「回収2年未満」は、もしホテルが払っていたら:テキサス州の「ホリデイ・イン・サンアントニオ」が、397室のトイレとシャワーを水道局の費用で替えた話
米国テキサス州のサンアントニオ。空港の近くにある397室の「ホリデイ・イン・サンアントニオ・インターナショナル・エアポート」は、1981年に建ってから、客室の浴室を大きく改修したことがなかった。
2007年、市の水道局は、ホテルの浴室の器具を替える事業を始めた。このホテルは、真っ先に手を挙げた一軒だった。アメリカの環境保護庁(EPA)は、その結果を節水の事例としてまとめている。この記事では、事例に出てくる「年に6万8,000ドルの節約」「回収2年未満」という数字の前提を読んでいく。
替えたもの
EPAの事例によると、水道局は、397室すべての浴室で、器具と取り付けの費用を負担した。替えたものは次のとおりだ。
- トイレ297台:1回3.5ガロン(約13.2リットル)→1.1ガロン(約4.2リットル)
- トイレ100台:1回5.0ガロン(約18.9リットル)→1.1ガロン
- 洗面台の蛇口の泡沫器397個:毎分2.2ガロン→1.5ガロン
- シャワーヘッド397個:毎分2.5ガロン→1.75ガロン以下
トイレと蛇口は、EPAの節水の認証「ウォーターセンス」の基準を使って選んだ。当時、シャワーヘッドの基準はまだなかったので、ホテルが自分で選び、水道局が毎分1.75ガロン未満という条件をつけた。
ちなみに、ウォーターセンスの認証のトイレは1回1.28ガロン(約4.8リットル)以下だ。このホテルの1.1ガロンは、それよりさらに少ない。
1室泊あたり202ガロンが132ガロンに
改修は2007年の終わりに終わった。事例によると、客が泊まった部屋1室・1日あたりの水の使用量は、約202ガロンから132ガロンへ35%減った。月に約58万ガロン、年に約700万ガロンの節約だ。
ここから、ホテルのおおよその稼働もわかる。1室泊あたり70ガロン減って、年に700万ガロン減ったのなら、客が泊まった部屋の数は年に約10万室泊。1日あたり約274室で、397室の約7割になる。
6万8,000ドルの半分は、推定
では、6万8,000ドルの中身はどうなっているのか。事例は、次のように書いている。
- 水道と下水道の料金の節約:年に約3万5,000ドル(ホテルの見積もり)
- エネルギーの節約:年に約3万3,000ドル、電気33万キロワット時
ただし、エネルギーの節約について、事例は「ホテルは今のところ、このエネルギーの節約を測っていない」と書いている。節約した水の多くはお湯なので、シャワーや蛇口の一般的なお湯の使い方から推定した数字だ。
つまり、6万8,000ドルのうち、ほぼ半分は測った数字ではなく、推定の数字ということになる。
「回収2年未満」の前提
事例によると、水道局が397室の改修に使った費用は約10万ドルだった。そして、「もしホテルが費用を払っていたら、回収は2年未満だった」と書いている。
実際には、ホテルは費用を払っていない。「回収2年未満」は、仮の計算だ。
計算をたどってみる。10万÷6万8,000=約1.5年。もし、測っていないエネルギーの節約を除いて、水道と下水道の3万5,000ドルだけで計算すると、10万÷3万5,000=約2.9年になる。どちらにしても短いが、何を節約に数えるかで、回収年数は2倍近く変わる。
もう一つ、数字にならない効果も書かれている。改修の前は、浴室の器具の修理の呼び出しが毎日1〜2件あったが、改修の後はなくなったという。
ホテルが払った例
同じ水道局の事業には、ホテルが費用を払った例もある。同じ市の473室の「ウェスティン・リバーウォーク」は、2011年に洗濯機を節水型に替え、最後のすすぎの水を次の洗濯の最初に使う仕組みも入れた。
EPAの事例によると、洗濯の水は65%減り、1ポンドあたり2.82ガロンから0.99ガロンになった。費用7万9,000ドルのうち2万7,000ドルを水道局の補助でまかない、節約は年に約2万ドル(水道と下水道が約1万1,000ドル、エネルギーが約9,000ドル)。回収は2.6年だった。
