野菜の8割を、1つの畑から。アイルランドのレストラン「ローム」が畑と結んだ約束と、6週間の試練
アイルランド西部の街ゴールウェイに、ミシュランの星を得たレストラン「ローム」があった。料理長のエンダ・マケヴォイ氏は、野菜の約8割を、たった1つの畑から仕入れていた。
1つの畑に頼るのは、危うくないのか。実際、畑の作物がだめになった年には、6週間、花と根だけで料理をつくることになった。それでも続けた理由はどこにあるのか。この記事は宿ではなくレストランの例だが、宿の厨房にも通じる考え方として読んでいく。
畑「リーフ・アンド・ルート」
野菜を育てていたのは、ゴールウェイの東、ロッホレイの近くにある「リーフ・アンド・ルート」という農場だ。公式サイトによると、広さは30エーカー(約12ヘクタール)で、野菜づくりと森の手入れをしている。
アイルランドの新聞「インディペンデント」の週末版の記事(2017年、ロームのサイトに転載)によると、農場を営むマヌ・ルッソ氏とファーガル・アンダーソン氏は、マケヴォイ氏の古い友人だ。2006年、マヌ氏とマケヴォイ氏は、チーズ店「シェリダンズ」の屋根裏の厨房で一緒に働いていた。「いつか、彼が店を開いたら野菜を育てよう」と冗談を言っていたという。
同じ記事によると、農場はロームの果物と野菜の8割超を届けていた。
地域で支える農業
リーフ・アンド・ルートは、「地域支援型農業」(CSA)という形をとっている。インディペンデントの記事によると、ファーガル氏はこれを「人々と農家が、食べものをつくる危うさと実りを分かち合う約束」と説明している。
- 35の家族が農場と契約し、育つ季節を通して定期的に代金を払う手続きをしている
- その代わり、毎週、その時期にとれた野菜を受け取る。野菜の箱は6月から12月まで続く
- 箱は家族用が18ユーロ、小さい箱が15ユーロ
- 輸入の野菜で足りない分を補うことはしない
「農家には決まった収入が入り、家族にはおいしい野菜が届く」とファーガル氏は話している。
年に3回、畑と献立を決める
ロームと農場は、毎年の作付けを一緒に決めていた。英国の料理人向けサイト「スタッフ・キャンティーン」の記事(2017年)で、マケヴォイ氏はこう話している。
「早春、秋、晩冬の年3回、野菜を育ててくれる農場と座って話し合う。翌年にどんな種をまき、どれだけ植え、いつ植えて、いつ収穫するかを決める。これが翌年の献立づくりの出発点だ」
そこから先は、どの野菜がいつまでとれるかで、献立が決まっていく。インディペンデントの記事は、キャベツの例を挙げている。6月から7月の春キャベツのあとに、丸いキャベツ、ちりめんキャベツが続き、10月からは冬のキャベツになる。季節がずれるように植えて、途切れずにとれるようにしていた。
6週間、花と根で
一方で、1つの畑に頼ることには、危うさもある。英国の雑誌「フード・アンド・トラベル」の記事(2017年7月)で、マケヴォイ氏はこう話している。
「野菜の8割は1つの農場から届く。昨年、その農場の作物がだめになったときは、6週間、花と根で料理をつくらなければならなかった」
同じ記事で、マケヴォイ氏は、地元から仕入れることで「創造的になり、無駄を減らすことを迫られる」とも話している。不作の6週間は、その言葉どおりの試練だったと考えられる。
無駄を減らす、行き来の流れ
インディペンデントの記事によると、ロームと農場の関係は、無駄を減らすことにもつながっていた。
- 農場は、必要な量に合わせて収穫を計画できるので、無駄が少ない
- 問屋を通さないので、農場には公平な値段が入り、レストランもその分を払わずに済む
- 余った野菜も、マケヴォイ氏が加工して使い切る
- 厨房は、骨からだしをとり、切れ端をパテにし、植物の根や茎、葉、花まで使う
- 堆肥に向く食品くずは、農場に戻して堆肥にし、次の作物を育てる
農場のサイトには、レストランと絶えず連絡をとり、季節にとれるもの、量、次に何がとれるかを伝えていると書かれている。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、厨房の野菜の仕入れが年300万円の宿を考える。
- その6割、年180万円分を、1つの農家と契約して仕入れるとする
- 農家が6週間不作になると、180万円×6÷52で、約20.8万円分の野菜をほかから探す必要がある
- ほかから買うと2割高くつくなら、追加の費用は約4.2万円
- 野菜くずが1日6キロ出て、それを農家の堆肥に回すなら、年に約2.2トンになる
不作の6週間に、献立をどう変えるかを前もって話し合っておけば、費用も客の満足も守りやすい。
約束は、危うさと実りを分ける
ロームの例は、1つの畑と深く結ぶことの両面を見せてくれる。年3回の話し合いで、畑と献立を一緒に決める。不作のときは、厨房が工夫で乗り切る。食品くずは、畑に戻す。
宿でも、地元の農家と献立を一緒に考える関係は、無駄を減らし、宿の料理に土地の物語を与える。そのとき、不作のときにどうするかを、約束の中に入れておきたい。
持ち帰れる知識
- 農家と作付けを一緒に決めると、収穫と仕入れの無駄が減る
- 1つの農家に頼ると、不作のときの備えが必要になる
- 食品くずを農家の堆肥に戻すと、循環が生まれる
宿で考えられること
- 地元の農家と、季節ごとに献立と作付けを話し合う
- 不作のときの代わりの献立を、前もって決めておく
- 野菜くずを堆肥にして、農家に戻す方法を探す
事業・予約への接続
農家の名前と畑の話は、料理の魅力を伝える。客に、季節によって献立が変わる理由を伝えると、体験の価値が増す。
Sources / 参考情報
- Loam(英文) - インディペンデント週末版「食の未来は?」の転載(ウェブ・アーカイブ)(2017年)
裏付け: 果物と野菜の8割超、2006年からの友人、CSAの説明、35の家族、6月から12月、18ユーロと15ユーロ、輸入で補わない、キャベツの順番、問屋を通さない、余りの加工、堆肥に戻す - Food and Travel(英文) - エンダ・マケヴォイ(2017年7月)
裏付け: 野菜の8割が1つの農場、不作で6週間花と根で料理、地元の仕入れで創造的になり無駄を減らす - The Staff Canteen(英文) - エンダ・マケヴォイ(ロームの料理長)(2017年1月)
裏付け: 早春、秋、晩冬の年3回、農場と種、植える量、時期、収穫を決める、献立づくりの出発点 - Irish Farmers Journal(英文) - ミシュランの星の料理人エンダ・マケヴォイ(2017年1月18日)
裏付け: 野菜の約8割がロッホレイのリーフ・アンド・ルートから - Leaf and Root(英文) - 公式サイト(トップページ)
裏付け: ゴールウェイ東部の30エーカーの野菜と森の農場 - Leaf and Root(英文) - 納め先(公式サイト)
裏付け: ロームのマケヴォイ氏と長く協力、季節にとれるもの、量、次に何がとれるかを絶えず伝える - Irish Examiner(英文) - 地域支援型農業は、農場の危うさと実りと責任を分け合う(2016年12月22日)
裏付け: リーフ・アンド・ルートは農家が主導するCSAで、地域の人たちとロームのために育てている