生ごみ1トンで、電気は何キロワット時? 理論の847、東京の工場の383、売れた154。カリフォルニア大学デービス校の消化槽と、ホテルの生ごみを受け入れる東京の施設
ホテルの厨房から出る野菜くずや食べ残しを、空気のないタンクで微生物に分解させると、メタンを含むガス(バイオガス)ができる。そのガスで発電機を回せば、電気になる。メタン発酵と呼ばれる仕組みだ。
この話を紹介する記事には、よく「生ごみ1トンから847キロワット時の電気」という数字が出てくる。この記事では、その数字が何を表しているのかを、研究の総説、アメリカの大学の施設、東京の工場の記録で順に見ていく。なお、この記事で取り上げる施設は宿泊施設ではない。ホテルの生ごみの行き先として紹介する。
847は「理論上」の数字
847キロワット時は、2020年に学術誌に載った、中国と東南アジアの生ごみのメタン発酵についての総説に出てくる。総説は、別の研究を引いて、「理論上、生ごみ1トンは847キロワット時の電気と89.78ギガジュールの熱に変えられる」と書いている。
ここで大事なのは「理論上」という言葉だ。生ごみの中の分解できるものが、すべてメタンになり、それをむだなく電気に変えたときの値で、実際の施設の値ではない。なお、2016年の別の総説は、同じ847キロワット時を、1トンからできるメタン247立方メートルと並べて書いている。メタン247立方メートルの熱は約9ギガジュールで、89.78ギガジュールとは桁が合わない。数字を引くときは、こうした点にも気をつけたい。
同じ2016年の総説は、実際の施設についての研究も引いている。発酵のタンクが1段の方式で1トンあたり約220キロワット時、2段の方式で約404キロワット時だという。
デービス校の消化槽:1日50トンで1万2,000キロワット時
カリフォルニア大学デービス校は、2014年4月22日のアースデイに、キャンパスの古い埋め立て地の上に、メタン発酵の施設「READ」を公開した。大学の教授が開発した技術を、サクラメントの会社クリーンワールドが実用化したもので、大学の発表によると、全米の大学で最大の施設だった。
大学の発表によると、施設は次のように「設計」されている。
- 1日に50トンの有機ごみを、1万2,000キロワット時の電気に変える
- 年に2万トンのごみを、地域の埋め立て地から減らす
- 原料の半分近くは、大学の食堂、動物の施設、構内の植物のごみ。残りは地域の食品加工や物流の会社から集める
- 費用は約850万ドルで、大学が検討したほかの施設より約3分の2安い
1万2,000を50で割ると、1トンあたり240キロワット時になる。ただし、アメリカのトンは約907キログラムなので、1,000キログラムのトンに直すと約265キロワット時だ。どちらにしても、これは設計の値で、実際に毎日この量を処理したという記録ではない。
東京の工場:1トンから383キロワット時
日本にも、ホテルの生ごみを電気に変える施設がある。東京都大田区の城南島にある「バイオエナジー」の食品リサイクル施設だ。
施設をつくった三菱重工の2007年の論文によると、施設は2006年3月に完成し、首都圏のホテル、スーパー、コンビニエンスストアなどの食品残さを受け入れている。設計は1日110トン、発電の計画は1日約2万4,000キロワット時(1トンあたり約218キロワット時)だった。
論文は、2007年2月の1か月の実績も載せている。
- 受け入れた食品廃棄物:1,453トン(1日平均約52トン)
- バイオガス:1トンあたり205立方メートル(計画は約120立方メートル)
- 発電量:55万6,200キロワット時(1トンあたり383キロワット時)
- 施設の中で使った電気:33万2,668キロワット時
- 売った電気:22万3,532キロワット時
論文は、ガスが計画より多く出たのは、運び込まれた生ごみの固形分が計画より多かったためと考えられる、と書いている。
売れたのは、1トンあたり約154キロワット時
この表から、もう一つの数字が計算できる。施設は、つくった電気の約6割(33万2,668÷55万6,200)を、自分の運転に使っている。外に売れた電気は、22万3,532÷1,453で、1トンあたり約154キロワット時だ。
