GOAL 6 · TARGET 6.4 水資源 4分 / 2227文字 同じ装置の数字を読み分ける型 #270

「あなたは時計に勝てるか」:ホテルのシャワーの時間を表示する小さな装置と、論文の25.79%、会社の21.27%

シャワー室の壁に、小さな表示板がある。水を出すと数字が進み、止めると止まる。その横に、こんな言葉が貼ってある。「水は命に欠かせない。ここでのふつうのシャワーは、水が3分30秒流れています。あなたは時計に勝てるか?」

これは、デンマークの会社アグアディオの装置を使った研究で、実際にホテルのシャワー室に貼られた言葉だ。この記事では、同じ装置について出ている、論文の数字と会社の資料の数字を並べて読む。

論文:6つの宿で、1万7,500回のシャワー

英国のサリー大学などの研究者たちは、2024年に学術誌『ジャーナル・オブ・トラベル・リサーチ』に論文を出した(2025年の64巻)。

研究は、デンマーク、スペイン、英国の6つの宿で行われた。スペインの浜辺のホテルや、デンマークの街のホステルなどだ。期間は、2019年7月から2020年2月まで。装置はどのシャワー室にも置き、時間を表示するグループと、表示せずに記録だけするグループを比べた。客には実験であることを知らせずに行い、1万7,500回を超えるシャワーのデータを集めた。

結果は、次のとおりだった。

  • 水が流れている時間を表示するだけで、シャワーの時間は25.79%短くなった
  • 最も効いた言葉と組み合わせると、23.55%短くなった

ただし、25.79%には、8.24〜39.98%という広い幅(信頼区間)がついている。一方、言葉と組み合わせた23.55%の幅は、17.53〜29.13%と狭い。平均の数字だけでなく、その幅も見ておく必要がある。

言葉は、どう選ばれたのか

研究者たちは、4つの呼びかけの言葉と、1つの説明の言葉を用意した。呼びかけの言葉は、二つの点で組み合わせを変えた。

  • 環境のためか(「水は命に欠かせない」)、自分のためか(「気分よく過ごせる」)
  • 目標を3分30秒にするか、4分50秒にするか

目標の時間は、ある宿で6週間、2,060回のシャワーを測った予備の調査をもとに決めた。そのときの平均は342秒、つまり5分42秒だった。

最も効いたのは、環境のためを訴え、目標を厳しい3分30秒にした組み合わせだった。冒頭の言葉が、それにあたる。

会社の資料:7つの宿で、2万5,488回

一方、英国グリーンビルディング協会(UKGBC)のサイトに、2023年11月に載ったアグアディオの紹介では、数字がちがう。

  • ヨーロッパと北米の7つの宿で、2万5,488回を超えるシャワーを測った
  • シャワーの時間は平均13.56%短くなり、最も効いた言葉では21.27%短くなった
  • 1室あたり年に、水4.44立方メートル、エネルギー0.19メガワット時、CO2 33キログラムの節約になる
  • 家庭では最大30%、観光の宿では21%短くなる
  • 器具を取り替える必要がなく、両面テープで60秒かからずに取り付けられる

デンマークのオーフス大学のサイトも、デンマーク、スペイン、英国、米国のホテルで2万5,488回を測ったと紹介している。ただし、こちらは4.44立方メートルなどの節約を「1回のシャワーにつき年あたり」と書いており、UKGBCの「1室あたり年」と書き方がちがう。

3つの数字を並べる

同じ研究者たちは、2019年にも、ホテルの客1,962回のシャワーを調べ、表示だけで12.06%短くなったと報告している。

  • 2019年の研究:12.06%(1,962回)
  • 2024年の論文:表示だけで25.79%、言葉と組み合わせて23.55%(6つの宿、1万7,500回超)
  • 会社の資料:平均13.56%、最も効いた言葉で21.27%(7つの宿、2万5,488回)

会社の資料は、北米の宿を含み、宿の数もシャワーの回数も、論文より多い。同じ装置でも、対象がちがえば、数字は変わる。どれか一つを「効果」として引くときは、どの調査の数字かを書き添えたい。

