「70%」は、何の70%か:米国ヒールズバーグの「シングルスレッド」で、畑が5エーカーから24エーカーに変わっても同じ数字を読み分ける
米国カリフォルニア州のワインの産地、ソノマ郡ヒールズバーグの町なかに、「シングルスレッド」がある。55席のレストランの上に、5室のスイートがある。料理長のカイル・コノートン氏と、農場長のカティーナ・コノートン氏の夫妻が営む。
ミシュランガイドは、このレストランに3つ星をつけている。同じ建物の宿は、ホテルの評価で3キーを受けている。そして、レストランの紹介ページには、持続可能な取り組みを示す緑の星の印と、カイル氏の言葉が載っている。「野菜や果物などの農産物の70%超は、自分たちの農場から直接来る」。
この「70%」という数字は、2018年の記事にも出てくる。ただ、2018年と今とでは、畑の場所も広さもちがう。この記事では、2つの「70%」が、何を分母にしているのかを読み分けていく。
最初の畑は5エーカーだった
サンフランシスコの雑誌「ノブ・ヒル・ガゼット」の2026年9月の記事によると、シングルスレッドは開業から10年を迎えた。記事によれば、カティーナ氏は開業の2年前に、最初の畑を始めた。広さは5エーカー(約2ヘクタール)。レストランに必要な農産物を、開業の時点でそろえるためだった。
カイル氏は、同じ記事でこう振り返っている。「早く店を開けて、ほかのことはやりながら考えればいいのでは、と言われた。でも、自分たちは『いや、いや、いや。自分たちのやることすべてを貫く1本の糸があるんだ』と答えていた。やることのすべてを、しっかり完成させておく必要があった」。店の名前の「シングルスレッド」は、英語で「1本の糸」という意味だ。
2018年の「70%」
地元紙マリン・インディペンデント・ジャーナルのサイトにある「ノース・ベイ・ウーマン」の2018年11月の記事は、夫妻の土地について、こう書いている。
- レストランで出すものの「最大70%」を育てている
- その土地は、レストランで毎日出すものの最大70%をつくり、そのために毎日収穫している
- 畑は、町の中心の広場から車で10分ほどの川沿いの谷にある
ここでの分母は「レストランで出すもの」だ。そして「最大」とある。日によって割合は変わり、70%はその上の方の数字だと読める。
24エーカーの農場へ
地元の雑誌「ソノマ・マガジン」の2020年11月の記事によると、夫妻は事業の仲間と一緒に、ドライ・クリーク・バレーの24エーカー(約9.7ヘクタール)の農場を買った。価格は372万ドル。当初の売り出し価格は550万ドルだった。
記事の時点で、夫妻はヒールズバーグで5エーカーの畑を管理していた。新しい土地では、農場を広げ、庭と、持続可能な農業と生物多様性を学ぶ場をつくる計画だった。カティーナ氏は、この土地を「終の住処」と呼び、こう語っている。「生き生きとした生態系を支える場所を、みんなで分かち合いたいと、ずっと思っていた。土地が農業のためだけでなく、地域と学びのためにも役立つように」。
24エーカーのうち、育てている畑は
24エーカーのすべてが畑というわけではない。食の分野の生産者を支援する「アン・サクセルビー・レガシー基金」の紹介ページによると、農場は24エーカーにわたり、そのうち8.5エーカー(約3.4ヘクタール)で、料理用の作物、果樹、切り花、多年草、茶の木を育てている。24エーカーの約35%にあたる。
ソノマ郡の農場の案内「ファーム・トレイルズ」の2023年2月のページによると、農場はレストランに野菜、果物、ハーブ、花、はちみつ、オリーブオイルを届ける。さらに、農場の売店で、とれた農産物や花を売っている。地域で支える農業(CSA)の会員にも、農産物を届けている。
今の「70%」
ミシュランガイドの紹介ページに載るカイル氏の言葉は、こう続く。
- 持続可能な取り組みは、24エーカーの環境再生型の農場から始まる
- 農薬を使わず、土を耕さず、毎日手で収穫する
- 農産物の70%超が、自分たちの農場から直接来る
- 厨房の野菜くずは堆肥として畑に戻り、次の作物を育てる
- 使い捨てのプラスチックをなくし、地元のダイバーと組んで、海の藻場の再生を支えている
ここでの分母は「農産物」だ。英語では「プロデュース」で、ふつうは野菜や果物などを指す。魚や肉、米や調味料は、この分母に入らないと読める。
