屋上の草花が、太陽光パネルを3.6%よく働かせた:シドニーの隣り合う二つのオフィスビルの比較と、「13.1%」「最大107%」との差
オーストラリア・シドニーの港に面したバランガルー地区に、同じ高さ、同じ大きさ、同じ形の二つのオフィスビルが並んでいる。「ダラム・ハウス」と「インターナショナル・ハウス」だ。どちらの屋上にも太陽光パネルがある。ちがうのは、ダラム・ハウスの屋上では、パネルのまわりに草花が植えられていることだ。
この二つの屋上を比べて、草花があると太陽光パネルの発電が増えるかを調べた研究がある。結果は「3.6%増えた」と報じられた。この記事は、宿ではなくオフィスビルの研究を扱う。宿の屋上でも考えられることがあるからだ。そして、「3.6%」という数字がどのように出てきたのかを読んでいく。
草花と太陽光を、同じ屋上に
ダラム・ハウスの屋上の緑化は、屋上や壁の緑化を手がける会社「ジャングルファイ」が、2019年9月に完成させた。草花と太陽光パネルを組み合わせた屋根は「バイオソーラー屋根」と呼ばれる。
調べたのは、シドニー工科大学(UTS)のアーガ氏、トーピー氏、フレック氏らだ。シドニー市の助成で、ビルを持つ開発会社レンドリースとジャングルファイが協力した。報告書によると、屋上の条件はこうだ。
- 屋上の広さ:どちらも1,863.35平方メートル
- 植えた面積:1,460.7平方メートル(屋上の78.4%)。土の薄い「薄層緑化」で、オーストラリアの在来の草や草本を植えた
- 比べた期間:夏から冬にかけての8か月
二つの屋上の、太陽光パネルはちがっていた
アーガ氏は、緑化があるかないかだけがちがう実験の形だと話している。ただし、報告書を読むと、太陽光パネルそのものはちがっていた。
- 緑化した屋上:サンパワー社のパネル335枚、パネルの効率22.6%、合計の出力132.33キロワット
- 緑化していない屋上:LG社のパネル346枚、効率19.5%、合計の出力110.72キロワット
- パネルの向き:緑化した屋上はおもに北向き(南半球なので日の当たる側)で傾き15度、もう一方は東西向きで傾き5度
- 緑化していない屋上のビルは、約3年早く完成していた
パネルの数も、効率も、向きも、古さもちがう。さらに、まわりの高いビルの影の落ち方も、二つの屋上で少しちがう。
補正前は13.1%、補正後は3.63%
8か月の発電量は、緑化した屋上が69メガワット時、もう一方が59.5メガワット時だった。報告書の結果の章によると、1日の発電量の平均は、緑化した屋上が13.1%多かった。
しかし、これは緑化だけの効果ではない。そこで研究者たちは、緑化した屋上の数字を、パネルの効率(−3.1%)、合計の出力(−16.33%)、古さ(−1.2%)の分だけ補正した。影の影響もあるので、地区の3Dの模型で日射を計算し、光の条件をそろえたうえで比べた。その結果、緑化した屋上のパネルは、1日あたり平均で3.63%効率がよかった。
13.1%のうち、緑化の効果とみられるのは3.63%ということになる。
同じ研究から、いくつもの数字
この研究は、報じられ方によって、ちがう数字で紹介されている。
- 3.6%:8か月の平均(大学の発表、ABCの報道)
- 最大20%:発電が多い時間帯の差(ABCの報道)
- 最大107%:発電が多い時間帯の差(2025年11月の大学の発表で、アーガ氏の言葉)
- 13.1%:補正する前の、1日の発電量の平均の差(報告書)
「最大」は、いちばん差が開いた時間の数字で、平均ではない。宿が自分の屋上で見積もるときに使えるのは、平均の3.63%のほうだ。
なお、報告書の要旨は、補正したうえで緑化した屋上が9.5メガワット時多く発電し、電気の小売りの値段で2,595豪ドルにあたるとしている。ただ、9.5メガワット時は、二つの屋上の発電量の差(69−59.5)と同じ値で、補正前の差のようにも読める。数字を引くときは、この点に気をつけたい。
パネルが冷えると、よく働く
草花で発電が増える理由は、温度だ。アーガ氏は、太陽光パネルは25℃を超えると効率が下がると説明する。大学の発表によると、暑い夏の日には、緑化した屋上の表面の温度が、もう一方より最大20℃低かった。ABCは、38.1℃と24.3℃を並べた熱の画像を紹介している。
発電のほかにも、こんな結果が出ている。
- 温室効果ガス:緑化した屋上は、もう一方より8.8トン多く減らした。木110本を植えたのと同じ程度という(レンドリースの発表)
