屋根ではなく、駐車場に:米ベーカーズフィールドの「ハンプトン・イン」のソーラーカーポートと、「昼の発電、夜の充電」のずれ
米国カリフォルニア州のベーカーズフィールドは、ロサンゼルスから車で北へ2時間ほどの町だ。夏の昼間は、気温が華氏100度(約38℃)を超えることが多い。94室の「ハンプトン・イン&スイーツ・ベーカーズフィールド・ノース・エアポート」では、1日24時間、客室を快適に保つための冷暖房が、電気代のいちばん大きな部分を占めていた。
そこでホテルを運営する会社は、太陽光発電を考えた。選んだ場所は、屋根ではなく駐車場だった。米国エネルギー省(DOE)の「ベター・ビルディングス」が2015年に公開した事例をもとに、その理由と数字を読んでいく。
屋根に載せると、最上階を閉めることになる
事例によると、屋根にパネルを載せるには、工事の間、最上階の客室を閉める必要があった。その間の売り上げを失うことになる。駐車場の上に屋根をかけてパネルを載せる「ソーラーカーポート」なら、この問題を避けられ、客の車に日陰もできる。業界誌によると、日陰ができるのは30台分だ。
ただし、手続きは増えた。ホテルはヒルトンのブランドのフランチャイズなので、見た目を変えるにはヒルトンの承認が要る。また、地域の開発計画の区域にあるため、市の審査も受けた。どちらも順調に進んだという。
工事は駐車場の約75%を使ったが、ホテルは営業を続けた。ロビーに計画を説明する展示を置き、客はとてもよく理解してくれたと、事例は書いている。
事例の数字
- 完成:2014年7月
- 大きさ:102キロワット
- 年の発電量:15万7,080キロワット時
- 電気をまかなう割合:37〜44%
- 月の電気代の節約:8,800ドル
- 元が取れるまでの見込み:7.75年
- 電気自動車(EV)の充電器:2基。将来は8基まで増やせる
1キロワットあたりにすると、年に約1,540キロワット時。日差しの強い土地らしい発電量だ。
月8,800ドルは、太陽光だけの数字か
ここで、割り算をしてみる。15万7,080キロワット時を12か月で割ると、1か月に約1万3,090キロワット時。月8,800ドルをこれで割ると、1キロワット時あたり約67セントになる。
米国エネルギー情報局(EIA)によると、カリフォルニア州の電気の平均の小売価格は、2024年で1キロワット時27.04セントだ。2014年より電気代がずっと上がった2024年でも、67セントの半分に満たない。
事例をよく読むと、「省エネの工事と合わせて、電気代の最大44%をまかなう見込み」と書いている。購入の資金にも、太陽光と省エネの工事の両方が含まれていた。月8,800ドルには、太陽光以外の効果も入っている可能性がある。資料からは、その内訳は分からない。
発電は昼、泊まり客の充電は夜
ソーラーカーポートとEVの充電器は、よく一緒に紹介される。ただし、泊まり客の車は、たいてい夕方に着き、夜の間に充電し、朝に出ていく。太陽光が発電するのは昼だ。電気をためる設備がなければ、夜の充電に使われるのは、ほとんど電力会社の電気になる。
2026年10月に報じられた、カリフォルニア州の遊園地「シックス・フラッグス・マジック・マウンテン」の巨大なソーラーカーポート(1万2,370キロワット)は、2,000キロワットで約4時間出せる、8,000キロワット時の蓄電池を備えている。電力会社の送電網ともつながったままで、発電が足りないときは電気を買い、余ったときは送り出す。発電と使う時間のずれを、ためる設備と送電網で埋める仕組みだ。
日本では、駐車場の太陽光に国の補助がある
環境省は、駐車場を使った太陽光発電と充電設備の導入を補助している。2025年度の公募では、太陽光の設備は、電気を変換する装置(パワーコンディショナ)の出力1キロワットあたり8万円の定額で、出力は10キロワット以上が条件だった。CO2を1トン減らすのにかかる費用の上限も決められている。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室の宿の駐車場12台分に、30キロワットのソーラーカーポートをつくるとする。1キロワットあたり年1,050キロワット時を発電し、電気は1キロワット時30円とする。