2つの「70%」を並べる
- 2018年:5エーカーの時代。分母は「レストランで出すもの」。最大70%
- 今:24エーカーの時代。分母は「農産物」。70%超
畑が広くなったのに、割合がほぼ同じなのはなぜか。出典は理由を書いていない。考えられるのは、分母がちがうこと、そして、農場の届け先がレストランだけでなく、売店や会員にも広がったことだ。ただし、これは推測で、出典が示した説明ではない。
世界のレストランの評価「ワールズ50ベスト」は、シングルスレッドの紹介で、レストランの農産物の「大半」が農場から来ると書く。ここでも分母は農産物だ。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、食材の仕入れの金額が、次の割合の宿を考える。
- 野菜・果物・ハーブ:30%
- 魚介:35%
- 肉:15%
- 米・調味料・乳製品など:20%
自分の畑で、野菜・果物・ハーブの70%をまかなえたとする。食材の仕入れ全体で見ると、30%×70%で21%になる。
「自家農園の野菜が70%」と書けば正しい。けれど「食材の70%が自家製」と書けば、大きくずれる。重さで数えるか、金額で数えるかでも、割合は変わる。葉物は軽く、根菜は重いからだ。
分母を書けば、数字は伝わる
70%という数字は、分母を書いたときに初めて意味を持つ。シングルスレッドの2つの「70%」は、どちらも誤りではない。数えている対象がちがうだけだ。宿が自分の畑の数字を伝えるときも、何の何割かを一緒に書けば、誤解なく伝わる。
持ち帰れる知識
- 「70%」は、分母が「出すもの全体」か「農産物」かで意味が変わる
- 「最大70%」と「70%超」は、同じ数字ではない
- 農場の広さと、育てている畑の広さは別に数える
宿で考えられること
- 自分の畑の割合を書くときは、分母を一緒に書く
- 重さで数えるか、金額で数えるかを決めておく
- 畑の届け先(厨房、売店、客へのお土産)を分けて記録する
事業・予約への接続
分母をそろえた数字は、取材や予約サイトの紹介でも、誤解なく伝わる。畑の見学や収穫の体験は、数字の背景を客に見せる機会になる。
Sources / 参考情報
- MICHELIN Guide(英文) - シングルスレッド(ヒールズバーグ)のレストランの紹介
裏付け: 3つ星、24エーカーの農場、緑の星の印、カイル氏の言葉(環境再生型、農薬なし、耕さない、毎日手で収穫、農産物の70%超、堆肥、使い捨てのプラスチックをなくす、藻場の再生)、宿は3キー - OpenTable(英文) - シングルスレッド・レストラン&イン
裏付け: 55席のレストランと上階の5室のスイート、ドライ・クリーク・バレーの24エーカーの農場、カイル氏とカティーナ氏 - Nob Hill Gazette(英文) - シングルスレッド、10周年と2つの新しい店(2026年9月29日)
裏付け: 開業から10年、開業の2年前に5エーカーの最初の畑、「1本の糸」に関するカイル氏の言葉、3つ星と3キー、24エーカーの農場 - Marin Independent Journal / North Bay Woman(英文) - シングルスレッドで「第五の味覚」を(2018年11月30日)
裏付け: レストランで出すものの最大70%を育てる、毎日収穫、広場から車で10分 - Sonoma Magazine(英文) - シングルスレッドのオーナーがヒールズバーグのノチ農場を購入(2020年11月5日)
裏付け: 24エーカー、372万ドル、当初550万ドル、当時は5エーカーの畑を管理、「終の住処」、カティーナ氏の言葉 - Anne Saxelby Legacy Fund(英文) - シングルスレッド・ファーム
裏付け: 24エーカーのうち8.5エーカーで作物・果樹・切り花・多年草・茶を栽培 - Sonoma County Farm Trails(英文) - ドライ・クリークのシングルスレッド・ファーム(2023年2月15日)
裏付け: 野菜・果物・ハーブ・花・はちみつ・オリーブオイルをレストランに、農場の売店、CSA - The World's 50 Best Restaurants(英文) - シングルスレッド
裏付け: レストランの農産物の大半が24エーカーの農場から