GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 5分 / 2776文字 比べた部屋の条件を読む型 #250

カードを抜くと、明かりと冷暖房が休む:米パームスプリングスの「コンフォート・イン」の2部屋の実験と、「電気を44%減らせる」の前提

ホテルの部屋に入ると、ドアの横に小さな差し込み口がある。カードキーを差すと明かりがつき、抜くと消える。日本やアジア、ヨーロッパのホテルではよく見かける仕組みだ。客が部屋を出るとき、カードを持って出れば、明かりも冷暖房も自然に止まる。

この仕組みで、どれだけ電気が減るのか。米国カリフォルニア州の電力会社サザン・カリフォルニア・エジソン(SCE)は、1998年から1999年にかけて、砂漠の町パームスプリングスのモーテル「コンフォート・イン」で、隣り合う2部屋を比べる実験をした。結果は「電気を最大44%減らせる」とまとめられた。この記事では、その数字が、どんな部屋で、どんな条件で出たのかを読んでいく。

メーカーの数字は、大きくなりがち

実験をまとめたSCEのヘンリー・ラウ氏は、2000年に米国エネルギー効率経済評議会(ACEEE)の夏の研究会で論文を発表した。論文は、実験を始めた理由をこう書いている。

メーカーは、明かりと冷暖房の機器の電気の大きさだけをもとに節約を主張し、客が実際にどう使うかを考えていない。そのため、節約が大げさになることが多い。しかも、そうした仕組みが実際のホテルで確かめられたことはなかった。

そこでSCEは、実際の客室で、仕組みのある部屋とない部屋の電気を測ることにした。

温度を保つ機能のない冷暖房

SCEが探したのは、部屋ごとに冷暖房の機械がついているホテルだった。2か月探して見つけたのが、コンフォート・インだ。

  • 各部屋に、冷房と暖房のできるヒートポンプ(冷房の能力7,100Btu/時、暖房6,100Btu/時)
  • 操作は「強」か「弱」を選ぶだけで、設定した温度を保つ機能(サーモスタット)がない
  • 実験には、プールに近い1階の、同じつくりの104号室と106号室を選んだ。仕組みをつけたのは104号室
  • 配線の都合で、仕組みで止められるのは、持ち運べる照明3つとヒートポンプだけ。机や洗面台、浴室の明かりは対象外で、測ってもいない

客によって、使い方はまったくちがう

測ってみると、部屋の電気は、客の使い方で大きく変わった。論文には、こんな記録がある。

  • 1998年7月の106号室:客は出かけるとき、ヒートポンプを冷房の「強」にしたまま出た。夜も冷やし続け、朝7時には室温が64°F(約18℃)まで下がっていた
  • 1999年1月の106号室:客は暖房を入れ、補助の電気ヒーター(2.8キロワット)が動いた。温度を保つ機能がないので、朝には室温が86°F(30℃)に達していた
  • 同じ日の104号室は、ヒートポンプをほとんど動かさずに、72〜75°F(22〜24℃)を保っていた

温度を保つ機能のない機械では、夏は冷やしすぎ、冬は暖めすぎになりやすい。

6か月の結果

論文の表をまとめると、次のようになる。

  • 照明(7月14日から9月末まで):106号室75.5キロワット時、104号室39.4キロワット時。47.9%少ない。10月9日に配線を直したため、照明は3か月分で比べている
  • ヒートポンプ(7月から1月まで):106号室1,107.8キロワット時、104号室624.2キロワット時。43.6%少ない
  • 両方を合わせると:43.9%少ない

なお、論文の本文は、ヒートポンプの電気を106号室962キロワット時、節約を368キロワット時と書いているが、表の数字とも、引き算とも合わない。表の数字(1,107.8−624.2=483.6キロワット時、43.6%)は、互いに釣り合っている。

月によって、12%から82%まで

月ごとに見ると、ヒートポンプの節約の割合は大きく変わる。

  • いちばん小さかったのは9月で12.4%
  • いちばん大きかったのは12月で82.2%、1月も79.2%

暑さや寒さが厳しく、冷暖房を強く使う月ほど、節約が大きかった。気候のおだやかな秋は、節約も小さかった。

「44%」の前提

論文は、結論で大事なことを書いている。冷暖房が温度を保つ機能で制御されていれば、冷やしすぎや暖めすぎがなくなるので、節約はもっと小さくなるだろう、と。

つまり、44%は、次の条件で出た数字だ。

  • 温度を保つ機能のない、部屋ごとの冷暖房
  • 夏の暑さと冬の寒さが厳しい砂漠の町
  • 仕組みのある部屋とない部屋、それぞれ1部屋ずつ。泊まった客もちがう

