GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 4分 / 2372文字 物差しをそろえて比べる型 #262

「60%減」は、何の60%か:ノルウェーとスウェーデンの140軒のホテルと、CO2を冷媒にしたヒートポンプ

寒い国のホテルは、部屋を暖め、シャワーのお湯をわかすために、たくさんの熱を使う。その熱を、空気や海の水から集めてつくる「ヒートポンプ」は、どれくらい効くのか。

ノルウェー科学技術大学(NTNU)の研究者たちは、ノルウェーとスウェーデンの140軒のホテルの、2015年から2019年までの5年分のエネルギーを調べ、2021年に学術誌『ジャーナル・オブ・クリーナー・プロダクション』に発表した。大学の発表は、二つの結果を強調している。

  • ヒートポンプのホテルは、地域の暖房網(地域熱供給)を使うホテルより、床1平方メートルあたりのエネルギーが19.9%少ない
  • CO2を冷媒にしたヒートポンプで、ホテルの熱のエネルギーを約60%減らせる

この記事では、この二つの数字が、何を何で割った数字なのかを読んでいく。

140軒の、5年分のエネルギー

論文によると、140軒のうち70%のホテルは、年のエネルギーが床1平方メートルあたり150〜250キロワット時の範囲にあった。国別の平均は、ノルウェーが203、スウェーデンが222キロワット時だ。暖房の熱は、地域ごとの寒さの違いを補正している。

主な暖房の方法は、地域熱供給が98軒(70%)で最も多く、電気のヒーターやボイラーが28軒(20%)、ヒートポンプが13軒、ガスが1軒だった。2015年から2019年にかけて、地域熱供給につながるホテルは18.0%、地域冷房につながるホテルは10.9%増えた。

19.9%は「床1平方メートルあたり」の数字

暖房の方法ごとの平均は、次のとおりだ。

  • 床1平方メートルあたり(キロワット時):電気204.9、地域熱供給218.9、ヒートポンプ175.4、ガス236.7
  • 客1人1泊あたり(キロワット時):電気43.1、地域熱供給35.6、ヒートポンプ34.0、ガス36.3

床面積で割ると、ヒートポンプは地域熱供給より19.9%少ない。ところが客1人1泊で割ると、34.0と35.6で、差は約4.5%に縮まる。

論文は、電気で暖めるホテルには中規模から大規模のホテルが多く、地域熱供給には小規模から中規模のホテルが多いと説明している。どの物差しで割るかによって、順位も差も変わる。また論文は、ヒートポンプのグループは型も設置年もばらばらで、機械の効率は計算に入れていないと断っている。

エネルギーが少なくても、CO2が少ないとは限らない

同じ表には、CO2などの排出も並んでいる。

  • 床1平方メートルあたり(キログラム):電気79.8、地域熱供給48.7、ヒートポンプ62.8、ガス64.4
  • 客1人1泊あたり(キログラム):電気16.8、地域熱供給8.3、ヒートポンプ11.8、ガス9.9

排出で見ると、いちばん少ないのは地域熱供給だ。論文は、この計算では、再生可能エネルギーでつくったことを示す電気の証明書が国外に売られる分を考えに入れているため、電気を使うヒートポンプや電気のヒーターの排出が高めに出ると説明している。エネルギーの量と排出は、別の物差しだ。

60%は、2軒のホテルの数字

60%は、140軒の平均ではない。CO2を冷媒にしたヒートポンプを入れた2軒の結果だ。

  • ホテルA:1990年に建った床面積1万3,500平方メートルのホテル。2019年11月に、海の水から熱を集めて約80℃のお湯をつくる、合計800キロワットのCO2ヒートポンプを入れた(それまでは電気のボイラー)。2019年のエネルギー全体は、それまでの4年の平均より26.3%減った。2020年の、新型コロナの影響がない月だけを選ぶと平均39.8%減で、これを1年に広げると、熱のエネルギーは約60%減る計算になる
  • ホテルB:床面積9,000平方メートル。2018年6月に、暖房とお湯と冷房をまかなう1台のCO2ヒートポンプを入れた。1年目の効果は小さかったが、2019年には、暖房とお湯の熱が2015〜2016年の平均より66.7%減った

つまり、60%は「熱」の数字で、ホテルAでは選んだ月から広げた見込みでもある。2軒とも、お湯をためるタンクを持ち、熱をためてから使う仕組みだった。

日本の「エコキュート」と同じ冷媒

CO2を冷媒にしたヒートポンプは、日本にもなじみがある。電力中央研究所によると、同研究所と東京電力、デンソーは2001年に、CO2を冷媒にした家庭用のヒートポンプ給湯機「エコキュート」を世界で初めて商品化した。2022年度末までに、国内で累計約876万台が普及している。

ヒートポンプの効率を測った研究は、ほかにもある。#245 で紹介した香港のホテルの屋上プールでは、電気1で約2の熱を届けていた。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿で、お湯をわかす熱が年8万キロワット時だとする。電気は1キロワット時30円とする。

  • 電気のボイラー(電気1で熱1):8万キロワット時で240万円
  • 年平均で電気1から熱3をつくるヒートポンプ:約2万6,667キロワット時で80万円。160万円の節約
  • 調整が終わらず、1年目は電気1から熱2しか出ないと:4万キロワット時で120万円。節約は120万円

1年目の数字だけで判断しないこと、そして電気の排出の数え方で、CO2の減り方は変わることも覚えておきたい。

物差しを書き添える

北欧の140軒の調査は、ヒートポンプのホテルがエネルギーを少なく使っていることを示した。一方で、その差は、床面積で割るか、客の数で割るかで大きく変わり、排出で見ると順位も入れかわる。

省エネの数字を伝えるときは、何で割ったのか、熱なのか全体なのか、測った数字なのか見込みなのかを、一緒に書いておきたい。

持ち帰れる知識

  • 省エネの割合は、床面積で割るか、客の数で割るかで大きく変わる
  • エネルギーが少なくても、排出が少ないとは限らない。電気の排出の数え方で変わる
  • 新しい設備は、1年目の効果が小さいことがある

宿で考えられること

  • エネルギーを、床面積あたりと客1人1泊あたりの両方で記録する
  • お湯をわかす熱の量を、季節ごとに把握する
  • ヒートポンプを入れたら、1年目と2年目の数字を分けて見る

事業・予約への接続

設備の更新を伝えるときは、「何%減」の数字に、何で割った数字かを添えると誤解がない。客1人1泊あたりのエネルギーは、泊まる人にも想像しやすい物差しだ。

Sources / 参考情報

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