「5億本・30%減」は、何の30%? マリオットとIHGが小さなシャンプーのボトルをやめた発表を読み、カリフォルニアの法律と日本の法律の違いを見る
ホテルの浴室に並ぶ、小さなシャンプー、コンディショナー、ボディソープのボトル。2019年の夏、世界の大きなホテルの会社が、この小さなボトルを大きなボトルに替えると相次いで発表した。
インターネットでは、この話が「マリオットは年に5億本のボトルを減らし、プラスチックを30%減らした」と紹介されることがある。この記事では、発表の文をていねいに読み、数字が何を表しているのかを確かめる。
IHG:2021年までに、すべてのホテルで
先に発表したのは、ホリデイ・インなどを持つIHGだった。2019年7月30日、IHGは、約84万3,000室、5,600軒を超えるすべてのホテルで、浴室の小さなボトルを大きな容器に替え、2021年までに終えると発表した。
業界誌によると、IHGのホテルは、年に平均2億個の小さなアメニティを使っていると見積もられていた。発表の時点で、ホテルの3分の1がすでに切り替えを進めていた。ボコ、イーブン、アビッドの3つのブランドは、開業のときから大きな容器を使っている。
マリオット:「すべてで実施したとき」の見込み
約1か月後の2019年8月28日、7,000軒を超えるホテルを持つマリオットも、同じ方向を発表した。業界誌が伝えた内容は次のとおりだ。
- 小さなボトルを、ポンプのついた大きなボトルに替える。大きなボトル1本には、小さなボトル10〜12本分が入る
- 発表の時点で、北米の約1,000軒、世界の20%を超えるホテルがすでに切り替えている
- 2020年12月までに、ほとんどのホテルが切り替える見込み
- 2018年の初めに、コートヤードなど5つのブランドで始めていた
そして、5億本と30%は、次の一文に出てくる。
「すべてで実施したとき、年に約5億本の小さなボトルが埋め立てに行かずにすむと見込んでいる。これは約170万ポンドのプラスチックで、今のアメニティのプラスチックの使用量の30%にあたる」
3つの読み方
この一文から、3つのことがわかる。
一つ目に、これは見込みだ。「すべてで実施したとき」の数字で、減らした実績ではない。
二つ目に、30%は、マリオットが使うプラスチック全体の30%ではない。客室のアメニティに使うプラスチックの30%だ。
三つ目に、重さを本数で割ると、小さなボトル1本の重さがわかる。170万ポンドは約77万キログラムで、それを5億本で割ると、1本あたり約1.5グラムになる。1本1本は軽いが、数が多い。
カリフォルニアは法律で禁止した
同じ2019年の10月9日、カリフォルニア州の知事が、小さなボトルを禁止する法律に署名した。宿泊施設は、客室や共用の浴室で、小さなプラスチックのボトルに入ったシャンプーなどを出してはいけない。50室を超える施設は2023年1月1日から、50室以下の施設は2024年1月1日からだ。
会社の自主的な取り組みと、州の法律が、ほぼ同じ時期に同じ方向を向いたことになる。
日本の法律は、ボトルではない
日本でも、2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行された。ただし、宿泊業で対象になったのは、次の5品目だ。
- 歯ブラシ
- ヘアブラシ
- くし
- かみそり
- シャワーキャップ
シャンプーなどの小さなボトルは、この5品目に入っていない。また、法律は、これらを使うことや置くことを禁止したり、有料にすることを義務づけたりしてはいない。目標を決めて、使う量を減らす工夫をすることを求めている。年に5トン以上を提供する事業者で、取り組みが著しく不十分な場合は、勧告、公表、命令、罰則の対象になりうる。国が勧める方法には、有料にする、使わない客にポイントを渡す、客に必要かどうかを聞く、といったものがある。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室、稼働率70%(年5,110室泊)、1室泊に2人の宿を考える。
- 小さなボトル:1室泊に3本(シャンプー、コンディショナー、ボディソープ)なら、年に1万5,330本。1本1.5グラムとして約23キログラム
- 歯ブラシ:1人1本で年に1万220本。客室に置くのをやめ、フロントで希望する人だけに渡すようにして、6割の人が受け取らなかったとする。減る本数は6,132本。1本10グラムなら約61キログラム、1本20円なら12万2,640円
ボトルを大きくしても、歯ブラシの置き方を変えても、宿にとっては小さな一歩だ。けれども、本数で見ると、年に1万本を超える物が動いている。
割合を見たら、分母を確かめる
「30%減」と聞いたら、何の30%かを確かめたい。マリオットの30%は、アメニティのプラスチックに対する割合で、しかも見込みだった。宿が自分の取り組みを伝えるときも、「客室の歯ブラシを、年に何本減らした」のように、何を数えたのかがわかる書き方が誤解を生まない。
持ち帰れる知識
- 「30%減」は、何に対する割合かを確かめる。マリオットの30%はアメニティのプラスチックに対する割合
- 「すべてで実施したとき」の数字は見込みで、実績ではない
- 日本の法律で宿泊業が対象になったのは歯ブラシなど5品目で、シャンプーのボトルは入っていない
宿で考えられること
- 歯ブラシ、くし、かみそりなどを、年に何本使っているか数える
- 客室に置く物と、フロントで希望者に渡す物を分ける
- シャンプーなどを、詰め替えのできる大きなボトルにするか検討する
事業・予約への接続
アメニティの出し方を変えるときは、予約のページや客室の案内に、理由と、必要な人への渡し方を書いておくと、客が戸惑わない。減らした量を伝えるなら、本数や重さを自分で数えた数字にすると確かだ。
Sources / 参考情報
- Hotel Management(英文) - マリオットが、使い捨てのアメニティのボトルをなくす(2019年8月28日)
裏付け: 年約5億本・約170万ポンド・今のアメニティのプラスチックの30%を減らす見込み、10〜12本分の大きなボトル、北米の約1,000軒・世界の20%超が切り替え済み、2020年12月までにほとんどのホテル、2018年の初めに5つのブランドで開始、7,000軒超 - CBS News(英文) - 世界最大のホテルの会社マリオットが、2020年までに使い捨てのプラスチックのアメニティをなくす計画(2019年8月28日)
裏付け: マリオットの投稿の引用「すべてで実施したとき」年約5億本・約170万ポンド・30%、10〜12本分 - Hotel Management(英文) - IHGが2021年末までに大きなサイズのアメニティに切り替える(2019年7月30日)
裏付け: 約84万3,000室、5,600軒超、年平均2億個、3分の1が切り替え中、ボコ・イーブン・アビッドは開業から - LegiScan(英文) - カリフォルニア州議会法案1162号(2019年、成立)
裏付け: 2019年10月9日に成立、50室超は2023年1月1日から・50室以下は2024年1月1日から、客室と共用の浴室で小さなプラスチックのボトルを禁止 - 全日本ホテル連盟 - プラスチック資源循環促進法について
裏付け: 2022年4月施行、宿泊業は5品目、使用・設置の禁止や有料化の義務ではない、年5トン以上で取り組みが著しく不十分なら勧告・公表・命令・罰則の可能性、有料化・ポイント・意思確認などの方法 - 文春オンライン - 歯ブラシ、くし、アメニティも有料化…?(2022年)
裏付け: 宿泊業を対象とした5品目、年5トン以上の事業者に削減の対策を求める、禁止や有料化の義務ではない