1軒の節水の前に、街の節水があった:サラゴサの「節水の街」が、ホテルに配った水の自己診断の手引き
スペイン北東部の街サラゴサのホテル「シルケン・レイノ・デ・アラゴン」は、2009年に水まわりを節水型に替えた。2013年に発表された論文によると、客1人あたりの1日の水の量は、321リットルから252リットルに減った。記録は1,703日にわたり、ホテルの保守の担当者が、毎日メーターを読んで残したものだった。
このホテルの改修と、論文が明らかにした見えない漏れの話は、#277で詳しく読んだ。この記事では、視点を街に移す。ホテルが改修をした2009年より前から、サラゴサでは、街ぐるみの節水の取り組みが10年以上続いていた。そこでは、ホテルに向けた水の自己診断の手引きもつくられていた。
「節水の街」の始まり
サラゴサの環境団体ECODES(エコロジーと開発財団)は、1997年に「サラゴサ、節水の街」という取り組みを始めた。欧州連合(EU)の環境の助成制度「LIFE」の支援を受けたものだ。
最初の目標は、はっきりした数字だった。家庭の水を、1年で10億リットル減らす。ECODESの報告によると、結果は11億7,600万リットルで、目標を17.6%上回った。街の家庭の1年の水の量の5.6%にあたる。EUのLIFEの記録によると、150の団体と183の学校が参加した。
ホテルは「大口の利用者」だった
この最初の段階から、取り組みはホテルを対象に入れていた。ECODESの報告は、ホテル、レストラン、バー、ジム、公共の施設を「大口の利用者」と呼び、こう書いている。毎日多くの人が訪れ、水の量が多い。だからこそ、節水の効果も目立ち、節約できるお金の数字には人を動かす力がある。
大口の利用者に向けては、次のことをした。
- 節水が環境とお金の両方に得になることを、資料で伝える
- 共用のトイレに貼るシールを配る
- 水の効率的な使い方の説明会を開く
シールには3つの役割があった。節水型の設備がついていることを示す。客や利用者に、その設備の正しい使い方を伝える。そして、水の大切さを思い出してもらう。
「50の良い例」と、平均49%
2000年から2003年の第2段階は、「50の良い例」と名づけられた。ECODESによると、公共の建物、工場、公園や庭の中から、水を賢く使う50の例を探し出した。国連の良い取り組みの記録を載せるスペインのサイトによると、これらの例は、水の量を平均49%減らしていた。
2004年から2006年の第3段階では、見つけた例を広めた。ECODESによると、ホテル、オフィス、レストランやバーなど、分野ごとの小さな手引きをつくり、1万人を超える利用者に配った。
ホテルのための手引き
ECODESは2001年5月、「ホテルの水のエコ監査」という手引きを印刷した。第2段階の監査の経験から、手順をまとめたものだ。手引きは、3つの段階で進めるよう求めている。
- 1つ目は、経営の約束。ホテルの最高責任者が、水を効率よく使うという方針を承認する。提案する人が、ほかの人に話しやすくなるからだ
- 2つ目は、最初の監査。設備を書き出し、水を使う場所の一覧をつくり、どこでどれだけ使っているかを見積もる
- 3つ目は、計画。使える対策を選び、費用と効果を比べ、実行して評価する
何で割るかを、自分で選ぶ
手引きは、水の量をくらべる物差しを、ホテルごとに選ぶよう勧めている。例として挙げているのは、次のものだ。
- ベッド1台あたりの1日の量
- 客1人1泊あたりの1日の量
- 従業員1人あたりの1日の量
- 庭の水やりなら、1平方メートルあたりの1日の量
論文が使った「客1人あたり」は、このうちの1つにあたる。
バケツと時計で測る
手引きは、メーターがない場所では、バケツとストップウォッチで流量を測るよう勧めている。さらに、漏れについて、こう書いている。蛇口からの「ぽたぽた」だけでも、1日30リットルを超え、1年で11立方メートルになる。
