156平方メートルの「ソーラー」は、電気ではなくお湯だった:ウィーンの「デア・ヴィルヘルムスホーフ」が、太陽熱から地下水のヒートポンプへ進んだ順番
オーストリアの首都ウィーンの2区、プラーターシュテルン広場の近くに、「デア・ヴィルヘルムスホーフ」というホテルがある。102室の4つ星で、ウィーン市の資料によると、家族で3代にわたって営んでいる。
このホテルを紹介する記事には、よく「ウィーンのホテルで最大のソーラー設備」という言葉が出てくる。面積は156平方メートル。ただ、この「ソーラー」は、太陽の光で電気をつくるパネルではない。太陽の熱でお湯を温める「太陽熱」の設備だ。
そして、この設備は話の始まりにすぎない。2021年から、ホテルは地下水の熱を使うヒートポンプに切り替えた。この記事では、2つの設備の順番と、資料ごとの数字のちがいを読む。
2008年:屋根の工事に合わせて、太陽熱を入れた
ウィーン観光局の業者向けサイトに載る、ホテルの2025年6月の発表資料によると、太陽熱の設備の要点は次のとおりだ。
- 2008年、屋根裏を広げる工事に合わせて動かし始めた
- 面積は156平方メートル。「当時、ウィーンのホテルで最大の設備」だった
- 長い間、お湯に使うエネルギーの約50%をまかなった。夏はすべてをまかなった
- 2,000リットルのタンク3つに、温めたお湯をためる
- 当時は、効率の高いガスのボイラーと組み合わせていた
2008年の時点では、太陽熱で足りない分をガスで温めるしくみだった。
2021年:休業中に、地下水のヒートポンプへ
同じ資料によると、次の大きな工事は2021年だった。
- 新型コロナでホテルが休業している間に、投資を決めた
- 2021年に工事をし、2022年に動かし始めた
- 地下に、それまでの石油とガスのボイラーに代わる熱の設備を置いた
- 地下水をくみ上げる井戸と、戻す井戸の2本を掘った。深さは約17メートル。くみ上げる井戸はホテルの駐車場、戻す井戸はとなりの土地にある
- ヒートポンプの出力は140キロワット(最大200キロワット)
- 冷房は、地下水の温度(約15度)をほぼそのまま使う。以前の冷房は120キロワットだったが、今は1キロワットの水のポンプが動くだけだという
ガスのボイラーは、予備として、また水の中の細菌を防ぐためにお湯を高い温度に上げる用途で残している。
ホテルのサイトは、この切り替えで、暖房、冷房、お湯に化石燃料を使わなくなり、エネルギーの使用量を75%減らせたと書く。電気は、すべて再生可能エネルギーから買っている。
となりの住まいにも、熱を分ける
ウィーン市は、このホテルを「ガスから抜け出す」取り組みの手本の1つとして紹介している。市のページ(2024年4月)によると、ホテルの熱の設備は、となりの10戸の住宅にも暖房とお湯を送る。空いている客室の暖房や冷房は、受付の操作盤で切る。
ホテルの2025年の資料によると、10戸の住宅をつないだのは2023年。2026年には、ホテルの増築部分の8つのアパートと、もう1つのとなりの住宅(17戸)をつなぐ予定で、それで設備の能力をいっぱいに使うことになるという。
資料ごとの数字のちがい
並べると、資料によって数字が少しずつちがう。
- 太陽熱の大きさ:ホテルの資料は「当時、最大」。太陽熱の業界団体のサイトは「ウィーンのホテルで2番目に大きい」
- お湯をまかなう割合:ホテルの資料は「約50%」。業界団体のサイトは「45%」
- 冷房のポンプ:2025年の資料は「1キロワット」。2024年11月の資料は「最大5キロワット」
- 次につなぐ住宅:市のページは「20戸」。ホテルの2025年の資料は「17戸」
- 太陽光のパネルの計画:市のページの中で、「300平方メートル」と「100平方メートル」の2つの書き方がある