装置を使わない方法も

2026年には、同じ学術誌に、砂時計を使う研究も出た。電子の表示は費用がかかり、客が「見られている」と感じるおそれもある。そこで、3分・5分・7分の砂時計を置き、客に選んでもらう方法を考えた。

この研究は、1,000人に「使うつもりがあるか」を聞いた実験で、実際のシャワーの時間を測ったものではない。水を、悲しんでいる人のように表した言葉と組み合わせると、使うつもりや、砂が落ちたら止めるつもりが、最も高かった。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室、稼働率70%、年5,110室泊の宿で、1室1泊あたり1.6回シャワーが使われるとする。年8,176回だ。1回6分、毎分9リットルとすると、1回54リットルになる。

  • 12.06%短くなる:1回約6.5リットル、年約53.2立方メートル
  • 21.27%短くなる:1回約11.5リットル、年約93.9立方メートル
  • 25.79%短くなる:1回約13.9リットル、年約113.9立方メートル

水道代を1立方メートル600円、お湯を沸かす費用を400円とし、合計1,000円とすると、年約5.3万円から11.4万円になる。どの数字を使うかで、見込みは2倍以上ちがう。

自分の宿で測る

この装置は、シャワーの時間を記録できる。置くなら、まず数部屋で、表示のある部屋とない部屋を比べてみる。論文や会社の数字ではなく、自分の宿の数字で、効果を確かめられる。

持ち帰れる知識

  • シャワーの時間を表示するだけで、短くなることがある
  • 同じ装置でも、調査によって数字がちがう
  • 平均だけでなく、幅(信頼区間)も見る

宿で考えられること

  • 数部屋で、表示のある部屋とない部屋を比べる
  • 目標の時間は、自分の宿のふつうのシャワーの時間をもとに決める
  • 言葉は、環境のためを訴えるものから試す

事業・予約への接続

客に我慢を求めるのではなく、「時計に勝てるか」という遊びの形にすると、受け入れられやすい。客室の案内で、装置の目的と、記録をどう使うかを説明しておくと、見られている不安を減らせる。

Sources / 参考情報

  • Journal of Travel Research(英文) - 宿のシャワーの時間を減らす:リアルタイムの表示と呼びかけの言葉の実験(2024年、64巻)
    裏付け: デンマーク・スペイン・英国の6つの宿、客に知らせない実験、1万7,500回超、表示だけで25.79%(8.24〜39.98%)、言葉と組み合わせて23.55%(17.53〜29.13%)、4つの呼びかけの言葉と1つの説明の言葉、3分30秒と4分50秒、アグアディオの装置、予備調査2,060回・平均342秒、2019年7月〜2020年2月、浜辺のホテルや街のホステル
  • University of Surrey(英文) - パブロ・ペレイラ=ドエル博士の研究業績
    裏付け: 2019年の研究で12.06%短縮(1,962回)、2024年の論文の概要
  • UKGBC(英文) - 水の使用を減らすシャワーのセンサー(2023年11月掲載)
    裏付け: ヨーロッパと北米の7つの宿、2万5,488回超、平均13.56%・最も効いた言葉で21.27%、1室あたり年4.44立方メートル・0.19メガワット時・33キログラム、家庭で最大30%・観光で21%、60秒かからずに取り付け
  • Aarhus University(英文) - アグアディオ(事例)
    裏付け: デンマーク・スペイン・英国・米国のホテルで2万5,488回、表示で13.56%、言葉を加えて21.27%、4.44立方メートルなどを「1回のシャワーにつき年あたり」と記載
  • Journal of Travel Research(英文) - ホテルのシャワーに砂時計を:自分で選ぶリアルタイムの表示で水の使用を減らせるか(2026年)
    裏付け: 電子の表示は費用とプライバシーの懸念、3分・5分・7分の砂時計、1,000人の意向を聞く実験、悲しそうな水の擬人化の言葉の組み合わせが最もよい

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