冷やしたときの熱で、お湯をわかす:ノルウェーの「スカンジック・ヘル」の1台のCO2ヒートポンプと、「63%」「44%」の読み方
ノルウェー中部、トロンハイム空港のあるヴァーネスに、「スカンジック・ヘル」というホテルがある。2018年6月、このホテルの暖房とお湯をまかなってきた電気のボイラーと石油のボイラーが、1台の機械に置きかえられた。CO2を冷媒に使うヒートポンプだ。この機械は、暖房とお湯に加えて、建物の冷房もまかなう。
ノルウェー科学技術大学(NTNU)の研究者たちは、この機械の1年分のデータを調べ、2020年に論文にまとめた。#262 では、北欧の140軒のホテルの研究と、CO2ヒートポンプを入れた2軒の数字を読んだ。この記事では、1軒のホテルに絞って、仕組みと数字を見ていく。
1台で、温めて冷やす
論文によると、ホテルは1987年に建ち、床面積は約9,000平方メートル、客室は157室だ。置きかえる前の熱の需要は、年に約1.2ギガワット時だった。
入れた機械は、スーパーマーケットの冷蔵設備を、ホテル向けに作りかえたものだ。暖める力は280キロワット、冷やす力は75キロワットある。
ヒートポンプは、冷やすときに、奪った熱を外に捨てる。この機械は、その熱を捨てずに、暖房やお湯に使う。NTNUの研究者は、SINTEF(ノルウェーの研究機関)のブログで、こう説明している。「冷やす必要があるとき、ふつうなら捨てられる熱を取り出してためておき、必要なときに必要な場所で使う」。
6立方メートルのお湯のタンク
SINTEFのブログによると、ホテルのお湯の使い方には、一般に朝早くと夜遅くの二つの山がある。そこでホテルは、6立方メートルのお湯のタンクを置いた。論文によると、満タンのときにためられる熱は350キロワット時で、2日間の測定では、ピークの電力を100キロワット以上下げた。
1年間の測定の結果は、次のとおりだった。
- お湯は、ホテルの年間の熱の需要の52%を占めた
- 機械全体の年間の効率(SCOP)は2.90だった。電気1に対して、2.9の熱を届けたことになる
- 置きかえた後の熱の需要は、年に約1ギガワット時に下がった
論文は、改善の余地も挙げている。冷房の仕事をもっとこの機械に任せれば、捨てずに使える熱が増え、効率が上がる。また、ホテルの配管から戻ってくる水の温度が高いと、効率が下がる。機械の止めたり動かしたりを減らし、タンクの中のお湯の温度の層を保つことが大切だという。
63%と44%は、何の数字か
SINTEFのブログ(2020年5月)は、このホテルの成果をこう紹介している。
- 運転を始めて2年で、暖房と冷房に使う電気が63%減った
- これは、平均的なホテルなら、電気の全体の44%にあたる
ここで気をつけたいのは、44%はこのホテルで測った電気の全体の削減ではなく、「平均的なホテルなら」という換算だということだ。機械をつくった会社アドヴァンソルの事例紹介も、同じ二つの数字を並べている。
このホテルについては、ほかにも数字がある。論文によると、運転を始めて6か月の時点では、月ごとの省エネの見込みは59〜69%だった。また、#262 で読んだ140軒の研究の「ホテルB」は、床面積9,000平方メートル、2018年6月に1台のCO2ヒートポンプを入れたという条件が、このホテルと同じだ。そのホテルBは、2019年に暖房とお湯の熱が66.7%減っている。
期間も、測る範囲もちがうので、どれか一つを「このホテルの数字」として選ぶことはできない。
SCOP 2.90 から確かめる
63%という数字は、効率からも確かめられる。仮に、電気のボイラーが電気1から熱1をつくっていたとすると、同じ熱をSCOP 2.90の機械でつくれば、電気は1÷2.9で約34%ですむ。約66%の削減になり、63%に近い。
