GOAL 12 · TARGET 12.2 廃棄物・循環経済 4分 / 2422文字 割合の分母を確かめる型 #291

「70%」は、何の70%か:米国ヒールズバーグの「シングルスレッド」で、畑が5エーカーから24エーカーに変わっても同じ数字を読み分ける

米国カリフォルニア州のワインの産地、ソノマ郡ヒールズバーグの町なかに、「シングルスレッド」がある。55席のレストランの上に、5室のスイートがある。料理長のカイル・コノートン氏と、農場長のカティーナ・コノートン氏の夫妻が営む。

ミシュランガイドは、このレストランに3つ星をつけている。同じ建物の宿は、ホテルの評価で3キーを受けている。そして、レストランの紹介ページには、持続可能な取り組みを示す緑の星の印と、カイル氏の言葉が載っている。「野菜や果物などの農産物の70%超は、自分たちの農場から直接来る」。

この「70%」という数字は、2018年の記事にも出てくる。ただ、2018年と今とでは、畑の場所も広さもちがう。この記事では、2つの「70%」が、何を分母にしているのかを読み分けていく。

最初の畑は5エーカーだった

サンフランシスコの雑誌「ノブ・ヒル・ガゼット」の2026年9月の記事によると、シングルスレッドは開業から10年を迎えた。記事によれば、カティーナ氏は開業の2年前に、最初の畑を始めた。広さは5エーカー(約2ヘクタール)。レストランに必要な農産物を、開業の時点でそろえるためだった。

カイル氏は、同じ記事でこう振り返っている。「早く店を開けて、ほかのことはやりながら考えればいいのでは、と言われた。でも、自分たちは『いや、いや、いや。自分たちのやることすべてを貫く1本の糸があるんだ』と答えていた。やることのすべてを、しっかり完成させておく必要があった」。店の名前の「シングルスレッド」は、英語で「1本の糸」という意味だ。

2018年の「70%」

地元紙マリン・インディペンデント・ジャーナルのサイトにある「ノース・ベイ・ウーマン」の2018年11月の記事は、夫妻の土地について、こう書いている。

  • レストランで出すものの「最大70%」を育てている
  • その土地は、レストランで毎日出すものの最大70%をつくり、そのために毎日収穫している
  • 畑は、町の中心の広場から車で10分ほどの川沿いの谷にある

ここでの分母は「レストランで出すもの」だ。そして「最大」とある。日によって割合は変わり、70%はその上の方の数字だと読める。

24エーカーの農場へ

地元の雑誌「ソノマ・マガジン」の2020年11月の記事によると、夫妻は事業の仲間と一緒に、ドライ・クリーク・バレーの24エーカー(約9.7ヘクタール)の農場を買った。価格は372万ドル。当初の売り出し価格は550万ドルだった。

記事の時点で、夫妻はヒールズバーグで5エーカーの畑を管理していた。新しい土地では、農場を広げ、庭と、持続可能な農業と生物多様性を学ぶ場をつくる計画だった。カティーナ氏は、この土地を「終の住処」と呼び、こう語っている。「生き生きとした生態系を支える場所を、みんなで分かち合いたいと、ずっと思っていた。土地が農業のためだけでなく、地域と学びのためにも役立つように」。

24エーカーのうち、育てている畑は

24エーカーのすべてが畑というわけではない。食の分野の生産者を支援する「アン・サクセルビー・レガシー基金」の紹介ページによると、農場は24エーカーにわたり、そのうち8.5エーカー(約3.4ヘクタール)で、料理用の作物、果樹、切り花、多年草、茶の木を育てている。24エーカーの約35%にあたる。

ソノマ郡の農場の案内「ファーム・トレイルズ」の2023年2月のページによると、農場はレストランに野菜、果物、ハーブ、花、はちみつ、オリーブオイルを届ける。さらに、農場の売店で、とれた農産物や花を売っている。地域で支える農業(CSA)の会員にも、農産物を届けている。

今の「70%」

ミシュランガイドの紹介ページに載るカイル氏の言葉は、こう続く。

  • 持続可能な取り組みは、24エーカーの環境再生型の農場から始まる
  • 農薬を使わず、土を耕さず、毎日手で収穫する
  • 農産物の70%超が、自分たちの農場から直接来る
  • 厨房の野菜くずは堆肥として畑に戻り、次の作物を育てる
  • 使い捨てのプラスチックをなくし、地元のダイバーと組んで、海の藻場の再生を支えている

ここでの分母は「農産物」だ。英語では「プロデュース」で、ふつうは野菜や果物などを指す。魚や肉、米や調味料は、この分母に入らないと読める。

2つの「70%」を並べる

  • 2018年:5エーカーの時代。分母は「レストランで出すもの」。最大70%
  • 今:24エーカーの時代。分母は「農産物」。70%超

畑が広くなったのに、割合がほぼ同じなのはなぜか。出典は理由を書いていない。考えられるのは、分母がちがうこと、そして、農場の届け先がレストランだけでなく、売店や会員にも広がったことだ。ただし、これは推測で、出典が示した説明ではない。

世界のレストランの評価「ワールズ50ベスト」は、シングルスレッドの紹介で、レストランの農産物の「大半」が農場から来ると書く。ここでも分母は農産物だ。

日本の宿に置き換えると

InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、食材の仕入れの金額が、次の割合の宿を考える。

  • 野菜・果物・ハーブ:30%
  • 魚介:35%
  • 肉:15%
  • 米・調味料・乳製品など:20%

自分の畑で、野菜・果物・ハーブの70%をまかなえたとする。食材の仕入れ全体で見ると、30%×70%で21%になる。

「自家農園の野菜が70%」と書けば正しい。けれど「食材の70%が自家製」と書けば、大きくずれる。重さで数えるか、金額で数えるかでも、割合は変わる。葉物は軽く、根菜は重いからだ。

分母を書けば、数字は伝わる

70%という数字は、分母を書いたときに初めて意味を持つ。シングルスレッドの2つの「70%」は、どちらも誤りではない。数えている対象がちがうだけだ。宿が自分の畑の数字を伝えるときも、何の何割かを一緒に書けば、誤解なく伝わる。

持ち帰れる知識

  • 「70%」は、分母が「出すもの全体」か「農産物」かで意味が変わる
  • 「最大70%」と「70%超」は、同じ数字ではない
  • 農場の広さと、育てている畑の広さは別に数える

宿で考えられること

  • 自分の畑の割合を書くときは、分母を一緒に書く
  • 重さで数えるか、金額で数えるかを決めておく
  • 畑の届け先(厨房、売店、客へのお土産)を分けて記録する

事業・予約への接続

分母をそろえた数字は、取材や予約サイトの紹介でも、誤解なく伝わる。畑の見学や収穫の体験は、数字の背景を客に見せる機会になる。

Sources / 参考情報

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