984枚のパネルを、隠さずに屋根にする:モルディブの15棟の島「クダドゥ」の太陽光と、公表された数字の読み方
モルディブの北部、ラヴィヤニ環礁に、15棟の客室だけを持つ小さな島のリゾート「クダドゥ・モルディブ・プライベート・アイランド」がある。2018年の暮れに開業が伝えられたこの島では、客室は砂の浅瀬に建ち、ほかに「ザ・リトリート」という大きな共用の建物がある。この建物の屋根は、太陽光パネルでできている。
設計したのは、ニューヨークを拠点にする建築家ユウジ・ヤマザキ氏の事務所だ。この記事では、パネルを「見せる」という考え方と、公表されている発電の数字を読んでいく。
隠すパネルから、見せるパネルへ
米CNNの旅行の記事(2022年9月)によると、モルディブでは太陽光が広がりつつあるが、多くのホテルはパネルを建物の陰に隠していた。ヤマザキ氏はそれを好まず、チームでパネルを設計し、建物のデザインに組み込んだ。
「大きな共用の建物を一つ設計して、その屋根を太陽光にすることにした。必要な電気を計算すると、その広さで島全体の電気をまかなえた」とヤマザキ氏は話している。同じ記事は、クダドゥを「国内で唯一、完全に太陽光で動くプライベート・アイランド」と紹介している。
公式サイトの数字
リゾートの公式サイトは、太陽光の設備をこう説明している。
- ザ・リトリートの屋根に984枚のパネル
- パネルの面積は1,643平方メートル
- 最大の出力は320キロワット
- 発電できる量は年575メガワット時
開業のころの技術系のニュースサイト「ニューアトラス」(2018年12月)は、同じ320キロワットという数字を伝え、設備の初期費用は5年で回収できる見込みだとしている。一方、ホテル業界の専門サイト「ホテル・マネジメント」(2019年1月)は、「約1,000枚のパネルで300キロワット」と書いている。記事によって数字が少しちがうので、この記事では公式サイトの数字を使う。
数字どうしを割ってみる
公式の数字どうしを割ると、設備のようすが見えてくる。
- 320キロワット÷984枚で、パネル1枚あたり約325ワット
- 1,643平方メートル÷320キロワットで、1キロワットあたり約5.1平方メートル
- 575メガワット時÷320キロワットで、1キロワットあたり年約1,800キロワット時
最後の数字は、比べる相手がある。2023年に学術誌『アイサイエンス』に載った論文は、モルディブの三つのリゾートの水上ヴィラの屋根に太陽光を載せた場合を試算している。その結果を同じように割ると、1キロワットあたり年約1,440〜1,510キロワット時になる。
クダドゥの約1,800キロワット時は、それより2割ほど多い。屋根の向きや角度などの条件がちがうので、単純には比べられない。ただ、公式の575メガワット時が、実際に測った量なのか、設計のときの見込みなのかは、サイトには書かれていない。
回収の見込みも、並べてみる
回収の年数も、比べる相手がある。同じ『アイサイエンス』の論文は、三つのリゾートで水上ヴィラの屋根に太陽光を載せた場合、25年間の利益はそれぞれ486万ドル、152万ドル、290万ドルになり、回収には6〜7年かかると試算している。
クダドゥの「5年で回収」は、開業のころの見込みとして伝えられた数字だ。論文の試算より少し短い。発電量を多く見込めば、回収の年数は短くなる。公式の年575メガワット時と「5年で回収」は、どちらも発電量の見込みに左右される数字だ。開業から年月がたった今、実際に何年で回収できたのかが分かれば、ほかのリゾートにとっても参考になる。
夜の電気は、書かれていない
もう一つ、資料から分からないことがある。太陽光は昼にしか発電しない。夜の電気を、蓄電池などでどうまかなっているのかは、公式サイトにも、ここで読んだ記事にも書かれていない。「完全に太陽光で動く」という言葉の中身を確かめるには、この点の説明が必要だ。
電気を減らす建物
ホテル・マネジメントによると、建物の形は、一日を通して電気を減らすように考えられている。
- 客室も共用の建物も、天井までの窓を開けて、風を通せる
- 客室の屋外のデッキの半分以上は、日中に少なくとも5時間、日陰になる
- 客室の間には、日差しと視線をさえぎる格子を置いた
発電を増やすだけでなく、冷房に頼る時間を減らす。屋根の広さで電気をまかなえたのは、こうした工夫と組み合わせたからだと考えられる。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、宿が屋根に10キロワットの太陽光を載せるとする。
- クダドゥと同じ1キロワットあたり約5.1平方メートルなら、必要な屋根は約51平方メートル
- 1キロワットあたり年1,100キロワット時発電すると、年1万1,000キロワット時。電気を1キロワット時30円で買っているなら、年33万円分
- もし業者の見積もりが「年1万5,000キロワット時」なら、1キロワットあたり1,500キロワット時になる。地域の平均と比べて高すぎないかを確かめたい
見せる設備は、説明できる設備に
クダドゥは、パネルを隠さず、建物の顔にした。客が目にする設備だからこそ、何キロワットで、年にどれだけ発電し、夜はどうしているのかを説明できると、取り組みはもっと伝わる。
宿で太陽光を検討するときも、「発電量÷設備の大きさ」を計算して、見積もりを確かめたい。
持ち帰れる知識
- パネルを隠さず、建物のデザインにできる
- 「発電量÷設備の大きさ」で、数字が妥当かを確かめられる
- 「完全に太陽光」というときは、夜の電気の説明も必要
宿で考えられること
- 屋根の広さから、載せられる設備の大きさを見積もる
- 見積もりの発電量を、1キロワットあたりに直して確かめる
- 日陰や風通しで、冷房の電気を減らす
事業・予約への接続
客の目に入る太陽光は、宿の取り組みを伝える道具になる。数字を伝えるときは、設備の大きさと年の発電量を並べて書きたい。
Sources / 参考情報
- Kudadoo Maldives Private Island(英文) - 環境への取り組み(公式サイト)
裏付け: ザ・リトリートの屋根に984枚のパネル、1,643平方メートル、年575メガワット時、最大320キロワット、太陽だけで動くとの説明 - CNN(英文) - 国で最も低い土地に、持続可能なリゾートを建てる難しさ(2022年9月20日)
裏付け: パネルを隠すホテルが多い中で、自分たちで設計して建物に組み込んだ、国内で唯一の完全に太陽光で動くプライベート・アイランド、ヤマザキ氏の言葉(大きな共用の建物の屋根で島の電気をまかなえる) - New Atlas(英文) - 太陽光で動く島のリゾートがモルディブに開業(2018年12月28日)
裏付け: 320キロワットの設備、ディーゼルなどの追加の電気が不要、初期費用は5年で回収の見込み、デッキの5時間以上の日陰と風通し - Hotel Management(英文) - 太陽光で動くプライベート・アイランドがモルディブに開業(2019年1月22日)
裏付け: ユウジ・ヤマザキ氏の事務所(ニューヨーク)の設計、天井までの窓で自然の風、デッキの半分以上に5時間以上の日陰、客室の間の格子、建物の形で電気を減らす、15棟、約1,000枚で300キロワット - iScience(英文) - モルディブの水上ヴィラに太陽光を載せる技術と経済の評価(2023年5月19日)
裏付け: 3つのリゾートで1,410・445・742キロワット、年2.04・0.64・1.12ギガワット時、25年間の利益486万・152万・290万ドル、回収6〜7年