「6週間で29%」は、どの期間とどの期間を比べたのか:ラッフルズ・シンガポールの食品ロスの数字を、業者の記事どうしで読み比べる
シンガポールの「ラッフルズ・ホテル」は、1887年に開業した。今は115室すべてがスイートのホテルだ。
このホテルの厨房は、オランダの会社オービスクの機械で、捨てる食べ物を記録した。ごみ箱の上に置いた機械が、捨てた食べ物を、混ざっていても見分けて記録する。オービスクは2024年10月、自社のブログでこう紹介した。「わずか6週間で、ラッフルズ・シンガポールは食品ロスを29%減らした」。
この「6週間で29%」は、オービスクのほかの記事にも何度も出てくる。ただ、記事を並べてみると、期間の書き方や金額が少しずつちがう。この記事では、業者の記事どうしを読み比べ、数字を読むときに確かめたいことを整理する。
事例の記事が書いていること
オービスクの2024年10月の事例の記事は、次の数字を挙げている。
- 6週間で、食品ロスを29%減らした
- 1,097キロの食べ物を捨てずにすんだ。2,437食分にあたる
- 6週間で、9,000ユーロを超える食品の費用を節約した
- 二酸化炭素(CO2)を3,220キロ減らした。車700台を1日道路から外すのと同じ
減らし方については、こう書く。機械が集めたデータを、厨房のチームが、オービスクの「食品ロスのコーチ」の助けを借りて分析した。どこで、いつ、どんな食べ物が捨てられているかを突き止めた。その結果、つくる量をずっと正確に見込めるようになった。
記事ごとの書き方
同じ事例が、オービスクのほかの記事では、こう書かれている。
- 2025年5月の別のホテルの事例の記事:「9週間足らずで」29%減らし、9,000ユーロを超えて節約した
- 2025年5月の食品ロスの統計の記事:6週間で29%減らし、9,000ユーロを超えて節約した。「チームの働き方を変えずに」
- 2026年8月の記事:7台の機械を使い、使い始めて6週間のうちに29%減り、月に6,000ユーロを節約した
「6週間」と「9週間足らず」が混ざっている。また、事例の記事は、厨房のチームがデータを分析して、つくる量を変えたと書く。一方、統計の記事は「働き方を変えずに」と書く。どちらも同じ会社の記事だ。
業者の標準の手順では、最初の6週間は「何もしない」
オービスクの2026年6月の手引きの記事は、導入の最初の6週間の進め方を、こう説明している。
- 1〜6週目は「基準づくり」の期間。厨房のチームは何も変えない
- つくる量の基準も変えず、従業員への声かけもせず、手で記録することもない
- 6週間あれば、平日と週末のちがいや、催しによる増減もならせる
この手順に従えば、最初の6週間は、比べるもとになる量を測る期間になる。では、ラッフルズの「6週間で29%」は、どの期間とどの期間を比べたのか。事例の記事には書かれていない。導入前の量を別の方法で測っていたのか、最初の数日と6週目を比べたのか。出典からは分からない。
割ってみると見えること
事例の記事の数字を、単純に割ってみる。
- 1,097キロ÷2,437食で、1食あたり約0.45キロ
- 9,000ユーロ÷1,097キロで、1キロあたり約8.2ユーロ(9,000ユーロ「超」なので、それ以上)
- 3,220キロ÷1,097キロで、食べ物1キロあたりCO2約2.9キロ
- 6週間で9,000ユーロは、1か月にならすと約6,400ユーロ
オービスクの統計の記事は、一般的な目安として、食べ物1キロの損失は約7ユーロ、CO2は4.5キロと書く。ラッフルズの数字を割った値は、この目安とはちがう。高級ホテルの食材は高いので、1キロあたりの金額が目安より高いのは自然だ。けれど、CO2の換算のしかたは、どの記事にも書かれていない。
ホテル自身が書いていること
ラッフルズ・シンガポールの公式サイトのサステナビリティのページは、食品ロスの計測には触れていない。書かれているのは、たとえば次のことだ。
- 使い捨てのプラスチックを減らし、電子ごみやガラスを分けてリサイクルする
