GOAL 7 · TARGET 7.3 エネルギー・脱炭素 4分 / 2366文字 増えた数字の中身を確かめる型 #282

「充電が125%増えた」は、何が増えたのか:フィンランドのスカンディックのホテルで、充電の回数とEVの台数を並べてみる

北欧最大のホテルチェーン「スカンディック」は、フィンランドのホテルの駐車場に、電気自動車(EV)の充電器を置いてきた。充電器の会社「ヴィルタ」が2022年3月に公開した事例は、2020年から2021年にかけて、充電が125%増えたと書いている。

125%増というと、大きな数字に見える。では、何が125%増えたのだろうか。この記事では、数字の中身を確かめ、同じ時期のフィンランドのEVの台数と並べてみる。

どんなホテルチェーンか

ヴィルタの事例によると、スカンディックは2022年の時点で、6か国の130の場所で280のホテルを運営していた。フィンランドでは、スカンディックのホテルが52軒、IHGとヒルトンのブランドのホテルが10軒ある。事例は、フィンランドのホテルを対象にしている。

スカンディックの会社のサイトによると、今のホテルの数は、開発中も含めて320を超える。1963年にスウェーデンで創業した会社で、2025年末には、ホテルの96%が北欧の環境ラベル「ノルディック・スワン」を取得していた。

125%は「充電の回数」

事例には、次のように書かれている。

  • 2020年ごろから、客から充電を求める声が増えてきた
  • 2020年から2021年に、充電の回数(charging events)が125%増えた
  • 2022年1月の充電の回数は、前の年の同じ月のほぼ2倍
  • 2022年の初めの時点で、フィンランドの30のホテルに充電器がある

つまり、125%は「充電した回数」の増え方だ。充電器の台数や、充電した電気の量(kWh)、売り上げの増え方ではない。また、充電器のあるホテルが1年の間に何軒増えたかは、事例には書かれていない。ホテルが増えれば、回数も増える。だから、1軒あたりの回数がどう変わったかは、この数字からは分からない。

同じ年、フィンランドのEVは136%増えた

フィンランド統計局の2022年3月の発表によると、2021年末のフィンランド(オーランド諸島を除く)の登録台数は、次のとおりだ。

  • 電気だけで走る乗用車(EV):2万3,497台。前の年より136%増
  • 外から充電できるハイブリッド車(PHEV):7万8,473台。前の年より69%増
  • 二つを合わせて、乗用車全体の2.8%

1年前の2020年末は、EVが9,959台、PHEVが4万6,538台だった(2021年2月の発表)。EVとPHEVを合わせると、5万6,497台から10万1,970台になったので、1年で約80%増えた計算になる(自分の計算)。

ホテルの充電器は、EVにもPHEVにも使われる。125%という充電の回数の増え方は、EVの台数の増え方(136%)とほぼ同じで、EVとPHEVの合計の増え方(約80%)よりは大きい。ただし、比べる相手によって見え方が変わるので、これは大まかな比較だ。

目標は「客の満足」

フィンランド南西部の都市トゥルクのスカンディックの総支配人、ミッコ・ヘンリクソン氏は、事例の中で、こう話している。「EVの充電で一番大事な指標は、客の満足だ」。

ヘンリクソン氏は、「これからの客は、蛇口から水が出るのと同じように、EVの充電を当たり前に求めるようになる」とも話している。外国からの客がレンタカーを使うことが多く、レンタカーの電動化も進んでいるという。

事例によると、スカンディックは、充電をノルディック・スワンと連携した環境の取り組みの一つと位置づけている。会社が環境の目標を掲げる取り組みは、1993年から続いている。

人を増やさず、知らせる工夫

事例によると、充電の始め方と止め方はスマートフォンのアプリでできる。ホテルの人は、客の質問に答えられるように研修を受けた。問い合わせはヴィルタの窓口も受けるので、充電のために人を雇う必要はなかったという。

知らせ方にも工夫がある。スカンディックのサイトでは、充電器のあるホテルを絞り込んで探せる。たとえば、今のサイトでは、ヘルシンキで充電できるホテルとして8軒が表示される。充電の案内は、客向けのニュースレターにも載せた。

台数を増やすときの「電気の上限」

事例によると、スカンディックは、いずれフィンランドの60のホテルすべてで充電できるようにする予定だった。トゥルクの「スカンディック・ハンブルガー・ボルス」では、充電器を少なくとも2倍にすることを目指していた。

充電器を増やすときに問題になるのが、建物に引き込める電気の上限だ。事例は、何台かの充電器で電気を分け合う「負荷の制御(DLM)」を使えば、高い工事をしなくても、安全に使う量を増やせると説明している。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、ある宿の駐車場で考える。

  • 契約の電力に余裕があり、充電に使えるのは22kWまで
  • 11kWの充電器を4台置き、DLMで22kWを分け合う
  • 4台が同時に使うと、1台あたり5.5kW。一晩10時間なら、1台に55kWh入る

2台だけが使う夜は、1台11kWずつ使える。工事の規模を変えずに、台数だけを増やせる。

次に、回数の読み方を考える。1年の充電の回数が200回から450回に増えたとする(125%増)。同じ時期に、泊まりに来るEVの台数が100台から236台に増えていたら(136%増)、1台あたりの回数は2.0回から約1.9回で、ほぼ変わっていない。回数が増えたのは、EVで来る客が増えたからだと読める。

増えた数字は、分母と並べる

「何%増えた」という数字は、何が増えたのか、比べる相手は何かを確かめると、意味がはっきりする。宿で充電の数字をまとめるときは、回数、使った電気の量、充電器の台数を、分けて記録するとよい。

持ち帰れる知識

  • 125%は充電の回数の増え方。台数や電気の量ではない
  • 同じ年、フィンランドのEVの台数は136%増えた
  • 負荷の制御(DLM)を使うと、電気の上限の中で台数を増やせる

宿で考えられること

  • 充電の回数、電気の量、台数を分けて記録する
  • 契約の電力のうち、充電に使える上限を確かめる
  • 予約サイトや自分のサイトに、充電できることを書く

事業・予約への接続

充電器があることは、EVで旅する客が宿を選ぶ条件になる。スカンディックのように、サイトで「充電できる宿」を探せるようにすると、知ってもらいやすい。

Sources / 参考情報

  • Virta(英文) - スカンディック:ホテルチェーンはEVの充電の需要にどう応えているか(2022年3月2日)
    裏付け: 280ホテル・130の場所・6か国、フィンランドで52軒と10軒、2020年から需要、充電の回数125%増、2022年1月はほぼ2倍、30ホテル、60ホテルすべての予定、ハンブルガー・ボルスで2倍、ヘンリクソン氏の言葉(客の満足、蛇口の水)、ノルディック・スワン、1993年、アプリ・研修・人を雇わず、絞り込み・ニュースレター、DLMで高い工事なしに安全に使用を増やせる
  • Statistics Finland(英文) - 自動車の保有台数 2021年(2022年3月1日)
    裏付け: 2021年末にEV 2万3,497台(136%増)、PHEV 7万8,473台(69%増)、合わせて乗用車の2.8%
  • Scandic Hotels Group(英文) - スカンディックの概要
    裏付け: 開発中を含め320を超えるホテル、1963年創業、2025年末に96%がノルディック・スワン
  • Scandic Hotels(英文) - ヘルシンキで電気自動車の充電ができるホテル
    裏付け: ヘルシンキで充電できるホテル8軒、サイトで絞り込める
  • Statistics Finland(英文) - 自動車の保有台数 2020年(2021年2月26日)
    裏付け: 2020年末にEV 9,959台、PHEV 4万6,538台

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