方として紹介されている15%や27%は、出どころをたどれなかった。
宿が充電器を置くなら、置く前に数え方を決めておきたい。月に何回、何キロワット時使われたか。予約のときに「充電器があるから選んだ」と答えた客は何人か。自分で数えた数字は、ほかの宿の数字より、ずっと役に立つ。
持ち帰れる知識
- 充電器の効果として紹介される数字は、出典をたどれるかを確かめる
- ホテルの駐車場は一晩車を置く場所なので、普通充電と相性がよい
- 日本では、使った電気の量で料金を払う従量制の課金が広がろうとしている
宿で考えられること
- 充電器を置く前に、駐車場の電気の容量と、置く場所を確かめる
- 料金を決めるときは、電気を買う値段と、客に払ってもらう値段の差を計算する
- 予約のときに、充電器を使うかどうかを聞いて、選ばれた理由を数える
事業・予約への接続
EVで旅をする客にとって、泊まる場所で充電できるかどうかは、宿を選ぶ理由の一つになりうる。ただし、収入や予約が何%増えるかは、宿ごとにちがう。使われた回数と、選ばれた理由を自分で数えておくと、次の設備の判断にも使える。
Sources / 参考情報
- Benzinga(PR Newswire、英文) - ヌードゥーが、ロサンゼルスの象徴的なミレニアム・ビルトモア・ホテルに充電器を設置(2019年11月19日)
裏付け: S1000を10基設置、2019年12月31日まで2時間無料、ジミー・ウー氏の言葉、1923年開業、1969年に歴史文化記念物、683室、アカデミー賞 - Noodoe(英文) - 宿泊業向けの充電のページ
裏付け: ビルトモアの10基、台座に立てる型、地下駐車場、料金設定や混む時間の料金を変えられる - Olink EVSE(英文) - EV充電器のあるホテル:宿泊業の未来(2025年12月)
裏付け: 15%・27%・12%を「ヌードゥーの宿泊業へのインパクト報告、2023年」として引用、マリオットの18%(検証の対象として引用) - PR Newswire(英文) - マリオット・インターナショナルが、年次の報告で環境・社会の進み具合を紹介(2024年7月)
裏付け: 2023年末に1,800軒超のホテルに7,100基超の充電器 - WardsAuto(英文) - 充電器の会社ヌードゥーの仕事が急増(2019年8月)
裏付け: シェラトン・ユニバーサルの壁つけ型10基、ヒルトン・パームスプリングス、ミレニアム・ビルトモアの駐車場 - 経済産業省 - 充電インフラ整備促進に向けた指針を策定しました(2023年10月18日)
裏付け: 充電器の設置目標を倍増、従量制の課金を2025年度からサービス実現を目指す - 日本経済新聞 - EV充電器、30年に30万口へ 経産省が目標引き上げ発表(2023年8月28日)
裏付け: 指針の案で2030年までに30万口、従来の目標15万口から倍