節水したのに、水の量はほとんど減らなかった。サラゴサのホテルで、見えない漏れが数字を隠していた
スペイン北東部の街サラゴサにある4つ星のホテル「シルケン・レイノ・デ・アラゴン」は、2009年に客室と共用部の水まわりを節水型に替えた。ところが、改修の前と後の1年間の水の量を比べると、減り方はわずかだった。
なぜか。サラゴサ大学と地元の企業の連携から生まれた研究が、2013年に国際的なホテル経営の学術誌に論文として発表され、その理由を明らかにしている。この記事では、その論文を読んでいく。
どんなホテルか
論文によると、ホテルは1996年に開業した。
- 117室、191ベッド、従業員53人
- 客の中心は出張の人
- プールはなく、洗濯は外に出している
何を替えたか
改修は2009年の3月から5月に行われた。
- 洗面台とビデの水栓に、節水のカートリッジと、毎分6リットルに抑えるエアレーター(泡沫器)
- シャワーは毎分9リットル
- 2009年10月には、厨房で食器を下洗いするシャワーを毎分9リットルにし、宴会用の食器洗い場の流量の調整を替えた
前と後を比べるだけでは、分からなかった
ホテルの水の量は、改修前の2008年には1日5万975リットル、改修後の2010年には1日3万9,118リットルだった。ただ、客の数で割ると、客1人あたり396.5リットルから378.6リットルへ、5%ほどしか減っていない。
理由は、見えない漏れだった。冷却の設備が壊れて冷水が漏れていたことが、2010年10月5日に見つかり、修理された。漏れの量も期間も分からなかったため、研究者たちは記録から推計した。その結果、漏れは2008年の初めごろから続き、1日1万3,986リットルにのぼり、水の量を31.27%押し上げていた。
改修による節水と、漏れによる無駄が、同じ時期に重なっていた。そのため、前と後を単純に比べても、節水の効果は隠れてしまっていた。
1,703日の記録から、効果を取り出す
研究者たちは、2006年8月1日から2011年3月30日までの1,703日の記録を使った。ホテルの保守の担当者が、冷水と温水のメーターを毎日読んで残したものだ。週末や祝日は数日分をまとめた記録しかない日もあり、使えたのは995日分だった。
水の量は、季節や客の数、宴会の人数によって変わる。研究者たちは、こうした要素の影響を取り除き、漏れの分も別に分けたうえで、改修だけの効果を計算した。
取り出された効果
結果はこうだった。
- 水の量は全体で21.5%減った。温水は33.19%、冷水は17.63%減った
- 1日あたり、冷水は3,402リットル、温水は2,767リットル減った
- 客1人あたりでは、321リットルから252リットルに減った
- 温水は、客1人あたり49.5リットルから27.5リットルに減った
温水が減ると、水を温めるガスも減る。12年間で見込まれる節約額の合計は14万6,482ユーロで、そのうち水が8万8,369ユーロ、ガスが5万7,350ユーロ、電気が763ユーロだった。
水の半分は、客室の外で使われていた
研究者たちは、客室2室にもメーターを付けて測った。客室での使用量は、客1人あたり1日124.3リットルだった。そこから計算すると、ホテルの水の50.7%は、客室の外の共用部、つまり受付や厨房などで使われていた。
客室だけを節水しても、半分には届かない。厨房の下洗いや食器洗い場まで替えたことが、この結果につながったと考えられる。
小さな費用で、大きな見返り
論文は、12年間のお金の見返りも計算している。
- このホテルは、古い水栓を替える時期に合わせて節水型を選んだ。そのため、ふつうの水栓との差額だけを費用とし、2,057ユーロになった。見返りの率は7,022%
- 今ある水栓に節水の部品を付け、部品代と工事費をすべて払う一般的な場合でも、費用は1万987ユーロで、見返りの率は1,233%
マヨルカ島のホテルを調べた2019年の別の論文によると、エアレーターや節水シャワーのような基本的な節水策の費用は、ふつう2か月から3年で回収できる。同じ論文は、場所ごとに水の量を測ることを、もう一段進んだ対策に分類している。
街の動きと重なる
サラゴサの街では、1996年から「節水の街」という取り組みが続いている。欧州環境機関(EEA)によると、市民1人1日の水の量は、1980年の180リットルから、2010年には105リットルに減った。スペインの統計局(INE)によると、2022年の国の家庭の平均は1人1日128リットルだ。
ホテルの客1人あたりの量は、家庭の2倍以上になる。だからこそ、ホテルの節水には意味がある。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、1日に8立方メートルの水を使う宿を考える。
- 節水の部品で10%減らすと、1日7.2立方メートルになるはずだ
- 同じ時期に、毎分1リットルの見えない漏れが始まったとする。1日1.44立方メートルになる
- メーターの数字は1日8.64立方メートル。改修前より8%増えて見える
- 漏れだけで年に約526立方メートル。水が1立方メートル600円なら、年約31万5,000円分になる
漏れを見つけなければ、「節水の部品は効かなかった」と誤って判断しかねない。
測り方が、投資を守る
サラゴサのホテルの例は、節水の部品の効果だけでなく、測り方の大切さを教えてくれる。冷水と温水を分けて毎日メーターを読み、記録を残していたから、あとから漏れを外して効果を確かめられた。
宿でも、メーターを定期的に読み、急に増えたら漏れを疑う。それが、節水の投資を正しく評価する土台になる。
持ち帰れる知識
- 前と後を比べるだけでは、効果を見誤ることがある
- 水の半分は、客室の外で使われていることがある
- 冷水と温水を分けて毎日測ると、あとから原因を探せる
宿で考えられること
- 水のメーターを決まった時刻に読み、記録する
- 使用量が急に増えたら、漏れを疑って点検する
- 客室だけでなく、厨房の下洗いや食器洗いも見直す
事業・予約への接続
節水の効果を数字で示すには、測り方が大切だ。記録が残っていれば、取り組みを客や取引先に説明しやすくなる。
Sources / 参考情報
- International Journal of Hospitality Management(英文) - ホテルの節水策の評価:スペインの事例(Barberánら)(2013年)
裏付け: 117室・191ベッド・従業員53人、2009年3〜5月の改修内容、2008年と2010年の1日の量、冷却の設備の漏れ(推計で1日1万3,986リットル、31.27%)、1,703日と995日分の記録、21.5%・33.19%・17.63%、321→252リットル、客室2室で124.3リットル、共用部50.7%、費用と見返りの率 - サラゴサ大学 Zaguán(英文) - 同じ論文の全文(大学の公開版)
裏付け: 漏れの期間と修理日(2010年10月5日)、温水1人あたり49.5→27.5リットル、12年間の節約額の内訳 - Sustainability(英文) - マヨルカ島のホテルの節水策の導入(Tiradoら)(2019年)
裏付け: 基本的な節水策の回収期間はふつう2か月から3年、場所ごとの計測は進んだ対策に分類 - 欧州環境機関 Climate-ADAPT(英文) - サラゴサ:意識づけとお金の仕組みを組み合わせて水の効率を上げる
裏付け: 1996年の「節水の街」の開始、1人1日180リットル(1980年)から105リットル(2010年) - スペイン国立統計局 INE(スペイン語) - 上水道と下水道の統計 2022年(2024年7月23日)
裏付け: 2022年の家庭の平均は1人1日128リットル