ホテルの充電器は、1日何時間使われているか:米国の充電の会社が公表した「利用率11%」と「28%」の読み方
ロサンゼルスの「ミレニアム・ビルトモア・ホテル」は、2019年に電気自動車(EV)の充電器を10基置いた。#248 では、このホテルについて広まった「収益15%増」「直接予約27%増」という数字の出どころが見つからなかったことを書いた。
では、ホテルに置いた充電器は、実際どれくらい使われているのか。この記事では、米国のホテルの充電器の普及の調査と、充電の会社が公表した利用のデータを読む。
米国のホテルの4軒に1軒
米国ホテル・ロッジング協会(AHLA)の「グリーン・ロッジング・トレンド」2022年版の報告によると、充電器を置いているホテルは全体の26.6%だった。
- フルサービスのホテル:58.1%
- 宿泊に特化したホテル:20.4%
- 高級ホテル:89.6%
- 高速道路沿いや、小さな町のホテル:20%未満
この報告の調査は、約1万7,000の施設を対象にしている(イーブイ・コネクトの記事による)。高い価格帯ほど置いている割合が高い。一方で、車で移動する客が多そうな高速道路沿いのホテルは、割合が低かった。
「利用率」とは何か
充電サービスの会社イーブイ・コネクトは、自社の充電網につながるホテルのデータを、2回公表している。どちらも、同社の幹部が業界メディアに書いた記事だ。
同社は「利用率」を、充電器が使われている時間の割合と定義している。1日24時間のうち、何割の時間、車がつながっていたかを示す数字だ。
2023年の記事:利用率11%
2023年12月の記事では、68軒のホテルの22か月分のデータを調べている。
- 利用率の平均は約11%で、15%に向かって上がっている
- ホテルでは、最初は充電器1基あたり1日1〜2回の利用から始まることが多い
- 利用の回数は、平均で年64%増えている
- 利用の半分以上は、初めて使う運転者だった
- 有料で充電を提供しているホテルの、年の充電の収入は平均4,000ドル。上位1割は1万ドルを超える
2025年の記事:利用率28%
2025年1月の記事では、78軒のホテルの12か月分のデータを調べている。
- 利用率の平均は約28%
- 約73.1%のホテルが、有料で充電を提供している
- 利用の回数は、平均で月3.3%増えている
- 年の充電の収入は平均3,274ドル。上位1割は1万1,000ドル近い
2つの数字を、時間に直す
利用率を1日の時間に直すと、11%は約2.6時間、28%は約6.7時間になる。2年ほどで、充電器が使われる時間は大きく伸びたように見える。
ただし、2つの記事は、対象のホテルの数も、調べた期間もちがう。同じホテルを追いかけた数字ではない。また、利用率は上がったのに、平均の収入は4,000ドルから3,274ドルに下がっている。料金の設定や、つないだまま充電していない時間などが関わる可能性があるが、記事からは理由は分からない。
収入の数字は、ホテル1軒あたりの年の額で、充電器1基あたりではないことにも注意したい。記事は、充電の収入よりも、EVで旅する客をつなぎとめることのほうが大きいと書く。また、充電器のあるホテルは客室1室あたりの売り上げが高いと報告しているが、その数字は示していない。
何基置くか
2つの記事は、客の側の需要として、米国の調査会社JDパワーの調査を引いている。ホテルの客約4,000人のうち19%が、ホテルに充電器が必要だと答えたという。また、何基置くかの目安として、駐車場の5〜10%を充電できるようにすることを挙げている。地域の決まりで、もっと多く求められる場合もあるという。
会社のデータではない研究
充電の会社のデータとは別に、独立した研究もある。2024年に学術誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に載った研究は、カリフォルニア州の4,000を超える充電設備と、14万を超える店などのデータを分析した。
この研究によると、2019年には、充電設備ができても、近くのホテルでの支出にはっきりした効果は見られなかった。一方、2021年から2023年6月までは、普通充電器ができると、ホテルの売り上げがはっきり増えていた。研究者たちは、充電が必要なEVの運転者を引きつけたためではないかと考えている。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、宿の駐車場に出力6キロワットの普通充電器を1基置き、料金を1時間300円とする。使われている間は6キロワットで充電し、電気は1キロワット時30円とすると、1時間あたりの電気代は180円で、差し引き120円が残る。
- 利用率11%:年約964時間。差し引き約11万6,000円
- 利用率28%:年約2,453時間。差し引き約29万4,000円
利用率が2.5倍になれば、残る金額も2.5倍になる。実際には、充電が終わってもつないだままの時間があり、その間も時間で料金をもらうか、電気の量で料金をもらうかで、結果は変わる。
置いたあとに、利用率を見る
充電器を置くかどうかを考えるときは、「何%増えた」という宣伝の数字より、置いたあとに何時間使われているかを見たい。
利用率、1日の利用回数、初めて使う人の割合を毎月記録すれば、増やすか、料金を変えるかを、自分の宿の数字で決められる。
持ち帰れる知識
- 利用率は、充電器が使われている時間の割合
- 対象や期間がちがう数字は、そのまま比べられない
- 収入の数字が1軒あたりか、1基あたりかを確かめる
宿で考えられること
- 充電器を置いたら、利用率と1日の利用回数を毎月記録する
- 料金を、時間で取るか、電気の量で取るかを決める
- 充電を使った客が、また泊まりに来ているかを見る
事業・予約への接続
充電器の有無は、EVで旅する客が宿を選ぶ条件になりうる。予約の画面に、充電器の数と出力、料金、予約できるかどうかを書いておくと、客が迷わない。
Sources / 参考情報
- Hotel Management(英文) - EVの充電は、次に欠かせないホテルの設備(2023年12月20日、イーブイ・コネクトの幹部による寄稿)
裏付け: 68軒・22か月、利用率の平均約11%で15%に向かう、利用率の定義(使われている時間の割合)、1基1日1〜2回から始まる、JDパワーの調査で約4,000人の19%が必要と回答、AHLAの調査は1万7,000施設、利用回数が年64%増、半分以上が初めての運転者、有料充電の年平均4,000ドル・上位1割は1万ドル超、客室あたりの売り上げが高いという報告、駐車場の5〜10%を目安(地域の決まりでそれ以上も) - Hospitality Technology(英文) - EVの充電が、ホテルに新しい機会をもたらす(2025年1月13日、イーブイ・コネクトによる寄稿)
裏付け: 78軒・12か月、利用率の平均約28%、約73.1%が有料、月3.3%増、半分以上が初めての運転者、年平均3,274ドル・上位1割は1万1,000ドル近く - AHLA / Responsible Stay(英文) - グリーン・ロッジング・トレンド 2022年 米国市場の報告(PDF)
裏付け: 充電器のあるホテル26.6%、フルサービス58.1%、宿泊特化20.4%、高級89.6%、高速道路沿いや小さな町は20%未満 - Nature Communications(英文) - EVの充電設備が、地域の店の経済に与える効果(2024年9月4日)
裏付け: カリフォルニア州の4,000超の充電設備と14万超の店など、2019年はホテルでの支出に有意な効果なし、2021年〜2023年は普通充電器でホテルの売り上げが有意に増加、充電が必要な運転者を引きつけたためと考察 - Benzinga(PR Newswire、英文) - ヌードゥーが、ロサンゼルスの象徴的なミレニアム・ビルトモア・ホテルに充電器を設置(2019年11月19日)
裏付け: ミレニアム・ビルトモアに充電器を10基設置(#248 で紹介)