「照明の電気90%減」と「1灯1ドル」:ニューヨークの「チャトワル」のLED化を発表から読み、日本の蛍光灯の2027年に備える
ニューヨーク・マンハッタンの劇場街に、「ザ・チャトワル」という高級ホテルがある。2014年、このホテルで、照明をLEDに替える工事が行われた。
この工事は、今もホテルの省エネの例としてよく紹介される。「照明の電気を90%減らし、年41万キロワット時、初年度に12万4,000ドルを節約した」というものだ。この記事では、その数字の出どころをたどり、何が「実績」で何が「見込み」なのかを確かめる。そのうえで、日本の宿に関係の深い、蛍光灯の製造の終わりについて見ていく。
数字の出どころは、工事をした会社の発表
数字の出どころは、工事をしたLED照明の会社「LEDソース」が、2014年7月30日に自社のサイトに出した発表だ。今はサイトがなくなっているが、インターネットの記録保存サービスで読める。
発表によると、工事の中身は次のとおりだ。
- 80室の客室と、廊下や共用の場所で、約1,300個のランプを替えた
- これにより、年に41万キロワット時を超える電気が減る見込みで、照明の電気の90%にあたる
- 初年度だけで、12万4,255ドルを節約すると見積もられている
ここで大事なのは、発表の言葉づかいだ。「減ることになる」「節約すると見積もられている」と、どちらも未来や推定の形で書かれている。工事の後に測った数字ではない。そして、書いたのはホテルではなく、工事を請け負った会社だ。
90%は、何の90%か
90%は、ホテル全体の電気ではなく、照明の電気の90%だ。ホテルでは、照明のほかに空調、給湯、厨房、エレベーターなどが電気を使う。照明が90%減っても、ホテル全体の電気が90%減るわけではない。
また、数字を割り算してみると、41万キロワット時を1,300個で割って、1個あたり年に約315キロワット時。12万4,255ドルを41万キロワット時で割ると、1キロワット時あたり約30セントになる。発表は、この金額に電気代のほかに何を含めたのか、たとえば電球を替える手間の節約が入っているのかを書いていない。
1灯1ドルは、補助のおかげ
発表には、もう一つ大事な数字がある。ホテルが払った費用は、LEDのランプ1個あたりわずか1ドルだったという。
これは、ニューヨークの電力会社などの補助や優遇を、工事の会社が見つけて申請した結果だ。発表は、「多くの場合、数週間から数か月で元が取れる」とも書いている。つまり、短い回収期間は、LEDそのものの安さより、補助の大きさに支えられていた。
研究では、どうか
工事の会社の発表ではなく、研究ではどうだろうか。
2021年に学術誌に載った研究は、中国・江蘇省で省エネの改修をした7軒のホテルを調べた。改修したホテルのエネルギーの使用量は、改修の前より25%以上減った。技術の中では、省エネ型のLED照明の省エネ率が70.85%で、もっとも効率がよかった。改修全体の回収期間は、平均2.55年だった。
同じ江蘇省の15軒のホテルを調べた2022年の別の研究では、改修全体の回収期間は2.32〜3.90年、平均2.96年だった。
LEDの省エネ率が高いことは研究でも確かめられているが、90%という値は、元の照明が何だったか、どれだけ点けていたかで変わる。
日本の宿にとっての2027年
日本の宿にとって、LED化は、省エネだけの話ではない。
環境省によると、水銀を含む一般照明用の蛍光ランプは、2027年末までに製造と輸出入が禁止される。2023年の「水銀に関する水俣条約」の会議で決まったことを受け、日本でも2024年に政令が決まった。種類によって段階的に禁止される。今使っている蛍光灯はそのまま使えるし、売り買いも禁止されないが、環境省は、いずれ使えなくなることを見込んで、計画的にLEDに替えるよう勧めている。
愛媛県四国中央市の案内は、寿命の目安を、白熱電球が約1,000時間、蛍光灯が約6,000時間、LEDが約4万時間としている。同時に、今の照明器具をそのまま使って蛍光灯をLEDのランプに替えるときは、組み合わせが合わないと、煙が出たり火事になったりするおそれがあると注意している。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿の廊下と共用の場所に、40ワットの蛍光灯が30本あり、1日24時間点いているとする。
- LEDに替えて1本18ワットになるなら、減る電気は22ワット×30本×8,760時間=約5,782キロワット時。1キロワット時30円で約17万3,000円
- 器具ごと替えて1台1万5,000円なら、30台で45万円。45万÷17.3万=約2.6年
- 交換の手間:蛍光灯の寿命が6,000時間なら、24時間点けると1年に約1.5回替える。30本で年に約44本。LEDの寿命が4万時間なら、約4.6年に1回になる
廊下のように一日中点いている場所から替えると、効果が大きい。
誰が、何の見込みを書いたか
チャトワルの「90%」は、工事の会社が書いた、照明の電気についての見込みだった。「1灯1ドル」は補助のおかげだった。数字を読むときは、誰が書いたか、何の割合か、測った数字か見込みかを確かめたい。日本の宿にとっては、2027年をきっかけに、一日中点いている照明から計画的に替えていくのが現実的だ。
持ち帰れる知識
- 「90%減」は、ホテル全体ではなく照明の電気についての割合
- 工事の会社の発表の数字は、見込みや見積もりのことがある
- 日本では、一般照明用の蛍光ランプの製造と輸出入が2027年末までに禁止される
宿で考えられること
- 館内の照明を、場所ごとに種類・本数・点けている時間で一覧にする
- 一日中点いている廊下や非常口の近くから、LEDに替える
- 器具ごと替えるか、ランプだけ替えるかを、電気工事の専門家に確かめる
事業・予約への接続
LEDへの交換は客からは見えにくいが、明るさや色を選び直すと、館内の雰囲気がよくなることもある。省エネの数字を伝えるなら、替えた後の電気の使用量を測って、自分の宿の数字を使いたい。
Sources / 参考情報
- LED Source(英文、Internet Archive の保存版) - ザ・チャトワルがLED照明への改修を終え、90%を節約(2014年7月30日)
裏付け: 劇場街のホテル、約1,300個のランプ・80室と廊下・共用の場所、年41万キロワット時超が減る見込み・照明の電気の90%、補助と優遇でランプ1個1ドル、初年度12万4,255ドルの節約の見積もり、数週間から数か月で元が取れることが多い - ScienceDirect(英文) - ホテルの建物の省エネ改修の事後評価:中国・江蘇省の例(2021年)
裏付け: 7軒のホテル、改修後のエネルギーの使用量は25%以上減、LED照明の省エネ率70.85%、平均の回収期間2.55年 - MDPI Energies(英文) - 既存のホテルの省エネ改修の経済評価(2022年)
裏付け: 江蘇省の15軒のホテル、回収期間2.32〜3.90年・平均2.96年 - 環境省 - 蛍光ランプの製造・輸出入禁止(2026年4月15日)
裏付け: 一般照明用の蛍光ランプは2027年末までに製造・輸出入禁止、2023年の水俣条約の会議、2024年の政令、種類によって段階的、使用中のものは使え販売・購入も禁止されない、計画的なLEDへの切り替えを推奨 - 四国中央市 - 一般照明用の蛍光灯(ランプ)の製造・輸出入は2027年末までに廃止
裏付け: LEDの寿命約4万時間、白熱電球約1,000時間、蛍光灯約6,000時間、既存の器具のままLEDのランプに替えると組み合わせによって発煙や火災のおそれ