- 地元の農業が限られる中で、海のエコラベル(MSC)やフェアトレードの認証のある食材を選ぶ
- レストラン「ブッチャーズ・ブロック」では、動物を丸ごと使い切る考え方で献立をつくる
シンガポールの決まり
シンガポールの国家環境庁(NEA)によると、飲食と宴会の面積が3,000平方メートルを超えるホテルは、食品ごみを分けて処理し、量を報告しなければならない。新しい建物では2024年3月8日に始まった。今ある建物には、処理施設の完成に合わせて、順に広げていくという。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、6週間、捨てる食べ物を量った宿を考える。
- 1〜2週目:1日平均18キロ。客は1日平均120人
- 5〜6週目:1日平均13キロ。客は1日平均100人
重さだけで比べると、18キロから13キロで約28%減った。けれど、客1人あたりにすると、150グラムから130グラムで、約13%の減少になる。客が減れば、捨てる量も減るからだ。
同じ6週間の記録でも、何と何を比べるか、全体か客1人あたりかで、割合は大きく変わる。
数字には、比べ方を書き添える
「6週間で29%」は、目を引く数字だ。けれど、比べたもとの期間と、量の数え方がなければ、ほかの宿の数字と並べられない。宿が自分の数字を伝えるときは、いつからいつまでを、どの単位で比べたかを一緒に書くとよい。
持ち帰れる知識
- 割合の数字は、比べた期間がなければ評価できない
- 全体の重さと、客1人あたりの重さでは、減り方がちがう
- 同じ会社の記事でも、期間や金額の書き方が変わることがある
宿で考えられること
- 量り始めの数週間は、何も変えずに基準の量を測る
- 重さと一緒に、その日の客の数も記録する
- 結果を伝えるときは、比べた期間と単位を書く
事業・予約への接続
比べ方を書いた数字は、取材や環境の認証の審査でも信頼される。計測の結果を厨房で共有すれば、仕入れの見直しにもつながる。
Sources / 参考情報
- Orbisk(英文) - ラッフルズ・シンガポールは、オービスクで食品ロスをどう29%減らしたか(2024年10月2日)
裏付け: 6週間で29%、1,097キロ・2,437食、9,000ユーロ超、CO2 3,220キロ・車700台を1日、混ざった食べ物も見分けて記録、厨房のチームとコーチがどこで・いつ・何を分析、つくる量の見込み - Orbisk(英文) - メルキュール・アムステルダム・シティ:技術で食品ロスを減らすには(2025年5月23日)
裏付け: ラッフルズは「9週間足らずで」29%減・9,000ユーロ超 - Orbisk(英文) - 食品ロスの統計:捨てる食べ物の見えない費用(2025年5月2日)
裏付け: 食べ物1キロで約7ユーロ・水7,000リットル・CO2 4.5キロ、ラッフルズは6週間で29%・9,000ユーロ超を「チームの働き方を変えずに」 - Orbisk(英文) - レストランの食品ロスを防ぐには:2026年の手引き(2026年8月28日)
裏付け: ラッフルズは7台、使い始めて6週間のうちに29%減・月6,000ユーロ - Orbisk(英文) - ホスピタリティ向けの食品ロス管理:2026年の購入の手引き(2026年6月30日)
裏付け: 1〜6週目は基準づくりで、厨房は何も変えない、声かけや手の記録もしない、材料ごとの重さと費用、平日と週末・催しの増減をならす - Raffles Singapore(英文) - ラッフルズ・シンガポール
裏付け: 1887年に開業、115室のスイート - Raffles Singapore(英文) - サステナビリティ
裏付け: 使い捨てのプラスチックを減らす、電子ごみやガラスのリサイクル、MSCやフェアトレードの認証、ブッチャーズ・ブロックの丸ごと使い切る献立 - National Environment Agency(英文) - 食品ごみの管理
裏付け: 飲食と宴会の面積が3,000平方メートルを超えるホテル、新しい建物は2024年3月8日から、今ある建物は処理施設に合わせて順に