「40%減らす」目標と、29%・49%という成績:ドイツのMHPホテルAGの食品ロスの数字を、平均・最大・全体で読み分ける
ドイツのホテル運営会社「MHPホテルAG」は、ヨーロッパで高級ホテルを運営している。2023年から、スイスの会社「KITRO(キトロ)」の計量の機器を使って、厨房の食品ロスを測り、減らしている。
KITROの事例のページには、いくつもの数字が並ぶ。目標の「40%」と「50%」、成績の「29%」と「49%」。どれも食品ロスを減らす割合だが、意味はそれぞれちがう。この記事では、数字の種類を一つずつ読み分けていく。
どんな取り組みか
KITROの事例のページによると、MHPホテルAGは、食品ロスを2030年までに半分にするSDGsのターゲット12.3に合わせて、2023年にKITROとの協力を始めた。今は9つのホテルで、KITROの「TARE(テア)」という機器を18台使っている。
TAREは、捨てる場所で食べ物を撮影し、AIで種類を見分ける機器だ。2026年6月の業界ニュースサイト「ホスピタリティ・ネット」の記事は、結果が画面に表示され、仕入れや仕込みの量、盛りつけの量を見直すのに使われると説明している。
MHPホテルAGのサイトには、ウィーン、バーゼル、ハンブルク、ベルリン、フランクフルト、ミュンヘンなどのホテルが並ぶ。ホテルの多くは、マリオットやハイアットなどのブランドで営業している。
数字1:目標の40%と50%
事例のページによると、MHPホテルAGは2025年に向けて、二つの目標を決めた。
- 避けられる食品ロスを、全体で40%減らす
- 避けられる食品ロスを、品目のカテゴリーごとに50%減らす
この目標は、その時点でKITROで計量していた4つのホテルのデータをもとに決めたという。「全体で40%」と「カテゴリーごとに50%」は、同じ「減らす割合」でも、測る範囲がちがう。
数字2:成績の29%は「3施設の平均」
事例のページは、成績として「1施設あたりの年間の結果」を示している。
- 食べられる部分のごみ:29%減
- 費用の節約:4万2,690ユーロ
- 節約できた時間:年732時間
- 投資に対する効果(ROI):214%
ページには、これが「12か月以上計測した3施設の平均」だと書かれている。9施設すべての合計ではない。
数字3:49%は「1つのホテル」の結果
ページの見出しは「最大49%減らしている」だ。この49%は、ベルリンの「ホテル・ルック」1軒の結果だ。
ホテル・ルックは、75室と17のスイートがあるホテルで、レストラン「ヘリテージ・ベルリン」がある。TAREは1台。年間の結果は、食べられる部分のごみが49%減、費用の節約は7万2,892ユーロ、節約できた時間は年391時間だ。
事例のページによると、このホテルのチームは当初、食品ロスを問題と考えていなかった。できることはすでにしている、と思っていたという。グループ総料理長のフロリアン・グラウエルト氏は「振り返ると、問題などまったくないと思っていたし、食品ロスをできるだけ出さないよう、できることはすべてしていると思っていた。KITROが見方を変えてくれるまでは」と話している。
「避けられる」と「食べられる」
もう一つ、言葉にも注意したい。目標は「避けられる(avoidable)食品ロス」で書かれ、成績は「食べられる部分(edible)のごみ」で書かれている。
二つは近い言葉だが、事例のページには、二つの関係の説明はない。だから、「目標40%に対して、成績は29%」と、そのまま比べることはできない。また、29%は3施設の平均で、40%は全体の目標だ。数える範囲もちがう。
平均の%と、全体の%はちがう
施設ごとの「%の平均」と、グループ「全体の%」は、同じにならないことがある。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、3つの宿の厨房を考える。
- 宿A:1日12kg捨てていたのを、50%減らした(6kg減)
