「年240万ガロン」は、建物全体の見込みか、ホテルだけの節水か:シアトルの「ハイアット・アット・オリーブ8」の水の数字を、年代で分ける
米国西海岸のシアトルの中心街に、39階建てのビル「オリーブ8」がある。下の17階が346室の「ハイアット・アット・オリーブ8」、上の22階が分譲の住宅だ。ホテルは2009年1月に開業し、同じ年の7月に、環境に配慮した建物の認証「LEED」のシルバーを受けた。
このホテルを紹介する記事には、よく「年に240万ガロン(約9,100立方メートル)の水を節約」という数字が出てくる。ところが、資料を年代順に並べると、この数字の主語と言い方が、少しずつ変わっている。この記事では、240万ガロンが誰の、どんな数字なのかを読み分ける。
2009年1月:開業の発表
ハイアットの2009年1月30日の発表によると、ポイントは次のとおりだ。
- 346室のホテルは、オリーブ8のビルの1〜17階にある。上の22階には230戸の住宅
- シアトルで初めてLEEDの認証を受けるホテルになる見込み
- すべての客室に、照明の電源をまとめて管理するしくみ、2つの水量を選べるトイレ、水圧を保ったまま水を減らすシャワーヘッドを備えた
この時点の発表には、240万ガロンの数字は出てこない。
2009年9月:「建物」が、年240万ガロンを「見込む」
2009年9月10日、ビルがLEEDのシルバーの認証を受けたことを知らせる発表文が出た。ビルを計画・開発したのは地元の開発会社だ。記録に残る発表文では、240万ガロンは次のように書かれている。
- 「オリーブ8は、約36%、年に約240万ガロンの水の節約が見込まれる」
- 同じ文で、エネルギーは同じ規模の標準的な建物より23%の節約が見込まれる
- 庭の水やりは、地元の植物と効率のよい散水で、ふつうより99%、年約2万4,000ガロンの節約。これは「建物で節約する240万ガロンとは別に」と書かれている
- 建物は、346室のホテルと、229戸の住宅からなる
つまり2009年の240万ガロンは、住宅も含めたビル全体の、設計の段階での見込みだった。なお、住宅の戸数は、1月の発表は230戸、9月の発表は229戸で、1戸ちがう。
2019年と今:主語が「ホテル」になる
その後の資料では、言い方が変わる。
- 2019年5月の業界誌「ホテル・ビジネス」:総支配人の話として、毎年240万ガロンの水を節約し、LEEDの認証を受けていない同じ規模の建物より、使う水は全体で36%少ない
- ハイアットの今の環境の資料:「オリーブ8だけで、同じ規模のホテルと比べて、年に少なくとも240万ガロンを節約する」
2009年の「建物の見込み」が、のちに「ホテルの節約」として語られるようになった。数字は同じでも、主語と時制が変わっている。
別のホテルの資料にも、同じ文がある
さらに気づくことがある。同じシアトルの「ハイアット・リージェンシー・シアトル」の環境の資料にも、「オリーブ8だけで、年に少なくとも240万ガロンを節約する」という、まったく同じ文が入っている。2つの資料は、水の段落の文がほぼ同じだ。
資料が同じひな形から作られた可能性があるが、理由は書かれていない。少なくとも、この文がハイアット・リージェンシーの節水の量を示しているわけではない。
割合も、資料ごとにちがう
水とエネルギーの割合を並べると、次のとおりだ。
- 水:トイレは1回あたり29%少ない(2009年の発表から今の資料まで同じ)
- 水:全体で36%の節約の見込み(2009年の発表)、30%超少なく使う設計(今の資料)、32%少ない(施工会社のサイト)
- 水:景観、洗濯、共用部での節水の取り組みで33%減(今の資料)
- エネルギー:23%の節約の見込み(2009年の発表)、20%少ない(施工会社のサイト)、標準的な建物より26.77%少ない(今の資料)
どれも「何と比べたか」が、実際に測った過去の自分ではなく、仮の「同じ規模の標準的な建物」だという点が共通している。
屋上の緑は、8,355平方フィート
数字の中で比べやすいのは、屋上の緑だ。ハイアットの資料によると、4階の屋上に8,355平方フィート(約776平方メートル)の緑があり、雨水の最大75%をとどめて、下水への流れ込みを減らす。会議室の断熱にもなり、鳥やハチのすみかと、料理長の菜園にもなっている。
