雨水の設備を、1年足らずで半分回収:カトマンズの17室のホテル「ヘランヤ」の数字を、町の水事情から読む
ネパールの首都カトマンズ。かつての王宮、ナラヤンヒティ宮殿の裏に、17室の「ホテル・ヘランヤ」がある。2階建ての邸宅を改装した宿で、公式サイトによると、1980年代にはWHO(世界保健機関)やユニセフが使っていた建物だ。
このホテルは、屋根に降った雨を集めてろ過する設備を入れた。ろ過の装置を手がけたネパールの水の会社「スマートパーニ」の紹介ページは、雨水で年に最大20万リットルの水がまかなえ、1年足らずで初期費用の50%を回収したと伝えている。
なぜ、それほど早く回収できたのだろうか。答えの手がかりは、カトマンズの水事情にある。
会社の紹介ページに書かれていること
スマートパーニの紹介ページ(日付は書かれていない)によると、ホテルは「約1年前」に雨水の設備を入れた。
- 雨のおかげで、年に最大2ラク(20万)リットルの水を「無料で」使える。ラクは、南アジアで使われる10万を表す単位だ
- ホテルを切り盛りするスニル・シャキャ氏によると、ホテルで使う水10万リットルごとに、2万4,000ネパール・ルピーを節約している
- 同じ会社が、地下水をろ過する装置も置いた。乾季には、この装置が地下水を使える水に変える
ホテルのオーナー、マヘンドラ・サキャ氏はこう話している。「以前はとても簡単なろ過装置で、水は掃除に使うだけだった。カトマンズで装置を扱う5〜6社と話をして、スマートパーニに決めた」。
ホテルの中にあるレストラン「ザ・ベント・フォーク」は、ホテルの厨房も兼ねている。シェフは、処理した雨水と地下水を食器洗いに使い、料理に使うこともあるという。
「1年足らずで50%」と「1年以内」
このページには、二つの書き方が並んでいる。本文は「1年足らずで、初期費用の50%を回収した」。一方、ページの見出しは「投資の回収:1年以内」だ。
1年足らずで半分を回収したのなら、同じペースでは全額の回収に2年近くかかる計算になる。どちらが正しいのかは、このページからは分からない。この記事では、本文の「1年足らずで50%」を使う。
1立方メートルあたり240ルピー
数字を計算しなおしてみる。10万リットルは100立方メートルなので、10万リットルで2万4,000ルピーは、1立方メートルあたり240ルピーにあたる。雨水が年20万リットルなら、年4万8,000ルピーの節約になる計算だ。
ただし、この節約が何と比べた額なのかは、ページに書かれていない。比べるために、2018年の学術論文を見てみる。論文によると、当時のカトマンズの水道会社KUKLの料金は、平均で1立方メートル15.59ルピーで、運営に必要な料金として42.73ルピーが提案されていた。
240ルピーは、この水道料金よりずっと高い。そこで考えられるのは、水道の水ではなく、もっと高い水と比べた額ではないかということだ。同じ論文によると、カトマンズの家庭は、足りない水を井戸や給水車の水で補っている。ただし、ホテルが何と比べたのかは、資料からは確かめられない。
水が足りない町
スマートパーニのブログ(2020年ごろ)は、カトマンズの水事情をこう説明している。
- カトマンズの水の需要は1日に約4億リットル。KUKLが供給できるのは、すべてが動いているときで1日約1億2,000万リットル
- 遠くの川から水を引く「メラムチ給水計画」は、第1期で1日約1億7,000万リットルを供給する
- 地下水の水位は、年に約80センチメートル下がっている
ネパールの新聞カトマンズ・ポストによると、メラムチの水は2023年6月、雨季の洪水でトンネルが傷むおそれがあるとして止められ、2024年1月に7か月ぶりに再開された。水の供給は、今も安定しているとはいえない。
水が高く、手に入りにくい町では、屋根に降る雨の価値が上がる。ヘランヤの回収が早かったのは、こうした事情があったからだと考えられる。
20万リットルを集めるには
同じブログは、集められる雨水の量を次の式で示している。「年の雨量(メートル)×屋根の面積×係数×1,000」。係数は、平らな屋根なら0.8だ。カトマンズの年の雨量は、直近3年で約1,666ミリメートルだった。
この式で計算すると、20万リットルを集めるには、約150平方メートルの屋根が必要になる。ブログも、1アナ(31.79平方メートル)の屋根で、年に約4万2,000リットル集められるとしている。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、屋根が120平方メートル、年の雨量1,500ミリメートルの地域の宿を考える。
- 集められる雨水:1.5×120×0.8で、年144立方メートル
- 水道の水1立方メートル600円と比べると、年8万6,400円の節約
- 工事に100万円かかるとすると、回収には約11.6年かかる
日本の水道料金は、カトマンズのホテルが比べた水の値段(1立方メートル240ルピー)とは条件がちがう。同じ設備でも、回収の早さは、その土地の水の値段と雨の量で大きく変わる。
雨水の価値は、土地で決まる
ヘランヤの例は、雨水の設備の価値が、その町で水がどれだけ高く、手に入りにくいかで決まることを示している。宿で雨水を考えるときは、まず、屋根の面積と雨の量から集められる量を計算し、今の水の値段と比べてみたい。
持ち帰れる知識
- 雨水の設備の回収の早さは、その土地の水の値段で大きく変わる
- 集められる量は「雨量×屋根の面積×係数」で見積もれる
- 「何と比べた節約か」を確かめる
宿で考えられること
- 屋根の面積と、地域の年の雨量から、集められる量を計算する
- 雨水を使う先(掃除、散水、トイレなど)を決める
- ろ過装置の手入れの費用も、回収の計算に入れる
事業・予約への接続
雨水の利用は、宿の取り組みとして見せやすい。数字を伝えるときは、「年に何リットル」「何と比べて」を添えたい。
Sources / 参考情報
- SmartPaani(英文) - ホテル・ヘランヤ(導入事例)
裏付け: ナラヤンヒティ宮殿の裏、約1年前に雨水の設備、地下水のろ過装置、年に最大2ラクリットルを無料で、スニル・シャキャ氏の10万リットルごとに2万4,000ルピー、オーナーのマヘンドラ・サキャ氏の言葉(以前は掃除用、5〜6社と話をした)、1年足らずで初期費用の50%、ザ・ベント・フォークの食器洗いと料理、見出しの「1年以内」 - Hotel Heranya(英文) - 公式サイト
裏付け: 2階建ての邸宅、17室、80年代にWHOやユニセフ、雨水の急速砂ろ過、太陽熱の給湯、電気自動車の充電設備、テジ・バワンの所在地 - SmartPaani(英文) - 集めた雨水は飲めるか(2020年ごろ)
裏付け: 需要は1日約4億リットル、KUKLは約1億2,000万リットル、メラムチ第1期は約1億7,000万リットル、地下水位は年約80センチメートル低下、年の雨量約1,666ミリメートル、1アナ(31.79平方メートル)で年約4万2,000リットル、集められる量の式と係数0.8 - Water(英文、学術誌) - メラムチ給水計画のあとの水の価格(2018年2月28日)
裏付け: KUKLの平均の水の価格は1立方メートル15.59ルピー、運営に必要な価格として42.73ルピーを提案、家庭は井戸や給水車の水などで不足を補う - The Kathmandu Post(英文) - カトマンズにメラムチの水がふたたび届き始めた(2024年1月16日)
裏付け: 2023年6月に洪水でトンネルが傷むおそれから供給を止め、7か月ぶりに再開