「地元の食材」は何キロ先までか:ニューデリーのローズエイト・ハウスが、1,500km離れた州からウコンを仕入れる
インドの首都ニューデリーの空港の近く、エアロシティにあるホテル「ローズエイト・ハウス・ニューデリー」は、料理の考え方として「SLOW」を掲げている。Seasonal(季節)、Local(地元)、Organic(有機)、Wholesome(体によい)の頭文字だ。
ところが、同じホテルのサイトには、ショウガをインド北東部のナガランド州から、ウコンをメーガーラヤ州から、農家から直接仕入れていると書かれている。どちらも、デリーから1,500km以上離れた州だ。では、このホテルの「地元」とは、何キロ先までのことだろうか。この記事では、「地元」という言葉の範囲を考える。
どんなホテルか
ホテルは、インドのホテル会社「ローズエイト・ホテルズ・アンド・リゾーツ」が運営している。2026年8月の英国の業界誌「RLI」のインタビューによると、会社は「バード・グループ」の傘下にあり、ニューデリーから約70km、新しいノイダ空港の近くに、9軒目のホテル(256室)を開く予定だという。
ホテルのレストランのページによると、レストランは「DEL」と「キール」、バーは「チディヤ・ガル」がある。ビュッフェには、種やナッツ、雑穀からその場で油を搾る、卓上の搾油機が置かれている。
自分の農園と、水耕の畑
レストランのページと、会社の環境のページには、食材について次のように書かれている。
- 自社の農園「ローズエイト・ファームズ」の野菜は100%有機で、インドのホテルの厨房で使う
- 小さな水耕の畑で、ハーブとマイクログリーン(若い芽の野菜)を育てている
- 農家から直接仕入れて、地域とのつながりをつくっている
- お茶とコーヒーも、有機の茶園と農園から直接仕入れている
2026年、水耕の野菜を週に2〜3回
2026年8月の農業の専門ニュースサイト「バーティカル・ファーム・デイリー」の記事(インドの経済紙「ビジネス・スタンダード」の記事をもとにしたもの)によると、会社は教育や事業を手がける「GDゴエンカ・グループ」と5年の協力を結んだ。
- 「ゴエンカ・フレッシュ」の水耕の畑で育てた野菜を、週に2〜3回、ローズエイト・ハウス(エアロシティ)と「ザ・ローズエイト・ニューデリー」に届ける
- 品目は、トマト、ピーマン、ハーブ、葉物、小さなキュウリ、ズッキーニ、バターナッツかぼちゃなど
- 点滴かんがいで水を節約し、農薬を使わずに育てる
- 新しい空港のホテルが開いたら、そこにも広げる
名前で示す「直接仕入れ」
ショウガとウコンは、地名のついた名前で書かれている。ナガランド州の「ナディア・ジンジャー」と、メーガーラヤ州の「ラカドン・ターメリック」だ。
ラカドンのウコンについては、2023年12月のインドの新聞「タイムズ・オブ・インディア」が、地理的表示(GI)の登録を報じている。記事によると、ウコンの色のもとになるクルクミンが約6.8〜7.5%と多く、化学肥料を使わずに育てられている。ラカドン地域の43の村の約1万4,000人の農家が、1,753ヘクタールで栽培しているという。
地名のついた名前は、「どこの、だれの食材か」を伝える。産地の農家から直接仕入れれば、農家の収入を支えることにもなる。
距離で見ると
座標から直線の距離を計算してみた(自分の計算)。
- エアロシティから、メーガーラヤ州の州都シロンまで:約1,500km
- エアロシティから、ナガランド州の州都コヒマまで:約1,710km
約1,500kmは、東京から那覇までの直線の距離(約1,550km)に近い。同じ国の中でも、「近く」とは言いにくい距離だ。
つまり、このホテルの食材には、二つの種類がある。自社の農園や水耕の畑など、近くで育てるものと、遠くの産地から直接仕入れるものだ。「SLOW」のLocalは、この二つを一つの言葉で表していることになる。
インドのホテルの「割合」は書かれていない
ホテルのサイトや、ここで読んだ資料には、インドのホテルで食材の何%が地元かという記載は見つからなかった。
会社の環境のページで割合が書かれているのは、英国のホテルだ。「英国の施設では、食材の95%を地元から仕入れている」とある。インドのホテルについては、割合は書かれていない。
割合は、決め方で変わる
「地元の割合」は、「地元」をどこまでとするかで変わる。
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、ある宿の1か月の食材費を100万円とする。
- 野菜40万円:うち県内30万円、隣の県5万円
- 米10万円:すべて県内
- 魚25万円:うち県内5万円、隣の県15万円
- 調味料と乾物25万円:県内と隣の県はなし
「地元=県内」とすると、30+10+5で45万円、45%だ。「地元=隣の県まで」とすると、さらに5+15で20万円が加わり、65%になる。仕入れはまったく同じでも、決め方で20ポイントの差が出る。金額でなく重さで数えれば、また別の割合になる。
割合を書くなら、決め方も書く
「地元の食材」と書くときは、何キロ以内か、県内か、金額か重さかを一緒に書くと、客に正しく伝わる。割合を書かない場合は、ローズエイト・ハウスのように、産地の名前と仕入れ方を具体的に書く方法もある。
持ち帰れる知識
- 「地元」という言葉には、決まった距離がない
- 地元の割合は、範囲や数え方(金額か重さか)で変わる
- 地名のついた名前は、産地と仕入れ方を具体的に伝える
宿で考えられること
- 自分の宿の「地元」を、県内か何キロ以内かで決める
- 割合を書くなら、決め方も一緒に書く
- 遠くの産地から仕入れる食材は、名前と産地を書く
事業・予約への接続
「地元の食材」と書くだけより、「〇〇村の△△さんの野菜」と書くほうが、客の記憶に残る。割合を使う場合は、決め方も示すと信頼される。
Sources / 参考情報
- Roseate Hotels & Resorts(英文) - ローズエイト・ハウス・ニューデリーのレストラン
裏付け: SLOW、ローズエイト・ファームズの野菜は100%有機、小さな水耕の畑、ナガランド州のナディア・ジンジャーとメーガーラヤ州のラカドン・ターメリックを農家から直接仕入れ、お茶とコーヒー、卓上の搾油機、DEL・キール・チディヤ・ガル - Roseate Hotels & Resorts(英文) - 環境の取り組み
裏付け: 水耕でハーブとマイクログリーン、農家から直接仕入れ、英国の施設で食材の95%が地元、インドのホテルの割合の記載なし - Vertical Farm Daily(英文) - インド:ホテルが5年の水耕野菜の供給契約(2026年8月26日)
裏付け: GDゴエンカ・グループと5年の協力、週に2〜3回・ローズエイト・ハウス(エアロシティ)とザ・ローズエイト・ニューデリー、品目、点滴かんがい・農薬なし、新しい空港のホテルに広げる、もとはビジネス・スタンダードの記事 - RLI(英文) - ローズエイト・ホテルズ・アンド・リゾーツ(2026年8月)
裏付け: バード・グループの傘下、ノイダ空港の近くに9軒目(256室・ニューデリーから約70km) - The Times of India(英文) - メーガーラヤ州のラカドン・ターメリックなどがGIを取得(2023年12月6日)
裏付け: GIの取得、クルクミン約6.8〜7.5%、化学肥料を使わない、43の村・約1万4,000人・1,753ヘクタール