- 宿B:1日6kg捨てていたのを、20%減らした(1.2kg減)
- 宿C:1日2kg捨てていたのを、5%減らした(0.1kg減)
3つの%を平均すると、(50+20+5)÷3で25%になる。ところが、全体では1日20kgのうち7.3kg減ったので、36.5%減だ。ごみの多い宿Aが大きく減らしたので、全体の%のほうが高くなる。ごみの多い宿の減り方が小さければ、逆に全体の%のほうが低くなる。
だから、「平均で何%」と「全体で何%」は、別の数字として読む必要がある。
EUの30%は「国の目標」
ホスピタリティ・ネットの記事は、EUが「小売、レストラン、ホテル、外食の事業者」に、2030年までに1人あたりの食品ロスを30%減らすよう求めている、と書いている。
ただし、2025年9月の欧州議会の発表を読むと、この30%は「国のレベルで」2030年12月31日までに達成する目標だ。小売、レストラン、外食、家庭を合わせた1人あたりの量で数え、2021年から2023年の年平均と比べる。食品の加工・製造には、別に10%の目標がある。ホテル1軒ごとに30%が義務になるわけではない。
業者の数字は「最大」と「目安」
同じ記事には、KITROを使うと「避けられる食品ロスを最大60%減らせる」「最初の6か月で食材費を2〜8%下げられることが多い」とある。これは、業者の説明だ。「最大」や「多い」という言葉がついた数字は、どの宿でも同じように出る数字ではない。
日本の宿で読むときは
数字を見るときは、次の四つを確かめるとよい。
- 平均か、最大か(何施設の数字か)
- 全体か、カテゴリーごとか
- 「避けられる」か「食べられる」か、何を数えたか
- 施設の義務か、国の目標か
持ち帰れる知識
- 成績の数字は、何施設の平均か、1施設の結果かを確かめる
- 「平均の%」と「全体の%」は同じにならない
- EUの30%は、国のレベルの目標
宿で考えられること
- 捨てる場所ごとに、重さと品目を記録する
- 目標は「何を数えるか」を決めてから立てる
- 複数の厨房があるなら、合計の重さでも比べる
事業・予約への接続
食品ロスの数字を伝えるときは、「何施設の、どの期間の、何の数字か」を一緒に書く。数字の範囲がはっきりしていると、取引先や客に信頼される。
Sources / 参考情報
- KITRO(英文) - MHPホテルAGの事例
裏付け: 2023年に協力開始・SDGs 12.3に合わせて、9ホテルでTARE18台、2025年の目標(避けられる食品ロスを全体で40%・カテゴリーごとに50%)、4施設のデータで決定、3施設の平均(29%・4万2,690ユーロ・年732時間・ROI 214%)、ホテル・ルック(75室と17スイート、ヘリテージ・ベルリン、TARE1台、49%・7万2,892ユーロ・年391時間)、グラウエルト氏の言葉 - Hospitality Net(英文) - AIで食品ロスを減らすKITRO、新しい規制のなかで国際的に成長(2026年6月10日)
裏付け: TAREの仕組みと画面、MHPホテルAGが2023年から9施設で使用、ホテル・ルックの49%と7万2,892ユーロ、EUの30%の書き方、「最大60%」「6か月で2〜8%」 - MHP Hotel AG(英文) - MHPホテルAGのサイト
裏付け: 運営するホテル(ウィーン、バーゼル、ハンブルク、ベルリン、フランクフルト、ミュンヘンなど)とブランド - European Parliament(英文) - 欧州議会、繊維と食品のごみを減らすEUの新しい規則を採択(2025年9月9日)
裏付け: 2030年12月31日までに国のレベルで達成、加工・製造10%、小売・レストラン・外食・家庭で1人あたり30%、2021〜2023年の年平均と比べる - EUR-Lex(英文) - 指令(EU)2025/1892(廃棄物枠組み指令の改正)
裏付け: 食品ロスの削減目標を定めた改正指令の本文