- 雨水:大雨のときに排水に流れる水を、毎秒600リットル以上減らせるという模型の計算
- 生き物:緑化した屋上では鳥4種・昆虫27種、もう一方では鳥1種・昆虫3種が見つかった(報告書)。大学の発表は、昆虫7倍・鳥4倍と紹介している
宿の屋上に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿の屋上に、出力25キロワットの太陽光パネルがあるとする。1キロワットあたり年1,080キロワット時発電し、年に2万7,000キロワット時をつくる。
- 屋上を緑化して、発電が3%増えるとする:年810キロワット時
- 1キロワット時30円の電気を買わずにすむとすると:年2万4,300円
- もし補正前の13%で計算すると:年3,510キロワット時、10万5,300円
同じ屋上でも、どちらの数字を使うかで、見積もりは4倍以上ちがう。発電の増え方だけで、緑化の費用を取り戻すのは難しそうだ。屋上の温度が下がること、雨水が一度に流れにくくなること、客が過ごせる庭になることも合わせて考えたい。屋上に土を載せられるかは、建物の重さの計算で確かめる必要がある。
平均と最大、補正前と補正後
シドニーの二つのオフィスビルの研究は、屋上の草花が太陽光パネルを冷やし、発電を平均3.63%増やしたと示した。その数字は、パネルのちがいや影の影響を補正したうえで出したものだ。
補正前の13.1%、時間帯によっては最大20%や107%。同じ研究から、いくつもの数字が出てくる。見積もりに使うときは、平均か最大か、補正前か補正後かを確かめておきたい。
持ち帰れる知識
- 太陽光パネルは、熱くなると効率が下がる。まわりの草花はパネルを冷やす
- 二つの屋上を比べるときは、パネルの種類、向き、古さ、影のちがいを補正する
- 「最大」の数字は、平均の数字とはちがう。見積もりには平均を使う
宿で考えられること
- 屋上に太陽光パネルを置くなら、緑化と組み合わせられるか、建物の重さとあわせて検討する
- 緑化の効果は、発電だけでなく、屋上の温度、雨水、生き物、客が過ごせる場所として数える
- ほかの施設の数字を使うときは、補正前か補正後か、平均か最大かを確かめる
事業・予約への接続
屋上の草花と太陽光パネルの組み合わせは、街なかの宿にとって、限られた屋上を二重に使う方法になる。発電が増える分は大きくないが、涼しい屋上や生き物の来る庭は、客にも伝わりやすい。数字を伝えるときは、平均の値を使うと誤解が少ない。
Sources / 参考情報
- UTS(英文) - 屋上緑化と太陽光パネルの比較研究の報告書(シドニー市・レンドリース・ジャングルファイ・UTS)
裏付け: 2019年9月完成、屋上1,863.35平方メートル、植栽1,460.7平方メートル(78.4%)、パネル335枚・22.6%・132.33キロワットと346枚・19.5%・110.72キロワット、向きと傾き、約3年早く完成、69と59.5メガワット時、補正前13.1%、補正(−3.1%、−16.33%、−1.2%)、光の条件をそろえて3.63%、9.5メガワット時・2,595豪ドル、鳥4種・昆虫27種と1種・3種 - UTS(英文) - 屋上緑化か太陽光か?両方がいちばん(2021年8月24日)
裏付け: アーガ氏・トーピー氏・フレック氏、インターナショナル・ハウスとダラム・ハウス、8か月、緑化だけがちがう実験の形、表面温度は最大20℃低い、25℃を超えると効率が下がる、3.6%、2,595豪ドル、雨水毎秒600リットル超、シドニー市の助成 - ABC News(英文) - 屋上緑化で太陽光パネルの効率が上がると研究で判明(2021年8月24日)
裏付け: 隣り合う二つの屋上、38.1℃と24.3℃の熱の画像、発電の多い時間帯に最大20%・期間全体で3.6%、ほぼ9トン - Lendlease(英文) - 屋上緑化で太陽光パネルの効率が上がると研究で判明(2021年8月27日)
裏付け: 3.6%・9.5メガワット時・2,595豪ドル、8.8トン・木110本、表面温度は最大20℃低い、昆虫7倍・鳥4倍 - UTS(英文) - 屋根から、緑の多い街をつくる(2025年11月18日)
裏付け: バランガルーの研究で、発電の多い時間帯に最大107%(アーガ氏)、2025年の世界グリーンインフラネットワークの学術賞