つまり、同じ「生ごみ1トンの電気」でも、理論の847、実際の発電の383、外に出せた154と、段によって大きく違う。どの段の数字かを確かめずに比べると、話を取り違える。
バイオエナジーのサイトには、今の処理能力は1日130トン、発電量は1日4万560キロワット時と書かれている。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿の厨房から、生ごみが1日10キログラム出るとする。
- 年の生ごみ:10キログラム×365日=3.65トン
- 理論の847キロワット時なら:3.65×847=約3,092キロワット時
- 城南島の発電の実績383キロワット時なら:3.65×383=約1,398キロワット時
- 売れた電気154キロワット時なら:3.65×154=約562キロワット時。1キロワット時30円で約1万6,860円
宿の生ごみがつくる電気は、宿の電気代から見ると大きくない。宿にとっての意味は、燃やすごみを減らし、生ごみを資源として出すことにある。そのためには、生ごみに割りばしやプラスチックを混ぜないで分けておくことが、受け入れの前提になる。
数字の「段」を見る
生ごみの電気の数字には、理論、設計、実際の発電、外に出せた量という段がある。紹介記事の数字が大きく見えたら、まずどの段の数字かを確かめたい。宿にできるのは、生ごみをきれいに分けて、近くに受け入れ先があるかを調べることだ。
持ち帰れる知識
- 「生ごみ1トンから847キロワット時」は理論の値で、実際の施設の値ではない
- 施設はつくった電気の一部を自分で使うので、外に出せる電気はさらに少ない
- アメリカのトンと1,000キログラムのトンは違う
宿で考えられること
- 生ごみの量を1週間はかって、年の量を出してみる
- 近くに食品リサイクルの受け入れ先があるか、自治体や回収の会社に聞く
- 受け入れの条件(混ぜてはいけないもの)を確かめ、厨房の分け方を決める
事業・予約への接続
生ごみを資源として出していることは、宿の環境の取り組みとして客に伝えやすい。その際、「電気を何キロワット時つくった」と書くより、「生ごみを燃やさずにリサイクルに出している」と事実をそのまま書くほうが、誤解がない。
Sources / 参考情報
- UC Davis(英文) - 消化槽が、キャンパスのごみをキャンパスの電気に変える(2014年4月22日)
裏付け: アースデイに公開、古い埋め立て地、1日50トンを1万2,000キロワット時に変える設計、年2万トン、原料の半分近くは食堂・動物の施設・構内、全米の大学で最大、約850万ドルで約3分の2安い、教授の技術とクリーンワールド - Massachusetts Department of Environmental Protection(英文) - メタン発酵の事例
裏付け: 2014年のアースデイに公開、1日50トン・1万2,000キロワット時の設計、年2万トン、原料の半分近くは大学から - 三菱重工業 - メタン発酵,炭化ガス化などバイオマス最新利用技術(三菱重工技報 Vol.44 No.2)(2007年)
裏付け: 2006年3月完成、首都圏のホテル・スーパー・コンビニの食品残さ、110トン/日、発電計画約2万4,000キロワット時/日、2007年2月の実績(1,453トン、205立方メートル/トン、計画約120立方メートル、55万6,200キロワット時・383キロワット時/トン、場内33万2,668キロワット時、売電22万3,532キロワット時)、固形分が多かったため - バイオエナジー - 施設紹介
裏付け: 城南島、処理能力1日130トン、発電1日4万560キロワット時 - ScienceDirect(英文) - 中国と東南アジアにおける生ごみのメタン発酵:総説(2020年)
裏付け: 理論上、生ごみ1トンは847キロワット時の電気と89.78ギガジュールの熱 - OurEnergyPolicy(英文) - 生ごみのメタン発酵による発電の総説(PDF)(2016年)
裏付け: 理論上1トンでメタン247立方メートル・約90ギガジュールの熱または847キロワット時、1段の方式で約220キロワット時・2段の方式で約404キロワット時