GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 3分 / 2088文字 1台で温めて冷やす型 #272

冷やしたときの熱で、お湯をわかす:ノルウェーの「スカンジック・ヘル」の1台のCO2ヒートポンプと、「63%」「44%」の読み方

ノルウェー中部、トロンハイム空港のあるヴァーネスに、「スカンジック・ヘル」というホテルがある。2018年6月、このホテルの暖房とお湯をまかなってきた電気のボイラーと石油のボイラーが、1台の機械に置きかえられた。CO2を冷媒に使うヒートポンプだ。この機械は、暖房とお湯に加えて、建物の冷房もまかなう。

ノルウェー科学技術大学(NTNU)の研究者たちは、この機械の1年分のデータを調べ、2020年に論文にまとめた。#262 では、北欧の140軒のホテルの研究と、CO2ヒートポンプを入れた2軒の数字を読んだ。この記事では、1軒のホテルに絞って、仕組みと数字を見ていく。

1台で、温めて冷やす

論文によると、ホテルは1987年に建ち、床面積は約9,000平方メートル、客室は157室だ。置きかえる前の熱の需要は、年に約1.2ギガワット時だった。

入れた機械は、スーパーマーケットの冷蔵設備を、ホテル向けに作りかえたものだ。暖める力は280キロワット、冷やす力は75キロワットある。

ヒートポンプは、冷やすときに、奪った熱を外に捨てる。この機械は、その熱を捨てずに、暖房やお湯に使う。NTNUの研究者は、SINTEF(ノルウェーの研究機関)のブログで、こう説明している。「冷やす必要があるとき、ふつうなら捨てられる熱を取り出してためておき、必要なときに必要な場所で使う」。

6立方メートルのお湯のタンク

SINTEFのブログによると、ホテルのお湯の使い方には、一般に朝早くと夜遅くの二つの山がある。そこでホテルは、6立方メートルのお湯のタンクを置いた。論文によると、満タンのときにためられる熱は350キロワット時で、2日間の測定では、ピークの電力を100キロワット以上下げた。

1年間の測定の結果は、次のとおりだった。

  • お湯は、ホテルの年間の熱の需要の52%を占めた
  • 機械全体の年間の効率(SCOP)は2.90だった。電気1に対して、2.9の熱を届けたことになる
  • 置きかえた後の熱の需要は、年に約1ギガワット時に下がった

論文は、改善の余地も挙げている。冷房の仕事をもっとこの機械に任せれば、捨てずに使える熱が増え、効率が上がる。また、ホテルの配管から戻ってくる水の温度が高いと、効率が下がる。機械の止めたり動かしたりを減らし、タンクの中のお湯の温度の層を保つことが大切だという。

63%と44%は、何の数字か

SINTEFのブログ(2020年5月)は、このホテルの成果をこう紹介している。

  • 運転を始めて2年で、暖房と冷房に使う電気が63%減った
  • これは、平均的なホテルなら、電気の全体の44%にあたる

ここで気をつけたいのは、44%はこのホテルで測った電気の全体の削減ではなく、「平均的なホテルなら」という換算だということだ。機械をつくった会社アドヴァンソルの事例紹介も、同じ二つの数字を並べている。

このホテルについては、ほかにも数字がある。論文によると、運転を始めて6か月の時点では、月ごとの省エネの見込みは59〜69%だった。また、#262 で読んだ140軒の研究の「ホテルB」は、床面積9,000平方メートル、2018年6月に1台のCO2ヒートポンプを入れたという条件が、このホテルと同じだ。そのホテルBは、2019年に暖房とお湯の熱が66.7%減っている。

期間も、測る範囲もちがうので、どれか一つを「このホテルの数字」として選ぶことはできない。

SCOP 2.90 から確かめる

63%という数字は、効率からも確かめられる。仮に、電気のボイラーが電気1から熱1をつくっていたとすると、同じ熱をSCOP 2.90の機械でつくれば、電気は1÷2.9で約34%ですむ。約66%の削減になり、63%に近い。

ただし、以前は石油のボイラーも使っていたので、これはあくまで目安の計算だ。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、電気でお湯と暖房をまかなう宿が、年10万キロワット時の熱を使っているとする。電気は1キロワット時30円で、今は電気1から熱1をつくっているとすると、年300万円だ。

  • 効率2.9のヒートポンプにした場合:電気は約3万4,483キロワット時、約103万4,000円。差し引き年約196万6,000円の節約
  • 戻りの水の温度が高いなどで、効率が2.0にとどまった場合:電気は5万キロワット時、150万円。節約は年150万円

効率が2.9か2.0かで、節約は年約46万6,000円ちがう。SINTEFのブログは、この技術はまだ既製品として広く出回っていないため、投資の回収には3〜7年かかるとしている。

冷やす仕事と、温める仕事を合わせる

スカンジック・ヘルの例は、冷房で捨てていた熱をお湯と暖房に回すと、電気を大きく減らせることを示した。同時に、効率は、お湯のタンクの使い方や、戻ってくる水の温度で変わる。

宿で検討するなら、まず、一日のうちいつ冷房とお湯が必要になるかを調べたい。冷やす仕事と温める仕事が重なるほど、この仕組みは生きる。

持ち帰れる知識

  • 冷やすときに出る熱を、お湯と暖房に回せる
  • お湯のタンクで、朝と夜のピークをならせる
  • 「平均的なホテルなら」の数字は、そのホテルで測った数字とは別もの

宿で考えられること

  • 冷房とお湯が、一日のいつ必要になるかを調べる
  • お湯のタンクの大きさと、温度の層を保つ置き方を検討する
  • 入れた後は、効率(電気1でどれだけの熱か)を毎月記録する

事業・予約への接続

ボイラーの燃料をやめたことは、取り組みとして説明しやすい。数字を伝えるときは、「暖房と冷房の電気の63%」のように、何の何%かを添えたい。

Sources / 参考情報

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