屋上緑化の事例を集めるサイトによると、緑は2つのしくみでできている。2008年11月に冷却設備の上に敷いた2,500平方フィートのマットと、2009年1月に置いた5,800平方フィートのユニットだ。
日本の宿に置き換えると
InnBuddyシミュレーション(以下はすべて仮定)として、20室、稼働率70%、1日14室が埋まる宿を考える。水は1立方メートル600円とする。
- 節水の器具を入れたあと、1室1泊で220リットル使っている
- 比べる「標準的な宿」を1室1泊300リットルとすると、差は80リットル。1年で約409立方メートル、約24万5,000円の節約と言える
- 比べる相手を1室1泊260リットルとすると、差は40リットル。1年で約204立方メートル、約12万3,000円
宿の使う水は同じなのに、比べる相手の決め方で「節約量」は2倍ちがう。節約の数字を出すときは、何と比べたかを必ず添える。
数字の主語と時制を、添えて伝える
オリーブ8の240万ガロンは、うその数字ではない。けれども、2009年の「ビル全体の見込み」が、のちに「ホテルの節約」として、しかも別のホテルの資料にまで載るようになった。宿が自分の数字を伝えるときも、「誰の」「見込みか実績か」「何と比べて」の3つを添えれば、数字は長く正しく働く。
持ち帰れる知識
- 同じ数字でも、主語(建物かホテルか)と時制(見込みか実績か)が変わることがある
- 「同じ規模の標準的な建物と比べて」の節約は、比べる相手の決め方で大きさが変わる
- 別の資料に同じ文があれば、ひな形の可能性を考える
宿で考えられること
- 水のメーターを毎月読み、1室1泊あたりの量を記録する
- 節水を伝えるときは、去年の自分の宿と比べた数字を使う
- 屋上や庭の緑は、雨水をとどめる働きも合わせて伝える
事業・予約への接続
認証や節水の数字は、会議や団体の予約で、企業の担当者が見る項目になっている。いつの、誰の数字かを書いておけば、問い合わせにもすぐ答えられる。
Sources / 参考情報
- Hyatt(英文) - ハイアット・アット・オリーブ8が開業(2009年1月30日)
裏付け: 346室、1〜17階、上の22階に230戸、シアトルで初めてLEEDを受けるホテルになる見込み、照明の電源の管理・2つの水量のトイレ・水を減らすシャワーヘッド - PRWeb(英文) - オリーブ8の住宅とハイアット・アット・オリーブ8が、LEEDシルバーの認証を受ける(2009年9月10日、インターネット・アーカイブの記録)
裏付け: 39階建て、水約36%・年約240万ガロンの節約の見込み、エネルギー23%の見込み、毎分1ガロン少ないシャワー、29%少ないトイレ、水やり99%・年約2万4,000ガロン(建物の240万ガロンとは別)、346室と229戸、ビルの計画・開発はR.C. Hedreen Company - Hotel Business(英文) - LEEDは、持続可能性の最初の一歩(2019年5月15日)
裏付け: 2009年7月にLEEDシルバー、2010年に4つのグリーンキー、2012年9月にグリーンシール、総支配人の話で電気23%少なく・毎年240万ガロン・水36%少ない、トイレ29% - Hyatt(英文) - ハイアット・アット・オリーブ8の持続可能性
裏付け: 取り組みで33%減、30%超少なく使う設計、トイレ29%・シャワー毎分1ガロン、オリーブ8だけで同じ規模のホテルより年に少なくとも240万ガロン、エネルギー26.77%少ない、屋上8,355平方フィート・雨水の最大75%・会議室の断熱・鳥やハチ・料理長の菜園 - Hyatt(英文) - ハイアット・リージェンシー・シアトルの持続可能性
裏付け: 水の段落に「オリーブ8だけで、年に少なくとも240万ガロン」の同じ文 - Greenroofs.com(英文) - オリーブ8
裏付け: 4階の屋上、8,355平方フィート、2008年11月に冷却設備の上の2,500平方フィートのマット、2009年1月6日に5,800平方フィートのユニット - JTM Construction(英文) - ハイアット・アット・オリーブ8
裏付け: 水32%少ない、エネルギー20%少ない、4階の8,355平方フィートの屋上の緑