- 発電:年3万1,500キロワット時
- 昼の厨房、洗濯、冷暖房で8割を使えば、2万5,200キロワット時、75万6,000円分
- 費用を1キロワット35万円として1,050万円。補助を8万円×30キロワットで240万円とすると810万円。元が取れるまで約10.7年
- 泊まり客のEVを年400回、1回20キロワット時充電すると8,000キロワット時。ほとんどが夜で、太陽光ではまかなえない
いつ発電し、いつ使うか
ハンプトン・インは、営業を止めずに太陽光を入れる方法として、駐車場を選んだ。屋根が使えない宿にとって、参考になる考え方だ。
一方で、節約の数字には省エネの効果が混ざっている可能性があり、EVの充電は夜に集まる。駐車場の太陽光を考えるときは、いつ発電し、いつ使うのかを、先に並べておきたい。
持ち帰れる知識
- 屋根の工事が難しいときは、駐車場という置き場所がある
- 節約額を発電量で割ると、太陽光以外の効果が混ざっていないか確かめられる。業者や報道の数字も、使う前に割り算で確かめたい
- 太陽光の発電は昼、泊まり客のEVの充電は夜。ためる設備がなければ時間がずれる
宿で考えられること
- 駐車場の台数と向きから、置けるパネルの大きさを業者に見積もってもらう
- 昼の時間帯に、宿でどれだけ電気を使っているかを調べる
- EVの充電器を置くなら、夜の充電の電気をどこから買うかを決める
事業・予約への接続
日陰のある駐車場とEVの充電器は、車で来る客にとって分かりやすい便利さだ。伝えるときは、太陽光の電気がどの時間に何に使われているかを正直に書くと、取り組みの中身が伝わる。
Sources / 参考情報
- U.S. Department of Energy, Better Buildings(英文) - 一石二鳥:ソーラーカーポートを入れる(PDF)(2015年11月1日)
裏付け: ロサンゼルスの北約2時間、夏は華氏100度超、冷暖房が最大の電気代、屋根では最上階を閉める必要、ヒルトンの承認と開発計画の区域の審査、駐車場の約75%、ロビーの展示、2014年7月、102kW、年15万7,080kWh、37〜44%、月8,800ドル、回収7.75年の見込み、省エネの工事と合わせて最大44%、94室、充電器2基(8基まで) - LODGING(英文) - ハンプトン・イン・ベーカーズフィールドがソーラーカーポートを公開(2014年7月31日)
裏付け: 102kW、94室、最大44%、月最大8,800ドル、30台分の日陰、充電器2基、2014年7月30日の式典 - U.S. Energy Information Administration(英文) - カリフォルニア州の電気の概要
裏付け: 2024年の平均小売価格 1キロワット時27.04セント - Electrek(英文) - シックス・フラッグスが米国最大級のソーラーカーポートを設置(2026年10月5日)
裏付け: カリフォルニア州最大のソーラーカーポート、12.37メガワット、2メガワット・8メガワット時の蓄電池(約4時間分)、南カリフォルニア・エジソンの送電網とつながったまま、不足時は購入し余剰は送り出す - 環境省 - 建物等における太陽光発電の新たな設置手法活用事業の公募開始(2025年5月8日)
裏付け: 駐車場を活用した太陽光発電設備(ソーラーカーポート等)と充電設備の導入支援 - 環境技術普及促進協会 - 建物等における太陽光発電の新たな設置手法活用事業(ソーラーカーポート等)
裏付け: パワーコンディショナの出力1kWあたり8万円の定額、出力10kW以上、費用効率性の上限(一般地域5万7,000円/tCO2)