ホテルが自分で進めたこと
ホリデイ・インは、浴室の改修のほかにも、水を減らす工夫を自分で進めている。冷暖房の機械から出る結露の水を庭の水やりに使い、屋上でハーブを育て、プールのろ過の洗浄の水や冷却塔の水も再利用している。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室、年5,110室泊の宿で考える。
- トイレ:1回13リットルを4.8リットルに替え、1室泊に6回流すとする。8.2リットル×6回×5,110室泊=約251立方メートル。1立方メートル600円で約15万円
- トイレの費用:20台×25万円=500万円なら、500万÷15万=約33年
- シャワー:毎分10リットルを7.5リットルに替え、1室泊に合計12分使うとする。2.5リットル×12分×5,110室泊=約153立方メートル、約9万2,000円
- シャワーの費用:20個×1万円=20万円なら、約2.2年
シャワーヘッドは早く元が取れるが、トイレは水道代だけでは時間がかかる。トイレは、改装の時期に合わせたり、補助を探したりするのが現実的だ。
回収年数は、誰が払い、何を数えるかで変わる
ホリデイ・インの「回収2年未満」は、水道局が払った改修について、もしホテルが払っていたらと仮定し、推定のエネルギーの節約も含めた数字だった。宿が器具を替えるときは、測れる水道代だけで計算した回収年数も出しておきたい。
持ち帰れる知識
- 節約の額に、測った数字と推定の数字が混ざっていないか確かめる
- 「回収◯年」は、誰が費用を払ったか、何を節約に数えたかで変わる
- シャワーヘッドや泡沫器は安く早く元が取れ、トイレは改装の時期に合わせやすい
宿で考えられること
- 客室のトイレの1回の水の量と、シャワーの毎分の量を調べる
- 水道局や自治体に、節水の器具の補助がないか聞く
- 器具を替える前と後で、1室泊あたりの水の量を比べる
事業・予約への接続
節水の器具は、客の使い心地を変えずに水を減らせる。案内に「節水型のトイレとシャワーを使っています」と書くときは、使い心地も確かめたうえで、と添えると安心につながる。
Sources / 参考情報
- U.S. EPA WaterSense(英文) - ホテルが節水型の衛生器具を入れる(PDF)(2014年7月)
裏付け: 397室・23万6,000平方フィート、1981年から大きな改修なし、2007年に水道局の事業、真っ先に参加、水道局が器具と取り付けを負担、交換の表(3.5・5.0→1.1ガロン、2.2→1.5、2.5→1.75)、ウォーターセンスの基準、シャワーは1.75未満、2007年の終わりに完了、202→132ガロン・35%、月約58万・年約700万ガロン、水道と下水道で約3万5,000ドル、エネルギーは測っていない推定で33万キロワット時・3万3,000ドル、費用約10万ドル・払っていたら回収2年未満、修理の呼び出しが毎日1〜2件からなしに、結露の水・屋上のハーブ・プールと冷却塔の水の再利用 - U.S. EPA WaterSense(英文) - 洗濯の日がサンアントニオのホテルに大きな節約をもたらす(PDF)(2014年7月)
裏付け: ウェスティン・リバーウォーク473室、2011年、洗濯機の交換と最後のすすぎの水の再利用、65%減、1ポンドあたり2.82→0.99ガロン、費用7万9,000ドルに補助2万7,000ドル、水道と下水道約1万1,000ドル・エネルギー約9,000ドル、回収2.6年 - U.S. EPA WaterSense(英文) - 家庭用トイレ
裏付け: ウォーターセンスの認証のトイレは1回1.28ガロン以下、国の基準1.6ガロンより20%少ない - U.S. EPA(英文) - 商業・公共施設の事例の一覧
裏付け: ホリデイ・イン・サンアントニオなどホテルの事例を掲載 - UNR BEP(英文) - EPAの事業:ウォーターセンス・アット・ワーク
裏付け: 2007年に1981年ごろの器具を397室で交換、水道局の事業が製品と取り付けの費用を負担、1室泊あたり35%減、年700万ガロン・約6万8,000ドル