ただし、以前は石油のボイラーも使っていたので、これはあくまで目安の計算だ。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、電気でお湯と暖房をまかなう宿が、年10万キロワット時の熱を使っているとする。電気は1キロワット時30円で、今は電気1から熱1をつくっているとすると、年300万円だ。
- 効率2.9のヒートポンプにした場合:電気は約3万4,483キロワット時、約103万4,000円。差し引き年約196万6,000円の節約
- 戻りの水の温度が高いなどで、効率が2.0にとどまった場合:電気は5万キロワット時、150万円。節約は年150万円
効率が2.9か2.0かで、節約は年約46万6,000円ちがう。SINTEFのブログは、この技術はまだ既製品として広く出回っていないため、投資の回収には3〜7年かかるとしている。
冷やす仕事と、温める仕事を合わせる
スカンジック・ヘルの例は、冷房で捨てていた熱をお湯と暖房に回すと、電気を大きく減らせることを示した。同時に、効率は、お湯のタンクの使い方や、戻ってくる水の温度で変わる。
宿で検討するなら、まず、一日のうちいつ冷房とお湯が必要になるかを調べたい。冷やす仕事と温める仕事が重なるほど、この仕組みは生きる。
持ち帰れる知識
- 冷やすときに出る熱を、お湯と暖房に回せる
- お湯のタンクで、朝と夜のピークをならせる
- 「平均的なホテルなら」の数字は、そのホテルで測った数字とは別もの
宿で考えられること
- 冷房とお湯が、一日のいつ必要になるかを調べる
- お湯のタンクの大きさと、温度の層を保つ置き方を検討する
- 入れた後は、効率(電気1でどれだけの熱か)を毎月記録する
事業・予約への接続
ボイラーの燃料をやめたことは、取り組みとして説明しやすい。数字を伝えるときは、「暖房と冷房の電気の63%」のように、何の何%かを添えたい。
Sources / 参考情報
- International Journal of Refrigeration(英文) - ホテルの冷暖房とお湯をまかなうCO2の統合システム:実測と性能の評価(2020年8月、116巻)
裏付け: ノルウェーのホテル(ヴァーネス)、約9,000平方メートル・157室・1987年築、熱の需要は約1.2ギガワット時から約1ギガワット時、2018年6月に電気と石油のボイラーを置きかえ、最初の6か月で月59〜69%の省エネの見込み、暖房280キロワット・冷房75キロワット、スーパーの冷蔵設備を作りかえ、6立方メートルのタンク・350キロワット時・ピーク100キロワット超の削減、お湯が熱の需要の52%、SCOP 2.90、冷房の仕事を増やす余地、戻り水の温度・発停・温度の層 - SINTEF(英文) - ホテルはどうすればエネルギーの請求額を大きく減らせるか(2020年5月11日)
裏付け: 2018年に最初の「オールインワン」のCO2ヒートポンプ、2年で暖房と冷房の電気63%減、平均的なホテルなら電気全体の44%、研究者の説明(捨てる熱をためて使う)、お湯は一般的なホテルのエネルギーの40〜70%で朝と夜に山、タンクでピークをならす、回収は3〜7年 - Advansor(英文) - スカンジック・ヘルが、ヒートポンプでエネルギーを63%削減
裏付け: 施工はケルヴィン社、製品はSteelX、冷暖房の熱回収、タンクでピークに対応、2年で暖房と冷房のエネルギー63%減、平均的なホテルなら電気全体の44%、石油やガスのボイラーが不要 - NTNU TekNat(英文) - 寒い国の暖かいホテル:CO2ヒートポンプでエネルギーを減らす(以前の掲載・現在は表示されない。インターネット・アーカイブの2021年4月12日の保存)(2021年4月12日)
裏付け: 北欧の140軒の研究、CO2ヒートポンプの2軒で熱のエネルギーが約60%減(#262 で紹介。ホテルBの66.7%は同じ研究の論文による) - NTNU(英文) - アーミン・ハフナー教授の研究業績
裏付け: 2019年の「スカンジナビアのホテルで初めての、CO2ヒートポンプ・冷房・給湯を合わせたシステムの紹介」など、このホテルに関わる研究の一覧