業界団体のサイトは、太陽熱の設備で年に7万キロワット時のエネルギーと、18トンの二酸化炭素を減らすとし、オーナーの「ガス代を年に約4,000ユーロ節約している」という言葉を載せている。ただ、ページの日付は書かれていない。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、1日に2,000リットルのお湯を使う宿を考える。水を15度から60度に温めるとする。
- お湯に必要な熱は、1日約105キロワット時、1年で約3万8,200キロワット時
- 太陽熱でその45%をまかなうと、約1万7,200キロワット時。残りは約2万1,000キロワット時
- 残りをガスのボイラー(効率90%)で温めると、燃料は約2万3,300キロワット時分
- 残りをヒートポンプ(1の電気で3の熱をつくる)で温めると、電気は約7,000キロワット時
太陽熱を入れても、残りの半分あまりを何で温めるかで、使うエネルギーは大きく変わる。ヴィルヘルムスホーフが太陽熱の次にヒートポンプへ進んだのは、この「残り」に手をつけたということだ。
「ソーラー」の中身と、順番を確かめる
「ソーラー」と書かれていたら、まず電気か熱かを確かめる。次に、足りない分を何でまかなっているかを見る。ヴィルヘルムスホーフの15年は、1つの設備で終わらず、順番に積み重ねていく進め方を見せてくれる。
持ち帰れる知識
- 「ソーラー」には、電気をつくる太陽光と、お湯を温める太陽熱がある
- 太陽熱で足りない分を何で温めるかで、使うエネルギーは大きく変わる
- 「最大」「50%」などの数字は、資料の年と書き手で変わることがある
宿で考えられること
- 1日のお湯の量と、温めるのに使う燃料の量を記録する
- 太陽熱を入れるなら、足りない分を何でまかなうかも一緒に考える
- 建物の工事や休業の時期を、設備を替える機会として計画に入れる
事業・予約への接続
太陽熱や地下水の熱は、客室や浴室の快適さと結びつけて伝えられる。設備の名前だけでなく、何を温め、何の燃料を減らしたかを書くと、客にも取引先にも伝わりやすい。
Sources / 参考情報
- Stadt Wien(ドイツ語) - 「ガスから抜け出す」の手本の取り組み:ホテル・ヴィルヘルムスホーフ(2024年4月5日)
裏付け: 2区、102室、家族で3代、2008年から156平方メートルの太陽熱でお湯の約50%、地下水の井戸、となりの住宅10戸、20戸の住宅も計画、空き室の暖冷房を受付で切る、ガスのボイラーは細菌の予防用、太陽光300平方メートルと100平方メートルの計画、1,000リットルのタンク6つ - WienTourismus(ドイツ語) - ウィーンのホテル、デア・ヴィルヘルムスホーフへようこそ(2025年6月11日)
裏付け: 2008年に屋根裏の工事に合わせて太陽熱、当時ウィーンのホテルで最大、約50%・夏はすべて、2,000リットル×3、休業中に投資を決定、2021年工事・2022年稼働、井戸2本・深さ約17メートル、140キロワット(最大200)、冷房は以前120キロワット・今は1キロワットのポンプ、2023年に住宅10戸、2026年に8つのアパートと住宅17戸 - erneuerbare-energie.wien(ドイツ語) - ヴィルヘルムスホーフへようこそ(2024年11月)
裏付け: 2021年工事・2022年稼働、140キロワット(最大200)、以前の冷房120キロワット・ポンプは最大5キロワット - Der Wilhelmshof(英文) - 持続可能性:私たちは緑が好き
裏付け: 2021年から地下水のヒートポンプ、暖房・冷房・お湯に化石燃料を使わない、エネルギーの使用量を75%削減、電気はすべて再生可能エネルギー - Austria Solar(ドイツ語) - 事例の紹介
裏付け: 200のベッド、2008年に156平方メートル、ウィーンのホテルで2番目に大きい、45%、110キロワット、年7万キロワット時・18トン、ガス代を年約4,000ユーロ節約、足りない分は地下水のヒートポンプ - WienTourismus(英文) - デア・ヴィルヘルムスホーフ
裏付け: 4つ星、102室、197のベッド、オーストリアとEUの環境ラベル