GOAL 12 · TARGET 12.8 廃棄物・循環経済 3分 / 2065文字 1つの畑と献立を一緒に決める型 #280

野菜の8割を、1つの畑から。アイルランドのレストラン「ローム」が畑と結んだ約束と、6週間の試練

アイルランド西部の街ゴールウェイに、ミシュランの星を得たレストラン「ローム」があった。料理長のエンダ・マケヴォイ氏は、野菜の約8割を、たった1つの畑から仕入れていた。

1つの畑に頼るのは、危うくないのか。実際、畑の作物がだめになった年には、6週間、花と根だけで料理をつくることになった。それでも続けた理由はどこにあるのか。この記事は宿ではなくレストランの例だが、宿の厨房にも通じる考え方として読んでいく。

畑「リーフ・アンド・ルート」

野菜を育てていたのは、ゴールウェイの東、ロッホレイの近くにある「リーフ・アンド・ルート」という農場だ。公式サイトによると、広さは30エーカー(約12ヘクタール)で、野菜づくりと森の手入れをしている。

アイルランドの新聞「インディペンデント」の週末版の記事(2017年、ロームのサイトに転載)によると、農場を営むマヌ・ルッソ氏とファーガル・アンダーソン氏は、マケヴォイ氏の古い友人だ。2006年、マヌ氏とマケヴォイ氏は、チーズ店「シェリダンズ」の屋根裏の厨房で一緒に働いていた。「いつか、彼が店を開いたら野菜を育てよう」と冗談を言っていたという。

同じ記事によると、農場はロームの果物と野菜の8割超を届けていた。

地域で支える農業

リーフ・アンド・ルートは、「地域支援型農業」(CSA)という形をとっている。インディペンデントの記事によると、ファーガル氏はこれを「人々と農家が、食べものをつくる危うさと実りを分かち合う約束」と説明している。

  • 35の家族が農場と契約し、育つ季節を通して定期的に代金を払う手続きをしている
  • その代わり、毎週、その時期にとれた野菜を受け取る。野菜の箱は6月から12月まで続く
  • 箱は家族用が18ユーロ、小さい箱が15ユーロ
  • 輸入の野菜で足りない分を補うことはしない

「農家には決まった収入が入り、家族にはおいしい野菜が届く」とファーガル氏は話している。

年に3回、畑と献立を決める

ロームと農場は、毎年の作付けを一緒に決めていた。英国の料理人向けサイト「スタッフ・キャンティーン」の記事(2017年)で、マケヴォイ氏はこう話している。

「早春、秋、晩冬の年3回、野菜を育ててくれる農場と座って話し合う。翌年にどんな種をまき、どれだけ植え、いつ植えて、いつ収穫するかを決める。これが翌年の献立づくりの出発点だ」

そこから先は、どの野菜がいつまでとれるかで、献立が決まっていく。インディペンデントの記事は、キャベツの例を挙げている。6月から7月の春キャベツのあとに、丸いキャベツ、ちりめんキャベツが続き、10月からは冬のキャベツになる。季節がずれるように植えて、途切れずにとれるようにしていた。

6週間、花と根で

一方で、1つの畑に頼ることには、危うさもある。英国の雑誌「フード・アンド・トラベル」の記事(2017年7月)で、マケヴォイ氏はこう話している。

「野菜の8割は1つの農場から届く。昨年、その農場の作物がだめになったときは、6週間、花と根で料理をつくらなければならなかった」

同じ記事で、マケヴォイ氏は、地元から仕入れることで「創造的になり、無駄を減らすことを迫られる」とも話している。不作の6週間は、その言葉どおりの試練だったと考えられる。

無駄を減らす、行き来の流れ

インディペンデントの記事によると、ロームと農場の関係は、無駄を減らすことにもつながっていた。

  • 農場は、必要な量に合わせて収穫を計画できるので、無駄が少ない
  • 問屋を通さないので、農場には公平な値段が入り、レストランもその分を払わずに済む
  • 余った野菜も、マケヴォイ氏が加工して使い切る
  • 厨房は、骨からだしをとり、切れ端をパテにし、植物の根や茎、葉、花まで使う
  • 堆肥に向く食品くずは、農場に戻して堆肥にし、次の作物を育てる

農場のサイトには、レストランと絶えず連絡をとり、季節にとれるもの、量、次に何がとれるかを伝えていると書かれている。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、厨房の野菜の仕入れが年300万円の宿を考える。

  • その6割、年180万円分を、1つの農家と契約して仕入れるとする
  • 農家が6週間不作になると、180万円×6÷52で、約20.8万円分の野菜をほかから探す必要がある
  • ほかから買うと2割高くつくなら、追加の費用は約4.2万円
  • 野菜くずが1日6キロ出て、それを農家の堆肥に回すなら、年に約2.2トンになる

不作の6週間に、献立をどう変えるかを前もって話し合っておけば、費用も客の満足も守りやすい。

約束は、危うさと実りを分ける

ロームの例は、1つの畑と深く結ぶことの両面を見せてくれる。年3回の話し合いで、畑と献立を一緒に決める。不作のときは、厨房が工夫で乗り切る。食品くずは、畑に戻す。

宿でも、地元の農家と献立を一緒に考える関係は、無駄を減らし、宿の料理に土地の物語を与える。そのとき、不作のときにどうするかを、約束の中に入れておきたい。

持ち帰れる知識

  • 農家と作付けを一緒に決めると、収穫と仕入れの無駄が減る
  • 1つの農家に頼ると、不作のときの備えが必要になる
  • 食品くずを農家の堆肥に戻すと、循環が生まれる

宿で考えられること

  • 地元の農家と、季節ごとに献立と作付けを話し合う
  • 不作のときの代わりの献立を、前もって決めておく
  • 野菜くずを堆肥にして、農家に戻す方法を探す

事業・予約への接続

農家の名前と畑の話は、料理の魅力を伝える。客に、季節によって献立が変わる理由を伝えると、体験の価値が増す。

Sources / 参考情報

関連する記事