その後のホテルでは

2007年に開業したサンフランシスコの86室の「オーチャード・ガーデン・ホテル」は、カードキーで部屋の明かりや冷暖房を入れたり切ったりする仕組みを入れた。部屋を出るときにカードを抜くと、部屋全体が「切れる」。ただし、充電に使えるコンセントが一つだけ残る。カリフォルニア州の大気資源局のサイトは、この仕組みで、エネルギーの使用が20%減ると見込んでいると紹介している。

その後、部屋に人がいるかをセンサーで見て、冷暖房の温度を少しずらす仕組みも広がった。カリフォルニアの新技術の評議会(ETCC)が2011年にまとめた試験の報告では、客が部屋を空けると、昼は10分、夜は45分たってから、省エネの温度に切り替える設定だった。報告は、客が戻ったときに部屋が元の温度に戻るまでの時間をホテルが心配することが、客室の冷暖房でこうした制御が広がりにくい理由だと書いている。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿(稼働率70%、年5,110室泊)で考える。客は1室泊あたり5時間、部屋を空けて出かけるとする。カードを抜くと、その間の冷暖房と明かりが止まる。

  • 温度を保つ機能のないエアコンが、平均0.6キロワットで動き続けていた場合:1室泊3キロワット時、年1万5,330キロワット時。1キロワット時30円で45万9,900円
  • 温度を保つ機能のあるエアコンで、平均0.25キロワットだった場合:1室泊1.25キロワット時、年6,387.5キロワット時で、19万1,625円
  • 明かり0.1キロワットがつけっぱなしだった場合:1室泊0.5キロワット時、年2,555キロワット時で、7万6,650円

同じ仕組みでも、もともとの冷暖房がどんな機械かで、節約は2倍以上ちがう。

自分の宿の機械で、確かめてから

コンフォート・インの2部屋の実験は、カードを抜けば明かりと冷暖房が休む仕組みで、電気が43.9%減ったことを示した。ただし、それは温度を保つ機能のない冷暖房で、砂漠の町の夏と冬に、1部屋ずつを比べた数字だった。論文自身が、条件がちがえば節約は小さくなると書いている。

宿で入れるなら、まず自分の部屋の冷暖房がどんな機械かを確かめたい。できれば、何部屋かで試して、入れる前と後の電気を比べてみると、自分の宿の数字がわかる。

持ち帰れる知識

  • カードキーの節約は、もともとの冷暖房に温度を保つ機能があるかで大きく変わる
  • 冷暖房を強く使う季節ほど、節約が大きい
  • 1部屋ずつの比較では、泊まった客の使い方のちがいも結果に入る

宿で考えられること

  • 部屋の冷暖房が、温度を保つ機能のある機械かを確かめる
  • 何部屋かで試して、入れる前と後の電気をメーターで比べる
  • 客が戻ったときの快適さのために、止めるのではなく温度を少しずらす方法も検討する

事業・予約への接続

カードを抜くと部屋が休む仕組みは、客にとってなじみがあり、使い方の説明もいらない。一方で、戻ったときに部屋が暑すぎたり寒すぎたりすると、満足が下がる。節約の数字は、自分の宿の機械と季節で確かめてから伝えたい。

Sources / 参考情報

  • ACEEE(英文) - ホテルとモーテルのカードキーの省エネの仕組みの、現場での性能(Henry Lau、サザン・カリフォルニア・エジソン、2000年の夏の研究会)
    裏付け: コンフォート・イン、104号室と106号室、ヒートポンプ(7,100・6,100Btu/時)、温度を保つ機能なし、照明3つとヒートポンプのみ、1998年7月14日から6か月、106号室の夏と冬の記録、照明75.5と39.4キロワット時・47.9%、表のヒートポンプ1,107.76と624.20キロワット時・43.65%、合計43.92%、本文の962・368キロワット時、9月12.42%・12月82.24%、メーカーの主張は大げさになりがち、温度を保つ機能があれば節約は小さい
  • California Air Resources Board / Cool California(英文) - 環境に配慮したブティックホテル
    裏付け: オーチャード・ガーデン・ホテル、86室、カードキーで部屋全体を切る、充電用のコンセント、エネルギーの使用20%減の見込み
  • The Orchard Garden Hotel(英文) - 環境への取り組み
    裏付け: カードを差すと明かりなどがつき、抜くと部屋全体が切れる、充電用のコンセントが一つ残る
  • ETCC(英文) - 人がいるかで制御する客室の調査(PG&E、2008〜2010年)
    裏付け: 人がいるかを感知して冷暖房・照明・コンセントを調整する仕組み、止めるか温度をずらす
  • ETCC(英文) - ホテルのフロントと連動したエネルギー管理の報告(2011年9月30日)
    裏付け: 空室になって昼10分・夜45分で省エネの温度に切り替え、戻ったときの温度の回復をホテルが心配する
  • Condé Nast Traveler(英文) - オーチャード・ガーデン・ホテルの紹介
    裏付け: 2007年開業、86室

関連する記事