対策の最初に挙がっているのは、点検の仕組みだ。設備の漏れを見つけて直す。お湯の配管を断熱して、お湯が出るまでに捨てる水を減らす。食器洗い機や洗濯機は、いっぱいにしてから回すよう、従業員に伝える。
論文のホテルがこの手引きを使ったかどうかは、出典からは分からない。ただ、毎日メーターを読む記録と、見えない漏れの発見は、手引きが勧める「測ること」と「点検すること」に重なる。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室・40ベッドで、1日に10立方メートルの水を使う宿を考える。
- 稼働率70%で1室2人なら、客は1日28人。客1人1泊あたり約357リットル
- ベッドで割ると、1台あたり250リットル
- 10リットルのバケツが、シャワーで40秒でいっぱいになったら、流量は毎分15リットル
- 蛇口3か所から、それぞれ1日30リットルの漏れがあれば、1年で約33立方メートル。水が1立方メートル600円なら、年約2万円
同じ宿でも、何で割るかで数字は変わる。決めた物差しを、毎月同じ方法で記録することが大切だ。
街の仕組みが、宿の一歩を軽くする
サラゴサの例は、1軒のホテルの努力が、街の取り組みの中で進んだことを示している。手引きやシール、説明会があれば、宿は一から考えなくてすむ。日本でも、自治体や水道事業者の節水の資料を探すことが、最初の一歩になる。
持ち帰れる知識
- 街の節水の取り組みは、ホテルを「大口の利用者」として最初から対象にしていた
- 手引きは、経営の約束、最初の監査、計画の3段階で進める
- 水の量の物差し(ベッド、客、従業員)は、宿ごとに選んで続ける
宿で考えられること
- 経営者が、水を効率よく使う方針を文書にする
- メーターのない場所は、バケツと時計で流量を測る
- 自治体や水道事業者の節水の資料を探す
事業・予約への接続
トイレや洗面所の小さな表示は、節水型の設備の使い方を客に伝え、宿の姿勢も伝える。測った数字は、環境の認証や取材の材料になる。
Sources / 参考情報
- International Journal of Hospitality Management(英文) - ホテルの節水策の評価:スペインの事例(Barberánら)(2013年)
裏付け: 2009年の改修、客1人あたり321→252リットル、1,703日の記録、保守の担当者が毎日メーターを読んだ記録、見えない漏れ - ECODES(スペイン語) - 1997〜2008年 サラゴサ、節水の街
裏付け: 1997年の開始、第1段階(1997〜2000年)、第2段階「50の良い例」(2000〜2003年)、第3段階(2004〜2006年)、2006年の「10万の約束」 - ECODES(スペイン語) - 「サラゴサ、節水の街。小さな一歩、大きな解決」第1段階の報告
裏付け: 10億リットルの目標、11億7,600万リットル・17.6%・5.6%、ホテルなどの「大口の利用者」、資料・シール・説明会、シールの3つの役割 - ECODES(スペイン語) - ホテルの水のエコ監査(実践の手引き)(2001年5月印刷)
裏付け: 「50の良い例」の監査から生まれた手順、3つの段階、物差しの例(ベッド、客、従業員、庭)、バケツとストップウォッチ、蛇口の漏れで1日30リットル超・年11立方メートル、点検・配管の断熱・満杯で回す - European Commission LIFE(英文) - サラゴサ、節水の街。小さな一歩、大きな解決
裏付け: 1年で10億リットルの目標、150の団体と183の学校の参加、1998年に11億7,600万リットル - Ciudades para un Futuro más Sostenible(スペイン語) - サラゴサ、節水の街(更新版)(2006年)
裏付け: 「50の良い例」が水の量を平均49%減、1万人の利用者に広める、ホテル向けの手引き - ECODES(スペイン語) - サラゴサ、節水の街。水を効率よく使う学校
裏付け: 第3段階で、ホテルなど分野ごとの小さな手引きを1万人を超える利用者に配布